ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は、岡山県岡山市にある私立・共学の中高一貫校「岡山学芸館清秀中学校・高等部」にインタビューを行いました。
「君の望む、君になれる。」をキャッチコピーとして掲げている同校では、タイ・カンボジア研修をはじめとして、日常を離れて何かに挑戦するという探究学習の機会が数多く設けられています。できる・できないにかかわらず挑戦する姿勢を大切にするというのが、同校が目指す教育です。
今回は、そんな岡山学芸館清秀中学校・高等部の生徒が得られる学びや学校生活について、橋ヶ谷教頭先生に詳しくお話を伺いました。
▲インタビューに答えてくださった岡山学芸館清秀中学校・高等部の橋ヶ谷教頭先生
この記事の目次
道徳心や感性など「目に見えない力」を大切に育てる岡山学芸館清秀中学校・高等部
▲岡山学芸館清秀中学校の休み時間の様子。ステキな笑顔で溢れている。
まず最初に、岡山学芸館清秀中学校・高等部の教育理念について教えていただけますか?
本校では、「世界で活躍できる立派な日本人を育てる」ことを目指しています。
ここで掲げている“立派な日本人” とは何かを考えるときに、私たちは”本学”と”末学”という捉え方を基にする日本人精神を通した人間形成と捉えています。
”末学”とは、学力、スキル、お金、物、地位名誉など目に見える成果のことを指していて、”本学”はそれを支えている道徳心や感性、正義感などを指します。木で例えるとわかりやすいかもしれませんが、地上に見える枝葉の部分が”末学”で、土の中にあって見えない、しかし樹木を支える最も重要な根っこの部分が”本学”というわけです。
私たちは、この目に見えない”本学”の部分をいかに育てていくかということをとても大切にしていて、他者のために自分ができることを考えて行動できるような、「利他の心を持つ人」を育てていきたいと考えています。
ニュースを見ていると、高学歴で社会的に認められているような人が悪質な事件に関わっているケースもありますよね。「目に見える素晴らしい成果を出したとしても、倫理感が欠落して社会から逸脱してしまうような生徒は絶対に育てたくない」というのが、亡き理事長がよく言っていたことであり、今でも本校が大切にしている想いです。
さまざまなことへの挑戦を通して、成長の土台となる「自己肯定感」を育む
岡山学芸館清秀中学校・高等部の教育にはどのような特徴があるのでしょうか?
わが校では、6年間を通して、教室を飛び出して学ぶような体験・チャレンジの機会を数多く設けています。できる・できないに関わらず、さまざまなことにチャレンジしてみるという経験を通して、自己肯定感を育みます。
自己肯定感とは「自分をよく捉える」「前向きになる」「自分に自信を持つ」ということだけではありません。「失敗することもあるけれど、悪いときも良いときもひっくるめて自分なんだ」ということを受け入れられるような強い心こそが自己肯定感だと考えています。
本校では、6年間のうちの中1・中2の時期を”自己肯定期”と捉えています。この時期からさまざまなことへのチャレンジする機会をたくさん設けて自己肯定感をしっかりと育むことで、その後の成長の土台を築いていきます。
例えば、どのような体験・チャレンジの機会があるのでしょうか?
一例ですが、表現教育をしたり、全校ワークショップで思考実験を行ったり、田植え体験をしたり、地元西大寺の裸祭りに出てみたり、しめ縄作りをしたりなど、わが校ならではの体験がたくさんありますよ。各学年で研修もあって、中1はお伊勢参り、中2は大山登山、中3はタイ・カンボジア研修に行きます。
昨年(2023年)からは、清秀夏の体験WEEKというプログラムを新たに開始しました。夏休みの1週間を利用してさまざまな体験をしてもらうというイベントなのですが、参加率がとても高くて生徒たちにも好評でしたよ。
▲こちらは、スキー研修・マナー講座・裸祭り・サイエンスフェスティバル・しめ縄体験の様子。年間を通してイベントが盛りだくさん。
1週間でさまざまな探究活動に挑戦できる「清秀夏の体験WEEK」
「清秀夏の体験WEEK」とはどのようなプログラムなのでしょうか?
共働きの家庭が増えて、夏に夏らしい体験ができない子供たちが増えているという背景から、この企画を始めました。アラカルトのようなイメージで、複数のメニューを用意していて、その中から希望のものを選んで参加してもらいます。
昨年は、学校敷地内の山で、生物を観察したりペットボトルロケットを飛ばしたりするサイエンスデイキャンプ、ヨット研修、料理のワークショップ、服飾系のワークショップなどがありました。2泊3日で東京まで足を延ばして順天中学校さんと協力して行う、思考力アップセミナーも好評でしたよ。
▲ヨット研修と料理のワークショップの様子。自分の興味に合わせてプログラムを選択することができる。
どれも楽しそうですね。東京での思考力アップセミナーでは、具体的にどのようなことを行うのですか?
答えのない問いにしっかり向き合う練習として、「無意識に使っている言葉に定義付けをする」というワークを行いました。
例えば、「楽しい」という言葉を咀嚼してみるといろいろな「楽しい」がありますよね。辛いことを乗り越えること、だらだらゲームしていること、集中して本を読むこと、大好きなサッカーをすることなど、さまざまな「楽しい」がありますが、それを分解していくことで、なんとなく使っている楽しいっていう言葉が、自分たちなりの定義を持つんです。
1日目にブレインストーミングでこの練習をしたうえで、2日目には「東京都北区の新しい魅力を発見しよう!」というお題でフィールドワークを行いました。
グループを組んで、”新しい”とか”魅力”というある意味曖昧なワードにしっかりと定義付けをして、その定義に合いそうな場所を検索して探すんです。そして実際に訪れてみて、写真を撮ったりヒアリングしたりしながら、そこが自分たちが定義づけたものに合った場所だったのか、合っていたならどういったところが合ったのかというのを検討し、パワーポイントにまとめて発表してもらいました。
各グループ、公園に行ってみたり文化施設に行ってみたりなどしっかりと自分たちなりの答えを導きだしていましたよ。
▲東京での思考力アップセミナーでは、順天中学校の生徒と一緒にグループを組んでフィールドワークに挑戦
実際にやってみて、生徒たちからはどのような声が聞こえてきましたか?
地元の順天中学校の生徒からは、「いつも無意識で生活をしている場所に意味付けをしてみたら、見え方が変わって新しい発見があった」というような声が聞こえてきましたね。
岡山に住む本校の生徒からは、「初めて行く土地に意味付けをしてから訪れることは、はじめての経験だった。」「ただ行くだけでは見えないような部分が見えてきた。」「いかに自分たちは常に無意識なのかということに気づけて楽しかった!」という声が聞こえてきました。今度は岡山の地元でもそういう意識を持って見てみようと言っていた生徒もいましたよ。
素晴らしい気付きが得られたようですね。東京まで足を延ばして他校の生徒と一緒にやることに関しては何か目的や意義があるのでしょうか?
私は、子ども達に非日常の体験を提供するということをとても大切にしています。非日常のほどよい緊張感やワクワク感は、子ども達が主体的に考えて動くことを促してくれると思うんです。今回、知らない土地で知らない生徒さんと一緒に取り組むということは、なかなか普通の学校生活では得られない、貴重な非日常の体験になったのではないかと思います。
生徒たちも参加するまではやはり不安もあったと思いますが、参加してみたことで得られた成功体験は、自己肯定感を育むというところにもつながったのではないかと感じています。
今後も順天中学校さんと協力して取り組みを同様のイベントを行っていくのでしょうか?
もちろんです!今年度の実施も決定し、今年は更に他の学校にも声をかけ、拡大して行うことにしています。
従来から本校では探究活動に力を入れていて、高校がSGH(※)に指定されたことをきっかけにして他校さんとのネットワークが生まれたんです。このネットワークを活用して高校ではこれまでも他校さんと協力しながらいろいろな取り組みを実施してきたんですよ。
(※)スーパーグローバルハイスクールの略。文部科学省が、国際的に活躍できる人材育成に力を入れている高等学校を指定する制度のこと。なお、この指定制度は現在SGHネットワークと呼称が変わっている。
中学校でこうした取り組みを行っている学校は全国を見てもありません。今回、清秀夏の体験WEEKでやってみたわけですが、とても良い成果が出たと思いますので、今後も継続して取り組んでいきたいですね。
中3でタイ・カンボジアへ。五感を刺激し、価値観を広げる
▲タイ・カンボジア研修での集合写真。
目玉となるイベントとして、中3のときに行くタイ・カンボジア研修があるかと思いますが、具体的にどのようなことをするのでしょうか?
タイ・カンボジア研修は、清秀中学校ができた当初からずっと行っている修学旅行です。
タイでは、バンコク郊外でドゥアン・プラティープ財団が運営する”生き直しの学校”というところを訪問します。ここは、育児ネグレクトを受けたり親がドラッグで逮捕されたりといった境遇にある子ども達が集まって共同生活をする場所です。
カンボジアでは、有森裕子さんが主宰しているハート・オブ・ゴールドというNPOが運営している養護施設や日本語教室との交流、現地の学校との交流、トンレサップ湖の水上生活者にヒアリング調査などを行います。
それぞれ、現地の状況を生で見てそこで暮らす子ども達や人々と交流することで、現実を五感で感じてもらうんです。
交流を通して、生徒たちからはどのような反応がありますか?
劣悪な環境の中でキラキラした笑顔を見せる子ども達と対峙して、「お金はないけど幸せだという状態とは、どのような状態なんだろう?」と真剣に考えている様子が見られますよ。「笑顔が素敵すぎて心から離れない」と言っているような生徒もいて、感性が刺激されているということがとてもよく伝わってきます。
施設を訪問したあとは、毎晩、ホテルに帰って「幸せとは何か」「豊かさとは何か」ということについてディスカッションします。皆、答えがない問いに真剣に向き合っていますよ。
初めは「お金がないと幸せは実現できない」と言っていた子が、「経済も大切だけど、それだけではない何かがあるはずだ。解き明かしたい!」と発言するようになるなど、価値観が広がっていくような様子が見られる生徒もいますよ。
帰国後には、研修での学びをアウトプットするような機会はあるのでしょうか?
総合学習の授業の時間を活用して、途上国に関する研究レポートをA0のポスター1枚にまとめてもらいます。
事前に自分が途上国に関して調べたいテーマを決めておいて、ある程度は事前に調査してまとめておくのですが、実際に現地を訪れて見聞きしたことや感じたことを必ず内容に盛り込んでもらっています。
例えばどのようなテーマでレポートを作成するのでしょうか。
2023年の事例だと、「カンボジアのゴミ処理を適正化するためにはどうすればよいか」「飢餓を救うために食品ロスを減らせないか」「幸福度の感じ方は何によって決まるのか?」というようなものがありました。研究のきっかけや調べてみた現状、現地で見聞きしたことをふまえた所感などをまとめてもらっています。
▲レポートの抜粋。生徒ごとにテーマを設け、タイ・カンボジアの課題解決に向けていろいろな角度からリサーチしている。
現状を整理するうえでは数字をしっかり追うようには伝えているものの、中学生のうちは、出来栄えや論理性などは求めてはいません。
「なぜこのテーマを選んだのか」という探究のきっかけがそれぞれにあるはずなので、そのきっかけに対して素直に向き合うということが1番大切だと思っています。
例えばごみ処理をテーマにした生徒は、カンボジアのごみ処理場の写真を見て「何でこんなに劣悪なのだろう」と感じたことが研究のきっかけになったようです。この「何でだろう」という気持ちが大事なんですよね。
高校生になると、さらにさまざまな探究学習の機会があって、しっかりとした論理展開や課題研究のベースを学んでいきます。また、高2になると、ゼミ活動も始まります。そのときに、自分のやりたいことに素直になって研究を十分に楽しむためにも、中学生の段階ではこの「なぜだろう」の気持ちを大切にしてもらいたいですね。
自分の挑戦を大切にする岡山学芸館清秀中学校・高等部の生徒たち
▲岡山学芸館清秀中学校のサッカー部。中国大会ではベスト4の実績を残した。
岡山学芸館清秀中学校・高等部にはどのような生徒が多いのでしょうか?
自分の好きなことや挑戦したいことを大事にして自由に生活している生徒が多いですね。
やりたいことに何でも挑戦したいということで、部活動を3つ4つと掛け持ちしている生徒もたくさんいるんですよ。
月曜日は華道部で生け花をして、次の日は運動部でジョギングして、その次の日はクイズ研究会に行くといったように、自由にさまざまな挑戦を楽しんでいます。
もちろん、一つの競技に熱中して取り組む子もたくさんいます。中学サッカー部は県大会を制覇し、全国大会出場を目指しています。高校サッカー部が全国大会で優勝した刺激は大きかったです。柔道部は県大会を突破し、全国大会に出場しました。上位入賞も果たしていますよ。そのほかにも、バトントワーリングで世界大会で優勝した生徒や、中学校のサッカー部でナショナルトレセン(※)に選ばれた女子もいます。
(※)将来有望な若年層の選手に対して、高いレベルの指導と選手交流の場を提供する制度
▲岡山学芸館清秀中学校の柔道部。全国大会では個人戦ベスト16の実績を残した。
▲中1での部活加入率は約9割。それぞれの生徒がそれぞれのスタイルで活動を楽しんでいる。
▲運動部・文化部問わず、自分の好きなことに挑戦する文化が根づいている。
すごいですね。日替わりの部活動とはあまり聞いたことがありませんでした。生徒それぞれの挑戦スタイルを許容するという雰囲気が学校にあるということなのでしょうね。
そうですね。やりたいことがあったらどんどんやらせてあげるというのが校長の教育観であり、学校全体にその風土が根付いていると思います。
校長がよく言っているのですが、私立学校である本校に入学する生徒たちは、いい意味でも悪い意味でも敷かれたレールで頑張ってきた子ども達です。だからこそ入学後は、やらされてきた勉強から脱却して、自分がやりたいと思ったことを大切にして欲しいと願っているんですよ。
生徒の要望を受け新設したゴルフ部とバトントワーリング部
それぞれの挑戦を後押ししているような、特徴的な事例があれば教えていただけますか?
部活動の事例ですと、ゴルフができる学校を探している入学前の生徒のためにゴルフ部を新設したという事例があります。
学校生活と競技の両立はなかなかハードルが高いんです。学校が施設を作るというよりも、活動を認め、サポートする体制がとても重要だと認識しています。学校の部活動として活動できれば活動の幅を広げる事ができますからね。
ご希望を伺うと真剣に文武両道を目指しているステキなビジョンを持たれていました。それならば是非作りましょう!ということで、ゴルフ部を作りました。入学後は気持ちよくゴルフと勉学に励めるように、近くのゴルフ場まで送迎したり、様々な大会への出場を学校として認めるなど、学校の活動として必要なサポートをしています。
素晴らしいですね。ほかにも声に応えて部活動を新設したというようなケースがあるのでしょうか?
バトントワーリングも生徒の要望を受けて最近新設した部活です。
もともとはクラブで個人で活動していた生徒から、バトントワーリングを広めたいから部活を作りたいという要望をもらって、作ることにしたんです。今は6~7人の部員が集まって、しっかりと活動していますよ。生徒の保護者様3名が指導を行ってくれています。
その生徒は個人でのクラブでの活動も並行して行いながら、大会で世界一に輝くという結果を出してくれました。
ささいな事例かもしれませんが、こうしたひとつ一つの生徒の挑戦を、本校はとても大切にしているんですよ。
生徒の熱意に対して柔軟に対応するという学校の姿勢が伝わってきます。新たに部活動ができたことでほかの生徒にも挑戦の機会が生れますし、とても素晴らしいと感じました。
岡山学芸館清秀中学校・高等部からのメッセージ
最後に、岡山学芸館清秀中学校・高等部に興味を持たれた方に向けてメッセージをいただけますか?
本校には、「君の望む、君になれる。」というキャッチコピーがあります。
「何にだってなれるんだから、キャンバスにいろいろなものを描いてみて欲しい。失敗だと思ったら、油絵のように上から塗り直せばいい。」というのが、私たちの想いです。
さまざまな挑戦の機会を与えることが私たちの使命だと思っています。それぞれの挑戦に対して制限を設けることはできるだけしたくないと思っていますので、本校で何かやってみたいことがあるという方はもちろん、これから何かいろいろなことに挑戦してみたいという方も、ぜひ来ていただければと思います。
本校は、自分自身を探す旅ができるような学校だと自負しています。ぜひ本校でいろんな挑戦を通じて自分と向き合い、自分という人間を創り上げていってください。
ありがとうございます。インタビューを通して、生徒の挑戦を応援する御校の姿勢が大変よく伝わってきました。
本日は、たくさんの貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
岡山学芸館清秀中学校・高等部の進学実績
岡山学芸館清秀中学校・高等部の直近数年間の合格実績を見てみると、東京大学・京都大学などの難関国立大学を含む国公立大学の合格者を多数輩出しています。また、早稲田大学・上智大学・東京理科大学などの難関私立大学への合格者も毎年安定して輩出しています。
その背景には、学校からの充実のサポートもさることながら、生徒同士で得意分野を教え合ったり、総合型選抜などの対策でグループディスカッションを行ったりと、受験生が支え合う姿勢ができ上がっていることがあるようです。
■岡山学芸館清秀中学校・高等部の合格実績(学校公式サイト)
https://www.gakugeikan.ed.jp/seishu/guidance/achievement.html
岡山学芸館清秀中学校・高等部に通う生徒の保護者・卒業生の口コミ
ここでは、岡山学芸館清秀中学校・高等部に通う生徒の保護者や、卒業生の口コミを紹介します。
先生が熱心に指導してくれて、学力だけでなく感謝の気持ちや挑戦する気持ちを育ててくれるという口コミが見られました。生徒たちは、充実したイベントを楽しんでいるようです。
岡山学芸館清秀中学校・高等部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人 森教育学園 岡山学芸館清秀中学校・高等部 |
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