音楽家への志を徹底サポートする「東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校」のグローバル教育

独自性豊かな教育や校風で注目を浴びる人気の学校を紹介する本企画。今回は東京都台東区上野公園にある共学の国立高校「東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校」を紹介します。

同校はクラシック音楽の早期教育を目的に開校された、2024年度に70周年を迎える教育機関です。音楽に特化した教育プログラムが特徴で、高い目標やスキルを持つ生徒が全国から集まることで知られています。

また、1学年1クラスのコンパクトな規模で、すべての学年の生徒が互いに尊重し合い、同じ志のもと切磋琢磨できる環境を整えているのも特徴です。

今回は、副校長の大平先生と主幹教諭の髙野先生にインタビューし、グローバルな活躍を視野に入れた教育方針や授業内容、入試情報や校風について詳しく伺いました。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の教育目標は「音楽の力で未来を切り拓く人材の育成」

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の定期演奏会

▲2023年度の定期演奏会でのひとコマ

編集部

まずは東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の建学の精神や教育方針についてお聞かせください。

大平副校長

本校は、「クラシック音楽に関わる早期教育機関を立ち上げよう」という熱意から1954年に東京藝術大学音楽学部の附属高校として設立されました。以降クラシック音楽は国内に浸透し、音楽に特化した中学・高校は本校以外も増え、時代の流れに伴い教育内容は少しずつ変化してきています。

本校では、教育目標として“グローバルな視点をもち音楽の力で未来を切り拓く人材の育成”を掲げています。また、学校目標は“音楽家育成の最高水準かつ持続可能な専門教育カリキュラムと環境の構築”です。

2016年に文部科学省のスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定された背景もあり、東京藝術大学と連携を取りながら、音楽の授業に関してはかなり高度な内容を展開していると自負しております。

生徒の世界的な活躍を見据えたグローバル教育

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校では、生徒が将来音楽家として世界で活躍することを見据えてグローバル教育に力を入れています。ここからは、特徴的な教育プログラムや同校ならではの授業の進め方を紹介します。

実際に行かねば分からない空気感がそこに!海外研修が与える影響は無限大

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の英国研修「Duke's Hall」

▲海外研修で訪れた英国ロンドン、Royal Academy of Music 内「Duke'sHall」での演奏風景

編集部

御校では「グローバル教育」をどのようにとらえているのでしょうか。グローバル教育に関連して、こだわっている教育プログラムや授業はありますか?

大平副校長

本校のグローバル教育は、スーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定されたことをキッカケに発展しました。現在は指定期間が終了していますが、SGHから受けた影響は色濃く受け継がれています。

たとえば本校の教師陣は日本人ですが、定期演奏会や公開レッスンといった特別なプログラムを組む際は、海外からの招聘教授やトップアーティストをお呼びして授業を展開しています。

それに加え、海外研修で世界に触れる機会を設けている点も本校の特徴です。2024年度は3月に海外研修を実施することが決まっております。2025年度以降は未定ではありますが、公益財団法人上廣倫理財団の助成を受けながら海外研修を持続可能なものにしていけるよう構想中です。

編集部

先生方の視点から海外研修の意義や手応えについて詳しくお聞かせください。海外研修を経て生徒はどう成長しているように感じますか?

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の英国研修「Royal Academy of Music」前

▲海外研修で訪れた英国ロンドンの「Royal Academy of Music」前で充実した表情を浮かべる生徒たち

大平副校長

本校には邦楽を専攻する生徒もいますが、多くの生徒が西洋のクラシック音楽を学んでいます。生徒にとって自分たちが学んでいる音楽が生まれた地で自分たちの演奏を聴いてもらえる、同年代と交流できる、レッスンを受けられる、といった機会は相当な刺激です。

実際に行かないと分からない現地の空気感があり、言葉にならないほどの衝撃や感動を受けていると思います。生徒自身から「日本を出てもっと視野を広げたい」といった言葉をもらうこともあり、17歳前後の子供たちにとって海外へ行くことのインパクトは大人が想像するよりも大きなものです。

コロナ禍以前、海外研修が定期的にあった時代の在校生たちは留学を選択する割合が高く、海外研修を経験できたことで世界へ出ていくことのハードルが下がったのではないか、と感じております。

