岡山大安寺中等教育学校が「チーム大安寺」で取り組む将来を見据えた教育| 中高一貫教育校

ぽてん読者の皆さまに、特色ある教育プログラムを持つ注目の学校を紹介するこの企画。今回は岡山県岡山市にある県立・共学の中高一貫教育校「岡山大安寺中等教育学校」を紹介します。

岡山大安寺中等教育学校は、中学校・高校を区別せず6年間の一体的な教育を行う岡山県初の公立中等教育学校として、2010年に開学しました。

中等教育学校のメリットを活かし、6年間を見通した体系的なカリキュラムづくりを行っており、英語だけで授業を行う「スピーキングイングリッシュ」や海外研修を通じたグローバル教育のほか、探究学習やキャリア教育にも力を入れています。

また、1年生が日常的に6年生の背中を見ながら学校生活を送る環境は、異学年交流を通じた人間性の成長につながっています。

今回は、そんな岡山大安寺中等教育学校の教育内容について、校長の三村美紀先生と主幹教諭の速水達行先生に詳しく伺いました。

生徒や教員が「チーム大安寺」で共に成長する岡山大安寺中等教育学校

岡山大安寺中等教育学校の三村美紀校長(左)、主幹教諭の速水達行先生(右)

▲2024年4月から校長を務める三村校長(左)と速水先生(右)

編集部

まず、岡山大安寺中等教育学校の教育理念を教えていただけますか?

三村校長

本校には、前身校である県立岡山大安寺高等学校の時代から大切に守り続けてきた「師弟同行(していどうぎょう)」という教育理念があります。

これは仏教から生まれた言葉で、「師と弟子が心を同じくして修行に励む」という意味を持ちます。教育においても教師が上から知識を授けるのではなく、生徒と同じ方を向いて「チーム大安寺」として共に歩んでいきたいと考えています。

この理念のもと、高い目標の実現に向けて主体的に取り組める人、協調性や思いやりの心を持ち国際社会に貢献できる人、そして豊かな教養と品性を備え、世界でリーダーとなる人の育成を目指した教育を行っています。

教育理念「師弟同行」と書かれた書

▲教育理念の「師弟同行」と書かれた書

中等教育学校だからこそのメリット「異学年交流」をしやすい校舎

岡山大安寺中等教育学校の校舎外観

編集部

中等教育学校のメリットについて、どのようにお感じですか?

三村校長

まず学習面では、中学校課程と高校課程を分断しないことで、6年間を通したより系統だった教育プログラムを提供できます。

人間性の育成という面では、入学から卒業まで6年間を同じメンバーで過ごすことで深い人間関係を築くことができるのに加え、異学年交流を通じた成長が期待できます。

通常、中学1年生のお手本は中学3年生ということになりますが、本校の場合は高校3年生にあたる6年生をお手本にできます。6年生が下級生をリードする様子や大学入試に臨む姿を間近で見られることはとても刺激になると思います。

編集部

より先の自分の姿をイメージしながら学校生活を送ることができるのですね。

三村校長

そのような効果を高めるため、教室の配置も工夫しています。前期生が使う棟と後期生が使う棟を分けるのではなく、6年生の教室のひとつ下のフロアに1年生の教室を設置するなど、日常的に自然と異学年が交流できるような環境づくりを意識しています。

また、新入生を迎えた時は、2年生が学校案内を担当したり、3年生が1年生の教室を訪問して授業や宿題への取り組み方をアドバイスしたりしています。

体育祭などの学校行事でも上級生が下級生をリード

白鷺祭の応援の様子

編集部

文化祭や体育祭などの学校行事でも異学年が力を合わせて取り組む場面があるのでしょうか?

速水先生

はい。本校では毎年9月に「白鷺祭(しらさぎさい)」という名前で文化祭と体育祭を開催しています。体育祭では、縦割りの4つのブロックに分かれ、1ブロック240名の大きなグループで取り組んでいます。

体育祭の名物に1分間パフォーマンス(応援合戦)があり、6年生がグラウンドの真ん中で演舞をし、その後ろに1年生から5年生までのメンバーが整列して手拍子や歌で支援します。

練習の際は6年生が忙しい合間を縫って下級生の教室へ行って指導を行い、本番で240名が一体となって演舞する姿は素晴らしいの一言に尽きます。

編集部

上級生がリーダーとなり、しっかりとチームを率いているのですね。

速水先生

はい。学校行事では企画立案から実行まで高学年が中心となって運営しています。そして、そんな先輩の背中を見た下級生の中には「次は自分たちが引っ張っていくんだ」という気持ちが芽生えていきます。

編集部

中等教育学校だからこそ、上級生には責任感が、下級生には成長意欲が生まれやすい環境があるのですね。

13名が東大合格。岡山大安寺中等教育学校の特色ある教育内容

岡山大安寺中等教育学校の生徒が授業を受けるようす

岡山大安寺中等教育学校は、難関大学への合格者も多く輩出しており、2024年度は13名が東京大学に現役合格しました。

ここからは、学力向上の秘訣や特色ある教育内容について伺っていきます。

先行学習や読書量の多さが大学の合格実績に結びつく

編集部

大学入試で実績を上げる岡山大安寺中等教育学校ですが、その理由についてどのようにお考えですか?

速水先生

まず、中等教育学校ということで、中高の内容を体系的に組み直して1年生の時からしっかりと出口を想定した授業ができるメリットがあります。

先行学習できる環境にもあるため、特に国語、数学、英語は最初の2年間で中学の学習内容を習得し、3年生からは高校の内容に入ります。

また、読書量も関係していると考えています。2024年度入試を受けた学年の学年主任は、大学入試においては読書量も重要な要素になると考え、意識的に力を入れていたとのことです。ものを読み解く能力は国語だけでなくあらゆる学習の基本になるので、読書量の多さも2024年度入試の結果につながったのではないかと分析しています。

編集部

読書に関しては、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

速水先生

図書館の蔵書がとても充実していると外部からも評価されており、県内の学校としてはトップクラスの貸し出し数を記録しています。

図書委員の生徒や司書、図書の係の教員が中心になって書籍を紹介するポップを制作するなど、本を読みたくなるような工夫をしており、図書館はいつも生徒で賑わっていますよ。

岡山大安寺中等教育学校の図書館

▲図書館は蔵書が充実し、ポップなどで展示が工夫されている。

英語オンリーの授業や海外研修で語学力や国際感覚を養う

岡山大安寺中等教育学校の生徒がオーストラリアで記念撮影する様子

▲海外研修先のオーストラリアで。

編集部

国際社会に貢献できる人の育成を掲げていますが、英語力や国際感覚を身につける教育として、どのようなことを行っていますか?

三村校長

本校の特徴的な授業に、日本人の先生とALT(外国語指導助手)がチームになって実践的な英会話を教える「スピーキングイングリッシュ」があります。週に1度のこの授業では、先生も生徒も日本語を使わないで、オールイングリッシュで会話を行います。

前期課程の集大成として3年生の3月にオーストラリアでの海外研修があるので、スピーキングイングリッシュではこの研修の際に現地の人としっかり話せるようになることを目標に取り組んでいます。

編集部

海外研修ではどのような経験ができますか?

速水先生

この研修は全員参加が基本で、1家庭に1名または2名の生徒で10日間程度のホームステイをし、現地の学校で語学研修を行います。

あとで感想を聞くと、ホームステイが一番印象的だったと言う生徒が多いですね。英語しか通じない環境で英語だけで会話することは大変でもあり、やりがいを感じる経験でもあったと言ってくれます。

出発する時は不安そうな顔をしている生徒もおり、私たちは親心で胸を締め付けられながら送り出すのですが、帰国する時にはホストファミリーと涙を流しながらハグするほど仲良くなっています。帰国後もホストファミリーと文通を続けている生徒もおり、一生の宝になるような経験になっていると感じます。

編集部

3年間で身につけた英語力を試す場となっているだけでなく、人間としての成長の機会にもなっているのですね。

速水先生

保護者の皆さまの経済面でのご支援があってこその研修ですが、その後の進路や人生を考えると十分に価値のある内容になっていると思います。

科学を深掘りする探究学習や「コミュニケーション」を学ぶ授業も

岡山大安寺中等教育学校の生徒が授業を受けるようす

編集部

岡山大安寺中等教育学校ではどのような探究学習を行っていますか?

三村校長

総合的な学習や探究の時間は1年生から5年生までありますが、なかでも特徴的なものとして、3年生を対象にした「探究の科学」があります。

物理、化学、生物、地学の実験や実習を通じて、科学を深堀りするもので、白衣を着て試験管を使った実験をしたり、振り子の重りの高さと速さの関係を調べたり、ダンゴムシの曲がり方を研究したりと、さまざまな探究に挑戦しています。

編集部

ほかにも、岡山大安寺中等教育学校ならではの授業があればご紹介ください。

三村校長

1、2年生を対象に「コミュニケーション」の授業を行っています。自分のことを表現するためのスピーチや、グループで対話するディスカッションやディベートのスキルを学びます。

1年生の初めの頃に行うコミュニケーションの授業は、これから6年間を一緒に過ごす人たちと良い仲間づくりをするために相手の良い面を見つけることからスタートします。

編集部

スピーキングイングリッシュ、探究の科学、コミュニケーションという特色ある科目は、どれも学びを深めるうえで重要な役割を果たしていると感じました。

東大や東工大を訪問。岡山大安寺中等教育学校のキャリア教育とは

岡山大安寺中等教育学校の生徒がグループになって課題に取り組むようす

編集部

岡山大安寺中等教育学校ではキャリア教育にも力を入れていると伺いました。具体的な取り組みについてお聞かせいただけますか?

三村校長

お仕事をされているプロフェッショナルをお招きし、ご自身の経験やお仕事内容、その職業を選んだ理由などについて聞く機会があります。

また、東京や関西にある大学を訪問する機会もあり、最近ですと、「東京グローバル研修」として東京大学や東京工業大学の研究室を見学させていただきました。東大ではちょうど学園祭を行っていたので、それも合わせて大学の雰囲気を感じました。

編集部

ハイレベルな大学を実際に訪問することは、とても貴重な経験になりそうですね。

三村校長

ありがたいことに、本校の卒業生には難関大や医学部に進学した人も多く、そのような先輩と直接話せる機会がたくさんあります。

東工大の研究室にも大安寺高校OBの教授がいらっしゃるので、この訪問が実現しました。東大に通っているOB・OGの学生と座談会をする機会もあり、先輩の経験や目指すキャリアなどを聞いて自身の将来を考える機会になったと聞いています。

編集部

活躍している先輩の姿を見る機会が多いことは、生徒さんが難関大を目指すモチベーションにもつながりそうですね。

3日間の職業体験には地元の銀行や放送局などが協力

編集部

職業体験の学習もあるそうですね。

速水先生

1年次には本校の保護者を中心に職業人に来校していただき、職業人としてのお話を聞かせていただく「プロフェッショナルに聴く」を実施しています。

2年生は「チャレンジワーク」として3日間ほどの職業体験を行います。本校は1学年の生徒数が160名ですが、75ヶ所ほどの事業所にご協力いただいており、地元の銀行や放送局、警察署、全国展開されている企業の岡山オフィス等に快く受け入れていただいています。

編集部

体験した生徒さんからは、どのような声があがっていますか?

速水先生

「こんなに大変だと思わなかった」とか「知らないことがたくさんあった」など、感想はさまざまですが、どの生徒も実際に働いてみたからこその発見があるようです。

違いを受け入れ、頑張る人を応援できる生徒が多い

岡山大安寺中等教育学校のフェンシング部の生徒が試合をするようす

▲フェンシング部は全国大会に出場するなど強豪として知られる。

編集部

三村校長は2024年度から岡山大安寺中等教育学校の校長をお務めとのことですが、学校や生徒さんの雰囲気をどのようにお感じですか?

三村校長

生徒はとても明るく元気で、意欲的に学習や学校行事に取り組んでいると感じます。素直な生徒ばかりで、朝、校門に立って挨拶をすると、男子も女子もしっかりと目を合わせてにこっと会釈して「おはようございます」と返してくれます。

また、一人ひとりが高い能力を持ちながらも、控えめで謙虚なところがあるのも本校の生徒の特徴だと感じます。多様性を認め合って協働できる人が多いのだと思います。

先生たちも一致団結して親身になって生徒を支援しており、このような生徒や教員と「チーム大安寺」を作っていけることを楽しみにしています。

編集部

岡山大安寺中等教育学校に赴任して驚いた習慣や伝統はありますか?

三村校長

長距離ウォークの行事には驚きましたね。体力や忍耐力をつけるために2年生は25km、5年生は44kmを歩くのですが、私が工業高校に勤めていた時でもここまでハードな行事はありませんでした。

しかし、実際に参加してみると、生徒は美しい景色を見つつ友達とお話ししながら楽しんで歩いており、仲間との絆を深める大事な伝統行事になっていることがよくわかりました。

長距離ウォークを終えゴールする岡山大安寺中等教育学校の生徒

▲2年生と5年生が参加する長距離ウォークは岡山大安寺中等教育学校の伝統行事。

編集部

速水先生は開校当時からお勤めだということですが、生徒さんの印象をどのようにお感じですか?

速水先生

本校にはさまざまなタイプの生徒がいますが、お互いを認め合い、頑張っている人を心から応援できる点は共通しています。

広い視野と大きな度量を持った人が多いので、伸び伸びと学校生活を送ることができると思います。卒業生からは課題が多くて大変だったという話をよく聞きますが、「あの課題の量に比べたら大学の授業は楽勝です」と言ってくれます。

それから、最近、本校の1期生について、現在の様子を聞く機会がありました。彼女は貿易関係の仕事で世界中を飛び回りながら活躍しており、大安寺で過ごした6年間で勉強や部活動、学校行事を通じてさまざまな挑戦をしたことが今の職業や生き方に役立っていると言っていました。

彼女のように、本校での6年間を前向きに肯定的に捉えてくれるお子さんや保護者の方は多いと感じています。

岡山大安寺中等教育学校からのメッセージ

岡山大安寺中等教育学校の三村美紀校長(左)、主幹教諭の速水達行先生(右)

▲取材に応じていただいた三村校長(左)と速水先生(右)

編集部

最後に、記事をご覧の子どもさんや保護者の方にメッセージをお願いします。

三村校長

高い志と知的好奇心を持ち、主体的に学ぶこと、思いやりの心を持ち、周りの仲間を大切にすること、そして社会のさまざまな問題に関心を持ち、解決への道筋を考えること。そんな姿勢を持つ人に育っていただきたいと考えています。

小学生の段階でも、このようなことができているか、ぜひ自分自身に問うてみてください。

速水先生

「リアクションからアクションへ」という考えのもと、失敗を恐れず主体的に挑戦できる人へと成長できるよう、教員は全力で支援したいと考えています。

編集部

中等教育学校というメリットを最大限に活かした教育を行う岡山大安寺中等教育学校。ここで過ごす6年間は、生徒が自分の進路や将来をしっかり考え、その可能性を広げることにつながりそうだと感じました。

本日はありがとうございました!

岡山大安寺中等教育学校の進学実績

岡山大安寺中等教育学校の校舎外観

岡山大安寺中等教育学校では近年、東京大学などの難関大学や、医学部をはじめとする難関学部・学科へ数多くの進学者を出しています。

2024年度は東京大学に13名、京都大学に3名、国公立医学部医学科に12名が現役で合格したほか、慶應義塾大学に3名、早稲田大学に14名など難関私立大学にも多くの合格者を出しました。

■近年の進学状況(岡山大安寺中等教育学校の公式サイト)
https://www.daianji-ss.okayama-c.ed.jp/course/

岡山大安寺中等教育学校の生徒・保護者の口コミ

岡山大安寺中等教育学校のグラウンド

最後に、岡山大安寺中等教育学校に通う生徒や保護者の声を紹介します。

(生徒)前期課程のうちから受験について意識づけをしてくれます。テスト前や英検の面接前など、学習サポートも充実しています。

(生徒)縦のつながりが強く、楽しい学校です。また、頑張る生徒が多いので、自分のやる気につながります。

(生徒)図書館が充実していて、約5万冊の本があります。気になるニュースの新聞記事を検索できる機能もあります。

(保護者)学習意欲が高い同級生と切磋琢磨しながら勉強や部活動に取り組める素晴らしい環境があります。

(保護者)学校全体に個性や違いを認め合う雰囲気があります。先生と生徒の関係も良さそうです。

学習面では充実したサポートを評価する声が目立ちました。また、縦のつながりや生徒と教員の距離の近さなど、中等教育学校だからこそのメリットを生徒や保護者も実感していることがうかがえました。

岡山大安寺中等教育学校へのお問い合わせ

岡山大安寺中等教育学校の校名が書かれたプレート

学校名 岡山大安寺中等教育学校
住所 岡山県岡山市北区北長瀬本町19-34
電話番号 086-255-5013
公式サイト https://www.daianji-ss.okayama-c.ed.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください