英数学館中・高等学校の「健全な議論で生きる力を養う」グローバル教育|中高一貫校

特徴的な教育プログラムで注目を集める学校を紹介する、本企画。今回は、広島県福山市にある中高一貫の私立共学校「英数学館中・高等学校」を紹介します。

英数学館中・高等学校は、生徒たちの「世界をフィールドに生きる力」の育成に力を注ぐ学校です。正解のない問いに対する答えの追究や、英語イマージョン教育(英語を使って各教科の授業を行う)といった取り組みを通し、広い視野と国際感覚を養っています。

また「生徒一人ひとりの内在する力を引き出すこと」を目指し、独自の仕組みで探究学習を推進。「探究公欠」制度なども設け、社会の中でさまざまな体験をすることを温かくバックアップしています。

今回は、校長の土屋俊之先生にインタビューを行い、詳しくお話を伺いました。

平和な国際社会への願いを映す、英数学館中・高等学校の理念

英数学館中・高等学校の外国人教師と生徒たちがテーブルを囲んで話をしている様子

▲授業やクラス活動のほか、休み時間などにもネイティブの先生と交流している

編集部

まずは御校の建学の精神や教育目標、そこに込めた思いなどについて教えてください。

土屋校長

本校の教育理念の軸は2点。「子どもたちの活躍のステージをグローバルな視点で捉える、国際教育を行うこと」と「子ども達一人ひとりの内在する力を引き出すこと」です。

編集部

グローバルに捉えるとは、具体的に言うとどういったことでしょうか。

土屋校長

本校は広島県にあり、創立者が戦後の焼け野原の状態の中で抱いた「平和な世界を構築することに貢献するべく、今こそ教育を」という思いが、学校の原点です。

平和な世界の実現のためには、世界中の価値観の違う人達同士が、殴り合いや暴力ではなく、お互いに尊重し合って問題を解決する姿勢が不可欠ですよね。

本校では、そのベースになる資質を子ども達に身につけさせ、世界に輩出することを目指しています。平和教育を希求した結果、多様な価値観を知らねばならないということで「グローバル」にたどり着いたというわけです。

英数学館中・高等学校のグローバル教育で、世界基準の「生きる力」を身につける

ここでは、2つの教育の軸の1つ目「グローバル教育」について詳しく伺っていきます。

英数学館高等学校は、国際バカロレア(IB)(※)の認定校。IB校の教育プログラムでは「世界の複雑さを理解して、そのことに対処できる力」と「未来へ責任ある行動をとるための態度とスキル」を身につけることを目指します。
(※)国際バカロレア…国際バカロレア機構(本部:ジュネーブ)が提供する国際的な教育プログラム

また、英数学館中・高等学校では、英語イマージョンプログラムを実践しています。「イマージョン」とは「浸す」ことを意味し、各教科の授業を英語で行う方法です。生徒は英語を理解するだけではなく、英語を使って学び、考え、表現することを求められます。

これらの教育を通して、生徒たちは「世界をフィールドに生きる力」を、日々養っているのです。

議論の中で自分の軸を定め、言語化して他者に伝える

英数学館中・高等学校のIBプログラムの授業で生徒が議論をする様子

▲ディスカッションの際には、根拠を示すためさまざまな資料を用いることも

編集部

保護者の方々の中には、IB校に興味をお持ちの方も多いと思います。教育の特徴をご紹介いただけますか?

土屋校長

IB教育は、インプット中心・詰め込み型の教育とは真逆の教育体系で、多くの人との関わりの中で多面的かつ複眼的に物事を見ること、そして健全な批判的な精神を持って物事を捉えることを目指しています。

授業の中でも生活の中でも、そういう考え方がベースとして当たり前に入っているので、生徒たちがただ座って教員の話を聞いているということはまずありません。

編集部

授業科目にはどのようなものがあるのでしょうか。

土屋校長

例えば、高校1年生の必修科目にTOK(「知の理論」)と呼ばれるものがあります。唯一解には到底たどり着かないようなお題を教員が投げかけて、それについて生徒たちが考え、ディスカッションするという授業です。

編集部

とても哲学的な、難しそうな内容ですね。

土屋校長

はい。その中で教員は最小限の示唆を与えて、生徒たちの価値観を揺らしていきます。こういう哲学対話的な授業が当たり前に入っているというのは、非常に特徴的で、面白いんじゃないかと思いますね。

生徒たちも自分なりに考えて「これだ」という答えにたどり着くのですが、そこで教員が、全く逆の意見「こんな見方もあるよ」ということを言うわけです。その繰り返しで、自分の考え方や視点の軸みたいなものが、おぼろげながら見えてきます。

編集部

具体的に、生徒さんからこういう意見が出て、先生はこういう風にアプローチしてという、やり取りの一例をお聞きしたいです。

土屋校長

最近で言えば、原発の是非というテーマがあり、ある生徒は初め「現実的に考えたときに、原発がないと現代人が社会生活を営むことは不可能。だから、脱原発よりも減原発が好ましい」という結論に向かいかけました。

そこを教員が「ロシアによるウクライナの軍事侵攻では原発施設が狙われて、電力不足や核脅威などさまざまな問題が起こっているけど、どう思う?」などと突いていくわけです。少々意地悪なようですが(笑)。

そして生徒が「やっぱり脱原発がいいと思います」というような発言をしたら、今度は「それは本当に根本的な解決になっているかな?」と言ってみたりします。

教員は、異なった視点を示しつつ、生徒が自分軸ではなく他者の意見によって引っ張られたときにはフラットに戻すような、そういうアプローチを行っていますね。

編集部

最終的な着地点は、どのようなところになるのですか?

土屋校長

特段、1つの結論にまとめるということはしません。「複数の意見があるということがわかった」ということと「自分はこの論点が中心だと思うので、この意見を大事にしたい」ということが言えればOKです。

自分が現在進行形としてたどり着いた意見に関して、感覚的にではなく、しっかり照査して発言するということがポイントですね。

編集部

自分の中だけでなく、他者に向けて責任をもって発言をするということも求められるのですね。

土屋校長

そうです。他にも、例えば「ビジュアルアーツ」という授業では、生徒が描いた絵に対し「なぜこのテーマでこういう絵を描いたのか」と、表現に至った理由をすべて言語化させています。

「描きたかったから描いた」ではなく、顕在化させて言語化させる。絵の上手・下手よりも、その説明のプロセスが重要な評価の対象になります。

英数学館中・高等学校のビジュアルアーツの授業で、ペイントを施されたTシャツ

▲ビジュアルアーツの授業風景

編集部

美術のような言語化しづらい分野であっても、ですか。

土屋校長

はい。非常に言語化しづらいんですけども、文章にして提出させます。他者と意見が異なったときに、自分がなぜそう思ったかということは、やはりしっかりと整理して言葉で伝える必要がありますから。

編集部

先ほどのTOKしかり、ビジュアルアーツしかり、そういった授業を通して、生徒の皆さんにはどのような力が身につくとお考えになりますか?

土屋校長

日本人には「察する」文化というものがありますが、世界へ出れば、言葉を尽くして説明をしていかないと、コミュニケーションが成立しないことが多々あります。

だからこそ、授業の中で、考えることと言語化することを徹底的に身につけます。そしてこういった世界基準が「常識」になれば、社会に出た時に役に立つのではないかと思っています。

英語で聞き、学び、考える。学校生活のすべてで英語のシャワーを浴びる「イマージョン教育」

編集部

御校のイマージョン教育の特徴についてもお伺いできますか?

土屋校長

本校の、附属の小学校から進学してきた子たちは、小学生の頃から英語イマージョンで過ごしています。一方で中学校1年生から入ってくる子たちは英語経験ゼロであることも多いので、無理なく学べるようにクラスを分け、3年間で徐々に英語の割合を増やしていく形をとっています。

もっとも、クラスに関わらず、担任は日本人と外国人のW担任です。ホームルームにおいては、日本人教員は最小限の情報伝達だけを行い、外国人教員をメインにして、生徒たちに毎日英語をシャワーのように浴びせています。

ちなみに本校は職員の3分の1が外国人で、教員同士でも、連絡事項の共有のために英語を使わざるを得ないんですね。先生たちが職員室で、苦手であっても必死に英語を使って会話しているのは、なかなか微笑ましいですよ。

編集部

先生方も一生懸命ですね。

土屋校長

そうです(笑)。

中1から英語を始めた生徒たちにとって、慣れるまでは大変だと思います。ただ、分からなければ聞くということも学びですし、早く耳を英語に順応させてほしいので、日本人教員のサポートは最小限にしています。

また、生徒たちには毎日、外国人の先生に英語のダイアリーを提出することを課しています。

編集部

英語で日記ですか。どんなことを書くのでしょうか。

土屋校長

その日あったことだったり、先生から与えられたテーマだったり、色々です。1行から始まるのが2行になり、3行になりというふうに、毎日継続しています。こちらもやはり、続けていれば徐々に慣れますよ。

学内の文書はすべて、何かのアンケートを出す際も、教員に対してメールを送る際も、必ず英語の翻訳をつける決まりになっています。

編集部

本当に、学校生活のあらゆる場面で英語に親しんでいくのですね。

社会全体を教室にする。英数学館中・高等学校の探究活動

英数学館中・高等学校の教室で、探究の発表をしている様子

編集部

教育理念の2つ目「子ども達一人ひとりの内在する力を引き出す」についても教えてください。

土屋校長

これは、特に探究学習においての取り組みです。

本校の特徴として「桃」という制度があります。学校の内外で実施されるさまざまなセミナーや体験イベントに、生徒たちが自らの意思で参加し、興味・関心の幅を広げる機会を得るというものです。

学校にはこういったイベント類の情報が日々大量に送られてきますので、教員はそれを「桃サイト」という学内のサイトに掲載します。ちょうど、川の上流から桃を流すような感じですね。生徒はそれを見て、興味のあるものに参加申請をするという仕組みになっています。

編集部

生徒さん達全員が、何らかのイベントに参加されるのですか?

土屋校長

はい。半期や年間で最低何回は参加、というルールを設けています。

というのも、IB教育の話とも重なりますが、私たちは生徒たちの価値観をいかに揺らしていくかということを、とても大切に考えているのです。

文科省やOECD(経済協力開発機構)などが「ウェルビーイング(幸福で充実した人生を送るための力)の向上」を提唱していますが、このウェルビーイングを育むためにも、子ども達が社会と関わって対話して、さまざまな価値観に触れることは有効でしょう。

その中で、世間ではこういった生徒向けの取り組みがたくさん行われているので、ぜひ積極的に参加してほしいと思っています。

編集部

生徒さん達が参加しやすいよう、サポートのようなものはあるのでしょうか。

土屋校長

1つとして「探究公欠」という制度を用意しています。

例えば、イベントが平日の昼間に行われていたら、授業と重なってしまいますよね。そういった時、本校では「その一期一会が人生を変える可能性がある」ということを共通認識にしているので、授業に代わる学びの機会として、欠席にしないで出席扱いにするということです。

地熱発電について調べている生徒が、大分県の別府でどうしても知りたいことがあると言って、別府へ行くとなると1泊は必要なので、1泊2日を探究公欠にした例もあります。

セミナールームで、大人たちを前に探究学習の発表を行う、英数学館中・高等学校の生徒たち

▲地元企業の協力を得て行われた「企業体験プログラム」。ビジネスアイデアの企画やプレゼンは、その緊張感も含め貴重な経験

編集部

御校がいかに探究に重きを置いていらっしゃるかがよく分かります。

土屋校長

本校では、生徒も保護者も「桃」と言ったらすぐ通じるんですよ。小さい学校ですし、社会全体を教室にしようという考えが浸透しています。

ただ、気をつけなけらばならないのは「生徒の中に1人2人すごい研究をやっている子がいるけれど、全体を見ると8割の子は動けていなかった」などという落とし穴ですね。

生徒の中には「これがやりたい」という欲があまりない子もいます。「桃サイト」に大量の情報を載せているのは、そういった生徒の欲や興味を引き出すために、とにかく数を打とうと決めている部分もあってのことです。

このように、仕組みの方からアプローチしながら挑戦しているところが、本校の一番の特徴かもしれません。

編集部

まさに「子ども達の内在する力を引き出す」ことに注力されているのだと感じます。

土屋校長

ありがとうございます。

自分の知らない社会へ出て知らないものを見ていくのは怖さも伴いますが、その怖さを越えた生徒たちは、納得感のある人生にたどり着ける可能性が高いのではないかと考えています。

実はこれは、IB教育の弱点を補うための取り組みでもあります。本校ふくめIB校はおおむね少人数制で、学校生活の中で出会う人の数が少ない教育体系です。

だからこそ「より意識的に外に出て、学んだことをもって社会と壁打ちしておいで」と伝えていますし、そこで気づいたことを活かして自分の学びを深めていきなさいと促しています。

英数学館中・高等学校からのメッセージ

英数学館中・高等学校校長の土屋先生

▲取材に応じてくださった、英数学館中・高等学校校長の土屋先生

編集部

最後に、英数学館中・高等学校に興味をお持ちのお子様と保護者へ向け、改めて御校の魅力や、どういった成長ができるのかというメッセージを頂けますか?

土屋校長

本校は、社会からも力を借りつつ、子ども達のより良い人生につながる、ベターな教育システムをいつも考え続けています。

子ども達が年を重ねていったときに、本校での経験が良かったと、人生にプラスに作用したと思ってもらえるような、そんな「生きる力」が身につく学校です。

編集部

ありがとうございます。その中で、特にどういったお子様・保護者の方におすすめというのはありますか?

土屋校長

「子ども達の内在する力を引き出す」という理念を、学校とご家庭の二人三脚で実現したいというのが、私たちの願いです。

つまり、子どもたちにギリギリまで自分で考えさせて、転んでもそこから何かを学ぶような経験をさせていきたいと。歯がゆいような場面もありますが、そんなふうに見守っていければと思っています。

学校とご家庭の目線が合えば、非常に面白い化学変化が起こせますので、こういった方針に共感して頂けるご家庭には、ぜひご検討頂きたいですね。

編集部

校長先生、本日は貴重なお話をありがとうございました!

英数学館高等学校の進学実績

英数学館高等学校では、探究的な学習スタイルの定着にともない「偏差値だけにとらわれず、学びたいことを学べる大学に進学したい」という生徒が多数。そのほか、海外の大学への進学希望も増えてきています。

学校では、そんな生徒たちの希望にこたえ、それぞれの第一志望に合格できるように学校全体で進学指導を実施しています。

2023年度は、広島大学医学部や岡山大学歯学部、上智大学などの難関大学、また海外の名門大学へも合格者を輩出しました。

■2023年度 合格者速報(英数学館中・高等学校公式サイト)
https://www.eisu-ejs.ac.jp/news/202403285765.html

英数学館中・高等学校の生徒・保護者の口コミ

ここでは、英数学館中・高等学校の生徒や保護者からお聞きした口コミをご紹介します。

勉強・部活・桃活動など、なんでも全力で取り組めるよう、先生たちがサポートし、温かく見守ってくれる。(生徒)

外国籍の先生が多く、英語の習得に関しては、留学をしているかのように恵まれた環境。短期留学制度など、学んだことをアウトプットする場があるのもありがたい。(保護者)

少人数制で、子ども一人ひとりに寄り添った教育をしてくれる。英数学館での生活を通して、学力はもちろん、自主性など心の面でも大きく成長したと思う。(保護者)

生徒一人ひとりに寄り添う、学校の姿勢とサポート体制が高く評価されているようです。

また、英語学習に関して「環境に恵まれている」「英語力が大幅に伸びた」という声も多く見つかりました。

英数学館中・高等学校の基本情報

運営 学校法人広島加計学園
住所 広島県福山市引野町980-1
電話番号 084-941-4115
お問い合わせ先 https://www.eisu-ejs.ac.jp/contact
公式ページ https://www.eisu-ejs.ac.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください