特色ある教育に取り組む“注目の学校”を紹介するこの企画。本記事では、兵庫県神戸市にある「愛徳学園中学校・高等学校」を紹介します。
中高一貫の女子校である同校は、1954年、6人の修道女によって若者のキリスト教教育のために設立された学校です。少人数制にこだわってひとりひとりと丁寧に対話し、社会で生き抜く力を培う独自のプログラム「Rainbow Program」にもとづいて生徒たちを伸び伸びと育てています。
学力だけでなく人間力をも磨く愛徳学園中学校・高等学校の教育方針について、学校長の松浦直樹先生と教頭の佐々木敬子先生にお話を伺いました。
この記事の目次
愛徳学園中学校・高等学校の人間力を育てる教育方針
▲インタビューにご対応いただいた学校長の松浦直樹先生、教頭の佐々木敬子先生
まず初めに、愛徳学園中学校・高等学校の建学の精神についてお聞かせください。
本校は、「カトリック・ミッションスクールの女子校」です。「気高く、強く、美しく」を校訓に掲げ、ひとりひとりが自身の能力に誇りを持ち、それを他者のために発揮することで、時代の流れに左右されない生き方を見出せる。そんな教育を行っています。
本校が目指す理想の生徒像は、「自ら考え、人に奉仕し、充実した人生を歩む女性」です。見返りを求めて何かを「してあげる」のではなく、自分の頭で考え、困っている人のために瞬時に動けるような、内面的な美しさを兼ね備えた女性を育てるためのプログラムを用意しています。
学力と人間力が身につく「Rainbow Program」
理想の生徒像に近づくために、愛徳学園ではどのような取り組みをされているのでしょうか。
最も特徴的なのは、本校で行う教育活動すべてが「Rainbow Program」に紐づけられている点です。先ほどお話しした「自ら考え、人に奉仕し、充実した人生を歩む女性」になるための基礎学力と人間力を身につけるために、「体力・忍耐力、思考力、問題発見・解決力、コミュニケーション力、英語力、異文化理解力、プレゼンテーション力」の「7つの力」を伸ばそうということから、この名前がつきました。
中学1年生・2年生を「基礎確立期」、中学3年生と高校1年生を「応用充実期」、高校2年生・3年生を「発展完成期」といったように中高6年間を2学年ごとに3つのステージに区切り、発達段階に応じた教育を行っています。
▲Rainbow Programのテキスト。表紙の女の子が着ているのは愛徳学園の制服だそう
本校に入学すると、生徒ひとりひとりに「Rainbow Program テキスト」と「Rainbow Program ファイル」が配られます。テキストには、「中学1年生ではこんなことをして、それが2年生でこんなふうにつながっていきますよ」といった説明が書かれています。
一方、ファイルには、行事ごとの具体的な目標が記載されています。毎回「7つの力」のうちどれを身につけてほしいかはあらかじめ提示されていて、そのカテゴリごとに設定された4つのレベルのうち、どこまで頑張るかを生徒自身に決めてもらいます。
たとえば「この行事ではプレゼンテーション力を身につけよう」と決めていたとします。生徒たちは該当のページを見て、「レベルS:原稿をほとんど見ることなく聞き手を意識して発表できた」「レベルA:原稿を見ながら発表できた」などの中から自分でゴールを設定し、ありたい姿を意識しながら行事に挑むのです。
着実に成長につながりそうですね。少し驚いたのですが、授業だけではなく、学校行事でも目標設定をするということなのでしょうか?
そうです。本校では、授業はもちろん行事も、部活動も、委員会活動も、学校で行う全ての活動が生徒の成長につながっていると考えています。ですので、ほとんどの行事においても「今回はこんな力を身につけてほしい」といった目標を教員がきちんと提示して、生徒にゴール設定をしてもらいます。そして最後には、実際に体験してどうだったか、どこまで達成できたかを書き留め、振り返るという流れを繰り返し行っています。
生徒全員を大切に見守る。愛徳学園中学校・高等学校の少人数教育
▲少人数で行われる選択授業のようす
愛徳学園のもうひとつの特徴は「少人数制」だそうですね。
その通りです。文部科学省では中学校の1クラスあたりの人数の標準を40人以下としていますが、本校ではその半分、場合によってはもっと少ないクラスもあります。教員が生徒ひとりひとりを大切にしながら、非常に丁寧に接するところがポイントですね。
プレゼンテーションや自分で考えて課題を発見するような探究の授業の豊富さは、少人数制だからこそ実現できる部分でもあります。
特に高校2年生・3年生は受験に向けて視野が広がっていく学年でもあるので、29単位(時間)42科目の選択科目が用意されており、希望者が1人だったとしても開講します。ひとりひとりの希望に合わせてきめ細やかな指導ができるのも、本校ならではだと思います。
活きた英語が身につく「グローバル・スタディーズ」
人気の選択科目はありますか?
やはり「グローバル・スタディーズ」ですね。ネイティブの先生を中心にグローバル課題に取り組むというもので、ほぼ全員が選択する人気の授業です。
具体的にどんなことをするのでしょうか。
ここ数年、継続して取り組んでいる活動のひとつにカンボジアとの共同プロジェクトがあります。カンボジアの農村の小学校には図書室がないということで、現地の小学生のために手作りの絵本を贈っています。英語でストーリーを作り、自分たちで絵を入れて現地に送ると、カンボジアの大学生ボランティアが現地の公用語であるクメール語に翻訳してくれます。
▲生徒たちが作ったクメール語と英語で書かれた絵本
実践的な英語が身につきそうですね!
そうですね。当然現地との打ち合わせは全て英語ですし、受け取り手がいるプロジェクトだからこそ、生徒たちは「カンボジアの子どもは何に興味を持つだろう?」「こんな絵本だったら楽しいんじゃないかな」と相手の立場に立って本気で知恵を絞り、自然と「英語を使う意義」を学び取っていきます。
本校では、英語を使ってバリバリ働く姿だけを目指すのではなく、相手に寄り添うことでグローバル社会に貢献できるような人材の育成を目指しているのです。
ひとりずつ個別で行う中学2年生の「職業体験」
▲動物病院での職業体験のようす
愛徳学園には、将来を見据えたプログラムもあると伺いました。
中学2年生で職業体験活動を行います。同様の取り組みを行っている学校は全国にありますが、本校は生徒の人数が少ないので、個々が自分でやりたい仕事・行きたい事業所を決めて、希望の職業体験をすることができます。生徒たち自身が考え、行動できるように工夫しています。
すごいですね!職業体験の内容の一例を教えてください。
動物好きな生徒は動物病院で手術の様子を見学したり、将来幼稚園教諭や学校の先生になりたい生徒は、併設している愛徳幼稚園や愛徳学園小学校へ行ったりもします。
ほかには、医療機器メーカーもおもしろそうでしたね。機械の使い方のレクチャーを受けたり、顧客にどうやって自社製品を売り込んでいくのかを学んだりと、充実した研修期間を送っていました。社員の方も生徒の頑張りをとても喜んで、会社のホームページに体験の様子を掲載してくださったりと、とても良い関係を築いていました。
個別に職場へ出向くということで、自立的な振る舞いや行動が求められ、成長につながりそうですね。
おっしゃる通りです。中学2年生の最後にどんな事業所へ行き何を学んだかをプレゼンテーションする「職業体験報告会」があるのですが、生徒たちはみんな一段と大人になった顔を見せてくれます。この報告会には保護者はもちろん、お世話になった会社の方もわざわざ聞きに来てくださいました。
中には「あなたは即戦力だから、いつでも働きに来てね!」と体験先で言われたことが大きな自信につながり、将来の方向性がより具体化したという生徒もいました。ひとりひとりの興味に合わせた職業体験ができるのも本校ならではの強みだと思っています。
愛徳学園中学校・高等学校でのスクールライフ
独自のプログラムを多数展開する愛徳学園中学校・高等学校。ここからは、特に珍しい授業や行事を2つご紹介します。
中学2年生からの必修科目「スペイン語」
愛徳学園では、英語以外にもスペイン語の授業があると聞いたのですが、本当ですか?
はい。本校はスペインの修道女である聖女ホアキナ・デ・ベドゥルナが創立した「愛徳カルメル修道会」が設立母体です。これに由来し、中学2年生から高校1年生まで、週に1時間必修科目としてスペイン語の授業があるのです。授業はネイティブ教員が行い、言葉だけでなく、スペインの文化や歴史についても学びます。
すごいですね。このような授業にはどういった狙いがあるのでしょうか?
英語以外の言語を学習することは、視野を広げ多角的に物事を見るスキルの習得につながると考えています。実際に、卒業生からは「他者を受け入れる姿勢が学べた」といった声もありました。本校で学んだことを機に外国語大学のスペイン語学科へ進学した生徒や、スペインに留学した生徒もいます。さらには、スペイン人と結婚して現地でガイドの仕事をしている卒業生もいるのですよ。
小中高が一堂に会する「合同体育大会」
愛徳学園ならではという行事はありますか?
本校の体育大会は、併設の小学校と一緒に小中高合同で開催するのです。小学校1年生から高校3年生、つまり6歳から18歳までが一堂に会するので、とても盛り上がります。当日は教員もチームを組んで出場し、私も生徒たちと一緒に走って、汗をかいています。
演目は、ラジオ体操にはじまり、フラフープを使った演技や大縄跳び、障害物競走などさまざまです。中でも盛り上がるのは小中高全員が2チームに分かれて行う大玉転がし。全生徒が懸命に玉を運ぶ姿はまさに圧巻の一言です。
体育大会の昼食時には、新体操部の演技も披露されます。本校の新体操部は、全国大会にも出場経験があります。こういった行事などでの発表の場も、部活での活躍に結びついていると思います。
▲体育大会で演技を披露する新体操部の生徒たち
過疎化を理由に運動会を合同で…という他県の学校の話は聞いたことがありますが、本校のようにあえて小中高が一緒に体育大会を行っている事例は、全国的にもかなり珍しいと思います。真剣勝負の後はお互いを称えあい、小学生に気を配りながら大会を運営する中高生の姿は、とてもたのもしく感じますね。
愛徳学園中学校・高等学校からのメッセージ
▲愛徳学園中学校・高等学校を訪問したカンボジアの先生と生徒たち
最後に、記事をご覧のお子さんと保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
独自のプログラムやグローバル教育、少人数制など、本校の特徴はたくさんありますが、ほかにお伝えしたいのは「女子校ならではの強み」です。共学校とは違って女子しかいませんので、本校では性別にとらわれず全員が平等に役割をこなさなければなりません。
「それ、私がやります!」と、個々が責任を持ちながら互いに協力し合う本校の環境は、自主性やリーダーシップを育てる土壌が整っています。力仕事も考える仕事も、計画から実行まで全部やるのは「自分」。そこに性別は関係なく、自分自身も当たり前に社会の一員であることを6年間通して学び、人間力を身につけることができる学校です。ぜひ愛徳学園中学校・高等学校を進路選択のひとつに加えていただけたらと思います。
学校の環境やプログラムすべてを通して、生徒の成長を促す工夫を感じました。また、終始やさしい笑顔でお話しくださる先生方の雰囲気から、おだやかで生徒思いの校風も感じ取ることができました。本日はありがとうございました!
愛徳学園中学校・高等学校の進学実績
生徒ひとりひとりの夢を聞き取り、個々の個性や希望に合わせて丁寧なサポートを行う愛徳学園中学校・高等学校では、国公立大や有名私立大学に進む生徒も多くいます。
2023年度は、大阪大学や兵庫県立大学といった国公立大学や、関西大学、同志社大学などの難関私立大学に多くの生徒が合格を決めました。また、医療分野が人気で、卒業生の4分の1が薬学部や看護系の専門学校などへ進むのも特徴のひとつと言えます。
■近年の大学合格実績(愛徳学園中学校・高等学校公式サイト)
http://www.aitokugakuen.ed.jp/high/course/course-status-2
愛徳学園中学校・高等学校の卒業生・保護者の口コミ
▲校舎から見える瀬戸内海と明石海峡大橋
最後に、愛徳学園中学校・高等学校に通う生徒の保護者や卒業生から寄せられた感想の一部をご紹介します。(公式サイト「先輩の声」より抜粋)
卒業生からは、愛徳学園独自のプログラムが自分の夢や可能性に気づくきっかけとなったという声が多数ありました。また、保護者からも、温かく生徒を見守る校風に満足しているという感想が多く見られました。
愛徳学園中学校・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 学校法人愛徳学園 |
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住所 | 兵庫県神戸市垂水区歌敷山3-6-49 |
電話番号 | 078-708-5353 |
問い合わせ先 | 愛徳学園中学校・高等学校 |
公式ページ | http://www.aitokugakuen.ed.jp/high/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください