独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、兵庫県姫路市にある中高一貫の女子校「賢明女子学院中学校・高等学校」を紹介します。
1951年に開校した同校は、なんと世界遺産である姫路城のお堀の内側にあり、お堀や石垣など風情のある景観に囲まれています。学校の母体は1796年に聖マリー・リヴィエによって創立された聖母奉献修道会で、イエス・キリストの教えと聖母マリアの生き方に根ざした教育を行っている歴史ある伝統校です。
今回は、そんな賢明女子学院中学校・高等学校の教育方針や独自の取り組みについて、学校OGであり広報担当の藤戸先生にお話を伺いました。
この記事の目次
賢明女子学院中学校・高等学校の「燈台の光」のような女性を育成する理念
▲取材に対応いただいた、広報担当の藤戸先生
まずは、賢明女子学院中学校・高等学校の教育理念についてお聞かせください。
本校の母体は1796年にフランスのチュエイで創立された聖母奉献修道会です。創立の源である聖マリー・リヴィエが説かれた、キリストに倣う生き方を現代社会に活かして、周りを明るく照らす「燈台の光」のような女性を育成し、社会に送り出すことを使命と考え、日々生徒たちと関わっています。
ただ燈台といっても、単純に強く明るく灯っているというだけでなく、いろいろな役割があると思っています。例えばリーダーシップを発揮する子もいれば、裏方としてサポートにまわるような子もいますよね。学校生活を過ごす中で、周りのことを考えて動けるようになっていくことが、「燈台の光」のような女性に繋がると考えています。
本校の生徒たちは、卒業してからも家族のように温かい関係を築いていくことから「賢明ファミリー」と呼ばれています。OGを見ていても「社会に出て、明るく周りを照らしているな」と感じることも多いです。本校の教育理念が受け継がれており、成長していることを目の当たりにできるのはうれしいですね。
賢明女子学院中学校・高等学校のオリジナルの探究活動
賢明女子学院中学校・高等学校は探究活動に力を入れており、独自のプログラムを多数展開しています。ここからは、その内容について伺っていきます。
生徒自身で商品開発も。探究プログラム「Create the Future」
▲「Create the Future」の取り組みで、ブランディング・マーケティングをテーマにした発表をしている様子
近年は探究学習に積極的に取り組む学校が増えていますが、御校はいかがでしょうか?
私たちも独自の取り組みを進めていて、そのひとつが中高の6年間を通した探究プログラム「Create the Future」です。
一般的に探究学習は高校からの授業で実践していくケースが多いのですが、本校ではそこに繋げるために企画力・情報処理能力などのスキルを身につけていくんです。代表的なものは「クロススタディ」で、週に1時間、教科を横断した実践的な講座を実施しています。
そのほかにもいろいろなプログラムを用意していて、中学1・2年生の間は与えられた課題に沿って考えていくのですが、3年生になると自分で課題を設定し、その課題解決に向けて取り組むという自主性があらわれてきます。
なお、本校は習熟度や進路に合わせて「ソフィア」「ルミエール」の2コースに分かれているのですが、この探究学習は合同でおこなうので、多様なメンバーでグループを作って楽しく取り組んでいますね。
具体的には、どんなテーマの研究をされているのですか?
本当にいろいろなのですが、たとえば2024年度の中学3年生は、1年生のときにブランディングの基礎を学んだあと、2年生のときに商品企画をみんなで考え、実際にカレンダーを制作して学院祭などで販売しました。
もちろん、これだけでは終わりません。これから中3および高校での取り組みに繋げていくために「もっとデータ分析ができると商品企画に活かせる」ということでデータ処理の授業が行われる予定です。
行動する力を身につける放課後の自主活動「Be Leaders」
▲探究学習の発表であるポスターセッション。コースやクラスの枠を超えて学びを広げている
賢明女子学院中学校・高等学校の探究学習で、その他の特徴はありますか?
「Create the Future」などの取り組みで養った協働力や発信力を、さらに活かしていける場として「Be Leaders」というSDGsプロジェクトを進めています。これは2019年4月に始まったもので、社会問題を自分事として捉え、小さなことでもいいので自分に何ができるのかを考えて行動に移すということを大事にしています。
授業とは異なり希望した生徒が参加する形で、受験を控えた高校3年生を除く中1〜高2の生徒が放課後に活動しています。
実際の活動としては、例えばユニクロを運営しているファーストリテイリングさんが実施している「“届けよう、服のチカラ”プロジェクト」に参加しています。これは服を集めて難民の子どもたちに送るという活動なのですが、「ユニクロ班」と名付けたチームがメインで動いているんです。
学校の中で服を集めることはもちろん、周りの保育園や小学校、お寺・神社等にも直接お願いをして回収箱を置かせてもらうなどしています。2021年度は合計5,870枚もの子ども服を回収・送付することができ、多くの学校の中で「“届けよう、服のチカラ”アワード」の最優秀賞をいただきました。
その他には海洋ゴミを集める活動も行っており、地元企業のご協力のもと、実際に船を出していただいてゴミを集め、オブジェを作って一般の方々に展示するというプロジェクトも実施しました。これにより多くの方に海洋ゴミの存在を知っていただき、「Go Blue Project ごみアートコンテスト2022」で受賞しています。
すごく素敵な取り組みばかりですね。それらは生徒さんが自主的に考えたテーマなのでしょうか?
基本的に生徒たちの自主性に任せており、テーマについても「こんなことがやりたい!」とアイデアが出たら、そこから動き出します。もちろん、教員も「前例としてこんな取り組みがあるよ」とヒントを出したり、保護者の方も行き先が遠方の場合は車を出してくれたりと、サポートは欠かしていません。
ただ、先ほどのユニクロ班にしても「あそこの神社や小学校に協力してもらおう」というような意見は活発に出てきますし、生徒自ら実際に電話をしてお願いしているんですね。そういった経験を通して、総合的に人間力が高まっていると感じます。
こういった活動は大学受験を目的としているわけではありませんが、それでも積極的に活動した生徒たちの大学合格率は良かったです。「何かを学びたい」という意欲や行動力が相乗効果となって、学力向上、ひいては合格実績の向上に繋がったと思っています。
日々聖書の教えに触れ、“共感力”を養う賢明女子の習慣
▲毎日5時間目の前に行われている1分間の瞑目
教育理念はキリスト教の教えに関連しているということでしたが、日々の学校生活においてはどのような学びの機会があるのでしょうか?
本校では、中学1年生から高校3年生まで宗教の授業があり、中学1年生では聖書の言葉やお祈りの仕方など基本から学びます。小学校でいうところの「道徳」にあたりますね。
関連した習慣としては、朝礼時と帰りの終礼時、毎授業の前後にお祈りを唱えています。そのほか、曜日によって聖書を朗読する「聖書朗読の日」や聖歌をみんなで歌う「聖歌の日」があり、そういった機会にキリスト教の考え方に触れたり、みんなで心を1つにして歌を歌ったりする中で気持ちを新たにしています。
また、5時間目に入る前の1分間に「瞑目の時間」を設けています。目を閉じて瞑目することによって、心を落ち着けてすっきりとした状態で午後からの学習を始められます。
お祈りや瞑目で気持ちを切り替えているわけですね。また、校内のあちこちに聖母マリア様の像があるとお聞きしました。
そうなんです。各教室に十字架があるのと、聖画と言われる聖母マリアやイエス・キリストの絵も飾られていますので、入学したときに「小学校とは違う」と感じる生徒も多いですね。
また、毎週金曜日の聖書朗読の日には、聖書の言葉を黒板の端に書くのですが、消さずに翌週までそのまま残しています。毎週違った聖書の言葉をずっと目にしますので、それもキリストのメッセージを意識する機会になっているかと思います。
▲毎年、イエス・キリストの生誕を祝う聖劇「クリスマスタブロー」を高校1年生が創り上げている
そういった学びは、学習面とは異なりすぐに反映されるものではないと思いますが、生徒の成長に役立っていると感じることはありますか?
聖書には、自分自身がどのように力を高めていけるのかが様々なアプローチで書かれており、学校生活に活かすことができると考えています。周りの人のために力を尽くし、周りの人を大切にする中で、自分自身も大切にできるようになるんです。
聖書には「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい」という表現があるのですが、その心がボランティア活動や奉仕活動に繋がっています。聖書の教えによって、他者への共感力が培われ、誰かのために力を尽くすことを体現していく生徒が多いと感じています。
具体的には、夏休みや冬休みの長期休暇中に、介護施設などに赴いて、清掃活動を一緒にしたり、歌を歌ったり、お話し相手になったりといった活動をしています。それは希望者制ですが、毎年すぐに枠が埋まりますね。
他者のことを思いやる「奉仕の精神」を身につけ、それを実際の社会貢献に繋げているのですね。
少林寺拳法部は全国レベルの強豪。賢明女子のクラブ活動とは
▲姫路城の堀の内側にある校舎
賢明女子学院中学校・高等学校のクラブ活動について、ぜひ特徴を教えてください。
本校のクラブ活動は体育系・文化系ともに活発に活動しています。また、部活とは別に「茶道」「華道」「筝曲」という3つのおけいこにも週1回参加できるので、並行して習っている生徒も多いですね。
賢明女子ならではのクラブとしては、少林寺拳法部を紹介したいです。実は、私もこの少林寺拳法部出身なんです(笑)。活動は中学・高校合同で行っていて、中学校の全国大会、高校のインターハイの常連校です。
少林寺拳法は未経験でも始めやすく、関節技などがあるので、力がない女子でも技術を向上させることができる武道です。心身を鍛え、整えながら、何かあったときに自分の身を守ることにも役立ちます。
他の武道に比べて怪我をしにくく、道具がいらないので、取り入れやすくて身近に感じやすいのだと思います。また、中学3年生の武道の授業は少林寺拳法なので、本校の生徒たちはみんな一度は体験する機会があるんです。
「カトリック校」と「少林寺拳法」という取り合わせは、少し不思議な気もしますね。
実は、意外とそうでもないんです。少林寺拳法では昇級・昇段の際に実技試験だけでなく筆記試験も設けられていますし、「心」をどう整えるかという面も重視されます。そういう意味では、相反するものではないと思いますね。
賢明女子学院中学校・高等学校からのメッセージ
▲窓越しに見える世界遺産「姫路城」
最後に、賢明女子学院中学校・高等学校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
賢明女子学院中学校・高等学校は、世界遺産である姫路城の内側にあるという、国内でもめずらしい学校です。廊下を歩くと、窓越しに天守閣を望むことができます。歴史的な遺産と豊かな緑に囲まれているほか、近くには美術館や図書館もあって、環境面では非常に恵まれていると思います。
そんな本校では、道徳教育的なキリスト教の学び、奉仕活動、探究活動など、様々な取り組みを通して感謝の心が芽生えていくことを大切にしています。また、自らを成長させ、周りの人と関わり、そして社会に繋がっていく力を養っていきたいと考えています。
あらゆる出会いを大切にして、人の心に寄り添い、周囲を明るく照らす『燈台の光』のように心豊かな女性の育成を目指し、社会の実現に貢献できる人を育む教育を実践していますので、ご興味があれば、ぜひ本校のことをもっと知っていただければと思います。
机の前で教えを受けるだけの学習だけではなく、多くの機会を設けている御校では、生徒の皆さんがどんどん自主性を身につけ、勉強やそれ以外の活動にも取り組まれていることがわかりました。本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。
賢明女子学院中学校・高等学校の進学実績
▲賢明女子学院中学校・高等学校の正面玄関
賢明女子学院中学校・高等学校ではほとんどすべての生徒が大学に進学しており、国公立大学や難関私大の合格実績も数多いです。
2023年度は、神戸大・大阪大を含む国公立大学に21人が合格、いわゆる関関同立(関西大・関西学院大・同志社大・立命館大)と呼ばれる関西の有名私立大学に41人が合格しています。
その要因としては、放課後の補習や夏期休暇中の講座を多く開講し、幅広い選択肢から生徒が自分に合った内容のサポートが受けられることが挙げられます。いろいろな取り組みで身についた自主性が、学習面でも活かされているのではないでしょうか。
■進路実績(賢明女子学院中学校・高等学校公式サイト)
https://himejikenmei.ac.jp/info/sinro.html
賢明女子学院中学校・高等学校の卒業生の声
▲昼休みに実施されるEnglish onlyのパスポートタイム。同校では英語学習を基盤としたグローバル教育にも注力している
賢明女子学院中学校・高等学校の卒業生の声を紹介します。
賢明女子学院中学校・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 賢明女子学院中学校・高等学校 |
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住所 | 兵庫県姫路市本町68 |
電話番号 | 079-223-8456 |
問い合わせ先 | https://www.himejikenmei.ac. jp/contact/index.html |
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