中学受験を検討中のお子さま・親御さまに向け、画期的な学校を取り上げる本企画。今回紹介するのは、岡山県倉敷市にある共学校「岡山県立倉敷天城中学校・高等学校」です。この記事では、特に倉敷天城中学校の取り組みについて紹介します。
1906年に開校した同校は、6年間でカリキュラムが組まれた公立の中高一貫教育校です。18年にわたって積み重ねた探究活動は他校からも注目されており、集大成の課題研究発表会には関東地方からも観客が訪れます。
今回は、中学校の副校長・蒲生先生と総務課長で保健体育を担当されている鈴木先生にインタビュー取材し、同校の教育理念や、特に力を入れている取り組みについて詳しく伺いました。
この記事の目次
努力と挑戦ができるたくましい人を育てる、倉敷天城中学校
▲インタビューに対応してくださった副校長の蒲生信博先生(左)と総務課長の鈴木浩司先生(右)
まずは、御校の校訓について簡単に説明していただけますか?
本校の教育活動を貫く校訓は、“いたずらに華美を追わず、強くたくましい心身を鍛えよう”を意味する「質実剛健(しつじつごうけん)」・“勉学に励むだけでなく、何事も力の限り努力しよう”を意味する「勤勉力行(きんべんりっこう)」・“いかなる困難にも、ひるまずくじけず、挑戦する気力を持とう”を意味する「不撓不屈(ふとうふくつ)」の3つです。
この3つを、本校の創立者で初代校長でもある「鉄軒先生」と呼ばれた大塚香先生の名前から「鉄軒(てっけん)精神」、いわゆる建学の精神として掲げ、頭・心・体のバランスがとれた人間の育成を目指しています。
開校から120年近く経過しますが、今も変わらず「鉄軒精神」は生徒や教員たちの合言葉になっており、入学式・卒業式をはじめとする式典では、私立学校のように創立者の写真を見ながら、全員で鉄軒精神を確認します。
鉄軒精神は中学・高校時代はもちろん、大学進学や就職後にも生かせる考え方です。本校の生徒たちの特徴でもある「目標に向かってコツコツと努力する力」は、鉄軒精神の現れといえます。中学・高校時代に刻んだ鉄軒精神を胸に、卒業生たちが社会のさまざまな分野で活躍してくれています。
10年以上前から実施。他校からも注目される探究活動
▲中学3年生の「課題研究発表会」
御校は、探究活動を重視されているそうですね。独自のカリキュラムがあるのでしょうか?
本校は、国が「探究」に注目する10年以上前から探究活動を続けてきています。長年実践を積み重ねた本校の探究カリキュラムは、どこにも負けないと自負しております。
ひと口に「探究活動」と言ってもカリキュラムは学校ごとに異なるため、学校側が試行錯誤を重ねてカリキュラムを完成させる必要があります。本校では開校当時からの実践で培った、地域性や学校の特色を生かしたカリキュラムが確立しているため、他校の先生が研究視察でいらっしゃることもあります。
ただ、18年の実践で培ったカリキュラムですから、どこでも取り入れられるというものではないようで、「そこは真似できませんね」とおっしゃる先生も多いです。
どのくらいの時間をかけて取り組んでいらっしゃるのでしょうか?
探究活動は主に、週に1時間ずつ設定された「AMAKI学」「グローバル」「サイエンス」の時間に実施します。いずれも中学1年生・2年生では体験を通して学びを深め、3年生で課題研究に取り組む流れです。
3年生の2月に開催される「課題研究発表会」では、探究学習の集大成としてプレゼンに挑戦するのですが、2月の課題研究発表会には、県内はもちろん、四国地方や関東地方からも多くの学校関係者や大学の先生、小学生たちが来校します。優秀作品を決めるコンクールなど、会場が盛り上がる取り組みも好評です。
学校外の方も含めたたくさんの観客の前でプレゼンするという体験ができるのも、本校ならではの強みだと思います。
関東への修学旅行では、名門大学の教授の前でのプレゼンも経験
多くの観客を前にして、プレゼンをするのは緊張しそうですね。生徒さんのプレゼン力を鍛えるために、どのような工夫をされていますか?
他の中学校や大学と連携し、外部の方々の前でプレゼンをする機会を設けているところです。例えば、本校と同じくスーパーサイエンススクールに指定された「横浜サイエンスフロンティア高等学校附属中学校」さんと交流会をして、お互いに課題研究発表を見せ合います。
また、関東地方を舞台にした3泊4日の修学旅行では、大学の教授やゼミ生などの前でプレゼンを披露するんです。具体的には、生徒たちを7つのグループに分け、東京大学・筑波大学・早稲田大学・お茶の水女子大学といった7つの大学からひとつを選んで訪問します。
大学の教授やゼミ生たちは専門性が高い分、指摘も鋭いです。生徒たちは厳しい指摘も前向きに受け止め、発表内容の改善につなげています。大変な一方で充実感もあるようで、高等学校に進んだ生徒からも「課題研究ではたくさん悩んだけれど、楽しかった」という声を聞きます。
▲「横浜サイエンスフロンティア」との交流会
▲歴代の課題研究を掲示し、生徒たちの研究意欲を引き出す
プロフェッショナルを学校に迎え「本物」から学び、思考を深める
▲「なるほどプロフェッショナル」
学年ごとの探究活動の内容について、さらに詳しく教えてください。中学1年生・2年生では、具体的にどのような体験ができるのでしょうか?
AMAKI学・サイエンスともに、「本物から学ぶ体験」を大切にしています。例えば、1年生のAMAKI学で職業について学ぶ際には、「なるほどプロフェッショナル」を実施します。地域の医師をはじめとするプロフェッショナル12名程度、学校にお迎えし、生徒たちの前で仕事に関するお話をしてもらうんです。
職業によって、仕事内容や現状、抱えている課題などは異なります。私たち教員が伝えられない現場の実情を、その分野で活躍する「本物」たちに語っていただいているところです。
また、1年生・2年生たちが広島大学や岡山大学などに出向き、講義形式で話を聞いたり、大学に通う卒業生にキャンパスを案内してもらったりするケースもあります。1年生の段階から、課題研究に向けて「本物」に触れる体験を積み重ねていけるのは本校の強みだと思います。
サイエンスの授業では、どのような「本物」の方々に触れられるのでしょうか?
最先端の研究に取り組む大学の先生たちを招き、各学年につき最低でも1人の先生に特別授業をしていただきます。本校は2005年から4期連続(1期につき5年間)で、文部科学省の「スーパーサイエンスハイスクール」に指定されているんです。地道な取り組みが大学の先生からも注目され、特別授業の参加につながっています。
公立学校なので予算が決まっていますが、プロフェッショナルの話を聞く機会は生徒たちの可能性を広げます。今後も予算を削ることなく、大学の先生をお呼びし、話を聞く機会を設けたいと思っています。
▲校内で「サイエンス教室」を実施。科学思考力を養う
約20人の先生たちが協力!少人数のゼミで研究内容をブラッシュアップ
3年生の課題研究についても、詳しく教えていただけますか?
課題研究はひとりにつき1題のテーマを決め、他学年の先生もサポートに入るのが特徴です。具体的には120人ほどの3年生に対し、20人ほどの先生がゼミ形式で課題研究を進めます。私は管理職になる前は理科を教えていたのですが、開校からの3年間は、3人の理科担当で120人ほどの生徒をサポートしていました。ただ、1人が40人の課題研究を見るのは想像以上に難しく、どうしても1人ひとりへの指導が手薄になってしまうんです。
そこで学年の先生に参加してもらい、翌年には他学年の先生にも協力をお願いし、倉敷天城中学校のすべての先生がゼミを持つことにしました。もちろん最初から順調に進んだわけではありませんが、今は先生たちの協力体制が整っています。
約10人にひとりの先生がつく形なら、きめ細やかなアドバイスがもらえそうですね。課題研究のテーマは、生徒さんたちが自由に設定するのでしょうか?
そうです。私は保健体育の担当ですが、「50m走の測定について、最初の10mで歩幅を1歩増やすと、速く走れるのか」や「長距離走について股関節の角度に注目・改善することで、タイムは速くなるのか」など、疑問に思ったことをテーマにする生徒が多いですね。
「課題研究発表会でプレゼンをする」というゴールが決まっているので、クラスの仲間やゼミのメンバー、担当の先生とディスカッションしながら発表の内容を深めていきます。
ディスカッションで質問された内容を調べたり、新たな疑問点を洗い出したりしながら、1年ほどかけてA0サイズ(縦118.9cm・横84.1cm)のポスターを作成します。さらに1人あたり4ページの論文も書くので、情報を整理する力と文章力が同時に鍛えられますよ。
本校のディスカッションは、クリティカル(批判的)に問いかけるのが特徴です。客観的な視点で「これはどうなの?」と疑問点を追究してもらうことで、より聞き手に伝わる発表内容に仕上がります。昼休みなどにも、先生のほうからゼミの生徒に声をかけ、課題研究について質問する姿が見られますね。
世界に通用する表現力を磨く、倉敷天城流“日本語を使った”グローバル教育
▲言語技術力を身につけるディベート大会
倉敷天城中学校は、グローバル教育にも力を入れているそうですね。どのような取り組みをされているのか、教えていただけますか?
本校のグローバル教育は、日本語力を鍛えるのが特徴です。日本語独特の「あいまいな表現」は、外国では通用しないといわれています。例えば、「食べます」「食べません」は、最後まで聞かないとイエス・ノーを判断できませんよね。つまり、世界で活躍するためには、端的に気持ちを表現する必要があるんです。
週に1回設定された「グローバル」の時間には、「つくば言語技術教育研究所」のテキスト(言葉のワークブック)を使います。つくば言語技術教育研究所は、帰国子女の三森ゆりかさんが創立した研究所で、外国で生活した経験を持つ三森さんならではの、ノウハウが詰まっています。
このノウハウをもとに、1年生の段階から、ジェスチャーのつけ方やアイコンタクトのタイミング、発表の仕方などを細かく学びます。日常的に表現力を鍛えているので、3年生の課題研究発表会でも堂々とプレゼンする生徒が多いです。直接成績には反映しませんが、発表力は就職の面接や、社会人になった後にも生きてくると思います。
▲日本語力を鍛える授業の他、ネイティブ教員と話す授業もあります。
岡山県立倉敷天城中学校からのメッセージ
御校に興味を持っているお子さま・親御さまに向けて、メッセージをお願いします。
本校では、大学進学や社会に出た後を見据え、知力・心・体力を育みます。私は9年ぶりに本校に戻ってきましたが、良い部分は開校当時から何も変わっていません。「鉄軒精神」が時代を超え、しっかりと受け継がれていることを感じます。
よく「出る杭は打たれる」といいますが、本校は「出る杭を引き出してもらえる」環境です。お互いの個性を尊重する校風なので、仲間と切磋琢磨しながら成長できます。また、探究活動のカリキュラムも整っており、知りたいことを追究することが可能です。
「挑戦したい」「自分を高めたい」というお子さまには、きっと本校の教育がマッチするはずです。教職員一同、お子さまのご入学を楽しみにしています。
「出る杭を引き出してもらえる」という言葉からも、先生方や生徒さんたちの温かな雰囲気が伝わってきました。探究活動のカリキュラムが確立した御校なら、段階を踏んで探究心や発表力を鍛えられることでしょう。
本日は、学校選びに役立つお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
▲左右にスライドすると、学校生活の様子をご覧いただけます
卒業後は倉敷天城高等学校へ。倉敷天城高等学校の進学実績
岡山県立倉敷天城中学校を卒業後は、全員が岡山県立倉敷天城高等学校へ進学するため、ここでは倉敷天城高等学校の進学実績を紹介します。
倉敷天城高等学校の卒業生は、ほぼ全員が進学を選択しています。2024年度には、東京大学・大阪大学・神戸大学・一橋大学にも合格者を輩出しました。
私立大学も例外ではなく、関西で難関といわれる同志社大学・立命館大学・関西大学・関西学院大学には合計で100人以上が進学しています。医学系の大学にも多数の卒業生を送り出していることからも、カリキュラムの充実度と先生たちの指導力の高さが伝わってきます。
岡山県立倉敷天城中学校の保護者の口コミ
▲2024年度にリニューアルした制服に身を包む生徒の皆さん。バリエーションが増え、洗濯機での丸洗いも可能に。
最後に、岡山県立倉敷天城中学校の保護者から寄せられた口コミを紹介します。
口コミからも、先生の面倒見の良さや、生徒同士が切磋琢磨し合える環境が伺えます。補習や進路指導など、勉強面のサポートにも満足の声がたくさん寄せられていました。
岡山県立倉敷天城中学校へのお問い合わせ
運営 | 岡山県(県立) |
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住所 | 岡山県倉敷市藤戸町天城269 |
電話番号 | 086-429-3494 |
公式サイト | 中学校:https://www.amaki-jhs.okayama-c.ed.jp/wp/ 高等学校:https://www.amaki.okayama-c.ed.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください