「生き方」に目を向ける!盈進中学高等学校の本を活用した心の教育|中高一貫校

中学受験を検討中のお子さん・保護者に向け、注目の学校を取り上げる本企画。今回は、広島県福山市にある「盈進(えいしん)中学高等学校」の教育活動を紹介します。

1904年に創立された盈進中学高等学校は、商業高校から発展した中高一貫校です。読書活動を軸に、「自分はどのように生きるのか」を考えて行動する力を育みます。6年間を通して「読む力・書く力・伝える力」を鍛えるため、大学入試における総合型選抜でも多くの合格者を輩出しています。

この記事では、教頭補佐(広報部長を兼任)の塩田先生にインタビュー取材し、同校の教育理念や読書を軸にした教育、クラブ活動について詳しく伺いました。

盈進中学高等学校のモットーは、生徒主体の「共育」

盈進中学高等学校の英語講師と生徒たち

編集部

最初に、盈進中学高等学校が掲げる建学の精神を教えていただけますか?

塩田先生

建学の精神は、創立者の藤井曹太郎(そうたろう)先生が提唱した「実学の体得(じつがくのたいとく)」です。実学の体得とは、社会で活躍できるようになるための実践を意味します。

さらに「実学の体得」に基づいてより具体的に目標を定めたのが、主体的に考え、行動する力を養う「盈進共育(えいしんきょういく)」です。仲間と一緒に「勉強・クラブ・行事」の教育活動を作り上げていってほしいとの思いを込め、「教育」ではなく「共育」としました。

具体的には、中高6年間を2年ごとに区切り、「基礎(1〜2年生)」「応用(3〜4年生)」「総合(5〜6年生)」の3段階で社会に貢献する人材を目指します。約3万人の卒業生が建学の精神を胸に、地元広島県はもちろん、国内外で活躍しています。

本から生き方を学ぶ!盈進中学高等学校の心を磨く教育

盈進中学高等学校の読書活動風景、生徒のプレゼン風景、読書科の授業風景}、生徒のプレゼン風景

盈進中学高等学校の大きな特徴は、読書を中心に生き方を学ぶ活動です。どのような活動をしているのか、詳しく伺ってみましょう。

読書とフィールドワークで国内外の名作に触れ、自分を見つめる

盈進中学高等学校の生徒たちの読書風景

編集部

盈進中学高等学校は、読書活動に力を入れているそうですね。読書活動を取り入れている理由と活動内容を、説明していただけますか?

塩田先生

本校では、「読書は哲学を学ぶ術のひとつ」だと考えています。そのため、中学校・高等学校を通して読書活動を重視し、本から生き方を学べるようにしているんです。

具体的には、中学校の全学年で週に1時間の「読書科」があり、本を通して「自分の生き方」を考えます。年間で24〜25冊ほど読むので、3年間で約80冊の本に触れられますよ。

読書科はクラス全員が同じ本を読んで感想・意見を交流する「集団読書」がメインで、扱う本は学校が指定します。年度によって本は変わりますが、過去には広島カープの歴史を描いた「赤ヘル1975(重松清)」や、時間に目を向けた「モモ(ミヒャエル・エンデ)」などを取り上げました。いずれも多くの方々に読み継がれている名作で、生き方に関するメッセージが込められています。

もちろん、学校行事に関連させて本を選ぶケースもあります。例えば2年生の修学旅行(3泊4日)で沖縄県を訪れる際には、第二次世界大戦の沖縄戦が描かれた本を読みます。

編集部

沖縄県の歴史を知ってから現地を訪れると、より充実した時間を過ごせるでしょうね。集団読書以外には、どのような活動をしていますか?

塩田先生

主人公の生き方をなぞる「フィールドワーク」を取り入れています。2年生では年間に2〜3回のフィールドワークを設け、本校のある福山市周辺の自然や歴史に触れます。

例えば隣の尾道市を舞台にした「ハブテトル ハブテトラン(中島京子)」の主人公と同じように、瀬戸内海の島々を結んだ「しまなみ海道(橋)」を訪れ、主人公が味わったであろう、爽やかな潮風や目の前に広がる景色などを追体験し、思考を深めます。

また、被爆地・広島だからこそ、平和について考える機会も多いです。広島市に原爆が投下された2日後には福山市で空襲があり、多くの方々が犠牲になりました。尾道には現在も防空壕が残されているので、生徒たちと訪れます。

本を通した仲間との語らいやフィールドワークを重ねるうちに自然と、自分の生き方や将来の目標が見えてくるようです。

盈進中学高等学校の生徒たちが読書をする様子

▲数人の生徒が集まり、読書に没頭する姿も見られる

日記・論文・プレゼンで、アウトプット力を鍛える

盈進中学高等学校の生徒のプレゼン風景

▲調べた内容を模造紙にまとめ、友達や保護者の前でプレゼン

編集部

ここまでインプットを中心に伺ってきましたが、学んだことをアウトプットする機会はあるのでしょうか?

塩田先生

もちろんです。読書科で1冊の本を読み終わると、感想文を書いてもらいます。さらに中学生は毎日、「E-NOTE(イーノート)」と呼ばれる日記をつけます。

本校は生徒に1台ずつiPadを配布しますが、E-NOTEは手書き(アナログ)のツールです。日記には学習・生活の記録のほか、「1日のまとめ」の欄が設けられています。8行ほどのスペースがあるので、手書きの文章力が鍛えられますよ。

「何を書けばいいのか分からない」という生徒のために、教員が「〇〇についてどう思う?」とテーマを示すこともあります。教員ごとにテーマは異なりますが、オリンピック・人種問題・性的マイノリティといった社会問題が主流です。アウトプットの機会が多いので、ほとんどの生徒が100〜200文字の文章をスラスラと書けるようになりますよ。

編集部

日記は心の整理にも役立ちそうですね。論文のような、長い文章を書く機会はありますか?

塩田先生

はい。3年生は読書科の集大成として、1年間をかけて好きなテーマを探究し、4,000字(原稿用紙10枚)以上の「修了論文」にまとめます。各生徒に担当の教員がつき、調べ方・書き方などをアドバイスしながら教員全員が論文作成をサポートします。

私は社会科を教えており、2024年度は2人の生徒の修了論文を見ています。1人は「死刑制度」をテーマに、制度を存続するべきか否かを書くそうです。その生徒は現時点で5冊ほどの本を読み、インターネットの情報も集めてきました。論文の内容を濃くするために、夏休みを活用して、大学教授にインタビューをするようです。

もう1人は、「坂本龍馬は本当に良い人だったのか」というテーマで探究しています。大好きな坂本龍馬の功績をもう一度洗い直すことで、龍馬の良さを再発見したいとの思いがあったそうです。その生徒は10冊ほど龍馬に関する本を読み、龍馬の功績の真偽を確かめています(笑)。

編集部

調べ方を工夫するエピソードからも、生徒さんの主体性が伝わってきます。調べたことを人前で発表する機会はありますか?

塩田先生

もちろんです。修了論文が完成した後に「プレゼンテーション大会」を開催し、2年生の前で探究の成果・課題を発表します。

プレゼンテーション大会は2部構成で、1部の「個別プレゼン」は全ての3年生が対象です。数人の2年生の前で発表するため、全体発表よりはプレッシャーが少ないでしょう。2部は全体のプレゼンとなっており、選ばれた代表生徒(合計で6人ほど)が発表します。本校の読書科は、「読む力・書く力・伝える力」を鍛えられるのが特徴です。

興味のある分野を探究し、キャリアの実現に活かす

編集部

ここまで中学校の内容を伺ってきましたが、高校ではどのような活動をするのでしょうか?

塩田先生

高校では大学入試を見据え、志望理由書・小論文の作成に力を入れます。本校の3年生は、学ぶ力を総合的に評価する「総合型選抜」で志望大学を受験する生徒も少なくありません。総合型選抜ではペーパーテストに加えて、志望理由書などの審査と面接試験、小論文で合否を判断するケースが一般的です。

小論文の内容を濃くするためには、自分の興味・関心を掘り下げる必要があります。中学校の修了論文を土台に探究活動を続け、小論文のクオリティアップにつなげるんです。

例えば「数学と音楽の関連性」をテーマに修了論文を書いた生徒は、高校でも大好きな数学の探究を続けていました。大学入試では「ピタゴラスの定理」に関する口頭試問を受け、志望校への合格を勝ち取ったんです。

また、ボランティアで手話をしていた生徒は、修了論文から高校の探究活動まで手話を調べ続けました。小論文のテーマにも手話を選び、希望の大学へ進学しています。本校は中学校から生き方を考え、自分の興味・関心を掘り下げます。中高を通した地道な読書活動や探究学習が「何をもって社会に貢献するか」を考える機会となり、大学入試を含めたキャリアの実現につながっているようです。

学業との両立を実践!盈進中学高等学校が誇るクラブ活動

盈進中学高等学校のもうひとつの軸は、35のクラブ活動です。学業との両立を目指すクラブ活動は、基本的に中高合同で実施します。

ここからは、特に力を入れている硬式野球部・ヒューマンライツ部の活動に迫ってみましょう。

甲子園の出場経験を持つ「硬式野球部」

盈進中学高等学校の高校野球出場風景

▲高校野球の出場風景

編集部

運動系のクラブだと、硬式野球部の活躍が注目されていますよね。硬式野球部の活動について、詳しく教えていただけますか?

塩田先生

硬式野球部は2022年8月に、3度目48年ぶりの甲子園出場を果たしました。ほかのクラブは18時30分で活動を終えますが、硬式野球部は毎日20時まで練習に取り組みます。「チームワークを強める」目的で、近隣に住んでいる生徒も寮生活を送るのが特徴です。

約80人(2024年度)の部員のうち、高校から入学した生徒が大半を占めています。広島東洋カープなどで活躍した元プロ野球選手の江草仁貴(えぐさひろたか)さんは、中学から本校の野球部に所属したんですよ。「10年に1人の左腕(さわん)」と称された彼は学業面も優秀で、強豪校からのスカウトを辞して本校の野球部を選択してくれたと聞いています。

編集部

御校の野球部員さんたちは、大学に進学するケースも多いそうですね。スカウトの際にも、学業面を考慮するのでしょうか?

塩田先生

2024年度で5年目になる現在の監督は、「文武両道」を方針に掲げています。学習とクラブを両立し、将来は大学進学を目指す生徒を募集するため、学習意識の高い生徒が大部分を占めます。9割近い部員が大学進学を希望し、甲子園出場の先にある夢を目指します。

「野球の技術さえあれば、授業料はいりません」といった特別待遇のスカウトを廃止し、学校全体で野球部員の進路をバックアップするようになりました。指定校の数も多く、スポーツ推薦を利用しなくても大学進学を実現できる環境です。

2022年の甲子園出場メンバーも例外ではなく、その多くが国立大学や有名私立大学に進学しました。甲子園を狙いつつ大学進学の目標も叶えられるのは、本校の強みだと思います。

編集部

ハードな練習と勉強を両立するのは大変そうですが、部員さんたちの様子はいかがですか?

塩田先生

毎日、完璧にやり遂げるのは難しいものの、練習を終えて寮に戻ってから2時間ほど自主勉強をしているそうです。試験2週間前からクラブ活動が停止になると、全クラブが放課後学習をクラブ単位で行います。硬式野球部も野球部員全員で集まって勉強する姿も見られます。

学業面はもちろん、あいさつ・礼儀などもきちんと指導されており、学校行事の手伝いにも積極的に参加するクラブです。メリハリの効いたクラブだから、甲子園に出場するほど強くなったのでしょう。寮生活で先輩・後輩の絆も強いため、野球を通して生涯の仲間を作りたいお子さんにもきっと満足していただけると思います。

反戦・反差別を訴え続ける「ヒューマンライツ部」

盈進中学高等学校が実践する平和活動

編集部

文化系のクラブでは、ヒューマンライツ部が特徴的だと伺いました。ヒューマンライツ部は具体的に、どのような活動をするのでしょうか?

塩田先生

ヒューマンライツ部は、ボランティア活動や反戦・反差別に関する研究・活動を行うクラブです。反戦と反差別を軸に、地道な啓蒙活動を続けています。

反戦の活動は、核兵器廃絶運動が中心です。広島県という地域性を活かし、被爆者から戦争体験を伺います。被爆者の証言を英語に翻訳し、1冊の本にまとめる活動も行っています。

そのほか、平和公園を訪れた外国人観光客に声をかけ、核兵器の恐ろしさと核兵器廃絶への願いを伝えています。約30年続けている核兵器廃絶の署名運動が評価され、広島県の「NPTユース非核特使(※)」に10年連続で選ばれました。
※外務省が、軍縮や不拡散分野で活動する若い世代に与える称号

これにより、毎年2人の部員が国連の機関があるニューヨーク(アメリカ)とジュネーブ(スイス)を費用なし(広島県が負担)で訪問できます。帰国後には、2人の部員が中心となってプレゼンを作成し、現地での学びを校内で共有します。ヒューマンライツ部の活動に触発され、他の生徒たちの平和意識も高まっているように感じます。

広島県福山市の盈進中学高等学校にあるヒューマンライツ部・生徒会の活動風景

▲映像と言葉にのせて、被爆者の思いを伝える

編集部

ヒューマンライツ部の地道な活動は、バラク・オバマ元大統領(以後オバマ氏)との対面にもつながったそうですね。どのような背景があったのか、詳しく教えていただけますか?

塩田先生

オバマ氏は、2016年5月27日に現職の米国大統領として初めて広島県を訪問した人物です。実は、1人のヒューマンライツ部員が、平和記念公園でのオバマ氏の演説を間近で聞いていました。数人の高校生に選ばれた理由は、その生徒がオバマ氏と英語で文通をしていたからなんですよ。

その生徒はオバマ氏に手紙を書き、「被爆者の思いを聞いてほしい」と伝えたそうです。すると、広島訪問前にオバマ氏から外務省経由で「広島で会おう」と連絡がきたんです。歴史的な式典で厳重な警備が配置される中、その生徒はオバマ氏と短時間ではあるものの会うことができたと聞いています。

盈進中学高等学校の生徒たちの記念写真

▲歴史的な演説の舞台になった「平和記念公園」

編集部

ここまで反戦の取り組みについてお聞きしましたが、「反差別」ではどのような活動をしているのでしょうか?

塩田先生

反差別の活動では、ハンセン病の問題にも取り組んでいます。「らい菌」と呼ばれる細菌が引き起こすハンセン病は、ゆっくりと進行する慢性の感染症ですが、普通の生活を送っていて感染する心配はほとんどありません。ただ、過去には誤解を受け国から隔離政策を取られてきたという歴史があるんです。

ヒューマンライツ部の部員たちは岡山県の療養所「長島愛生園」を定期的に訪れ、ハンセン病の回復者から直接話を聞きます。隔離政策の矛盾点などを学び、プレゼンやポスターセッションを通して地域の方々に「差別を見抜く目を持つ大切さ」を訴えています

盈進中学高等学校からのメッセージ

盈進中学高等学校の生徒の読書風景

編集部

盈進中学高等学校に興味を持っているお子さん・保護者に向けて、メッセージをお願いします。

塩田先生

2024年度で120年目を迎えた盈進中学高等学校は、人間教育を主軸に、お子さんが社会に出たときを見据えた取り組みをしています。教科学習はもちろん、読書活動から得られる論理的な思考力、プレゼン力や、仲間と共に活動する大切さなど社会人に求められる力を育てます

自分の生き方を見つめる機会が多いので、じっくりと将来の道を考えていきたいお子さんはぜひ本校にお越しください。教職員一同、お子さんのご入学を心よりお待ちしています。

編集部

中学生のうちから読書に親しんでいると、大人になってからも自然と本を開けそうですね。インプットとアウトプットの力は、社会に出てからも役立つと感じます。

本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

盈進中学高等学校の進学実績

盈進中学高等学校の放課後学習風景

▲放課後、生徒同士で集まって勉強できる「学習スペース」

盈進中学高等学校の生徒たちの進路は、国立大学・私立大学から海外の大学・専門学校・就職まで幅広いのが特徴です。

2023年度の卒業生は、北海道大学、大阪大学、九州大学、岡山大学、広島大学(医学部・医学科)などの国立大学に50名ほどが合格しています。また、関西エリアの私立大学だと、関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学に合計40人が合格しています。

また2024年度には、慶應義塾大学・東京理科大学・青山学院大学などへの進学する生徒がおり、関東エリアへの進学も年々増えてきています。卒業生の進路状況からも、1人ひとりの思いを尊重する盈進中学高等学校の校風がうかがえます。

公式:盈進中学高等学校「進路実績」

盈進中学高等学校の保護者からの口コミ

盈進中学高等学校の体育祭風景

▲体育祭の様子。行事などのイベントで熱く盛り上がるのも同校の特徴

最後に、盈進中学高等学校の保護者から寄せられた感想・口コミを紹介します。

クラブ単位の保護者会や文化祭での保護者屋台など、先生・生徒・保護者の距離が近い学校

子どもが理解しやすいように、単元の順番が組まれている。職員室がオープンフロアになっていて、質問しやすい環境

外国人の先生から学ぶ機会があり、英検受験に関するサポートも手厚い

口コミからも、生徒の思いを尊重しながら温かくサポートする先生たちの姿がうかがえます。そのほか、生徒主体の体育祭・文化祭といった学校行事を評価する声もありました。

盈進中学高等学校へのお問い合わせ

運営 学校法人「盈進学園」
住所 広島県福山市千田町千田487-4
電話番号 084-955-2333
問い合わせ先 入試用フォーム
https://www.eishin.ed.jp/forms/contact_exam/
公式サイト https://www.eishin.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください