人間教育に注力する「田園調布雙葉中学高等学校」の“地球社会の一員として生きる”教育とは|中高一貫校

中学受験を検討中のお子さん・保護者に向け、注目の学校を取り上げる本企画。この記事では、東京都世田谷区にある私立女子校「田園調布雙葉(ふたば)中学高等学校」の教育活動を紹介します。

カトリックの女子修道会「幼きイエス会」のシスター方が設立した同校は、幼稚園または小学校から高等学校までの一貫教育(※)を導入しています。
(※)田園調布雙葉小学校附属幼稚園または田園調布雙葉小学校からの進学が原則で、中高での入試は実施していない

キリスト教の価値観に触れる授業や活動を通して、生徒たちの思いやりや他者と協力する心を育むほか、グローバル教育・探究学習なども取り入れており、国際社会で活躍する力を身につけられる環境です。

今回は、校長の滝口先生と教頭の村田先生にインタビュー取材し、同校の教育理念や、キリスト教に基づく心の教育などについて詳しく教えていただきました。

人間教育に重きをおく、田園調布雙葉中学高等学校の教育

「田園調布雙葉中学高等学校」の校長・滝口先生

▲インタビュー取材に対応してくださった校長の滝口先生

編集部

最初に、田園調布雙葉中学高等学校の教育目標を教えていただけますか?

滝口校長

本校は「その人がその人らしく神から愛されていることを伝える」キリスト教の価値観を土台に、国籍・価値観などの差異を超えて支え合い「地球社会の一員として生きる」ことを目指しています。特に重視しているのは、「SIMPLE DANS MA VERTU FORTE DANS MON DEVOIR(徳においては純真に 義務においては堅実に)」の校訓に基づく人間教育です。

「徳においては純真に」とは、人間としての品位を重んじ、人の前ではもちろん、神の前でも裏表なく生きることを表す言葉です。一方の「義務においては堅実に」は、人間として果たすべき義務に対して、誠実に、強く、しなやかさを持ってあたっていくことを意味します。

いずれも、キリスト教の観点から「人間としての生き方」を説いているのが特徴です。

「田園調布雙葉中学高等学校」の教室にある校訓・マリア像・十字架

幼稚園または小学校からの一貫教育で、人格の土台を築く

「田園調布雙葉中学高等学校」の教頭・村田先生

▲教頭の村田先生

編集部

教育目標を実現するために、どのような工夫をされているのでしょうか?

村田教頭

幼稚園もしくは小学校から高等学校までの一貫教育を採用していることが、目標の実現にとって大きな要素になっていると考えています。

本校の生徒は幼稚園から14年間、また小学校から12年間、ほぼ同じメンバーで学校生活を送ります。人格の土台ができるといわれる幼少期からキリスト教の思想に触れ、授業・行事などの体験を重ねて「人としてどのように生きるべきか」を追求していきます。

入れ替わりが少ないため、同学年の仲間とのつながりが深まり、「学年単位で、何かをしていこう」という意識が高まります。仲間と協力する体験を通して、「人と人とが深く関わる大切さ」を学ぶようで、社会に出てからも人とのつながりを大切にする卒業生が多いと思います。

進学先の大学からも、「困っている人に、自然と手を差し出す姿に感心する」と、卒業生の思いやりある行動を褒めていただくことがあります。

田園調布雙葉学園のキリスト教に基づく心の教育

「田園調布雙葉中学高等学校」の聖堂

▲校舎の中央にある聖堂。太陽の光が射し込むこの空間は、生徒にとって大事な場所となっている

田園調布雙葉中学高等学校の大きな特徴は、キリスト教に基づいた心の教育です。校内には生活指導部などと並んで「宗教指導部」が存在し、学校全体で生徒たちの心の教育に尽力しています。ここからは、幼稚園・小学校も含めた心の教育について詳しく教えていただきます。

朝夕の祈りや日々の関わりで、人に尽くす「利他の精神」を学ぶ

編集部

御校の心の教育では、特にどのような点を重視されていますか?

滝口校長

私たちは、キリスト教の根幹である「利他の精神」を伝えることに重きを置いています。利他の精神とは、イエス・キリストが体現した「自分のためではなく、他者のために奉仕する生き方」です。イエスをはじめとする先人の人生に触れ、「困っている人を見捨てない」「違いを認め、生かし合う」といった思いやりの心を身につけてほしいと思っています。

利他の精神の土台になるのは、「人間は神から愛されている」という考え方です。神からの愛を自覚することで心にゆとりが生まれ、「他者を大切にしよう」という敬愛の気持ちにつながります。

本校では朝礼・終礼で「祈りの時間」を設けています。祈りの時間には、教員も一緒に神へ祈りを捧げています。自らが神に向き合う姿を見せ、言葉や文字では難しい「人間の在り方」を伝えていきます。

発達段階に応じた「宗教」の授業を通して価値観を伝えていく

「田園調布雙葉中学高等学校」にあるマリア像

▲玄関ホールにあるマリア様の像は、登校する生徒たちを常に見守っている

編集部

田園調布雙葉学園の幼稚園から高等学校までの宗教の授業について、簡単に説明していただけますか?

滝口校長

幼稚園では「神様の話」を、小学校以降は週に1時間の「宗教」の授業を設けており、児童・生徒の発達段階に合わせ、授業の内容を工夫しています。

幼稚園・小学校では、旧約聖書・新約聖書に記されたイエスの生涯や、キリスト教の教義を中心に学びます。中学校では小学校までの宗教教育を土台に、自分の内面や生き方に迫っていく内容です。

私は現在、高校3年生の宗教科を担当していますが、生徒たちと一緒にキリスト教の価値観に触れる授業スタイルです。「授業内容をどのように感じたか」を自分なりの言葉で表現し、生徒自身に内在するキリスト教の価値観に目を向けます。高校3年生はさらに選択授業の「福祉演習」という授業もあり、奉仕体験を通して人のために働く喜びを感じてもらっています。

編集部

朝・夕方の祈りや、宗教の授業を通して、生徒さんたちはどのように変化していくのでしょうか?

村田教頭

幼稚園・小学校は、先生が伝えられたキリスト教の教えを、素直に受けていく子どもが多いように思います。先生から褒められる・叱られる経験を通し、人間としての在り方を学んでいるように感じます。

滝口校長

本校教員は、目立たないけれど、ひたむきに努力している生徒に目を留めます。陰の努力をみんなに紹介し、「目立つからいいことをするのではない」「たとえ評価されなくても、人のために行動することが大切」という価値観を伝えています。

中学生になると自我が芽生えてきて、「本当にこの教えは正しいのだろうか?」と反抗心を抱く生徒も少なくありません。実は、当たり前に受け入れてきた価値観を疑ってみることは、心の成長において重要な経験なのです。自分なりの問いを立てて試しながら、教えを自分のものにしていくことが大事だと考えています。

高校生からは将来に向け、キリスト教の教えを自分なりに言語化し、「何をもって地球社会に貢献するか」を考えます。特に卒業を控えた高校3年生は12年・14年の集大成の時期ということもあり、他学年に比べて3〜5倍のスピードで成長していることを感じます。

校長・先生・生徒の価値観に触れられる「宗教放送」

編集部

祈りや宗教の授業以外に、生徒さんの心を育む取り組みはありますか?

滝口校長

朝の祈りの時間の「宗教放送」を通して、生徒たちの思いやりや、奉仕の心を育てています。宗教放送は週に3回(月曜・水曜・土曜)のペースで実施されます(※)。本校の宗教放送は校長だけではなく、先生方や一部の生徒たちにも話をしてもらうのが特徴です。
(※)宗教放送のない火曜・木曜・金曜には、全員で聖歌を歌う

私が担当するのは月曜で、私が読んで心に残った本や、見聞きした人のために尽くす行動などを取り上げます。12月にはクリスマス、4月には復活祭のことなど、季節に合わせてキリスト教の行事について話す放送内容もあります。

編集部

水曜と土曜はどなたが担当されるのでしょうか。

村田教頭

水曜日を担当するのは各クラスに2人ずついる「宗教係」の生徒です。宗教係は、宗教放送以外にもインドの教育里親活動や赤い羽根共同募金活動をはじめとする奉仕活動にも参加しています。

土曜日の放送は、教員が順番に担当します。約3年間で2周するペースで担当するので、生徒たちは全ての教員の価値観に触れることになります。

編集部

生徒の方々の放送で、印象に残っているものを教えていただきたいです。

村田教頭

先週の宗教放送では、中学3年生の宗教係の生徒が、2024年4月に亡くなられた星野富弘さんの人生に触れて、「幸せの定義」について考えたことを話していました。

中学校の教師であった星野さんが部活動の事故で首から下の身体機能を失い、その後、口に筆をくわえて四季折々の水彩画と詩を組み合わせた作品を創作されるようになった経緯を紹介して、その上で「自分に与えられたものを見て、不公平だと感じていませんか?」と問いかけていました。

絶望の中から新たな希望を見い出された星野さんの人生に触れて感じた想いを、「健康な生活を送り、悩みがない人生が幸せといわれているけれど、与えられたものから幸せを見出す力が大切なのではないか」と、自分たちなりの言葉で訴えていました

もちろん、「幸せ」の定義は人それぞれで、正解・不正解はないでしょう。ただ、宗教係の生徒の内面から発せられる言葉は、他の生徒たちの心に響いているのではないかと思います。

田園調布雙葉学園の「可能性を広げる」取り組み

「田園調布雙葉中学高等学校」の教室風景

田園調布雙葉中学高等学校には、学習面のカリキュラムも豊富です。具体的には、学年で取り組む5つの領域を設定し、「地球社会の一員として生きる」ために必要な知識・経験を身につけます。ここからは、グローバル教育と探究活動について、詳しく伺ってみましょう。

海外校と連携し、国際社会での活躍を目指す「グローバル教育」

編集部

御校は、グローバル教育にも力を入れているそうですね。具体的には、どのような取り組みをされていますか?

村田教頭

本校を設立したのは、フランスで誕生した修道会の「幼きイエス会」です。幼きイエス会の姉妹校は世界各国にあります。

中でもシンガポールの姉妹校との交流が深く、6月にはシンガポールの姉妹校の生徒が本校の生徒の家にホームステイしました。8月には、本校の高校生の希望者がシンガポールに渡航し、ホームステイをさせていただく予定です。

そのほかに、オーストラリアでの約2カ月半のターム留学(高校1・2年生の選抜)を行ったり、夏休みにアメリカの大学で学ぶプログラム(高校1・2年生の希望者)に参加することもあります。

校内では、中学1学年の希望者を対象とした「イングリッシュシャワー」や、中学校レシテーションコンテスト、高校スピーチコンテストなどを実施したり、学校で「ケンブリッジ英検」の試験を行って、中学1年生から高校3年生までの全学年の生徒が受験をしています。生徒たちは、全体的に英語への興味・関心が高く、海外の大学を志望したり、全国レベルのスピーチコンテストで表彰される生徒もいます

ただ、英語力を向上させることを目的にしているのではなく、最終的な目的は、生徒たちが地球社会の一員として生きる人に成長していくことです。そのための教育が、本校のグローバル教育だと捉えています。

生徒たちの声を取り入れた「探究活動」では、ボランティア精神も発揮する

編集部

田園調布雙葉中学高等学校は、授業や学年活動の一貫として探究活動にも熱心に取り組んでいらっしゃいますよね。その中でも特徴的な活動があったら、詳しく教えていただけますか?

滝口校長

様々な活動が行われていますが、生徒たちの声からスタートするのが特徴です。例えば、現在も続く東日本大震災(2011年)の被災地支援の活動も、生徒たちによる「被災地で苦しんでおられる方々のために、何かできないか」との思いが原点になっています。

東日本大震災が起きた後の宗教放送で、私は東北地方のある学校の生徒会活動を取り上げました。その学校の生徒会のメンバーは自分たちも被災した状況にかかわらず、被害が大きかった地域の子どもたちへ文房具などを寄付する活動をしていたのです。金子みすゞさんの「こだまでしょうか」の詩を添えて彼らの活動を紹介したところ、本校の生徒たちから「自分たちも何かしたい」という声があがりました。

その結果、当時の高校3年生の有志が、放送で紹介した福島県郡山市の学校を訪問することになりました。

村田教頭

被災地でのボランティア活動に参加した教員もたくさんいましたが、そのつながりから、岩手県の釜石市の「カリタス釜石」を訪問するようになりました。毎年、クリスマスの時期に生徒を連れて釜石市を訪れ、地域の方を招いたパーティーを開催していて、現在でも交流が続いています。

編集部

エピソードからも、キリスト教の「奉仕の心」がしっかりと生徒さんたちに身についていることが伝わってきますね。そのほかには、どのような活動をしていますか?

滝口校長

宮城県女川町(おながわちょう)で自ら被災されながら支援活動をしておられる方とのつながりで、スタートした支援活動があります。具体的には、クリスマスリースや正月飾り、母の日のカードなどを生徒たちが手作りし、仮設住宅で暮らす方々にプレゼントしています。この活動はメディアからも注目され、NHKからの取材を受けたこともあります。

女川町の方と一緒に考案した商品を販売する活動に発展して、現在でも中学生が探究活動の一貫として商品開発に挑戦しています。学校側が与えるのではなく、「やってみたい」という生徒たちの声や、人との関わりの中から広がっていくケースが多いです。

田園調布雙葉中学高等学校の進学実績

「田園調布雙葉中学高等学校」の図書室風景

▲広い図書室には自習スペースがある。貸し出しでは「赤毛のアン」が人気!

編集部

国立・私立を問わず、難関といわれる大学にもたくさんの生徒さんが合格していますね。学校としては、どのような進路指導をされていますか?

滝口校長

国公立大学や医学部に進学する生徒が一定数いて、「難関」と言われている私立大学に進学する生徒も多くいますが、どの大学に合格するかということではなく、「その人がその人になっていく」ということを大切にして進路指導を行っています。自分の生き方を考え、自分の得意・不得意を分析して、「何をもって社会に貢献するのか」を見つめていくのです。

キリスト教の「他者に尽くす精神」に共感し、人の命と対峙する医療の道に進むことを決意した生徒もおりました。医師になるための通過点として大学の医学部に進学し、医療の知識や経験を積んでいるようです。進学先の教授からはよく、「生命に対する感性が深く、人に尽くす奉仕の心が身についている」とのお声をいただきます。

医療の知識は大学からでも勉強できますが、生命の尊厳や患者様の痛みに共感する姿勢、その家族の思いを想像する力は、幼少期から少しずつ養われていくものです。教授からお褒めの言葉をいただくたび、幼少期から「生命・生き方」に目を向けていくことの重要性を実感しています。

公式:田園調布雙葉中学高等学校「進路情報」

田園調布雙葉中学高等学校からのメッセージ

「田園調布雙葉中学高等学校」の校長・滝口先生

編集部

田園調布雙葉中学高等学校に興味を持っているお子さん・保護者に向けて、メッセージをお願いします。

滝口校長

幼少期から高校を卒業するまでの十数年は、人間の土台をつくる時期といえます。この時期は白いキャンパスのようにまっさらで、感性がみずみずしいからこそ、「何に触れるか」で人生の質が大きく変わるんです。

本校は中学2年生から高校2年生まで毎年、宿泊行事があります。仲間との絆が深まり、卒業後もやり取りするケースも多いです。同窓会や学校説明会・進路懇談などに参加してくれる卒業生もたくさんおります。

知識・スキルはいつからでも身につけられますが、生き方・価値観に関しては幼少期の教育が大切です。ぜひ本校でキリスト教に基づく人間教育を学び、人生をよきものへと充実させていただきたいと思います。

編集部

卒業生の姿を見て、会社の上司などが「彼女のように、思いやりのある人間に育ってほしい」と、ご自分のお子さんの入学先に選ぶケースも多いそうですね。御校の人間教育が着実に実を結び、周囲にいい影響を与えていることが伝わってきます。

本日は、学校選びの参考になるお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

田園調布雙葉学園の入試情報をチェック

「田園調布雙葉中学高等学校」の生徒たちが作成した学校案内

▲生徒たちが作成した学校案内

田園調布雙葉中学高等学校に進学するためには、幼稚園・小学校のいずれかを受験する必要があります。2025年度の出願登録期間は2024年9月1日正午〜10月1日正午(小学校は10月2日正午)までです。

幼稚園説明会は2024年7月20日の9:30〜10:45に、小学校の講堂で実施される予定です。説明会が終了した11:00〜12:00には、希望者のみ園舎・園庭を見学できます。7月19日の正午まで予約を受け付けており、専用フォームから申し込みが可能です。

公式:田園調布雙葉学園「幼稚園 入試に関するお知らせ」

一方、小学校の学校説明会は1回目が終了しており、2回目は2024年9月14日に実施される予定です。8月14日の9:00から申し込みを開始するそうなので、興味のある人は、こまめに公式サイトを確認してみてくださいね。

公式:田園調布雙葉学園「小学校 入試に関するお知らせ」

田園調布雙葉中学高等学校の保護者からの口コミ

「田園調布雙葉中学高等学校」のグラウンド

▲都内でも人気のまち「田園調布」の自然を感じられるグラウンド

最後に、田園調布雙葉中学高等学校の保護者から寄せられた口コミを紹介します。

全体的に、穏やかな生徒が多い。過度な競争意識がない一方で、切磋琢磨できる雰囲気がある。

カリキュラムが整っており、進路指導も手厚いと思う。

部活と勉強のメリハリがあり、和気あいあいと活動している。

口コミからは、充実した学習サポートと、お互いに高め合える校風がうかがえます。そのほか、広い体育館や談話に便利なカフェスペースなど、設備面を評価する口コミも見られました。

「田園調布雙葉中学高等学校」の校内風景

▲清潔感あふれる校内。ラウンジ(左上)は生徒が自由に使用できる人気のスペース

田園調布雙葉中学高等学校へのお問い合わせ

「田園調布雙葉中学高等学校」の校門

運営 田園調布雙葉学園
住所 東京都世田谷区玉川田園調布1-20-9
電話番号 03-3721-5484(事務局)
公式サイト https://www.denenchofufutaba.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください