ぽてん読者の皆さまに、特色ある教育プログラムで注目を集める学校を紹介するこの企画。今回は、宮城県大崎市にある公立中高一貫校「宮城県古川黎明中学校・高等学校」をご紹介します。
100年以上の歴史を持つ同校は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)(※)の指定を受け、世界農業遺産「大崎耕土」など身近な題材から得た気づきをもとに探究活動を行う、独自の探究学習プログラムを展開しています。さらに教員も「授業づくりプロジェクト」などを通じてスキルアップを図りながら、レベルの高い探究活動を進めているのが特徴です。
(※)スーパーサイエンスハイスクール(SSH)…文部科学省が進める、国際的な科学技術人材の育成を図るための先進的な理数教育を行う学校を指定する取り組みのこと。
今回は、同校の特色ある探究学習や、6年間の系統的な学びの魅力について、清原教頭とSSH担当の久光先生、千葉先生にお話を伺いました。
この記事の目次
伝統と革新が融合する宮城県古川黎明中学校・高等学校の教育
まずは、宮城県古川黎明中学校・高等学校の概要について教えてください。
本校は1920年(大正9年)に宮城県志田郡立古川高等女学校として開校した、100年超の歴史を持つ伝統校です。もともとは女子校として開校しましたが、2005年に共学化するとともに宮城県古川黎明中学校を併設し、県内初の公立中高一貫校となりました。6年間の一貫教育を通じて生徒の知性や旺盛な自立心、共生の心を育成することを目指しています。
長い歴史の中で培われてきた御校の教育方針についてもご紹介いただけますか?
本校の教育方針は、校訓である「尚志・至誠・精励」に基づいています。尚志とは志を高く持つこと、至誠とは何事にも誠実であること、精励というのは学業をはじめとする何事にも努力を尽くすことを指します。この3つの言葉に基づいて、創造力や自主自立、さらに周囲と共生する心を持って国際社会に貢献できる生徒を育成していくというのが本校の教育方針です。
そういった教育方針の中核にあるのが、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の取り組みです。本校では2012年から文部科学省によるSSHの指定を受け、現在はSSH指定第3期目の学校として探究学習に重点を置いた学びを展開しています。SSHの取り組みを中心とした探究的な学びを通じて、社会に出てからも活躍できる力を身につけていってほしいと思っています。
100年以上の歴史を持つ学校として伝統的な教育方針を大切にしつつ、一方で時代のニーズに合わせてSSHを中心とした最新の教育プログラムを実践していらっしゃるんですね。伝統と革新のバランスが取れた教育を推進されていることがよく分かりました。
「実社会とつながる」実践型の探究活動が古川黎明の特徴
▲中高合同で実施する大崎耕土フィールドワーク
今お話にあった、SSHの取り組みについて伺います。まずは3期目となる御校のSSHの取り組みの大枠を教えてください。
本校では「『大崎耕土』から始まる『気づき』を深め知の創造に向かうイノベーション人材の育成」という研究開発課題を掲げてSSHに取り組んでいます。
SSHというと理数教育に特化した教育プログラムというイメージを持たれるかもしれませんが、社会課題を解決していくためには、文理の境界を超えた幅広い学びが非常に重要です。そのため本校のSSHでは理系人材の育成だけでなく文系的な視点も重要視した学びを展開しています。
本校のSSHの取り組みの中で特に重要視している視点が、実社会とのつながりを見据えた探究活動を行うという点です。つまり世間一般的にいわれている社会課題、例えばSDGsのゴールなど“ありき”で探究活動を行うのではない、ということです。
生徒が自身の生活で感じる素朴な疑問から探究活動を広げていく、というのが本校のSSHの特徴です。そのために、身近な地域資源である大崎市の世界農業遺産「大崎耕土」を探究活動スタートの舞台に設定しています。
一方で、身近な疑問といったスモールスケールなテーマに取り組むと、その先のイノベーションにつながっていかないのではという懸念もあるかもしれません。しかし我々はイノベーションの根幹には「これって何だろう?」という気づきが不可欠だと考えています。
「知っているつもり」になっているものの中に新たな気づきを見出し、それを探究していくことがイノベーションにつながっていくのだ、というのが本校の探究活動の肝要です。
▲インタビューにご対応いただいたSSH担当の千葉先生
身近なものから学びを深めていく上で、「大崎耕土」を共通の探究活動のテーマとしているのはなぜなのでしょうか。
今お話した通り、宮城県古川黎明中学校・高等学校では探究スキルを高めていくために、既に知識として持っているものの中に新たな気づきを見出していく過程が重要だと考えています。
「大崎耕土」は大崎市内の小学校の地域学習の題材となっているため、生徒たちは小学3、4年生のときに共通して学んでいます。生徒にとって身近な存在であることに加えて、生徒がある程度の知識基盤を共有できているというのが、「大崎耕土」を本校の探究の入口となるテーマに設定している理由です。
体系的なプログラムで探究スキルを磨く。高校には高度な課題研究に取り組む「アドバンスコース」も
▲タイの高校生やSSH校、県内の小中高児童・生徒等も招いて探究の成果を発表する「黎明サイエンスフェスティバル」
御校のSSHの探究プログラムは、具体的にどう進んでいくのでしょうか。
本校の探究学習は、中学1年生から高校3年生までの6年間を通じた体系的なプログラムとなっているのが特徴です。
中学校3年間では地域学習に重点を置き、中学1年生の「探究Jr1」では「大崎未来創造計画」、2年生の「探究Jr2」では「大崎の産業・職業」、3年生の「探究Jr3」では「大崎耕土課題研究」をテーマに取り組みます。
高校からは中学校で身につけた観察力や気づきのスキルを基により深い探究活動を展開していきます。高校1年生の「SS探究1」では、高校から入学してくる生徒がいることも踏まえ、大崎耕土フィールドワークなどを通じて、改めて探究スキルの基礎トレーニングを行います。そして2年生の「SS探究2」、3年生の「SS探究3」ではグループでより実践的な探究活動を行う、というのが6年間の流れです。
さらに、高校からは「アドバンスコース」を設けています。アドバンスコースは高度な課題研究に取り組むことを目的として生徒が希望制で参加するコースです。アドバンスコースでは外部への発表機会も多く設け、さらに質の高い探究活動を行っています。
▲インタビューにご対応いただいたSSH担当の久光先生
「気づき」「問い」「確かめ」の探究ループをベースに探究活動を推進
▲探究活動では「協働の力」を育むことも目的に、グループワークを行う
宮城県古川黎明中学校・高等学校で探究学習を行う上で大切にしているのはどのような点ですか?
最初から課題設定や仮説を立てさせるのではなく、観察や情報整理を経て“段階的に課題・仮説を設定していく”というのが宮城県古川黎明中学校・高等学校の探究学習の大きな特徴です。
というのも、そういった段階を踏まずに生徒に課題を設定させると、どうしても漠然とした大きなテーマを設定しがちになるんです。それでは「身近な気づきから探究を深めていく」という本校のSSHの本質にそぐわないものになってしまいます。
もちろん最初から絞り込んだ課題設定を行うのは簡単ではありません。課題や仮説設定という入り口のところで生徒が躓かないよう、本校では探究活動を「気づき」「問い」「確かめ」の3ステップに分け、その過程を繰り返しながら進めていくことをコンセプトとしています。
探究には身近な事象を観察することで「気づき」を得て、その気づきを「問い」まで高め、それを検証して「確かめる」という段階があります。この順序通りきれいに進めていくのではなく、行きつ戻りつを繰り返す中で探究を深めていけると考えます。
そのため、未完成の段階でも外部の方とのディスカッション機会などを設け、時には後戻りしながら自分たちが真に深めていけるテーマで探究を進める、この「探究ループ」をベースに指導を行っています。
▲観察を通じて得た「気づき」をベースに「問い」「確かめ」を繰り返す探究活動
そういった手順を踏まえて生まれた実際の探究活動の例を教えてください。
印象的な探究の1つに「ブランコの研究」というものがありました。これは今言った「気づき」「問い」「確かめ」の探究ループのもととなった探究です。
もともと生徒たちはブランコではなく、「宇宙のブラックホールを研究したい」という希望を持っていました。教員としては、高校生が扱うには難しいテーマなのではないかと思ったのですが、あえてそれを助言せず、「現実的に扱えるテーマなのか考えてみて」と生徒に伝えました。
生徒たちは改めてテーマを考えていく中で「ブラックホール」というテーマは自分たちが探究するのには難しいということに気が付きました。そして身近な生活の中で生まれた疑問として新たにテーマに掲げたのが、「ブランコの立ち漕ぎと座り漕ぎの速度の違い」です。
生徒たちはブランコロボットを3種類作って実験し、体を大きく倒す座り漕ぎの方がはやく大きく漕ぐことができるという結論に至りました。物理的な数理モデルの理論、実際にマシンを3種類使って実証を合わせて新たな結論を提示した点が評価され、この探究はSSH指定校全国大会で2位相当の賞を受賞しました。
身近なテーマから新たな発見を見出していく、まさに本校の目指すSSHのモデルとなる探究活動になったと思います。
素晴らしい成果ですね。生徒の探究活動をサポートする上で、教員側としてはどのようなことを心がけていらっしゃいますか?
前提として、生徒が「これを探究したい」と思うワクワクした気持ちを尊重しています。だからこそテーマ設定が適切なサイズ感でないと感じた際も、ただ否定をするのではなく、あえて「自分で考えてみて」と突き放すことも重要です。突き放して自分たちで考えさせ、必要に応じて寄り添って一緒に考えるというバランスを大切にしています。
また探究ループの過程で外部と意見交換をする機会を設ける点も非常に重要視しています。ブランコの研究でもさまざまな学会、発表会に連れ出して外部の方とディスカッションを重ねる中で質の高い探究となっていきました。特にアドバンスコースを中心に、学校の外とつながる経験を持てるよう工夫しています。
SSH指定校としてのノウハウを地域に波及する小中高連携の取り組み
▲大崎市内の小学3年生から6年生の児童がiPadの活用方法を学ぶ「iPadまつり」では、高校生が指導を行う
その他にも、御校のSSHの取り組みで特徴的なものがあれば教えてください。
本校のSSH事業の一環として、地域の小学生、中学生の自由研究をサポートする「おおさき小中学生自由研究チャレンジ」という取り組みを行っています。この取り組みでは小中学生の自由研究のテーマ設定への相談会や、提出された研究内容を発表する「自由研究展示発表・交流会」を実施しています。
交流会では自由研究チャレンジに参加した小中学生と、本校の生徒が相互にプレゼンテーションを行い、質問や感想をかわす中で交流を深めています。お互いの発表を聞きながら年々内容がブラッシュアップされており、地域全体で子どもたちの探究心を育んでいくことに貢献できているのではないかと感じますね。
生徒の探究学習をサポートするために、教員も進化を続ける
宮城県古川黎明中学校・高等学校では、教員の皆さんも探究学習に向けて特別な取り組みをされているそうですね。
我々は生徒の探究的な学びをサポートするために、教員側も常に学び、進化し続けることが大切だと考えています。そのため今年度から「探究推進プロジェクト」と「授業づくりプロジェクト」という2つのプロジェクトを立ち上げました。中学校と高校を合わせた本校の約80名の教員全員が、どちらかのプロジェクトに所属しています。
「探究推進プロジェクト」は主に、SS探究1、2、3といった総合的な探究の時間に相当する科目の運営を担当しています。「授業づくりプロジェクト」は、国語や数学といった通常の教科指導の中に、SSHの取り組みで得た指導ノウハウをどう取り入れていくかを研究しています。例えば、「気づき」「問い」「確かめ」の探究プロセスを、どの教科でも意識的に取り入れるようにしています。
全教科で探究的な学びを取り入れるのは、難しそうに感じます。どのような工夫をされていますか?
