独自性のある教育プログラムを持つ「注目の学校」を特集するこの企画。今回は東京都豊島区にある中高一貫の男子校、本郷中学校・高等学校をご紹介します。
1923年に開校された100年超の歴史を持つ本郷中学校・高等学校は、東京大学や京都大学など国内最難関校への進学実績も数多い進学校です。一方で“文武両道”を謳い、ほとんどの生徒が部活動に所属しながら勉強と部活の両立に励んでいるのも特徴です。
そんな同校の教育方針や学校生活について、入試広報部長である野村先生にお話を伺いました。
この記事の目次
教育方針の3つの柱、文武両道・自学自習・生活習慣の確立とは?
本郷中学校・高等学校では「個性を尊重した教育を通して国家有為の人材を育成する」という建学の精神に基づき、「文武両道」「自学自習」「生活習慣の確立」を3つの柱とした教育方針を掲げています。まずはこの教育方針それぞれに込めた思いや意味を伺いました。
“文と武”、“先輩と後輩”がつながる本郷中学校・高等学校の「文武両道」
▲インタビューにお答えいただいた野村先生
本郷中学校・高等学校の教育方針の1つである「文武両道」にはどのような意味が込められているのでしょうか。
「文武両道」は本校が創立当初から大切にしている方針です。文武両道では2つの“つながり”を意識しよう、ということを生徒に伝えています。
1つ目は、文と武のつながりです。部活動の限られた練習の中で成果を追求した経験が、勉強における集中力や時間の使い方に活き、逆に勉強を頑張った経験も部活動の糧になります。
2つ目が、先輩と後輩のつながりです。先輩から教わり、後輩に指導をするといった部活動での体験を通して、自分の役割を見出し主体的に行動する力を養ってほしいという思いがあります。
また、本郷中学校・高等学校では部活動だけではなく、勉強でも先輩と後輩がつながる機会を設けています。例えば、中学2年生が1年生に勉強を教える合同授業などがありますね。
目先の成績に捉われず自分で学習をし、周囲と高め合う「自学自習」
3つの柱の1つ、「自学自習」というのはどのような教育方針なのでしょうか。
生徒が自分で能動的な学びを進めていけるような教育です。自学自習の究極の目標は、自分で課題を見つけ、それを解いていけるようになることです。
本郷中学校に入学したら「これからは1人でやろう」ということを子どもに伝えています。保護者が手伝うと成績は良くなるのですが、それは本人の本当の成果とはいえないんですよね。成績が下がってしまったとしても、まずは1人でやらせてみてどれくらいの点数が取れるかを見守っていこう、というのが本校の方針です。
目先の成績にとらわれず、そこに至る生徒一人ひとりの学習を見守っているということですね。
テストは成績そのものが重要なのではなく、どういう学習をしてきた結果なのかを振り返るための機会として捉えることが大切にしています。
そして成績はあくまで本人の学習の過程が表れるものであって、他の人と比較するものではないというのも本校の考えです。本郷中学校・高等学校にいる6年間は自分だけを磨き続ける時間ではなく、お互いを高め合う時間としてほしいと思っています。分からない人がいたら教えてあげる、逆に自分が分からないことを教えてもらう、その関係性をつくって高め合っていってもらえたらと思います。
充実した学校生活を支え、将来も見越した「基本的生活習慣の確立」
「基本的生活習慣の確立」に込めた意味についても教えてください。
部活も勉強も頑張り、さらに遊びの時間も取りたいとなると、限られた時間の中でのスケジューリングが不可欠です。
その力は、社会人になって仕事をするときにも大切になります。例えば我々は生徒たちに、1か月後を期限とした宿題を出します。そうすると中学1年生の子は大抵2~3日前にあわてて着手します。教員から見ると、急いでやった宿題というのは一目瞭然なんです。
自分で予定を管理できずに締め切り前にあわててやる習慣がついてしまうと、社会人になったときの仕事のクオリティにも関わってきます。宿題なら自らの成績が下がるだけですが、仕事でそれをやると自身の信頼を損なうのはもちろん、多くの人に迷惑をかけてしまいますよね。将来に役立つ力を育んでいくためにもこの「基本的生活習慣の確立」を教育方針の1つに掲げています。
本郷中学校・高等学校の教育プログラムを紹介
3つの教育方針をもと、本郷中学校・高等学校ではどのような教育を推進しているのでしょうか。具体的な教育プログラムの内容を詳しく伺いました。
運動部も文化部も盛ん!部活の実績で東京大学への推薦入学をした生徒も
本郷中学校・高等学校では「文武両道」の言葉に表される通り、部活動に取り組む生徒の割合が非常に高いそうですが、くわしく教えてください。
本校では中学校で98%以上、高校で85%以上の生徒が部活動に所属しています。部活動に力を入れる学校であることは学校説明会の場などでも伝えているため、入学の時点から部活への熱量が高い生徒がとても多いです。
高校からにはなりますがフェンシング部やボウリング部など少し変わった部活もありますし、文化部も科学部や理科系など精力的に活動しています。文化部は人数が少ない部も多いのですが、その分中高一緒に活動しています。先ほどお話した「先輩・後輩のつながり」というのは意外にも文化部の方が多いかもしれません。
数々の部活動がある中でも、特徴的な活動をしている部活があれば教えてください!
「社会部」は少人数制ではあるものの、他の学校とコラボしたり大使館に見学に行ったりと、学校内に収まらない活動を行っています。先日は獨協中学校・高等学校と一緒に昭和女子大学さんに来校し、ジェンダーの問題に関しての研究を行いました。また品川女子学院とコラボして女性の生理について学ぶ取り組みも実施しました。
また鹿児島県鹿屋(かのや)市の政策アイデア・コンテスト「かのや100チャレ」にも毎年参加しています。鹿屋市のまちづくり・地域活性化のための取り組みを考えてプレゼンテーションも行うビジネスアイディアのコンテストで、2023年には最優秀賞を受賞しました。
社会部に限りませんが、こうした学校の勉強以外の活動実績をもとに東京大学の推薦入試に合格する生徒も増えています。社会部からは過去に合計3名が東京大学の推薦入試に合格しています。
部活動を通じて自己管理の大切さを学び、手帳や生活記録表などでサポート
「自学自習」や「基本的な生活習慣の確立」のための生徒の自己管理力はどのように養われていくのでしょうか。
勉強にも部活にも力を入れているからこそ、やはり部活の体験から身を持って学んでいく生徒が多いと思います。例えばサッカー部に所属していたとして、大会が迫ってきた段階で突然筋トレやマラソンをしても遅いです。きちんと自分で準備しておかなければならないんだという部活での教訓が勉強においても活かされているケースは多くあります。
学校側で行っている生徒の自己管理のサポートもありますか?
本校独自の生活記録表や手帳を用いて生徒の自己管理をサポートしています。といってもただそれを渡すだけではなかなか難しいので、中学1、2年生の間は朝の時間などを使って予定を書き込ませるなど、自己管理をサポートするための時間を取っています。
担任が手帳を集めてコメントを返すなどのフォローもしていますが、あまり「必ずしなければならない」という雰囲気を出さないよう意識しています。教員が管理しすぎると「これをやっておけば良い」と思ってしまって生徒が壁を突き破れないんです。かといって自由にしすぎるとやらないので、「管理」と「自由」のちょうど真ん中を行くようなイメージが大切だと考えます。
全国生徒共通の検定試験で、自学自習の姿勢を育む
▲中高合わせて掲示される「本数検」の級・段位取得者一覧表
本郷中学校・高等学校には独自の検定試験制度があるとのことですが、こちらはどのような内容なのでしょうか。
「本数検(本郷数学基礎学力検定試験)」という、得点に応じて段や級を取得できる独自の検定があります。検定は長期休暇明けに実施されるので、授業などで対策はせず自己学習で受けることになるという、本校の自学自習の方針に基づく取り組みとなっています。
検定では大学入試の共通テストと同じレベルの問題を出題しています。中学、高校とも同じ内容の検定を実施しており、これまでの結果もすべてデータが残っています。進学で良い結果を残している先輩がいつの時点でどの級・段を持っていたのかというのが、生徒たちにとっての一定の指標になっています。
大学入試レベルの難しい問題を自己学習で対策していくのはなかなか大変そうですね。
本校のサイトに歴代の先輩たちが解いた過去問があるので、休みの間に各自それで勉強していきます。これが本校の目指す「自学自習」の姿です。保護者の方から「本数検の対策をしてくれないのですか?」と聞かれることもありますが、それは本郷中学校・高等学校が求めている教育ではありません。検定はあくまで自分で自分を試す「自学自習」の力をつける機会であり、普段の成績にも一切反映していません。
級や段は廊下に一覧で掲示しているので、誰がどの級・段を持っているのかは全員が確認できます。それを貼ると生徒たちが見に来るのですが、探しているのは自分の結果でもなければ友達の結果でもなく、先輩の結果なんですよ。普段部活で関わりのある先輩は何級なのかな、ということですね(笑)。先輩が後輩に級で並ばれてしまうことも当然あります。
一番上が参段なのですが、これは全校生徒1,700名の内毎年5、6名しか得られない超プレミアです。過去参段を取った先輩は難関大に合格しているため「あのプレミアをとったら難関大に行けるぞ」というのは生徒たちの刺激になっているようですね。
ただしそれを教員の側から積極的に言うことはありません。大人が「○段ならこの大学レベル」というキーワードを発すると、生徒はそれに捉われてしまうところがあるんですよね。本数検はゲーム感覚で級・段を獲得していける遊びの要素もあるので、生徒が自然と感じ取るものに任せています。
▲「本数検」「英単検」に加え、防災検定もあるそう
「数学合同授業」では、勉強を通じて先輩・生徒がつながる
先輩が後輩に勉強を教える取り組みがあるとのお話がありましたが、その具体的な内容について教えていただけますか。
1学期に1回くらいのペースで、定期考査前などに中学2年生の生徒と中学1年生の生徒が1対1のペアになって勉強のアドバイスを行う「数学合同授業」を実施しています。中学1年生では担任からテストに関するアドバイスを送ることをせず、すべてこの合同授業の先輩からのアドバイスでテストに向ってもらっています。
この取り組みは18年程前に開始したのですが、初年度は中学2年生の生徒から多少の反発もありました。しかし2年目からは自分がアドバイスをもらった生徒たちがまた下の子に教えていくというサイクルが問題なくできあがっていっています。
最初の内は「僕は全然良いアドバイスをもらえなかった」という批判的な意見を言う子もいたのですが、こういうある種の理不尽は社会に出てもあることです。そこを「おかしい」というだけで終わったら何も発展していきません。子どもたちには「良いアドバイスがもらえなかったのなら、自分だったらこういうアドバイスをすると考えて次につなげてね」と伝えるようにしています。逆にとても良いアドバイスをもらえたのなら「ぜひそのまま後輩に伝えていってね」と伝え、18年間でかなり成熟されたシステムになりました。
中学1年生の保護者の方の中には、アドバイスをしてくれる先輩生徒の成績を気にされる方もいます。確かにその心配もごもっともなのですが、「アドバイスの内容が物足りなく感じたとしても、マイナスで終わらせずに、お子様が次につなげられるようフォローしてください」とお願いしています。実際、成績下位の子の方が「これで失敗したからこうした方が良いよ」というような身につまされるアドバイスをくれることもあるんですよね。はじめは不安を口にされる保護者様もいますが、終わってみるとそういった問い合わせは一切来ていません。
合同授業で得たつながりや経験は、学校生活やその先の社会においてどのように活きてくると思われますか?
受験生の保護者の方から「学園祭などで本郷中学校・高等学校に来ると、生徒に気軽に話しかけてもらえる」と言っていただくことが良くあるのですが、それはまさにこういった年齢を問わない交流が活きている部分なのだと思います。合同授業をはじめ、体育祭も文化祭も全校生徒1,700名ごちゃ混ぜで実施している本郷中学校・高等学校だからこそ、そういった機会を通じて生徒が同世代の人だけでなく年上・年下などいろいろな世代の人と話すことが当たり前になっているんです。
生徒たちが社会に出たとき、同じ学年の息の合う人たちだけでチームを組んで仕事をするというのはありません。6年間で1,700名のいろいろな人たちと出会い、学び合えるこの環境は、世代や感覚、考え方が違う人たちの中で仕事をしていく上でもとても良い経験となっていると思います。
充実の施設で学ぶ本郷中学校・高等学校のスクールライフ
100年超の歴史と伝統を持つ一方で、近代的な施設で学びを受けられる環境がある本郷中学校・高等学校。ここからは6棟に分かれる校内や広々とした人工芝のグラウンドを巡りながら、本郷中学校・高等学校のスクールライフを紹介していきます。
授業を聞くだけでなく「高め合える」授業風景
まずは授業を受けている様子を覗かせていただきます!ちょっと変わった風景が見られますが、こちらは何の時間ですか?
英語の授業の時間ですね。英語の長文を読む代表生徒を囲んで、周りの生徒たちが発音などを確認しています。教員は横にいてそれを見守っています。
本校では「お互いを高め合う」というキーワードで教育を実践していますが、授業の進め方一つひとつを具体的に指定しているわけではないんですよ。だから科目ごとに教員も工夫しながら、お互いを高め合えるような機会をつくっています。この英語の授業のやり方もその一環です。
▲複数の挙手があるなど、生徒が積極的に授業に参加している様子がうかがえる
仲間と自由に話しながら学べる「ラーニング・コモンズ」
▲開放的な空間で仲間と学び合える「ラーニング・コモンズ」
「ラーニング・コモンズ」にもやってきました。ここはどのような用途の空間なのですか?
ラーニング・コモンズは自由に話しながら勉強ができる空間です。一人で集中したい場合は図書館や自習室、友達と一緒にグループ学習したい場合はラーニング・コモンズといったように、希望によって使い分けられるようになっています。
ラーニング・コモンズでは机を自由に移動できますし、ホワイトボードもあるのでそれらを使って生徒が自由に学び合っています。特にテスト前は賑わっています。
図書館には約4万冊の蔵書。静かに自習したい場合はこちらがおすすめ
ラーニング・コモンズガラスの廊下を隔てて向こう側にあるのが図書館ですか?
はい。図書館には約4万冊の蔵書があり、その中には卒業生からもらった赤本や漫画もあります。
図書館内には机と椅子も設けているため、ちょっと調べたり本を読んだりするだけでなく自習にも使用できます。
▲図書館には静かに学習できる空間が広がる
人工芝のグラウンドを始め充実の運動設備。トレーニングルームも!
スクロールで写真がご覧いただけます→
グラウンドは人口芝でとても広くて気持ちの良い場所ですね!バスケットボールコート2面分の広さのある体育館も素敵です。体育の授業や運動部の部活は、このグラウンドと体育館で行っているのですか?
グラウンドと体育館の他にも中庭や屋上のテニスコートがあり、また2号館地下に座席数が650席ある講堂もあり、体育の授業や部活で使用することもあります。講堂は映画館のように階段状になっているので、式典や文化祭のステージ企画はこちらで行っています。
▲体育や部活動だけでなく式典なども行う講堂
運動部の盛んな本郷中学校・高等学校らしく、トレーニングルームがあるのも印象的です。
トレーニングルームは高校生のみ使用できる設備で、主にサッカー部やラグビー部、野球部の生徒が使用しています。とはいえ高校生であれば、生徒誰でも使用できますよ!
▲高校生が使用できるトレーニングルームは、トレーニング機器が充実!
本郷中学校・高等学校からのメッセージ
最後に、学校選びをしているお子様や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本郷中学校・高等学校は人と人との関わり合いが多い学校です。中にはそれが苦手な子もいると思いますが、将来どの職業についたとしても自分一人で成り立つ仕事というのはありませんよね。人との関わり合いを通じて、将来に重要となる人間的な力を育んでいけると思います。
説明会などで学校を訪れたときには「勉強以外で、自分はこの学校で何ができるのか」ということを想像してみてください。本郷中学校・高等学校では文武両道で仲間と高め合い、「本数検」などで楽しみながら学べる環境があります。もし本校で楽しめるイメージが湧いたのであれば、ぜひ本郷中学校・高等学校を受験してほしいなと思っています。
野村先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
本郷中学校・高等学校の進学実績
本郷中学校・高等学校には毎年複数名の東京大学や京都大学、一橋大学といった最難関校への合格者を輩出しています。早稲田大学や慶応大学といった名門私立大学への合格者も多く、特に早稲田大学には100名以上の合格者がいます。
またインタビュー中にもあったように、部活動での独自性のある活動を活かした東京大学への推薦合格など、勉強以外の部分での活躍が進学に結び付いているのも特徴です。
■近年の進学実績(本郷中学校・高等学校の公式サイトより)
https://www.hongo.ed.jp/career/results/
本郷中学校・高等学校の卒業生、保護者からの声
ここでは、本郷中学校・高等学校の卒業生や保護者からの声をいくつか抜粋してご紹介します。
保護者の方からは、文武両道で子どもの心身を育む教育や、都心にあるアクセスの良さなどを魅力に挙げる声が多く聞かれました。卒業生の声からも、「お互いに高め合う」という本郷中学校・高等学校の教育が成長につながったことがわかります。
本郷中学校・高等学校の基本情報
お問い合わせ | https://www.hongo.ed.jp/contact/ |
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住所 | 東京都豊島区駒込4-11-1 |
電話番号 | 03-3917-1456 |
公式URL | https://www.hongo.ed.jp/index.php |