本記事では、注目の学校として福岡県北九州市にある「九州国際大学付属中学校」で実践されている教育について紹介します。
同校は「限界を決めない」「計画を立てて努力する」ことを大事にして、生徒たちの自己実現をサポートしています。自己実現のために役立つ取り組みとして探究的な学習を実施するほか、安心して学校生活を送れるための教師と生徒、生徒同士の関係性の構築にも力を入れています。
また、あくまで生徒の自己実現を目標にしているため、中学卒業後には、併設された高等学校だけでなく、他の学校への進学を選択することも可能です。
今回は、副校長の吉田先生に取材し、同校の教育理念や、同校が特に力を入れている探究的な学習や生徒の心を支えるため行事について詳しく教えていただきました。
この記事の目次
九州国際大学付属中学校が目指す「自己実現」
▲インタビューに応じてくださった吉田忠司副校長
まずは、御校の教育方針について教えていただけますか?
本校では「K点突破!」を合言葉に、生徒たちの自己実現を目指しています。「K点」とは、スキージャンプ競技における「極限点」の意味ですが、私たちはK点を「もう無理だ」「自分にはできない」と決めつける気持ち(「限界点」)と置き換え、限界を突破しようという意味で「K点突破!」を使っています。
「これ以上はできない」という気持ちは、結局のところ自分自身の思い込みに過ぎません。「できない」と思って歩みを止めると、本当に不可能になってしまいますよね。一方、「きっとできる」と信じて努力すると、一歩ずつ目標に近づいていけるんです。「K点突破!」には、「自分には限界なんてない」「目標を立てて努力すれば、自分の可能性を拓いていける」という思いが込められています。
御校では全員が高校入試を経験するそうですが、これも「自己実現」に関連しているのでしょうか?
はい。本校は完全な中高一貫体制ではなく、中学校卒業後に進学する高校を自分で選択できるようになっています。生徒たちの興味・関心や得意分野は多岐にわたるので、併設された高等学校への進学がベストの選択とは限りません。高校生に近づくにつれて、少しずつ自分の将来の道が見えてくる生徒もいます。自分の目標に近い高校を選び、自己実現につなげてほしいと思っています。
もうひとつの理由は、中学校の学力をしっかりと身につけてもらいたいからです。中高一貫は高校の内容や大学受験対策を重視する一方、中学校の学習内容が薄くなる傾向にあります。最近、大人になってからの学び直しが話題になっていますが、実は社会で求められる知識は中学校の学習に集約されているんです。
そのため本校では高校入試を活用して中学校の学習内容をしっかりと指導しています。中学校の学力を土台に、高校から大学、社会人へと自分の力を発揮してもらいたいという思いがあるためです。
自己実現に向け、学力と計画・実行の習慣を養う「KTN」「生活の記録」
▲タブレットを活用した「生活の記録」
自己実現に向けて御校が取り入れていることがあれば教えてください。
生徒たちの家庭学習をサポートするものとして、本校の合言葉をつけて名付けた「KTN(K点突破ノート)」と「生活の記録」があります。
学力を伸ばすには、学校の授業だけでなく、家庭での学習も大事になってきます。本校では、「KTN」を通して、日々の家庭での学習を記録し、自分の成長を確かめることができるようにしています。
一方、学力にも目指す目標にも個人差があります。学習のペースも同じで、基礎・基本に取り組みたい生徒がいれば、応用問題に挑戦したい生徒もいるでしょう。
そこで本校では、「生活の記録」を使って、家庭学習の計画を書き込んでから下校するようにしています。「生活の記録」には学習する教科や、勉強を開始したい時刻、就寝したい時刻などを記入します。そして、例えば数学を重点的に勉強したい人は、数学の教材を持ち帰り、それ以外の教科のものは学校のロッカーに置いて帰ることも可能です。
家庭での学習を終えた後には、「目標が達成できたか」を振り返り、翌朝、「KTN」や「生活の記録」を先生に提出し、チェックをもらいます。日々記録をとりながら、1週間が終わったタイミングでその週の反省・自己評価をし、次週の目標を決めます。毎日、目標を立てて取り組み、振り返るので、自然と計画性が身に付いていきますよ。
学校側から、「これは達成しよう」と生徒さんたちに呼びかけている目標はありますか?
英語検定・数学検定・漢字検定の3級合格は、中学校卒業レベルの学力が身に付いているバロメーターになります。本校では「英語検定・数学検定・漢字検定の3級を全てクリアしましょう」と目標を掲げ、それを達成できたら「三冠王」と呼んでいます。
検定は年に数回あるのですが、検定の時期には自主学習用の教材や、放課後の学習スペースを用意します。英語検定の面接対策として、先生が面接官になって受け答えを練習することも可能です。数学検定・漢字検定も、授業で習っていない内容が出題されるので、先生がサポートしています。
最近は多くの生徒が三冠王を達成するようになってきたので、高校レベルの「準2級」を2つ以上達成する「Wクリア」、その先の「トリプルクリア」も目標にしています。入試対策のための勉強ではなく、あくまでも中学校卒業レベルの学力を定着させるための取り組みです。
九州国際大学付属中学校の「体験」を重視した探究的な学習
九州国際大学付属中学校では、体験型の探究学習を通して生徒たちの社会に対する意識を高めています。どのような取り組みをしているのか、詳しく伺ってみましょう。
地元企業・行政から世界へ!世の中に目を向ける「未来を創る人へ」プロジェクト
▲中学1年生の「未来を創る人へ」プロジェクトの授業でプレゼンをしている様子
御校では探究学習に力を入れていらっしゃるそうですね。具体的な内容を教えてください。
本校では、「『未来を創る人へ』プロジェクト」という学習活動を、3年間継続する形で実施しています。将来、自分の能力を生かして社会のいろいろな分野でリーダーとして活躍していくことを目標に、それを目指す取り組みとしてこのプロジェクトを始めました。
社会で活躍するためには、まずは社会を知る必要がありますが、地方都市で生活していると、東京のような大都市に比べて社会の流れをなかなか感じにくいのが実態です。そこで、3年間かけて社会について学ぶことで、日頃なかなか見る機会が少ない社会について知ることを目的としています。
このプロジェクトは中学1年生の1学期からスタートし、ファースト・セカンド・ファイナルと段階をおってより視野を広げて探究していきます。
中学1年生では、どのような活動をするのでしょうか?
ファーストステージの中学1年生では、今の「世の中」について考えます。夏休みの時間を利用して、家族と一緒に今の世の中について話し合いながら考えます。その内容を作文にまとめ、夏休み明けの2学期に発表してもらいます。
1年生の2学期には「社長さんに聞こう」に取り組みます。3~4人単位のグループに分かれ、地元の企業や商店をお邪魔させてもらい、インタビュー形式で、社長さんから直接お話を伺います。
会社の方針や取組み、社員さんにかける思いや仕事にかける情熱、将来のビジョンや展望などをお聞きしながら、今の世の中の様子を学んでいきます。
特に最近は「社員さんを雇うとき、どのような人を雇いたいですか?」と質問することで、「会社のトップがどのような人材を求めているか」も聞いてくるようにしています。そのお考えを、これからの自分の生き方につなげてもらえればと思っています。
2年生・3年生になると、どのような活動をするのでしょうか?
セカンドステージの2年生では、将来の「世の中」へと視野を広げていきます。
夏休みには、日々配信されるニュースや情報をもとに将来の世の中の姿を想像し、その世界でどのように生きていくかを作文にまとめ、夏休み明けの発表会で披露します。2学期には「市役所訪問」に取り組みます。
地元・北九州市の市役所の方にご協力いただき、1年生と同じように3〜4人のグループ単位でいろいろな部署を訪問します。市役所の方から、地域の課題や解決に向けての取り組みを直接伺うことで、今の世の中の実態を詳しく学び、将来の世の中のあるべき姿を考えてもらいます。
そしてファイナルステージの3年生では、国際社会にまで視野を広げていきます。
それまで学んできたことをもとに、国際社会の一員として自分は何ができるか・どのようなことで貢献したいかを考え、英語を使ってみんなの前で発表します。
3年生の2学期に行う海外体験教室(修学旅行)では、外国の人と直に話をすることができますので、よりいっそう、国際的な視野を広げていくことができます。
▲3年生の発表の様子。英語で資料をまとめて発表します。
1年生から3年生までのプロジェクトを通して、生徒の皆さんの反応はいかがですか?
1年生の「社長さんに聞こう」では、社長室に通されるケースが多く、生徒たちはとても緊張しているようですが、社長さんのほうが質問しやすい雰囲気をつくり、生徒たちをフォローしてくださるようです。
生徒たちはインタビューを通して、仕事に対する情熱に加え、人の温かさなども実感しているようです。
2年生の「市役所訪問」では、行政に携わる方の仕事の様子を知るだけでなく、社会的に弱い立場に置かれる人の存在に触れる機会もあり、現代の社会が抱える様々な課題を考えるきっかけになっているようです。
3年生になると、生徒たちはそれぞれの視点から自分の意見を発表していますが、いずれもが、SDGsが掲げる17の目標につながっているような気がします。SDGsについて、私たちは特にテーマとして取り上げているわけではないのですが、3年間の学習を通して、生徒は自ずと関心を持ち、考え、意見を持つようになっているようです。
生徒の心を育む 九州国際大学付属中学校の宿泊体験学習
九州国際大学付属中学校では、学校生活で大きな影響を与える、生徒同士のつながりにも配慮しています。ここからは、生徒たちの学校生活を支える取り組みについてお聞きします。
生徒と生徒の心をつなぐチャレンジ教室
御校では入学してすぐに宿泊行事があると伺いました。どのような行事なのか、教えてください。
入学して3か月ほどが経った7月上旬、1年生を対象とした2泊3日の「九国チャレンジ教室」を実施しています。生徒たちは、様々な小学校から入学してくるため、お互いのことをよく知りません。それが原因で、人間関係で不安や悩みを抱えることも少なくありません。
そこで、ダンスや集団行動、レクリエーションなどの活動を通して会話を促し、お互いの関係を深めていくのが目的です。
本校は1学年が100人ほどですが、チャレンジ教室の3日間で「ひと言でもいいから、必ず全員と会話をしよう」と呼びかけて行っています。
他には、どのような取り組みがありますか?
2年生になると、2泊3日で奈良・京都をめぐる「古都探訪教室」を実施しています。この学習のメインは、2日目・3日目の京都での班行動。行ってみたい場所に加え、そこまでの交通機関を含め、すべて生徒たちが事前に計画を立てて行います。
生徒たちは土地勘がないので、班行動の最中で道に迷ったり、乗る電車に悩んだりとトラブルは避けられません。もちろん先生は付き添わないので、地元の方に尋ねるなどしてトラブルを乗り越える必要があります。
班行動は2日間あります。1日目の夜には反省会を開いて生徒同士で「目印をチェックしておけばよかった」「明日は先にルートを確認しておこう」といった意見を出し合います。2日間の班行動を通して、自分たちで考え、問題を解決していく力が育ちます。
また、3年生では海外体験教室としてオーストラリアに出かけ、現地の農家の方の自宅で「ファームステイ」を行います。
農家の方の指導を受けながら農作物や家畜の世話などの農場体験をするのですが、日本ではなかなか経験できない自然の姿に触れることができます。また、現地の方と英語で会話するので、自ずとコミュニケーションの力が磨かれていきます。
▲現地の生活に触れられる「海外体験教室」
▲ファームステイでは、これまで経験したことのない農家の暮らしも体験します。
1対1で校長先生に相談できる「校長面談」
他にも、九州国際大学付属中学校ならではの取り組みがあれば教えてください。
本校では、生徒とのコミュニケーションを特に大事にしています。なかでも校長先生は、年に1回、すべての生徒と話をする「校長面談」を行っています。10~15分ほどの時間ですが、生徒はもちろん校長先生にとっても、有意義な時間になっているようです。
1年生は5月〜6月ごろに行い、学校生活に慣れたかを含め、不安・心配なことはないかなどから話が進みます。2年生が校長面談を受ける時期は、最上級生になる一歩手前の12月下旬ごろです。自分の現状から将来の夢まで、話す内容も生徒ごとに異なってくるそうです。
3年生は夏休みに入る前、高校受験に本格的に取り組み始める時期に行います。3年生に関しては、進学したい高校や興味のある職業など、進路相談が中心です。生徒たちも、「校長先生とたくさん話せた」「1対1で相談できる機会があってうれしい」という声をよく聞きます。
面談は、生徒たち個々の日常の様子を話題にしながら話を進めますので、その内容はケースバイケースです。 ただ、学習面に関する話題は必ず出てきます。
- どんなふうに勉強を進めていけばよいかアドバイスしてほしい。(1年生)
- なかなか成績の向上につながらない。アドバイスが欲しい。(2年生)
- 受験勉強の進め方についてのアドバイスがほしい。(3年生)
といったような言葉が出てくることが多く、やはり生徒たちの学習面に関する悩みは大きいのだと思います。 そこで、面談時に生徒と一緒になって考え、具体的な方法を試してみてはどうかとアドバイスしています。
また、生徒たち全員に必ず伝えていることは、 睡眠時間を確保することとバランスのとれた食事を摂るよう心がけなさいということです。それができているかどうか、必ず具体的に日々の生活をふり返らせるようにしています。
面談をしていると、それが意外にもうまくいっていない場合が散見されます。成長期真っ只中の中学生の時期に、生活のリズムや食生活が及ぼす影響は軽視できないので、そのことについては、真剣に語りかけるようにしています。
上級生と下級生のつながりを深める「北九ウォーク」
「北九ウォーク」という行事があると伺いました。これはどのような行事でしょうか?
北九州市には、市内の小倉から長崎までをつなぐ「長崎街道」が通っています。昔の人たちは、この街道を歩いて旅をしていたそうです。
「北九ウォーク」は、全学年の生徒でこの街道を自分の足で歩こうという行事です。
3年生は、当時の歴史や文化を探しながら市内の25kmの道のりを歩きます。友達と一緒に励ましあい、声をかけあいながらゴールの小倉城を目指します。これは、新入生と上級生が触れ合う場との意味も込め、毎年5月の初めに実施しています。
1年生は2年生とペアを組んで歩きます。1年生・2年生は3年生の半分の距離を歩くのですが、3年生とは逆向きのコースを歩きます。
3年生と下級生は逆向きに歩きますから、道のどこかで必ずすれ違うんですね。そこで、すれ違う時はお互い必ず声をかけることをテーマにしています。特に1年生・2年生は、3年生の先輩に応援の気持ちを込めた「励ましカード」を手渡します。
北九ウォークでたくさんの声をかけあうので、新入生と上級生の距離は縮まっていると思いますよ。
九州国際大学付属中学校からのメッセージ
▲インタビューに応じてくださった吉田忠司副校長
御校に興味を持っているお子さま・親御さまに向け、メッセージをお願いします。
本校は中学校の学習内容を丁寧に指導することで、その先にある大学選択・職業選択へとつなげていきます。1年生は学級担任が2人いるため、お子さまの様子を見ながらきめ細やかに対応することが可能です。
先生と生徒の距離が近く、生徒のほうから「先生ちょっと聞いてください」と話しかけている姿をよく見かけます。人に優しく思いやりがあり、学校が好きな生徒がいっぱいです。輪に入れない友達がいると、「一緒に遊ぼう」と自然に声をかけられる生徒が多いです。
将来に向けて着実に力を伸ばしたいお子さまは、ぜひ本校にお越しください。教職員一同、お子さまのご入学を楽しみにしています。
就職試験で問われる一般教養は、中学校3年間の内容がベースになっていますね。全員に高校受験を課している事実からも、「中学時代の学力を活かして、社会で活躍してほしい」という御校の思いが伝わってきます。
本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
九州国際大学付属中学校卒業後の進学実績
九州国際大学付属中学校を卒業後は、九州国際大学付属高等学校への進学が保障されています。そのため、ここからは九州国際大学付属高等学校の卒業生の進路について紹介します。
九州国際大学付属高等学校の卒業生の進路は、4年制大学への進学が中心です。2023年度の卒業生は、大阪大学・九州大学・北海道大学・名古屋大学などの難関国立大学や広島大学・熊本大学・佐賀大学・九州工業大学・北九州市立大学など、九州や西日本地区の国公立大学に多く進学しています。
国公立大学の医学部医学科、歯学部歯学科、薬学部などの医歯薬系の方面に進学する人もいます。
そのほか、慶應義塾大学や早稲田大学、同志社大学・立命館大学など関東・関西の難関私大や、西南学院大学や福岡大学など九州地方の有名私大にも多数が合格しています。
卒業生の進学実績からも、同校が大学入試に対応できる指導を展開していることが分かります。
九州国際大学付属中学校の保護者の感想・口コミ
最後に、九州国際大学付属中学校の保護者から寄せられた感想・口コミを紹介します。
口コミからも、先生たちの丁寧な指導と、生徒たちが切磋琢磨できる雰囲気がうかがえます。そのほか、「社会人に求められる自主性や、計画性が自然と身に付く」という声も見られました。
九州国際大学付属中学校へのお問い合わせ
運営 | 九州国際大学 |
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住所 | 福岡県北九州市八幡東区枝光5丁目9-1 |
電話番号 | 093-671-9001(中学校連絡先) |
問い合わせ先 | お問い合わせフォーム:https://www.kiu.ac.jp/959j/form001.html |
公式サイト | https://www.kif.ed.jp/ |
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