創造的な学びで実践力を身につける神奈川大学附属中・高等学校の取り組み|中高一貫校

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、神奈川県横浜市にある中高一貫の共学校「神奈川大学附属中・高等学校」を紹介します。

1学年220名程度の完全中高一貫共学校であり、国公立・早慶上理・GMARCHへの進学が60~70%という進学率を誇る神奈川大学附属中・高等学校。同校は探究的な学びに注力しており、グローバル教育についても語学力の成長や文化交流のみならず「問題解決型」の海外研修プログラムを用意しています。

今回は、そんな神奈川大学附属中・高等学校の取り組みについて、広報部長でもあり教頭を務める岩佐先生、国語科の大場先生、英語科の守屋先生にお話を伺いました。

成長に応じてさまざまな場面で実践。神奈川大学附属中・高等学校の建学の精神

神奈川大学附属中・高等学校のグラウンド

編集部

最初に、御校の教育理念や建学の精神についてお聞かせください。

岩佐先生

本校は、創立者の米田吉盛氏が掲げた「教育は人をつくるにあり」という理念を受け継ぎ、「質実剛健」「積極進取」「中正堅実」を建学の精神に、人間形成を基本とした教育を行っています。これらの精神は、さまざまな教育の場面で学年やその生徒の個性にあわせて実践されています。

例えば、「質実剛健」という価値観も、中学生と高校生とでは伝え方が異なります。シャツがはみ出ていたり、ネクタイが歪んでいたりする中学生には、制服をきちんと着ることを通じて、外見を整えることの重要性を伝えます。

一方、高校生に対しては、質実剛健の精神をより深く掘り下げた形で伝えます。例えば、高校2年生の秋ごろに部活動を続けるかどうか悩む生徒がよくいます。このような状況では、教員は「こうしろ、ああしろ」と指示するのではなく、問いかけることを基本にしています。

教員「君はこれからの学校生活をどうしていきたい?」
生徒「部活も勉強も両方取り組みたいと思っているのですが…」
教員「それがうまくいっていない理由は何だと思う?」
生徒「家に帰るとどうしてもダラダラしてしまって…」

このような対話を通じて、教員は生徒に自分の弱点や課題を自覚させ、自分を律して強い気持ちを持つことの重要性を伝えます。これこそが「質実剛健」の精神であり、自分の内面を磨くことです。

次に「積極進取」とは、積極的に行動し、新しいことに挑戦する姿勢を示す言葉です。要するにチャレンジ精神ですが、「何事にもチャレンジしなさい」と言うばかりでは実践できないと思っています。ですから本校では、生徒たちがチャレンジできる環境や雰囲気づくりに注力しています。

3つ目の「中正堅実」とは、例えばAという意見と、その対極にあるBという意見があったとします。その際にどちらか一方に偏るのではなく、両方の意見をしっかりと理解し、中立な立場を保ちながら、もっとも公正で堅実な態度を取ることです。

例えば学校行事などに取り組むときには、全員の意見を尊重しながら良い結果を目指して行動することが求められるため、この中正堅実な態度が必要です。この考えは、社会に出てからも重要になってきます。

このように本校では、生徒の成長に応じたアプローチで、いろいろな場面で建学の精神を実践し、生徒たちの人間形成をサポートしています。

お互い認め合い高め合う生徒たちの学校生活

編集部

御校の生徒さんたちは建学の精神に則った学校生活を送られていますでしょうか?岩佐教頭先生から見て、学校行事等に対する生徒の姿勢や雰囲気について教えてください。

岩佐先生

本校の生徒たちは、のびのびとしており、男女仲が良いとよく言われますが、教員としてもまさにその通りだと感じています。

ただ、みんな最初から仲が良かったわけではありません。ときには衝突しながら、その中で楽しかった経験を6年間積み重ねていく中で、お互いを認め合う雰囲気が徐々に育まれ、仲間意識が生まれるのだと思います。ここは、「中正堅実」の教えが活かされている部分ですね。

本校では、生徒たちがお互いに認め合いながら学び、高め合う関係を作っていってほしいと考えています。そのような集団になれば、相互に刺激を与えあいながら、生徒一人ひとりの力を引き出すことができると信じています。

中1からスタートする神奈川大学附属中・高等学校の探究学習

神奈川大学附属中・高等学校の英語科教員である守屋先生

▲取材にご対応いただいた守屋先生

編集部

神奈川大学附属中・高等学校の特徴的な探究学習についてお聞かせください。

大場先生

本校は探究活動を始めて今年で4年目です。中学3年生と高校1年生で、総合的な探究の時間として週に1時間の授業を設けていたのですが、徐々に広げていきまして、今年度(2024年度)より中学1年生から高校3年生まで6年間を通じて探究活動を実施することになりました。

守屋先生

これまでは中学3年生・高校1年生の探究の時間で「課題研究」を行っていましたが、そこで生徒は課題を見つけることに苦労していました。であれば、中学1・2年生の段階で、そもそも社会にはどういった課題があるのかを見せたいと考えたことが探究学習拡大のきっかけです。

まず中学1年生では、班別の自主行動を通じて、協働しての作業や自分たちで計画を立てることの難しさも知りながら、主に探究活動の楽しさを感じてもらいたいと考えています。

中学2年生では、社会の課題を12のテーマに分けて、班ごとにその課題を1つ選びます。そして、その問題に取り組まれている方のお話を伺いに行く活動を実施しようと考えています。

編集部

その社会の課題としては、どのような内容を想定されていますか?

守屋先生

例えば、横浜市には多くの外国人の方が暮らしているため、そういった方々が日常生活で抱えている苦労を知ることから始める「多文化共生」などのテーマを考えています。この場合は、外国人の方のサポートに携わっているNPOの方々にお話を聞きにいきます。

そのほかのテーマとしては、本校の環境保全があります。これは、本校の裏にある動物園「よこはま動物園ズーラシア」が環境保全に取り組まれていることもあり、ズーラシアの方の知恵を拝借しながら、学校の環境保全について、生徒自らが考えていく内容です。

そういった社会課題に関して、生徒たちが自らアイディアを出して、それをポスターセッションという形でまとめ、お世話になったNPO法人やズーラシアの方々、様々な自治体の方々を招いて、お披露目したいと考えています。

このような中1・中2での探究学習は、中学3年生以降で探究するテーマの核となる部分を見つけるプログラムになっているんです。

ワークショップなどの経験が学問の入口となり、目指す進路が明確になる

神奈川大学附属中・高等学校の探究発表

▲探究活動の発表の様子。熱気と積極性が伝わってきます

編集部

中学1年生・2年生の活動について伺ってきたので、その後のプログラムもぜひお聞きしたいです。

大場先生

中学2年生で社会課題を見つけた後は、中学3年生では学問の分野に絞っていく形となります。具体的には、自然科学、社会科学、人文科学、それらを融合した学際的領域といった4つの分野についてのワークショップを10講座オープンしています。

生徒たちはその中から好きな5講座を選び、それらの学問で研究されていることを深堀りしていく活動を1年間通して行います。

そして、中学3年生の最後で、中学2年生で学んだ社会的な課題、3年生で学んだ学問分野の研究などから、興味・関心のあるものを1つ選んで、問いや目標を立てます。高校1年生では、その問いに対して情報収集等をして1つの結論を出します。

編集部

中学3年でのワークショップは、どんな内容の講座があるのでしょうか?

守屋先生

例えば私が担当する「教育学」のワークショップでは、教育心理学の視点から学校の空間について考えます。どうすれば生徒が落ち着いて勉強できる環境を作れるのか、効果的な学習環境とは何かについて、書籍やインターネットの文献を通して調べ、その結果をプレゼンします。

私たち教員も、かつては大学生や大学院生として研究活動をしていました。私が専攻した教育学について、生徒は「教員になるための学問」と捉えがちですが、実際には教育に関わるさまざまな視点から研究を行う学問です。特にこの年代だと、どうしても学部や学科ごとに何を学ぶのかについてあまり知らないことが多いです。

そこで、学部ごと、学科ごとにどういうことを学んでいるのか、それぞれの学問に対する入り口を切り開いてあげながら、彼らの興味・関心がどこにあるのかを見つけ出します。これが進路につなげるための探究活動であり、ワークショップの目的です。

これは、私たちが生徒の視点から理想的な教室環境を知りたいという思いもあります。こうして、楽しく学校の環境を見直す活動を授業で行っています。

編集部

印象に残っている生徒の意見や提案はありましたか?

守屋先生

先日、教育学のワークショップでプレゼンを行ったのですが、「校内での怪我防止のために廊下の曲がり角にミラーを設置したらどうか」「会議室等で生徒が話しやすい机の配置は?」など、思いつきそうで思いつかないアイデアがたくさんあって面白かったですね。

また、その他にも講演会や研究所訪問などセレクティブな活動があります。本校は大学の附属校なので、セレクティブな活動の中には大学との連携もあり、多種多様なプログラムが用意できます。生徒がやりたいと声を上げればできる環境が整っていることが本校の魅力の1つかと思います。

大場先生

探究活動では、自分の進路につなげるために、何を学ぶのか、なぜ学ぶのかを知ってほしいと思っています。その後、さらに活動を続けたい生徒に対しては、高校2年生・3年生で講習を作っており、外部の大会等に応募する場合や、また、大学受験の総合型選抜にも対応できるようにしています。

なお、先ほど守屋がお伝えした活動をまとめてポスターにしてお披露目する場ですが、今年度(2024年)は12月に開催予定です。中学1年生から高校1年生までの4学年が集まる大規模なもので、保護者も招いて行いたいと考えています。

問題解決型のベトナム海外研修も導入するグローバル教育

神奈川大学附属中・高等学校のベトナム海外研修

▲課題解決型ベトナム海外研修のひとコマ

編集部

神奈川大学附属中・高等学校のグローバル教育についてお聞かせください。

守屋先生

本校では、中学3年間は毎年「Breakthrough English Camp」という英語キャンプを行っています。

先ほどの探究学習にも通ずるのですが、単純に英語を使うというだけではなく、外国人講師を招いて諸外国のSDGs事情を英語で教えていただいたり、SDGsをテーマにした寸劇を作ったり、英語でディスカッションしたりします。このように、英語を楽しく学ぶ過程で社会課題の要素も取り入れています。

大場先生

中学3年生以降では、より英語を伸ばしたい生徒たちに向けた海外研修プログラムを用意しています。語学型や国際交流体験型などいろいろな海外研修があるかと思いますが、本校では探究活動に力を入れているため、問題解決型のベトナム海外研修を導入しているんです。

この研修ではベトナムの現地企業とコラボして、企業側から「問い」を出していただきます。例えば、ベトナムのシングルマザーの皆さんが作ったバッグ等のグッズを売るためにはどうすれば良いかなどの課題を、生徒たちに投げかけてもらう。

生徒たちはそれに対して「SNSで発信する」や「日本でも売ってみる」などの提案を英語で考えてプレゼンし、その返答を英語でもらいます。とはいえ、最初の提案時点では知識も十分ではないので満足できる出来ではありません。そのため、いろいろと指摘をいただくことになります。

その指摘を受けて、解決するためにどうすればいいのかを、現地視察やインタビューなど調査をした上で、最終的にもう一度プレゼンします。こうして大人とのやり取りや英語を使って意見や質問する経験を通して、問題を解決していく力を身につけていきます。

編集部

そういった体験を通して、生徒はどのように成長していると感じますか?

大場先生

印象に残っている生徒を挙げると、ベトナム研修に行く前は積極的にコミュニケーションをとるタイプではなかったのですが、帰国後の学校祭では積極的にいろいろな方に話しかけるといった変化を目の当たりにしました。

その生徒は、今年はまた違うプロジェクトに参加していて、いろいろなことに挑戦するようになったのだなと感慨深いですね。学校生活での取り組む姿勢や、コミュニケーション力に大きな成長を感じました。

守屋先生

本校では、世界の中における日本人としての自己の認識であったり、世界に日本をアピールしていく際に自分ができることは何なのかであったり、常に世界とのつながりを自覚させることに真のグローバル人材育成の意味があると考えています。

英語はツールとしてはもちろん必要ですが、その先に何があるのかに重きを置いている点で、今後とも他校との差別化を図っていきたいと考えています。

また、本校では、推薦制度を利用して海外進学や海外留学する生徒が各学年に一定数います。海外大学への進学を1つの選択肢として提供できる点も本校の強みだと思っています。

ネイティブ講師との会話で英語力が上達。教員との距離の近さも大きな特徴

神奈川大学附属中・高等学校の生徒と守屋先生

▲守屋先生と生徒が笑顔を見せて話す様子。教室のすぐ前には担任室があり、教員を身近に感じることができます

編集部

英語の授業など、普段の学習シーンについてはいかがでしょうか?

守屋先生

英語に関しては、中学1年生から高校1年生までネイティブの講師陣に入っていただいて、英会話の授業を行っています。単純な受け答えだけではなく、国ごとのバックグラウンドなど文化的な背景も取り入れた少人数制の英会話なので、授業を通して英語や海外に憧れを抱く生徒も多いように見受けられます。

なお、ネイティブの講師の方と生徒たちは、昼休みや放課後にもコミュニケーションをとっている姿を校内でよく見かけるので、本校では日頃からフランクに英語を話す風土が根づいていると思います。

編集部

そういったエピソードをお聞きすると、御校は生徒と教員との距離が近いように感じるのですがいかがでしょうか?

守屋先生

おっしゃるとおり、生徒と教員の距離の近さは本校一番の特徴だと思います。

まず、校舎の作りからして教員室というものがなく、教室の目の前に担任室があり、担任の教員と生徒が常に近い距離にいるので、生徒にとって教員はかなり身近な存在かと思います。私も本校に赴任してきてびっくりしたくらいです。

神奈川大学附属中・高等学校からのメッセージ

神奈川大学附属中・高等学校の校舎外観

編集部

最後に、神奈川大学附属中・高等学校に興味をお持ちのお子さまや保護者に向けてメッセージをお願いいたします。

岩佐先生

「この学校に行きたい」「この学校の一員になりたい」と心から思える学校に出会えるかどうかは、とても大事なことだと思います。そのためには実際に学校に足を運んで、その学校の生徒たちと交流してみることをおすすめします。

実際に見て、交流をして「この学校に入学したい」との思いを強く持つことができれば、きっと大変な受験勉強にもチャレンジできると思います。本校を、そう思っていただける学校の1つに入れてもらえたなら、すごく嬉しいです。

また、我々は非常に広いキャンパスを所有しているほか運動施設・体育施設も充実しており、生徒たちは勉強と部活動のバランスの良い学校生活を送っています。部活動は週4日までのルールを設けており、その上でそれぞれの生徒が前向きに取り組んでいます。

もし神奈川大学附属中・高等学校に興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。お待ちしています。

編集部

本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

神奈川大学附属中・高等学校の進学実績

編集部

神奈川大学附属中・高等学校の放課後自習室

▲放課後自習室・学び合いルームでは毎日生徒たちがイキイキと学習しています

神奈川大学附属中・高等学校では、ほとんどの生徒が4年制大学に進学しています。毎年20%以上が国公立大学へ、65%以上が私立大学へ現役で進学しており、2024年3月の卒業生206名のうち181名は現役で進学しています。系列校である神奈川大学への進学(2024年度)は8名で3.9%となっています。

2024年の合格実績としては、東京大学4名、京都大学1名、一橋大学4名、東京工業大学3名を含む合計58名(うち既卒生6名)が国公立大学に合格、防衛大学校は1名、海外の大学は6名が合格しています。

私立大学の合格実績としては、早慶上理には117名(うち既卒生4名)が、GMARCHには290名(うち既卒生18名)、系列校の神奈川大学には62名(うち既卒生1名)が合格しています。

■進学実績(神奈川大学附属中・高等学校公式サイト)

https://www.fhs.kanagawa-u.ac.jp/next_stage/pass.html

神奈川大学附属中・高等学校の卒業生・保護者の口コミ

神奈川大学附属中・高等学校の文化祭

▲文化祭のステージ

ここからは、神奈川大学附属中・高等学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。

(卒業生)学校行事は楽しいし、クラスメイトは男女とも仲が良く、良い友だちにたくさん出会えました。部活で先輩や後輩のつながりもできました。本当にこの学校に入って良かったと思います。勉強面は厳しいなと思うこともありましたが、だからこそ学力が伸びたと思います。

(卒業生)広々とした環境で、のびのびと学校生活を過ごせます。小テスト類が充実しており、すべてのテストに対して成績によっては補修・追試・勉強会などさまざまなサポートがあるので、基礎学力の定着が図れます。塾に通わなくてもGMARCHを狙えるだけの学力はつくと思います。

(保護者)毎週小テストがあり、結果によっては放課後に補習があります。長期休みにも補習があります。日々の宿題も少なくはないので着実に学力がつくようです。ほとんどの生徒がどこかの部活に所属しており、勉強と部活動のバランスが取れた学校生活を送れると思います。

(保護者)とても面倒見の良い学校だということで塾の先生に勧められて入学しました。実際にその通りでした。みんな礼儀正しく、素直な生徒が多いように見受けられます。文化祭や体育祭では明るく元気な姿を見ることができます。

神奈川大学附属中・高等学校への問い合わせ

運営 神奈川大学附属中・高等学校
住所 神奈川県横浜市緑区台村町800
電話番号 045-934-6211
公式サイト https://www.fhs.kanagawa-u.ac.jp/

※詳しくは公式サイトでご確認ください