注目の学校を紹介する本企画。今回は、滋賀県大津市にある併設型の中高一貫校・私立「比叡山中学校・高等学校」(共学校)を紹介します。
伝統ある仏教校の同校は、2023年に教育改革を行い、生徒が主体的に授業に参加する「学び合い学習」に力を入れています。また、探究学習においては生徒たちが地域のためにできることを考え、社会課題を自分ごととして考える視点を育てています。
今回は、比叡山中学校・高等学校の教育理念や教育プログラムへの取り組みについて、副校長の竹川先生にお話を伺いました。
この記事の目次
伝教大師最澄上人の精神を今に伝える「比叡山中学校・高等学校」
▲伝教大師最澄上人の教え「一隅を照らす」が校訓になっている
まず初めに、比叡山中学校・高等学校の建学の精神について教えていただけますか?
本校の建学の精神として、伝教大師最澄上人の「一隅を照らす 能く行い能く言う 己を忘れて他を利す」という言葉を掲げています。
社会を良くするために一人一人がその役割を果たす、すなわち「一隅を照らす」ことで、社会全体が良い方向へと進みます。また、そのためには自ら進んで学び、修得する「能く行い」、修得した知識・技能を人に伝える「能く言う」ことも大事ですし、さらには自分のことより他人の幸福を優先し、自分事として喜べる思いやりを持つ「己を忘れて他を利す」ことで、世の中が平和になっていきます。
私たちは、このような想いをもとに「豊かな社会性と謙虚な奉仕の精神に燃える人材の育成」を目指しているんです。
また本校では、学習指導要領の改訂に伴い、新たに7つの資質・能力を教育の柱としています。具体的には、思考力・判断力・表現力・自己肯定力・主体性・協働性・寛容性を指しており、これらを本校では「えいざんスピリット」と呼んでいます。
えいざんスピリットという言葉自体、生まれたのはここ数年ではありますが、本校にはこの精神に沿った教育にこれまでも取り組んできた歴史があります。
だからこそ、本校から羽ばたいていった生徒も、これから育っていく生徒も、このえいざんスピリットと共に、行動力を持って社会貢献に取り組み、どんな時代も生き抜く力のある人になってほしいと考えていますね。
「掃除・挨拶・学問」を実践する教えは、卒業してからも心に残っている
▲インタビューに答えてくださった竹川副校長
伝統ある仏教校として、御校ならではの特色をお教えいただけますか?
私たちは、実践目標として「掃除・挨拶・学問」を大切にしています。
まず掃除では、身の回りをきれいにし整理整頓することで、健やかな精神を保ちます。挨拶では、相手の気持ちを理解することを心がけたコミュニケーションを築きます。そして学問では、教科の勉強の知識だけでなく、主体性・協働性・寛容性などの資質を高めます。
これらを徹底することは、簡単なようでいて、実はそう簡単なものでもないんですよね。また教員や親御さんから言われる言葉ではなく、最澄上人の教えから来ているからこそ、生徒たちにも重く、深く響きます。
掃除・挨拶・学問の3つを大事にすることは、学校生活の間だけでなく、社会人になったり自分が子どもを持つようになったりした後にも、心に宿し続けてほしいなと思います。卒業生が時々本校を尋ねてくれるんですが、この3つが今でも人生の基盤になっていると言ってもらえたこともありましたね。
生徒との繋がりでいうと、本校の卒業生には、3世代で本校に通ってくださったご家族もいるんですよ。比叡山中学校・高等学校の脈々と続く教えは、教員が入れ替わり世代が変わったとしても信頼されていて、お子さんやお孫さんの教育を任せてもらえるんだなと、すごく誇らしい気持ちになりましたね。
比叡山中学校・高等学校が近年取り組んだ学校改革
比叡山中学校・高等学校は、伝統校ながらより良い教育を実践していくためのチャレンジを続けていることが特徴です。ここでは、主に中学校で取り組んだ数々の制度の見直しについて伺いました。
「学び合い学習」で生徒の主体性を引き出す
御校は2023年にいろいろな制度を改革されたと伺ったのですが、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか?
まずは、授業のあり方をガラリと見直しました。例えば、教員が一方的に教えるのではなく、生徒が主体となる「学び合い学習」という授業形態を多くの教科で取り入れたんです。
当時中学3年生だった生徒たちは、学びに飢えていたかのようにどんどん生き生きとしていきました。本校の生徒たちは元々真面目な子ばかりでしたが、「聞きあい・伝えあい・学びあう」ことを重視する授業に、より積極的に関わってくれるようになってくれました。
そして学び合い学習の後には、希望する生徒たちと教員が一緒に、授業に対する研究授業を設けています。その研究授業の中で、より良い授業を作っていくために、先生と中学3年生が対等に話し合い、模索していた様子が印象に残っていますね。
このように教員自身もこの学び合い学習で、生徒の声をつなぎ、もどし、生徒たちの学びを深める役割に徹しているんです。
また、本校は併設型の中高一貫校ではありますが、生徒の3割ほどは外部受験をしています。受験をする生徒の中には、学び合い学習でやりがいを見つけると、自然とその後の受験に対しても前向きに取り組むようになってくれましたね。
▲公開授業の後の研究会。生徒と教員が同じテーブルで授業内容を振り返っている
生徒の主体性を促すために、先生方はどのような工夫をしているのでしょうか?
教員が大事にしているのは、いかに生徒たちを信じ、口を挟まずにいられるかということです。生徒たちが自ら考えた意見や問いが出てくるのを待ち、たとえ間違っていたとしてもしっかりと受け止めようということを共有しています。
それもあって、教員と生徒たちはお互いに信頼感のある関係を築けているようです。また、生徒に対するまなざしとして、「指導する」という言葉遣いをなくそうという試みも生まれています。指導よりも、「寄り添い」や「サポート」という形で、生徒たちに接することを目指しているんです。
生徒同士の豊かな交流を縦割りで促す
▲文化祭では、学年やクラスの枠を越えた縦割りのグループで仲良くダンスを踊る
比叡山中学校・高等学校では、その他にどのような取り組みをされましたか?
学年という枠を越えて「縦割り」で生徒を見ていくように変えたことはぜひお伝えしたいですね。本校の中学校には、およそ200人の生徒がいます。この200人をおよそ20人の教員全員で見ようという方針を作りました。そこで行事を中心に、縦割りで生徒をグループに分けるようにしたんです。
この試みによって、生徒同士が自由に交流できるだけでなく、教師もクラスや学年の枠を外して、生徒と関われるようになりました。
行事というのは体育祭などでしょうか?
おっしゃるとおり、体育祭や文化祭などの年間行事にも縦割りを取り入れています。例えば文化祭では、学年・クラスの枠を外し、それぞれの興味・関心事やチャレンジしたい科目・演目(ダンス・科学実験・合唱・演劇など)を選択してもらいます。選択した科目・演目には、1年生から3年生までが混ざった縦割りのグループができあがるのです。
ただ、この縦割りは学年の括りがない単なるグループ分けではありません。行事ごとの際には、3年生が1年生にどのような行事なのかをレクチャーするなど、上級生が上級生としての姿を示していく機会でもあるんです。また、同学年どうしではうまくコミュニケーションがとれない生徒もいます。そんな生徒も先輩や後輩となら気軽に話せたり、声をかけたりできます。このことは、やってみて気づいたことです。
2023年から始めたまだ新しい試みではありますが、学年関係なく生徒が交流する豊かな環境を通して、本校の新たな文化を作っていってほしいですね。
▲体育祭も縦割りの6つのグループで実施!
上級生と下級生が関わるもので、その他に特色あるプログラムはありますか?
昨年、創立150周年の記念事業として、中高合同文化祭を開催しました。今まで共通の行事がなかったのですが、これを機に中学生と高校生が豊かに交流できる企画を増やしたいですね。
▲文化祭で披露する黒板アートや合唱も、学年を越えて取り組む
地域課題を自分ごとにして取り組む「探究学習」
比叡山中学校・高等学校の探究学習についてお教えいただけますか?
本校の探究学習では、えいざんスピリットを養うための様々なプロジェクトを実施しています。「Think globally, Act locally(地球規模で考え、地域で行動する)」という視点を持ち、社会課題に対して自分にできることや地域のためになることを題材にして取り組んでいますね。
探究学習について、生徒のみなさんからはどのような声があがっていますか?
とても楽しいと言ってもらえることが多いですね。これまで本校は、自分たちの学校だけで完結する取り組みが主流だったのですが、教育改革を経て、他所へ出向いたり、外部の方をお招きしてお話を聞いたりと、学校の外側へと繋がっていく機会を多く持つようになりました。
生徒たちを見ていると、学校生活をより充実して過ごせているのが伝わってきます。
鮒寿司の職人さんに直接話を聞くなど、地域と連携したテーマが多い
▲地域課題と向き合う探究学習で、鮒寿司の職人さんと交流する機会を作る
探究学習では、これまでにどのようなテーマを扱ったのでしょうか。
一例としては「滋賀県の郷土料理である鮒寿司を未来にどうやって繋げることができるか」など、地域に根差したテーマが多いですね。このときは、実際に鮒寿司を販売されている方に来ていただきました。
その他に、本校周辺の歴史に詳しい方をお招きしてお話を伺うこともあります。実際に何らかの専門分野をお持ちで、現在も活動されているプロフェッショナルの方を中心にお話していただくことで、生徒たちによいインスピレーションを与えられる時間にしています。
生徒のみなさんには、探究学習をどのように活用していってほしいですか?
自分で課題を見つけて、その課題に対して自ら動いていってくれたら嬉しいですね。中学生も高校生に負けないくらいのエネルギーを持っており、そのエネルギーを最大限に発揮できる環境が探究学習だと思っています。
中学生が高校生の部活に参加し、高みを目指せる環境を用意
比叡山中学校・高等学校の部活動の特色についてもお教えいただけますか?
比叡山高校はマンモス校でもあるので、いろいろな分野で活躍している生徒が多くいます。もちろん部活動に高校3年間を捧げ、インターハイを目指す生徒もいますよ。一方で中学校はまだ規模が小さいこともあり、部活動もそこまで活発ではありません。
そこで一つの取り組みとして、文化部を中心に中学生が高校の部活に参加する機会を作っています。例えば華道部では、高校生よりも中学生が多い比率になっていますね。また、人気のある競技かるた部には、小学校から競技かるたに打ち込んでいた部員も所属しています。そういう生徒にとっては、小中高と長期に渡り競技かるたに打ち込める環境自体を、メリットと感じてもらえているようです。
そして今後の取り組みでは、バスケットやサッカー、バレーなどの運動系の部活動ではなくクラブチームに入っている中学生を対象に、チームの練習がない日に高校の部活動にも参加できる機会を用意することを計画しています。より高いレベルの練習に打ち込める環境を作っていきたいですね。
こうした中学生と高校生が一緒になって行う部活動は、多くの私立学校でまだまだ行われていない試みだからこそ、本校の一つの特色になっていると考えています。
比叡山中学校・高等学校からのメッセージ
▲伝教大師の銅像。生徒たちは前を通るときに礼儀正しく手を合わせている
最後に、比叡山中学校・高等学校に興味をお持ちのお子さま・親御さまに向け、メッセージをお願いします。
本校は、滋賀の田舎にある学校ですが、都会の私学にも負けない教育を提供していきたいという思いを持っています。そして、これから迎える激動の時代をも、しっかりと生き抜いていける子どもたちを育てていくことに、伝統校としての誇りを持って力を注いでいます。
少しでも本校に興味を持ってくださったら、オープンスクールや学校説明会などに、ぜひ一度ご参加いただけたら嬉しいです。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
比叡山中学校・高等学校の進学実績
比叡山中学校・高等学校では、私立大学を目指すActコース、有名私立大学・国公立大学を目指すBrightコース、そして難関国公立大学・難関私立大学を目指すCrestコースの3つを設け、志望する大学に合わせた受験対策をしています。
2024年の大学合格実績としては、京都大学に1名、大阪大学に1名、北海道大学に2名を含めた国公立大学に31名の合格者と、同志社大学に21名、立命館大学に35名、関西学院大学に6名、関西大学に12名、法政大学に4名を含めた私立大学に706名の合格者を輩出しています。
■進路実績(比叡山中学校・高等学校の公式サイト)
https://hieizan.ed.jp/hieizan-jh-hs/high_school/career-record/
比叡山中学校・高等学校の卒業生、保護者の口コミ
比叡山中学校・高等学校の卒業生・保護者から寄せられた口コミを紹介します。
口コミからは、比叡山中学校・高等学校の教員や生徒の仲の良いことが伺えます。また、学習面においては、親身になってサポートしてくれる教育体制を魅力に挙げる声も聞かれました。
比叡山中学校・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 比叡山学園 比叡山中学校・高等学校 |
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住所 | 滋賀県大津市坂本4丁目3-1 |
電話番号 | 中学校:0775780132、高等学校:0775780091 |
問い合わせ先 | https://hieizan.ed.jp/hieizan-jh-hs/inquiry/ |
公式ページ | https://hieizan.ed.jp/hieizan-jh-hs/ |
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