髙野先生

東京藝術大学のキャンパス内に本校はあるので、海外で活躍する卒業生や藝大生を間近に見ることができる環境も生徒の海外志向を高めていると思います。過去に私が担任した学年では、他校の普通科とは違い40人中約半数が20代前半までに留学を経験しています。高校生の段階で留学を視野に入れており、個人面談などでも海外への思いを話してくれる生徒が多くいました。

そういった意味では、海外研修によって海外へのリテラシーを高めることは、その後の進路選択に活かされると思います。

海外研修は日本の伝統音楽を学ぶ邦楽専攻の生徒たちにとっても重要な機会です。全生徒の1割程度が邦楽を専攻する生徒なのですが、日本の音楽をやっている生徒は海外にどう自分の音楽をプレゼンするか深く考えています。海外研修は自分がしていることを改めて見つめ直す機会にもなっているのです。

外国語も国語も音楽家としてグローバルに活躍することを想定した授業内容

編集部

将来的に音楽家として世界的に活躍することを視野に入れ、通常の授業において工夫されていることはありますか?

髙野先生

英語の授業では将来を見据え、海外で音楽レッスンを受ける際に必要となる語彙や音楽家として必要な語彙など実践的な内容を学びます。本校にはクラシック音楽のプロフェッショナルを志す生徒が多いため、英語の授業以外に第2外国語としてドイツ語とフランス語の講座も設けています。

ちなみに、第2外国語は必修ではなく希望者のみを対象としており、東京藝術大学の言語芸術講座と連携して、大学の先生方に習う形式を整えています。

編集部

英語や第二外国語以外に、特徴的な授業はありますか?

髙野先生

我々はSGHとして教育方法を研究開発していくうちに、生徒たちがグローバルアーティストを目指すにあたり、社会的実践力を養う必要があることに気付きました。

音楽の専門教育を謳い、音楽を中心としたカリキュラムを組むと同時に、ほかの教科においても音楽との接点を考えながらアーティストとして必要な資質・能力を育成するという観点で、さまざまな学習活動を行っているというところです。

私が担当する国語では、これまで読むこと・書くことが中心だった授業内容を新課程に合わせてアップデートし、コミュニケーション能力の育成を目指してプレゼンテーションの機会を増やしています。

たとえば、ある学年ではSGHの指定によって文部科学省からポイントとして示された内容を考慮して、“音楽と社会課題”というテーマを設定しました。そこから生徒の興味は広がっていき、音楽療法について調べる、音楽と社会課題というテーマそのものについて考察を深める、黒人音楽を通して差別問題に目を向けるなど、内容はさまざまでした。

プレゼンテーションを機に教師側が気付かされることも多く、生徒目線での音楽と社会の接点の見いだし方は勉強になります。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の生徒が国語の授業でプレゼンテーションしている様子

▲国語の授業におけるプレゼンテーション

編集部

プレゼンテーション以外に国語で力を入れているポイントがあれば教えてください。

髙野先生

演奏会やリサイタルでは、プログラムの曲目を解説する「プログラムノート」を書く力が求められます。そのため、正しい日本語を書く授業にも力を入れていますね。生徒全員で新聞の投書欄に投稿する意見文を書き、採用を目指す、といった授業もしていますよ。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校は音楽人生における人間関係を育む大切な場

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の校外合宿

▲2024年に実施された長野県菅平高原での校外合宿で笑顔を見せる生徒たち

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校では、音楽に関わるカリキュラムが充実していますが、あえて音楽から離れる行事も大切にされています。学校生活や校風について紹介します。

1学年40人の仲間や先生と濃密な時間を過ごす3年間

編集部

御校では生徒はどのように成長されるのでしょうか。御校の魅力やコンパクトな規模ならではのメリットを教えてください。

大平副校長

音楽以外の部分はほかの学校の生徒となんら変わりありません。ただ、学校生活で受ける刺激は大きなものかと思います。

演奏など音楽の面において中学校までは特別な立場で過ごしてきた生徒も、本校へ入学すれば自分と同じレベルの生徒が何十人もいる環境になるため、圧倒される者もいれば、良い影響を受ける者もいます。

卒業までクラス替えがなく、クラスメイトとはときにはケンカもしながら大変仲良くなり、それぞれがとても濃密な3年間を過ごします。多くの生徒が広い意味で成長し、かけがえのない友人を得て卒業を迎えていますよ。

髙野先生

本校の生徒は1学年40人で、全校3学年でも120人。また音楽関係以外の常勤教員は、国語担当、数学理科情報担当、体育担当、英語担当の4人です。クラスの仲間はもちろんのこと、他学年の生徒や教員とも濃い関係が築いていけるのが本校の特徴の一つです。

私はコロナ禍でイベントが軒並み中止となった時期を経て、学校行事が子供たちの人間関係の形成においてとても大事な役割を担っていることに改めて気付かされました。行事を通して形成される学年を超えた人間関係は本校において一番大切なものです。

ここで得た繋がりは生徒の多くが進学する東京藝術大学でも続き、生涯に渡り音楽に打ち込むうえでも重要でかけがえのない基盤となっていくと考えております。

編集部

やはり御校では卒業生との交流も大切にされているのでしょうか?

大平副校長

そうですね。大学が隣なので、卒業したての時期は“自分たちの遊び場”といった感覚で訪ねてくれる生徒が多くいます。卒業から年月が経ち忙しく活躍していても、たまにひょっこり来てくれる子もいて嬉しいですね。

卒業から20年もすると、卒業生が教える立場となり来校することもあり、感慨深いものがあります。

編集部

先生方からご覧になって、御校の生徒さんたちはどのような特徴があるとお考えですか?

大平副校長

私は、創作が上手な生徒が多いように感じますね。本校には各学年やグループでさまざまな出し物をする“秋の祭典”という行事がありますが、そこで生のバックミュージック付きの劇を創ったり、素晴らしい絵を描いたり、才能を発揮する生徒がいるんです。興味深いです。

髙野先生

ほかの学校に勤務した経験もふまえて話せば、本校の生徒たちは特に繊細で、才能に溢れているな、と感じる瞬間があります。基本的に何ごとも素直に受け入れ、一生懸命取り組みます。運動だけは苦手な生徒が多いように感じますが、楽しむことは人一倍上手ですね。

私は音楽に詳しくありませんが、音楽に打ち込むなかで多くの人と出会い、さまざまなやり取りを積み重ねてきた結果かもしれません。

音楽からあえて離れる校外合宿は生徒同士の絆が深まる重要イベント

編集部

生徒同士の人間関係が深まるイベントとして代表的な例があればぜひご紹介ください。

大平副校長

やはり校外合宿ですね。2泊3日、全学年の生徒が音楽から離れて寝食をともにする行事です。正確には、生徒たちにとっては寝ない2日間かもしれませんが、ここばかりは教師たちも片目をつぶって対応しています(笑)。

そうしたことも含めて若いがゆえの絆が深まるといいますか…、友達の良いところも悪いところも見て、受け入れ、関係を一段と深めていくといった感覚でしょうか。校外合宿を経て通常の学校生活が始まったときの雰囲気は、それまでとひと味違うように感じますね。

髙野先生

あえて音楽を一旦シャットアウトすることが、生徒たちにとって逆に新鮮で良い影響を及ぼしているのかもしれません。本校では基本的にどんな授業や行事も音楽に寄り添った形で組み立てているため、唯一音楽から完全に離れる校外合宿は貴重な場かと思います。

編集部

校外合宿前後の変化を具体的に教えてください。

髙野先生

やはり生徒同士がとても仲良くなりますね。校外合宿では学年や専攻を枠を超えて部屋割りを行います。通常は学年や専攻が異なると話す機会も少ないものですが、校外合宿をキッカケにそれらを飛び越えて仲良くなった、といったエピソードをよく耳にします。

特に男子については各学年10人ほどしかいないため、行事を通してだんだんと結束力が高まっていき、男子としての仲間意識や絆のようなものが形成されているように感じます。

校外合宿でリレーをする東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の生徒たち

▲音楽を離れての校外合宿は全校生徒が絆が深まる行事の一つ

編集部

校外合宿で学年や専攻を超えて交流すれば、その後の学校生活もさらに楽しくなりそうです。また校外合宿以外で、修学旅行の内容が気になる方も多いと思います。こちらについても教えていただけますか?

髙野先生

本校の修学旅行は、日本各地の音楽高校、音楽科を設置している高校と交流演奏会を開催しつつ、全国を回っています。2024年度は山形県立山形北高校、2025年度は富山県立呉羽高等学校と交流予定です。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の入試は実技試験が優先

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の定期演奏会で演奏する生徒たち

▲定期演奏会でプロさながらの本格的な演奏を披露する生徒たち

編集部

ここからは東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の入学試験についてお話を聞かせてください。入試の特徴はどのような面にありますか?

大平副校長

本校の入試は実技を重視しております。ピアノ専攻やヴァイオリン専攻などではそれぞれの実技試験が結果に優先されており、最初の3日間で全ての専攻において実技試験を行っているのが特徴です(楽理専攻以外)。

実技試験を通過した生徒のみが次の選考へ進み、4日目に音楽科目系の楽典や聴音、歌唱など、音楽をするうえでの基礎科目の試験を実施します。加えて、国・数・英の一般科目試験があり、それらをふまえて合否判定を出します。なかなか長い入試期間なんです。

編集部

御校ではどんな専攻が人気ですか?

大平副校長

昔からピアノ専攻とヴァイオリン専攻の受験者数は多い傾向があります。他の専攻は年によって、でしょうか。管打楽器は少ない年もあれば多い年もあり、チェロやハープといったバイオリン以外の弦楽器も年度により受験者数が違いますね。

編集部

入試にあたり、受験生はどのような面に力を入れて挑戦されていますか?

大平副校長

やはり専攻実技かと思います。並々ならぬ努力を毎日続け、挑戦してきていると感じます。全体的には、本校を目指す中学生は相当に高い演奏技術を身に付けており、課題曲を弾けるだけでもすごいことです。

そのうえでさらに表現力や完成度を磨き準備してくるため、長い月日に渡り大変な努力を重ねていると思います。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校からのメッセージ

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の大平副校長

▲今回インタビューに応じてくださった東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の大平副校長

編集部

記事の結びに、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を目指す生徒さんやその保護者の方々に向けて学校からメッセージをお願いします。

大平副校長

音楽を専門的に、一生懸命勉強したいなと思っているお子さんがいらっしゃいましたら、ぜひ挑戦していただきたいです。そして、中学までの一般科目の勉強もぜひ、しっかりと身に着けてほしいと思っています。中学までの勉強はその後の人生の土台ともなるかと思います。どうぞよろしくお願いします。

髙野先生

2024年から「楽理専攻」という新しい専攻を立ち上げることになりました。これは実技系ではなく、いわゆる“音楽学”と呼ばれる、音楽を学問として勉強していく専攻です。こちらの入試は実技重視ではなく学力重視で、より多くの方に挑戦していただくチャンスが広がったと感じております。

「音楽が好き」という想いは、どの専攻に挑戦するにしても共通して大切にしていただきたいです。本当に音楽が好きで、音楽に興味のあるお子さんがいらっしゃったら、ぜひ本校の入試にチャレンジしていただきたいです。

編集部

御校の音楽への情熱や教育プログラムの魅力がたっぷりと伝わるインタビューとなりました。本日はどうもありがとうございました。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の進学実績

令和元年度から令和5年度までの進路状況では、卒業生の約9割が東京藝術大学音楽学部へ進学しています。年度によっては東京音楽大学や国立音楽大学、早稲田大学、慶応義塾大学へ進学する生徒もいます。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の卒業生の口コミ

ここからは、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校の卒業生からの口コミを紹介します。

音楽を学ぶことに関して、とても良い学校です。ソルフェージュや聴音、音楽理論といった授業が週1回のペースであり、専攻実技や副科ピアノ、副科声楽などのレッスンも受けられます。演奏する機会としては、年に4回のアカンサスコンサートや年に1回の定期演奏会などがあります。

生徒同士がとても仲が良い学校です。音楽仲間という共通点もあり、みんなで切磋琢磨しあっています。進学面は東京藝術大学音楽学部をそのまま目指す人が多いですが、付属校だからといって大学入試の優遇制度はありません。

どの専攻楽器も国内最高峰のレベルだと思います。入試を突破するのは大変ですが、入学後の充実感はかなりのものです。この学校で学んだ後は、海外の音大以外では満足できないかもしれません。

口コミから、音楽に関して非常に高いレベルの授業を受けられることが伝わります。卒業生からの満足度が高く、音楽や専攻楽器にとことん向き合いたい方に向いていることが伺えます。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校へのお問い合わせ

運営 東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校
住所 東京都台東区上野公園12-8
電話番号 050-5525-2406
問い合わせ先 https://geiko.geidai.ac.jp/contact/
公式ページ https://geiko.geidai.ac.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください