地域に飛び込み課題を解決。多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の主体性を培う探究学習|中高一貫校

ぽてんをご覧の皆様に、注目の学校を紹介する本企画。今回ご紹介するのは、東京都多摩市にある共学の私立中高一貫校「多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校」です。

同校は創立以来「学びの主役は生徒」をモットーに掲げています。基礎学習はもちろん、地元・多摩市の人々と課題解決に取り組む探究学習など、生徒の自立的な学びに力を注いでいます。1学年120人という東京都内でも小規模の中高一貫校で、教員と生徒との距離の近さや、のびのびとした校風も特色の一つです。

また入試においては、日本語による論述を聞いて自分の言葉で表現するユニークな「リスニング入試」を行い、多くの子どもに門戸を広げています。

今回は多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の校訓や探究学習の特色などについて、校長の石飛一吉先生にお話をうかがいました。

生徒と教師の距離が近い。多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の少人数できめ細かい教育

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の校舎

▲多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校では、生徒と教師の距離が近い少人数教育を実践している

編集部

最初に、多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の沿革や教育理念について、お聞かせいただけますでしょうか。

石飛先生

本校は1937年、東京・目黒に創立された目黒商業女学校(現多摩大学目黒中学校・高等学校)がルーツになっています。その後、1988年に東京の郊外に学校を新設することになり、本校が開校しました。当初は高等学校のみでしたが、翌年に多摩大学が開学となり、1992年に中学校も開設しました。現在、本校の系列の学校は、多摩大学と多摩大学目黒中学校・高等学校、そして3つの幼稚園があります。

本校の教育理念は「自主研鑽」「健康明朗」「敬愛奉仕」の3つです。「自主研鑽」については、学習をはじめ生活全般において、生きるための羅針盤である自主研鑽の力を高めるように指導します。「敬愛奉仕」については社会で何らかの役割を果たし、国際人の資質を育みます。

そして「健康明朗」は学校生活を中心に心身ともに健康な生活が送れるよう指導します。これらの教育理念を実現するため、「①少人数できめの細かい指導」「②本物から本質に迫る教育」「③主体性と協働性の育成」に力を注いでいます。

編集部

校長先生からご覧になって、多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の魅力はどこにあるとお考えですか。

石飛先生

一番お伝えしたいのは、生徒と教師の距離の近さですね。東京都内の私立の中高はそれぞれ200校前後ありますが、本校は中高一貫の男女共学校のなかでも1学年は120名ほどと、都内でも最小規模の共学校です。

本校に入学する生徒やそのご家族の多くは、本校の少人数教育、きめ細かい指導が実現しやすい環境に期待してくださっていると考えています。実際、本校では建学以来教育の中心は生徒であるという理念に基づいて、生徒とできるだけ近い距離を保って教育しています。

現在、多様性ある環境を実現していくことが社会的に重視されていますが、生徒一人ひとりの持っている個性、それから教育に臨む姿勢を大切にしながら、本校を卒業後の長い人生を歩み出すアドバイスをしたいと思っています。

地域と協働する多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の探究学習

ここからは、地元・多摩市を舞台に地域の人々と協働したり、授業の枠を超えたユニークなテーマを扱ったりする多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の探究学習についてお話をうかがいました。

地元・多摩市が支援。高校生が周辺地域の課題に挑む探究ゼミとは

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の高校1年生が1年間の学びを道行く人に報告する「路上期末テスト」の様子

編集部

高校の探究学習では、多摩市と連携して行っているそうですね。詳細について、お聞かせいただけますでしょうか。

石飛先生

コロナ禍が収束した2022年から新しい高校の学習指導要領が始まり、本校も探究学習に取り組むことになりました。若手教員を中心に議論を深めた結果、私達の学校の探究学習のあり方を考えた際、生徒と教員が一緒に一つの問題に取り組める探究学習をやるべきとの結論に至りました。

地域に支えられている学校ですので地域に関わりたいということで、多摩市の企画課を訪れて相談しました。すると、先方も「多摩市は少子高齢化や地域経済の活性化など様々な課題があるので、ぜひ若い人の意見を聞いてみたい」となり、「探究ゼミ」として協働することになったのです。

探究学習が始まるにあたり、水曜日の午後は部活動を行わないこととし、高校1年生と2年生は必要に応じて学校を離れて活動できるようにしました。高校1年生は1学期にインターネットの検索の仕方やレポートの書き方、プレゼンテーションの方法などについて学んだ後、2学期から20人ずつくらいのグループに分かれて、本格的に課題に取り組み始めます。住宅地を歩いて住民の方の考えを聞いたり、商店街で店舗の困りごとを聞いたりして、課題を見つけていきます。

編集部

探究ゼミにおいて印象に残ったテーマや、出来事について教えてください。

石飛先生

テーマとしては、行政が課題に感じていることと重なっているものが見られました。例えば「シャッター通りとなった団地の中にある商店街の賑わいをどう取り戻すか」「若い人が減って夏祭りを運営する人材がいない」など、様々でしたね。

もちろんすぐに答えが出るものは少ないですが、夏祭りの方は人手不足であることがわかり、生徒が店に立ったり、イベントの舞台設営を手伝ったりして、地域との接点を持つ機会となりました。

最近ですと、地震などの災害があった際、地域でどう対応するべきか、を取り上げたチームがありました。学校の周辺は多摩市の中でも高齢化が進んだ地域です。地震などの有事の際に若い人たちで、どんな協力ができるかを市とともに考えたチームがありました。また、あるチームは若い世代が定住することを目指した若者条例を多摩市としては作れないかと、市議会で提案する準備に入っています。

編集部

探究ゼミでの生徒たちの様子はいかがでしょうか。

石飛先生

2024年で3年目の取り組みですが、多摩市の方がアドバイザーとして「これはどうなっているの?」「今、この町内会ではこんな取り組みをやっているよ」などと、生徒たちと真剣にアドバイスをくださり、生徒を後押ししていただいています。

その一方で、生徒は聞き取りだけではなく、商店街の人に会う必要があると思えば、自分で職員室から電話をかけ、アポイントメントを取ることもします。教員はそこで何も教えません。

生徒たちにとっては、初めてと言ってもいいくらいのビジネス的な交渉です。時には「こんな忙しい時間に電話してくるんじゃない」とお叱りをいただくこともありますが、日を改めて約束を取り付けていました。少し壁にぶつかりながらも、社会とはこういうものだというのを学べるのも、失敗を活かすという意味も、この探究学習の魅力かもしれません。

編集部

探究ゼミの取り組みを披露する場はあるのでしょうか。

石飛先生

毎年12月に、高校1年生が1年間の学びの中間報告という形で、多摩センター駅前の「パルテノン大通り」の一部を使って、市民の皆さん向けにポスター発表をします。「街なか路上期末テスト」と呼んでいますが、パネルを立てて、生徒たちが街ゆく人々に呼びかけ、投票をお願いします。それが生徒たちの2学期の評価になるのですが、2023年は2時間で450名の方が、応じてくださいました。

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の高校1年生が1年間の学びを道行く人に報告する「路上期末テスト」の様子

▲高校1年生が1年間の学びを道行く人に報告する「路上期末テスト」。最寄り駅前の大通りでポスター発表し、投票してもらう

編集部

先生からご覧になって、生徒たちの成長の様子が垣間見られる瞬間はありますか。

石飛先生

生徒たちは、今まで学校は先生から教えてもらう場であると捉え、先生の話をきちんと聞く、黒板に書かれたことはしっかりノートに取るといった受け身の立場で臨んできたはずです。それが今度は子供たちが主体的になって動かなければならない。人の前で話をし、時には面会のアポイントメントを取る。たたずまいを注意されることもあります。

しかし、そんなことを繰り返していくと、物静かだった子も、自信を身につけ、いつの間にか授業でもどんどん発言するようになります。教員としては、あちこちで成長した様子を見られますので、とてもうれしいですね。

CM制作や、科学的な知識を使ったプリンづくり。中学の特別講座「A知探Qの夏」とは

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の特別講座「A知探Qの夏」で行われたボルダリングの様子

▲中学校では授業を超えたテーマについて学ぶ特別講座「A知探Qの夏」を展開。ボルダリングに取り組むことも

編集部

中学校での探究学習についても、特色について教えてください。

石飛先生

中学校は「楽しくなければ学びじゃない」という理念の中で、毎年夏休みに入った直後に、「A知探Qの夏」という特別講座を行っています。「A」はAnswer(答え)、「Q」はQuestion(疑問)を指しており、普段の授業とは異なる学びの時間を通して、問題や課題の答えを知るだけで終わらず、そこから次の疑問(Question)を見つけることの大切さを学ぶという内容です。

これは、先ほどご紹介した本校の教育理念にある「本物から本質に迫る教育」を体現する取り組みですね。中学校3学年が自由に受講できるもので、全体の8割ほどの生徒が受講をしています。

具体的には毎年20講座前後で、教員のほか、外部講師を招いて行います。例えばテレビ業界の方を招いて動画を撮影してCMを制作する講座や、弁護士を招いての裁判の傍聴、被爆地・広島を訪れての平和学習など様々です。

変わり種としては、たんぱく質が固まる温度を調べて、科学的な観点からおいしいプリンを作る講座や、ボルダリング体験、ピアノの連弾などもありました。校長の私も講師を務めまして、料理好きを生かして、和菓子作りの講座を行いました。2024年は「キャンプ飯講座」をやる予定です。

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の中学生向け特別講座「A知探Qの夏」の様子。テーマは「歌舞伎を学ぶ」

▲歌舞伎について学んだ際は、隈取(独自の化粧)も実施した

編集部

とても楽しそうな講座ですね。取り組んだ成果はどのように発表するのでしょうか。

石飛先生

活動の振り返りをして最終的には、保護者の方々や本校に関心がある小学生の皆さんが訪れる文化祭で発表します。発表では、スライドを使いながら、時にはアドリブを交えて堂々とプレゼンテーションします。

A知探Qを始めてから、生徒たちはどんどん意見を言えるようになったり、みんなで答えを考えて教え合ったりと、非常に頼もしくなりました。アクティブラーニングの成果がどんどん出てきていると感じています。

日本語の論述を聞き、自分の言葉で解答する「リスニング入試」

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校が実施している日本語リスニング入試の問題用紙

▲日本語の論述を聞いて問いに答えるリスニング入試を行っている

編集部

多くの子どもが受験できるよう、ユニークな入試を採用されているとうかがっています。特色についてお聞かせください。

石飛先生

本校では、国語と算数の2科目、それからその2科目に理科と社会を合わせた4科目、そして公立中高一貫校と併願可能な適性型入試の計3種類の中学入試をやってきたのですが、それらに加えて2021年から「リスニング入試」を始めました。

これは日本語の論述を5~7分ほど聞いて、設問に答えていくという本校独自の内容で、自分の持っている論理力とか表現力を試すテストです。論述の内容は、現代日本や環境問題などで、その内容をまとめたり、文中で出てくる漢字の書き取りをしたりと、様々な設問を盛り込んでいます。こうした形式は大学入試でも見られるものです。

編集部

リスニング入試の狙いや、反響について教えてください。

石飛先生

受験対策の塾に行っていないお子さんが挑戦するケースが目立っています。中学受験を意識すると、多くの子どもは小学校の5年生6年生ぐらいで塾に行く代わりに習い事やスポーツをやめてしまいます。しかし、本校のリスニング入試ならやめる必要はありません。

リスニング入試では、論理力とか表現力とかを問うものですので、人の話をきちんと聞き、理解できる力があれば特に対策は不要です。ぜひ多くの小学生の皆さんに挑戦してもらいたいと思います。

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校からのメッセージ

インタビューに応じてくださった多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校校長の石飛先生の写真

▲インタビューに応じてくださった、多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校校長の石飛先生

編集部

最後に、本記事をご覧の読者の皆様へメッセージをお願いします。

石飛先生

お話ししていなかったこととして、多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校では部活動が活発であることもお伝えしたいです。特に女子のダンスドリル部は非常に活躍しており、2024年は中学・高校ともに全国大会に出場しました。こんな小さな学校ですが、過去にはドラフトで1位となったプロ野球選手も輩出しています。

また、漫画イラスト研究部は、毎年夏に高知県で行われる「まんが甲子園」に過去3回出場しています。文化部は中学生・高校生が一緒に活動しており、先輩の胸を借りながら、中学生も切磋琢磨できます。顧問の教員も含めて一体感があるので、皆の距離が非常に近いのが特長ではないかと思います。

これから進路を決められる受験生の皆さんや保護者の方には、自分自身や自分の子どもの可能性の広がりをよく見つめていただきたいです。例えば今は文系向きだと思っていても、学校生活を送っている間に大きく変わることはよくありますし、全く別の分野に興味を持つこともあるかもしれません。

秘めたる力を見つけ出し、育てる、そんな中高の6年間であってほしいと思いますし、それが実現できる学校を目標にしていただきたいです。その中で、私たちは生徒一人ひとりの学ぶ種をまき、一緒に育て上げていく気概を持っていますので、ぜひ本校にご関心をお寄せいただけますとありがたいです。

編集部

本日は貴重なお話をありがとうございました。

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の進学実績

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の校舎

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の2024年の合格実績では、東京都立大学など各地の国公立大学に6人が合格しました。一方、私立大学は計316人。GMARCHと呼ばれる学習院(6人)、明治(4人)、青山学院(4人)、立教(3人)、中央(4人)、法政(10人)の各大学、東京理科大や昭和薬科大など理系私大の合格実績も豊富です。

■多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の進学実績(公式サイト)
https://www.hijirigaoka.ed.jp/course/career.html

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の卒業生・保護者の口コミ

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校校長の授業・行事風景

▲朝読書やネイティブから教わる授業、行事などの風景。いろんな体験ができるのが同校の特徴

ここからは、多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の卒業生、保護者の声を一部抜粋して紹介します。卒業生の声については、学校公式サイトから引用しています。

■多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校の卒業生の声(公式サイト)
https://www.hijirigaoka.ed.jp/course/message.html

(卒業生)聖ヶ丘は少人数であるが故に、大学受験に対しての不安や困ったことがあれば、すぐに先生方が生徒に寄り添って話を聞いてくださいました。

(卒業生)この学校にはやりたいことをやりたいだけできるようにサポートしてくれる環境があります。そのおかげで活動の幅をどんどん広げることができました。生徒が少人数であるからこそ一人ひとりが固有の経験を積める機会が多くあると思います。

(保護者)先生方は熱心で気さくな方が多いです。子供たちに教えるのを楽しんでいるように感じます。あと、体験型の授業や夏期講習みたいな授業もあるので、良き勉強の機会になっています。

口コミからは、少人数によるアットホームな校風を支持する声のほか、併設の多摩大学との連携を評価する意見も見られました。

施設面でも、温水プール、整ったグラウンドが用意されている点をポイントとして挙げる声もありました。先生と生徒の距離が近く、のびのびと勉強できる環境が用意されていることも本校の特色として考えられているようです。

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校校長の室内プール

▲温水プールなど、施設も非常に充実している

多摩大学附属聖ヶ丘中学高等学校へのお問い合わせ

運営 学校法人田村学園
住所 東京都多摩市聖ヶ丘4-1-1
電話番号 042-372-9393
問い合わせ先 https://www.hijirigaoka.ed.jp/contact/
公式ページ https://www.hijirigaoka.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください