中学受験に興味があるお子さま・親御さまに向け、注目の学校を取り上げる本企画。今回は、神奈川県横浜市にある男子校の「聖光学院中学校高等学校」を紹介します。
キリスト教のカトリック思想を土台にした同校は、6年間でカリキュラムが組まれた私立の中高一貫校です。情報と探究を組み合わせた教育活動が特徴的で、ロボット・ゲーム制作からプログラミング言語やデータ分析まで、AI時代に対応できるスキルを身に付けられます。生徒の得意分野を伸ばす方針で、勉強以外のやりたいことも追求できる学校です。
今回は、数学科で情報授業も担当されている名塩隆史先生にインタビュー取材し、聖光学院中学校高等学校の教育理念や取り組みなどを伺いました。
この記事の目次
聖光学院中学校高等学校の校訓は「紳士たれ」
まずは、御校が大切にしている考えについて教えていただけますか?
本校は、キリスト教のカトリックを主軸にした男子校です。年間で4〜5回ほど、教区の神父様を招いて1時間ほどのミサ(宗教行事)を実施します。
本校が掲げる「紳士たれ」という校訓も、キリスト教の「他者を慈しむ精神」に基づいています。「紳士」とは、礼儀と品格を兼ね備えた男性を指す言葉ですが、このような振る舞いは、相手を尊重する気持ちから生まれるためです。
また、他者を慈しむためには、違いを受け止め、個性を認め合う「多様性」が欠かせません。本校は特に、多様性の育成に力を入れて教育活動を行っています。
生徒の多様性を尊重!高校2年生の前半までは「やりたいこと」に打ち込める
▲聖光学院中学校高等学校では、新たな趣味につながりそうな授業も行なっている。
多様性(ダイバーシティ)は、国際社会でも重視されていますね。どのようにして、生徒さんの多様性を育んでいるのでしょうか?
まずは私たち教員が、生徒たちの個性を受け入れるようにしています。自分の個性を尊重してもらうことが、相手の個性を認めることにつながるからです。
得意分野一つとっても、生徒によってさまざまです。プログラミングやスポーツ、絵画、音楽、ダンス、ピアノなど、生徒それぞれの特技を尊重し、やりたいことに打ち込めるようにしています。
例えば、競技会・国際大会などと授業がぶつかった際には、欠席にならない「公欠」扱いにして参加することが可能です。過去には、ダンスやバレエの技術を磨くために、海外留学を選んだ生徒もいました。学業以外の面でも、思う存分に可能性を広げていける環境です。
御校は毎年、東京大学に100人近い生徒さんを送り出していらっしゃいますよね。やりたいことに打ち込める環境にもかかわらず、なぜ難関大学への進学を実現できるのでしょうか?
好きなことに打ち込む時期、大学受験に向けて勉強する時期と、メリハリをつけています。中学1年生から高校2年生の前半ごろまでは、基本的に文化祭や部活、外部のコンテストなど、生徒たちが興味のあることに打ち込む時期です。その分、高校2年生の後半からは学業を優先し、大学受験の追い込みをかけます。
進学校だからと学業を重視しすぎると、生徒の心に「もっと部活を頑張ればよかった」「文化祭であんなことがしたかった」と悔いが残ってしまいます。課題を出したり、補習をしたりもしていますが、中学3年生・高校1年生の時期は特に「自分のやりたいことをしたい」と主張する生徒も少なくありません。
そのような生徒の思いを尊重し、高校2年生の前半ごろまでは生徒が興味・関心のあることを追求できるようにしています。
聖光学院中学校高等学校の情報・探究を融合した取り組み
▲タブレット(Chromebook)の配布とともに、専用のGoogleアカウントを作成。保護者への諸連絡にもオンラインを活用
聖光学院中学校高等学校では、中学校入学時に専用のタブレットを配布し、英会話レッスンや作文の共同編集、生徒同士のオンライン会議などに活用します。なかでも、国が重視する「情報」と「探究」を融合した取り組みが特徴的です。どのような取り組みをしているのか、詳しく伺ってみましょう。
まずは楽しさを知ることからスタート。ロボット・ゲーム・AI・Pythonなど幅広く学べる
▲聖光学院中学校高等学校には「eスポーツ同好会」もある。日頃の練習の成果を文化祭で腕披露
御校は、情報教育にも力を入れているそうですね。プログラミングの授業では、どのような内容を学べるのでしょうか?
中学生のうちは、生徒が興味を持ちやすい内容を中心に、まずはゲーム・ロボットといった作品づくりを通し、プログラミングの楽しさを体験してもらいます。
大学入試に「情報1」が追加されたため、Python(プログラミング言語)やデータサイエンス(情報科学)の知識も必要です。ただ、いきなりプログラミングの理論を教えても、生徒たちの興味は引き出せず、場合によっては苦手意識を持ってしまう場合もあるため、まずは「好きになってもらうこと」を優先しています。
プログラミングの楽しさを知ると、生徒たちに「オリジナルのロボットを作ってみたい」「将来、便利なシステムを開発したい」という意欲が生まれます。このように興味を引き出してから高校1年生以降の本格的なプログラミングや統計分析、情報の理論につなげていきます。
プログラミングの楽しさを体験できるように、どのような授業を実施しているのでしょうか?
中学3年生を対象にした2日間の「情報集中講座」で、ロボット・3Dゲームを制作します。1日目でブロックコーディングの文法を学び、2日目には身近な機械の仕組みの再現やオリジナルのゲーム制作をしてもらう流れです。
ロボット制作では、ソニー・グローバルエデュケーション社の「KOOV」を使います。KOOVの仕組みは小学校のプログラミング学習に導入されている「スクラッチ」に似ているため理解しやすく、1日あれば基本的な文法をマスターできます。
上下に動くエレベーターや、UFOキャッチャーなど、作るものはさまざまです。過去には、ゲームバラエティ番組「東京フレンドパーク」のクイズを再現した生徒もいました。約5個のボタンでLEDライトを順番に点滅させ、光った順に叩くと音が鳴るというゲームです。
ほかには、教育番組「ピタゴラスイッチ」のビー玉を転がして遊ぶ模型を作った生徒もいましたね。このようにKOOVで身近な動きを再現させながら、あらゆるモノがインターネットでつながる「IoT(アイオーティー)」の基礎を学びます。
3Dゲーム制作でも、民間企業のシステムを活用されているのでしょうか?
モバイルインターネットテクノロジー社の「Mind Render(マインドレンダー)」を使っています。本来、3Dゲームは「Unity(ユニティー)」環境でC#を用いたテキストコーディングで製作しますが、マインドレンダーはブロックコーディングに対応したシステムです。
こちらも、2日間で「ドラゴンクエスト」のようなロールプレイング型や、簡単な対戦型のゲームを製作できるとあって、生徒たちも熱心に取り組んでいます。
▲完成した3Dゲームを披露
2017年に「スーパーサイエンスハイスクール」に指定され、5年間の実践を積み重ねてこられた御校だからこそ、画期的なシステムがそろっていますね。情報集中講座では、ロボット製作・3Dゲーム製作以外の内容も学べるのでしょうか?
ロボット製作・3Dゲーム製作・機械学習(AI理論)・Pythonの4つから選ぶことが可能です。AIの理論は中学生には少し難しい内容なので、ブロックコーディングで学べる教材を使います。
最近はPythonを使ったプログラミングに興味がある中学生も多いため、Pythonコースを開設しました。タミヤ模型さんと連携し、Pythonで動かせるロボットを製作しているところです。
▲高校の「情報」では主に、教員が自作した教材を使って課題を進める
ビッグデータを活用し分析を体験!AI時代に必要な分析力を養う
AI時代には、あらゆるデータから規則性を見出す分析力も重要だと聞きます。データ測定・分析について学べる授業はありますか?
中学校では理科、高校では理数探究の授業で、データの測定・分析に取り組みます。実際の購買記録や総務省の統計サイト「e-Stat」などを活用し、ビッグデータから必要なデータを取り出し、分析する流れを体験します。
まだ試行錯誤の段階ですが、高校では最近、「jSTAT MAP(地理情報システム)」を活用した「地域探究(地理・情報の連携授業)」を始めました。クラスを10ほどの班に分け、興味のある地域の統計を分析し、課題を見つける活動です。本校のある横浜市に限らず、東京都内など、生徒の興味がある近隣地域を選べるようにしています。
jSTAT MAPは「e-Stat」と連動しており、「人口が多い」「小学校が少ない」といった数値分析の結果を地図上に反映できます。人口以外には、電車・バスをはじめとする交通網や、保育園・小学校の分布、スーパーの多さなどを調べ、「他地域と比べて、どこに課題があるか」を分析します。
「自由に調べなさい」と言っても難しいので、「スーパーにはアクセスしやすいか」など、ある程度のヒントを与えていますね。
大まかなテーマを示してもらえると、スムーズに活動できそうですね。統計分析と併せて、現地調査などもされているのでしょうか?
もちろんです。統計データを調べた後は、該当の地域に足を運び、生徒自身の目で人の多さや交通量、道路の幅などを確認します。そして、統計データの印象通りかどうかを確認し、班ごとにスライドにまとめて発表してもらいます。
教科の枠を超えた、高度な技術や仕組みを学べる講座「聖光塾」も開催
御校は、教科の枠を超えて学びたい生徒のための取り組みがあると伺いました。どのような取り組みなのか、詳しくお聞かせいただけますか?
学校の授業では教わらない高度な内容に触れられる活動として、聖光塾という講座を開催しています。春休み・夏休み・冬休みを活用した体験型の講座です。外部の団体・企業とも連携し、自然観察や昆虫採集、茶道、フライフィッシング、Python入門・画像認識など、講座の選択肢も豊富です。
御校の先生たちも、講座を担当されるのでしょうか?
もちろんです。私は、Python関係の講座をいくつか担当しています。聖光塾では通常の授業では難しい、情報・数学を関連させた内容を指導しています。
例えば画像認識の講座では、情報・数学の知識を使い画像加工ソフトの「Photoshop(フォトショップ)」の原理を教えます。「原理」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、実際に使うのは0から255までの数字を足す・かける程度の計算です。
生成AIの言葉に基づく画像作成や、画像加工の原理も、実は小学校の算数の知識があれば十分理解できます。講座では、関連する小学校の算数や中学校の数学の知識をおさえ、Pythonを使って図形をつぶす・ぼかすといった画像処理をプログラムするんです。
なかなか高度な内容を指導されていますが、生徒さんたちの反応はいかがでしょうか?
Pythonの入門講座だと、1回で理解できる生徒は全体の20%ほどしかいません。ただ、分からないから終わりではなく、2回、3回と理解できるまで受講する生徒が多いです。
なかには、「3回目でようやく理解できた」「身近なものの仕組みが、意外と簡単に説明できると分かってうれしい」と言ってくれる生徒も少なくありません。
私の役割は敷居を少し下げ、「Pythonを学ぶと何ができるか」を教えることだと思っています。仕組みを解説すると、「ゲーム製作にも使える」「アプリ開発もできるのではないか」と、生徒たちの興味が膨らんでいくんですね。
機械学習と絡めた画像認識の講座はハイレベルなため、プログラミングの競技に出場するような生徒も参加してくれます。彼らは普段の授業から質問をしてきたり、「こういうものを作ってみたい」とビジョンを示したりと、プログラミングに対する意欲が違うんです。講座が終わってから、「この分野を学びたいので、いい本はないですか」と相談に訪れるケースもあります。
より高度な学習を希望する生徒さんには、どのように対応されていますか?
外部のサービスを活用し、生徒たちが満足のいく学習を進められるようにサポートしています。例えば、公益財団法人の「日本科学協会」が運営するサイエンスメンタープログラムは、中学生・高校生の自主研究をサポートする取り組みです。
聖光学院中学校高等学校からのメッセージ
御校に興味を持っているお子さま・親御さまに向けて、メッセージをお願いします。
本校は、生徒1人ひとりの個性を大切にしている学校です。活発な生徒からおとなしい生徒まで、お互いを尊重して「一緒にがんばろう」「困っているクラスメイトを放っておかない」という仲間意識があります。何よりも学校が「こうしなければならない」という枠を外し、生徒がのびのびと活動できるようにサポートしています。
プログラミングや地理探究、聖光塾、海外研修など、カリキュラムも豊富なので、きっと打ち込めるものが見つかるはずです。小学校の人間関係で悩み、個性を発揮できずにいるお子さまも、自分のペースでやりたいことを探せると思いますよ。
ほとんどの生徒が、中学1年生から高校1年生までは好きなことに打ち込み、高校2年生から勉強に専念します。勉強面のフォローもしますので、得意分野を追求しながら、志望校の合格を目指せる環境です。教職員一同、お子さまのご入学を楽しみにしています。
思う存分に好きなことができる分、その後の受験勉強にしっかりと向き合えそうですね。進学校は勉強中心になりがちですが、部活動や行事にも打ち込める御校なら、悔いの残らない学校生活を送れることでしょう。
本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
▲部活や行事にも打ち込める環境がある
聖光学院中学校高等学校の進学実績
▲聖光学院中学校高等学校の生徒の学びを支える図書館。
高等学校の卒業生は、ほぼ全員が大学進学を選択するそうです。2023年度の実績だと、国立の東京大学に約100人、慶應義塾大学・早稲田大学といった難関私立大学には合計で300人以上が進学しています。
さらに、医学部には国立・私立合計で90人以上が合格。80%を超える現役進学率からも、大学入試を見据えたカリキュラムの充実度がうかがえます。
聖光学院中学校高等学校の保護者・在校生の口コミ
▲受験勉強に集中できる「自習室」もある
最後に、聖光学院中学校高等学校の保護者・在校生から寄せられた口コミを紹介します。
口コミでは、校長先生の「1人ひとりの個性を尊重する姿勢」に、多くの共感の声が寄せられていました。自由度が高いながらも、志望校への合格を果たしている点にも多くの保護者・生徒が満足しているようです。
聖光学院中学校高等学校へのお問い合わせ
運営 | 聖光学院 |
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住所 | 神奈川県横浜市中区滝之上100番地 |
電話番号 | 045-621-2051 |
公式サイト | https://www.seiko.ac.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください