ぽてんをご覧の皆様に、注目の学校を紹介する本企画。今回ご紹介するのは、福岡県福岡市にある私立の中高一貫男子校「東福岡自彊館(じきょうかん)中学校・東福岡高等学校」です。
学校法人東福岡学園が運営する両校には、東福岡自彊館中学校から東福岡高等学校に進学する中高一貫コースである「自彊館コース」があります。中高一貫教育においては、学ぶ楽しさを知ることや、チャレンジ精神の養成、社会課題に関心を持つことを重視した教育を実践しています。
特に、SDGsを取り上げた探究学習や、オンライン英会話の実施、ネイティブの教師と交流できる機会など、生きた英語を学べるグローバル教育には定評があります。
また、2025年度からは、東福岡自彊館中学校、東福岡高等学校とともに共学に移行することになっており、大きな転換点を迎えようとしている学校でもあります。
今回、東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の教育方針や、具体的なカリキュラムなどについて、東福岡自彊館中学校校長の吉村先生にお話を伺いました。
この記事の目次
進学目標と人格育成の両方に取り組むのが「東福岡」の教育目標
まず、東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の沿革、建学の精神など教育の考え方についてお聞かせください。
本校は、1945年に設立された「福岡米語義塾」をルーツとしています。これは、創立者の德野常道先生が、日本の再建は教育の振興によるべきで、これからは英語教育が必要であると直感し、英語の学校を始めようと思ったからです。
その後、1955年に東福岡高等学校を設立。1999年には併設の中学校として、東福岡自彊館中学校が開校し、2002年に中高一貫のコースである「自彊館コース」を設けました。
東福岡高等学校が開校した際、徳野常道先生が、建学の精神として「本校は私学の秀峰をめざし、全校を挙げて人格完成への理想教育に邁進しつつ、高等普通教育の完璧を期すると共に、特に進学に重点を置き躾(しつけ)の教育にあたる」と宣言しました。簡単に言うと、進学に重点を置き、躾の教育に当たる、目指すは私学のトップであるということです。
躾とは、具体的にどんな意味合いになるのでしょうか。
多感な6年間に、挨拶をしっかりするとか、時間を守るとか、社会に出ていくうえで当たり前にできないと困ることを教育していくという意味があります。そのうえで、ほとんどの生徒が大学に進学していきますので、進路を保証する責任があると考えながら教育に当たっています。
2025年度からは中高において、共学化を行うと伺いました。
はい。学校法人東福岡学園は学園創立80周年を迎える2025年から学園ビジョン「NEXT HIGASHI 2030」をスタートします。それに伴い、教育方針の一つである「多様性の受容」、そして昨今の多様化を重視する社会の潮流に即して共学化を決めました。
教員の研修や設備の整備、制服や体操服の一新、女子生徒が好む食堂のメニューの考案に至るまで、女子生徒を迎えるにあたり、様々な準備を進めています(取材は2024年7月実施)。
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校のグローバル教育
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校では、放課後にネイティブスピーカーの教員と生徒が交流する場や、現地文化に触れるオーストラリアへの修学旅行など、海外に触れる教育が充実しています。ここでは、同校のグローバル教育の特色についてご紹介します。
英会話へのハードルを下げるオンライン英会話
▲東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校では中学3年生からオンライン英会話に取り組む
グローバル教育の特色の一つであるオンライン英会話についてお聞かせいただけますか。
生きた英語に気軽に触れられるように、語学力に下地が作られてきた中学3年生から、高校3年生までの4年間、生徒1人1台持っているタブレット端末を使って、ネイティブの先生とのオンライン英会話を行っています。
オンライン英会話では、まず生徒が自身の学力、英語力に合ったプログラムの内容を選べるようになっています。その日のテーマに沿って、画面の向こうのネイティブの先生が生徒に話しかけて、会話が進むという流れになっています。
日本人の教員が加わらない1対1でのやりとりになるため、話す量も増えますし、コミュニケーションの量も格段に増えますね。
オンライン英会話を通して、生徒にはどんな変化がみられるのでしょうか。
吉村校長
英会話が流暢でないと話しにくい、という考え方が一般的にどうしてもあると思いますが、オンライン英会話に参加することで、「自分の英語が完璧じゃなくても話していい」と、多くの生徒が思うようになります。これが、英語への苦手意識をなくし、英語に積極的になるというマインドの醸成につながっているようです。
実際、休み時間などにネイティブの教員と廊下ですれ違うと、生徒の方から話しかけるシーンをよく目にします。英会話に対して、大きくハードルが下がってきていることを感じる瞬間です。
放課後の英会話教室「英語村」で留学生と交流
▲ネイティブの教員を中心に、生きた英語を教えている
英語に親しむ取り組みはほかにもありますでしょうか。
まず英語の授業については、ネイティブと日本人の教員の2人で授業に臨むものの、ほぼネイティブの教員が前に出ているような状況です。生徒には「英語のシャワー」を浴びてもらうようなことを意識して授業を行っています。
別の取り組みとしては、中学生の希望生徒を対象にした無料の英会話教室のような「英語村」という時間を設けています。本学園には中学校、高等学校に4人のネイティブの教員がおり、生徒と教員が交流できる場になればと、放課後に実施しています。
▲放課後の英会話教室「英語村」では、留学生とのゲームなどを通して、生徒が気軽に英会話を楽しめる環境を用意している
生徒は毎回10人超が参加していますが、ここでは、放課後にネイティブの教員と英語でゲームをしたり、近くの日本語学校から様々な国からの留学生が定期的に訪れて交流したりします。本校では、週3回は部活がほぼ行われていませんので、そんなときを活用して、多くの生徒たちがネイティブの教員と会話をしたり、ハロウィンなどのイベントを楽しんだりしています。
英語村の活動で、国際交流が非日常的なものではなく、日常的なものであると、生徒たちは受け取ってくれているようです。楽しみながら英語に触れることで、英語を「聞く」、「話す」能力だけではなく、英語や海外に対する興味・関心の向上につなげられればと考えています。
英語村に参加した生徒からの反響はいかがでしょうか。
参加した生徒が、短期、中期の留学参加に手を挙げる傾向は強いと思います。高等学校に進学後、部活動の英語部に入る生徒も見かけます。おそらく、休み時間の雑談など、授業以外の普段の時間に英語に親しんでいることで、さらに英語への関心が強まっているようです。
現地の社会課題に目を向けるオーストラリアへの修学旅行
海外への修学旅行も、グローバル教育において重要な位置づけとなっているそうですね。
修学旅行では中学3年生がオーストラリアに行っています。ここも生徒の海外志向が強まる場になっています。1週間ほどホームステイして、現地の人々との交流や学校訪問を経験するのですが、現地の大学を受験する生徒まで出てきたほどです。英語に触れる体験を通じて、モチベーションが著しく上がる生徒は非常に多いです。
2025年度からは中高で行き先を変更するそうですね。
はい。2024年度までは、中学3年生がオーストラリア、高校2年生は長野の志賀高原にスキーに行くというプログラムにしていましたが、2025年度からはこれを逆にして、中学3年生は国内、高校2年生はオーストラリアにしようと考えています。
その狙いは生徒の視野を広げたうえで、海外に行ってもらいたいという考え方からです。中学の修学旅行では、国内のいろんな社会課題に目を向ける機会にしたいと考えています。例えば、過疎地など課題を抱えている場所に行き、民泊などを通して、リアルに日本の社会課題を学ぶような修学旅行を検討しています。
高校2年生ではオーストラリアに行き、現地の社会課題を学ぶという流れにします。生徒が帰国後は、旅行で養ったグローバルな視点で改めて日本の課題にどう取り組むべきかを考える機会を設ける予定です。将来生徒たちが社会に出るとき、日本をより良くするためにはどうすればいいのかを考える、社会課題を解決するような人材の養成につながれば、と思っています。
グローバルの視点を養う国際教養コースが高校に誕生
グローバル教育に関連して、2025年度から東福岡高校には国際教養コースが誕生します。その特色についてお聞かせください。
東福岡高等学校では、コースを再編し、2025年度入学生からは、中高一貫の自彊館コースを含めて5コース体制(フロンティアコース、文理共創コース、医進・サイエンスコース、国際教養コース、自彊館コース)となります。
その中での国際教養コースについては、1学年1クラス30名の募集としており、外部の中学から受け入れるコースとなります。他コースに比べ、ネイティブの教員が多く授業に関わるほか、高校入学後まもなく、オーストラリアへの海外研修を実施。早め早めにグローバルな視点を養うことを目指しています。
中高一貫コースの「自彊館コース」においては今後、国際教養コースのプログラムも状況に応じて取り入れたり、共同で実施したりということを検討しています。
企業連携でSDGsを学ぶ。東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の探究学習
▲SDGsを題材としたカードゲームを活用して、社会課題を学ぶ探究学習を推進している
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の探究学習について、特色をご紹介いただけますでしょうか。
本校の探究学習では、社会課題の解決に貢献する人材を育むべく、中高一貫6年間の本校独自の社会課題探究プログラムを設けています。
テーマとなるのがSDGsで、カードゲーム「2030 SDGs」を使ったワークショップを中学2年生の時に行います。本校では、そのカードゲームを扱える公認ファシリテーターの資格を持つ教員がおり、SDGsとは何か、SDGsに注力することの重要性は何かなどを、ゲームを通じて指導していきます。
また中学3年生では、ソーシャルビジネスに情熱を注ぐ経営者らを招いて「SDGs×ビジネス」というワークショップを行っています。
▲探究学習では企業経営者にプレゼンテーションする機会もある
経営者とはどのような交流をするのでしょうか。
例えば、建築業界の方に講演いただいて、どのように工事での無駄を省いているのかをお話しいただいたり、飲料メーカーの方にはなぜ企業がSDGsを目指すのか、また、校内で行っているPETボトルの再生がどう社会に貢献しているのか、などについて披露いただいたりしました。一方で、こちらの生徒からも企業の方に「SDGsに資するためにこんなことに取り組んだらいかがですか」というようなプレゼンテーションも行っています。
お越しいただく企業はその他にも、人材派遣会社やスタートアップなど様々です。人材派遣会社の方は、会社を起業した経緯や、人手不足が課題となっている現代で、どう対応していくのか、どうやって必要な人材とマッチングしていくのかなどをお話しいただきました。企業に訪問することもあります。
探究学習を経て、生徒はどんな学びを得るのでしょうか。
中学3年生が4人ほどのグループを作り、企業にインタビューします。その結果などをまとめて、プレゼンテーションを行います。企業の方のお話を聞くなかで、職業観に触れる生徒も多いです。例えば、親の仕事が社会貢献につながっていることを知って改めて尊敬したと感銘を受ける生徒もいました。
また、別途保護者の方にご協力いただいて、保護者の方のキャリアについても聞く機会を設けています。専業主婦の方もいらっしゃる場合は、どんな風に仕事をされているのかを聞くこともあります。生徒にとってこの探究学習は、キャリア教育のような面もあると考えています。
SDGsに関する取り組みをきっかけに、校内に畑が誕生!
▲探究学習をきっかけにサーキュラーエコノミーを学ぶ畑を作り、野菜を育てている
SDGsに関する活動で、他に取り組みがあればご紹介いただけますか。
探究学習をきっかけに、本校の中学3年生が大学などでのSDGsに関する研修会や発表会などに参加した際、「サーキュラーエコノミー」というシステムを学びました。
サーキュラーエコノミーは、資源の効率的、循環的な利用を進めながら、資源の価値最大化を図ることですが、生徒たちが「本校でも関連の取り組みが何かできないか」と提案してきたのですね。そこで、校内の一角に小さな畑「Jファーム」を整備しました。
この畑は、中学校の食堂から毎日出る生ゴミをコンポストに投入し、たい肥を作り、野菜を育てる取り組みの一環です。コンポストは探究学習でかかわったスタートアップのもので、趣旨に賛同のうえ、ご協力いただきました。先日、玉ねぎなどを無事に収穫することができましたが、学んできたことを実践する、その生徒の行動力には本当に感心しました。
生徒の挑戦といえば、2023年には当時の高校2年生が地域創生をテーマにしたプレゼンテーションを行う大会で、人口が減少している地域の活性化策について優れた発表をして、全国大会に進みました。探究学習などを通じて、校内には挑戦する風土や環境が醸成されてきたと考えています。
学校としては、こうした生徒の挑戦をどんどん応援していく考えです。
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校からのメッセージ
▲インタビューに応じてくださった、東福岡自彊館中学校校長の吉村先生
最後に、この記事をご覧の読者の皆様にメッセージをお願いします。
2025年度からの共学化により、学校生活は今までよりもずっと多様なものになると考えています。そんななかでも、学校は、これまで同様に失敗が許される場所だと思っていますし、そんな場であり続けたいと考えています。
生徒には6年間いろんなことに挑戦し、失敗と挑戦を繰り返してほしいですし、学校としてもどんどん生徒の後押しをしていきたい。それが、一人ひとりが社会に出てもたくましく生きていくうえで、大きな武器になると思っています。ぜひ、そんなチャレンジ精神を秘めた方に入学していただきたいです。
本日は貴重なインタビューの時間をいただき、ありがとうございました。
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の進学実績
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校は例年、難関の国公立大学、私立大学に数多くの合格者を輩出しています。
2024年度の合格実績では、国公立大学の合格者は135人。京都大学(1人)、大阪大学(3人)、九州大学(15人)などの難関国立大学には21人が合格しました。また私立大学の合格者は1823人で、早稲田大学(5人)、慶應義塾大学(2人)、上智大学(3人)などの難関私立大学には145人が合格を勝ち取っています。また国公立私立大学の医学部医学科の合格者も13人に達しました。
■東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の進学実績(公式サイト)
https://www.higashifukuoka.ed.jp/highschool/our-achievements/
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の保護者・在校生の口コミ
ここからは東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校の保護者や在校生の声を一部抜粋して紹介します。
口コミでは、先生が生徒一人ひとりに適した形でサポートしてくれることや、挑戦を後押ししてくれる風土、また進学に向けての指導体制などを評価する声が目立ちました。学校設備の充実、主要駅である博多駅から徒歩圏内という立地などについても好評で、ソフトとハードの両面で充実し、勉強に励める環境であることが高い評価につながっているようです。
東福岡自彊館中学校・東福岡高等学校へのお問い合わせ
運営 | 学校法人東福岡学園 |
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住所 | 福岡県福岡市博多区東比恵2丁目24-1 |
電話番号 | 092-434-3330(東福岡自彊館中学校) 092-411-3702(東福岡高等学校) |
問い合わせ先 | https://www.higashifukuoka.ed.jp/higashifukuoka-info/jscontact(東福岡自彊館中学校) https://www.higashifukuoka.ed.jp/highschool/hscontact/(東福岡高等学校) |
公式ページ | https://www.higashifukuoka.ed.jp/juniorhighschool/(東福岡自彊館中学校) https://www.higashifukuoka.ed.jp/highschool/(東福岡高等学校) |
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