最も大切にしているのは、「見える化」です。これまでの指導は教員の経験や勘に頼っていた部分がありました。しかし「この授業のどこが探究的な学びに繋がるのか」「どうすれば協働的な学びになるのか」ということを教員が具体的に言語化し、共有しています。
SSHを核に、理系、文系関係なくすべての授業に探究的な学びを取り入れられるよう活動しています。
宮城県古川黎明中学校・高等学校からのメッセージ
▲インタビューにご対応いただいた教頭の清原先生
最後に、これから宮城県古川黎明中学校・高等学校を目指すお子様や保護者の方々にメッセージをお願いします。
宮城県古川黎明中学校・高等学校には地域とのつながりを活かし、さまざまな地域資源を学びの教材として、自分が学びたいことをとことん探究することができる環境があります。授業に加えて、体験的な課外活動によって自分の興味・関心を深め、新しい発見の喜びを味わえる、そんな6年間の学びに興味がある方はぜひ本校に来ていただけると嬉しいです。
本校には「わくわくする気持ち」を大切に、自分の考えを深めていける体験的な場が用意されています。ぜひ一緒に楽しみながら学んでいきましょう。
宮城県古川黎明中学校・高等学校では中学校から入学しても、高校から入学しても、一人ひとりがテーマを持って探究的に楽しく学べる環境づくりを目指しています。ぜひ本校に入学して、探究的な学びを楽しんでいただければと思います。
素晴らしいメッセージをありがとうございます。宮城県古川黎明中学校・高等学校の魅力が十分に伝わってきました。本日はお忙しい中、貴重なお話をいただき、ありがとうございました。
宮城県古川黎明中学校・高等学校の進学実績
宮城県古川黎明中学校・高等学校では「黎明土曜塾」や「長期休業課外」といった課外講習などを通じてきめ細かな進路指導を行っています。
宮城県古川黎明中学校・高等学校の合格、進学実績をみると、旧帝大の難関校である東北大学に多くの合格者を輩出しています。また同じく東北地方の人気校である弘前大学や岩手大学にも合格者を多数輩出しています。学部は教育学部や理工学部など、文理問わず多岐にわたっており、理数系教育だけでなく文系も含めた幅広いSSHの学びを展開している教育の成果が伺えます。
■宮城県古川黎明中学校・高等学校の進学実績(公式サイト)
https://freimei-h.myswan.ed.jp/shinro
宮城県古川黎明中学校・高等学校の生徒・保護者の口コミ
▲体育館や図書館など、施設面の充実を魅力として挙げる声が多数
ここでは、宮城県古川黎明中学校・高等学校に寄せられた生徒、保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。
2013年に竣工された新校舎の設備面の充実を評価する声が多くあがっていました。また勉強だけでなく中高合同の行事など、学校生活を楽しく送れるという声が多かったのが印象的です。学びに対する意欲が高い生徒が多いという声もあり、SSHの主体的な学びが生徒の知的好奇心を育んでいることが伺えました。
▲楽しい行事に一致団結して取り組む中で生まれる生徒同士の「仲の良さ」も魅力
▲中学校と高校の自然科学部の活動。中高合同の部活動があるのも中高一貫ならでは
宮城県古川黎明中学校・高等学校へのお問い合わせ
住所 | 宮城県大崎市古川諏訪一丁目4番26号 |
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電話番号 | 0229-22-4260(中学校) 0229-22-3148(高等学校) |
公式ページ | https://freimei-j.myswan.ed.jp/(中学校) https://freimei-h.myswan.ed.jp/(高等学校) |
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