画期的な取り組みで子どもたちの可能性を広げる学校を紹介する本企画。この記事では、広島県三原市の私立の中高一貫校「広島三育学院中学校・高等学校」を紹介します。
1977年に創立された同校は、北海道から沖縄まで全国から生徒たちが集まる全寮制の中高一貫校です。6学年がともに集団生活を行うことで、問題解決力や自立心、コミュニケーション力が養われます。またキリスト教を軸とした「他者を自分のように愛する」という教育理念に基づき、社会貢献活動や地域に出向いた音楽活動なども行っています。
今回は、そんな広島三育学院中学校で広報を務める山口先生にインタビュー取材しました。
この記事の目次
広島三育学院の教育理念:キリスト教精神を基盤とした「他者を愛する」
▲インタビューに対応してくださった山口先生
まずは、御校がどのような学校なのかを簡単にご紹介いただけますか?
本校は、キリスト教の「セブンスデー・アドベンチスト教会」が設立したミッションスクール(※)です。
(※)キリスト教団体や教会が、布教などを目的に設立した学校。現在は広義的な意味でも使われる
だからといってキリスト教徒に限られているわけではなく、一般の方々も入学できます。実際に本校の生徒たちの半数以上が、キリスト教徒ではありません。
本校が掲げる「他者を自分のように愛する」という教育理念も、キリスト教の思想に基づいています。寮生活や授業、体験活動、行事、部活動など、全ての活動で「人のために生きる」「人のために尽くす」心を育んでいくのです。
そのような、他者のために働く「原体験」を持てるような6年間にしてほしいですね。
▲校歌にもキリスト教の心が表れる
校内外での社会貢献活動:「人のために働く喜び」を体感
御校では、週に3コマ聖書を学ぶ時間が設けられているそうですね。聖書を学ぶ時間には、どのような活動をするのでしょうか?
広島三育学院では、生徒たちが聖書の言葉に触れながら「自分のように他者を愛する心」を学びます。同時に、勤労体験学習を通して、生徒自身が「人のために働く喜び」を体験できるようにしています。
そのための取り組みとして、本校は開校当初から総合的な学習の時間で「勤労体験学習」を実施してきました。勤労体験学習では、校舎のペンキ塗りやキャンパス内の草刈りといった奉仕活動をします。
奉仕活動を通して、生徒たちは自分の行動が他者の快適な生活につながることを経験していきます。実際に他者のために動くことで、聖書に記された「人のために尽くす心」が理解できるようです。生徒の感想でも、「奉仕活動を通して、初めて聖書に書かれている言葉の意味が分かった」と書かれていました。
校内の取り組みが、地域のために動く「社会貢献活動」にも発展しているそうですね。
はい。本校のある広島県三原市大和町は、高齢化による過疎化の課題を抱えています。若者が少なくなると、地域の清掃や草刈りなどになかなか手が届かないんですね。
本校の生徒たちが清掃や草刈りを担うことで、地域の方々が快適に生活できるようになります。過疎化の問題は大和町ならず、日本全体が抱える社会問題です。社会問題に目を向けながら、「自分たちに何ができるのか」を考える機会にもなるでしょう。
▲保護犬たちの世話をするボランティアもある
また、本校では地域貢献とともに地域から学ぶ取り組みも行っています。例えば最近ですと、近隣の広島空港で空港の職員さんの仕事を学びました。地元のパン屋さんでは、生徒たちがオリジナルのパンを考え、利益を見越して販売価格の設定まで行いました。
このような地域貢献や職業体験などの校外での学びは、生徒の充実感にもつながっています。生徒からは「今までは意識しなかった社会問題に気づけた」という声もたくさんありました。
6学年共同の寮生活で養う「問題解決能力」
▲生徒が自分の服を自分たちで洗濯している様子
広島三育学院中学校・高等学校の一番の特徴は全寮制であることだと思います。寮生活についても教えていただきたいです。
2023年度の生徒数は中学校・高等学校合わせて123人で、北海道から沖縄までさまざまな地域から生徒が集まっています。敷地内には男子寮(同袍学寮・どうほうがくりょう)と女子寮(スミルナ寮)が1棟ずつ設置されていて、中学生・高校生が共同生活を送ります。
中学1年生と高校3年生では5歳〜6歳違うので、「共同生活をするのは大変ではないだろうか」と心配する親御さまもいるでしょう。しかし、6学年が一緒に生活するからこそ、コミュニケーションを通した問題解決力が身につきます。
例えば、入学したばかりの中学1年生は、起きた後にベッドを整えたり、自分で洗濯機を回したりすることにも苦戦します。しかし先輩から教えてもらいながら、少しずつ身の回りのことができるようになります。自分のことができるようになると、生徒たちは自然と「人のために何ができるか」を考え始めます。中学2年生や3年生は後輩のために動き、高校生にもなると寮全体に目が向いていくのです。
本校では、寮生たちからの選挙を通して寮長・役員が決まります。寮長・役員に選ばれた生徒たちは、寮生との信頼関係を築きつつ、自主的にミーティングを行っています。「自分たちが寮を動かす」という意識が、問題を解決する力につながっているようです。
▲異年齢で集まって、語らう場面も見られる
一般的な学校生活のように自宅に帰ってリセットできない分、話し合いで解決する力が育ちそうですね。
おっしゃる通りです。集団生活なので、居心地のいい相手だけと付き合うことはできません。自宅と違う環境で生活するのは、思春期の生徒たちにとって苦しいことだらけでしょう。だからこそ、うまくいかない状況を打破する力や、相手と話して共通点を見出したりする力が身についていくのだと思います。
また、全国各地から生徒が集まるため、みんながしゃべる方言もいろいろなんですね。例えば寮生活のなかで一緒に生活する友人の沖縄の方言を覚えてしまうといったケースも少なくありません。多様な価値観に触れられる点も、寮生活の醍醐味だと思います。
礼拝と規則正しい食事:心身の成長を促す寮生活
学校がある平日の、生徒さんたちの一日の流れについて教えてください。
朝6:00ごろに起床し、6:15には全員がチャペルに集合して礼拝の時間を持ちます。本校の寮生活では、「礼拝で始まり、礼拝で終わる」ことを重視しています。朝夕の礼拝で心を落ち着かせ自分の考えや行動を振り返ることで、授業や部活動などに取り組む姿勢も変わってきます。
礼拝を終えた6:30ごろからは、食堂で談話を楽しみながら朝ごはんを食べます。本校の食事はキリスト教に基づく「卵乳菜食(らんにゅうさいしょく※)」を採用しているため、基本的に肉・魚は提供しません。
(※)「ラクト・オボ・ベジタリアン」ともいわれる。植物性の食品と乳製品、卵を食べるベジタリアンを指す
現代は食事のメニューも充実していて、高校生だけで外食をすることもできますよね。好きなものを自由に食べられる世の中だからこそ、中学生・高校生の時代に健康的な食事を知っておくことが大切です。また、朝食だけではなく、昼食は12:00から、夕食は17:30からと時間が決まっています。寮生活を通して、卒業後にも振り返ることができる「規則正しい生活習慣」を身につけてもらいたいためです。
▲中学校は授業で農業を体験、高等学校では農業部が野菜を栽培。生徒たちが育てた野菜を使ったメニューを提供するケースもある。
土曜日・日曜日の過ごし方についても、教えていただけますか?
土曜日は「安息日」で、午前中はみんなで集まって礼拝をします。午後からは自由時間になっているため、昼寝や散歩など、好きなことをしながら過ごすことが可能です。本校では、日曜日も午前中だけ授業をします。その分、夏休み・冬休み・春休みを長く設定し、ゆっくりと帰省できるようにしています。
教職員も敷地内に居住:充実した寮生活サポート体制
寮の指導を担う「寮監(りょうかん)」の先生はいらっしゃるのでしょうか?
シフト制で生徒たちを見守る寮監はいますが、それだけでなく同じ敷地内に学校の教職員用の住宅があります。私も含め、本校の先生たちも近くで生活しているんです。夜間に先生が寮に出向き、生徒の悩み相談を聞くこともありますよ。
山口先生も生徒と生活を共にしているのですか?
もちろんです。授業中だけではなく同じキャンパスで過ごすわけですから、教員と生徒の距離は近いと思います。卒業する際にも、別れを惜しんでくれる生徒は珍しくありません。3年間もしくは6年間一緒にいると先生・生徒を超えた人間関係を築けることが多く、卒業してからも連絡を取り合うケースもよく聞きます。
学習面のサポート、人生相談、もしくはたわいもない雑談などを通して、すごく密接に生徒に関わっていく。それが私たちの特徴だと思います。
少人数制と個性重視:広島三育学院の特色ある教育プログラム
広島三育学院中学校・高等学校は、生徒8名に対して教員が1名つくという環境だそうですね。この点も大きな特徴だと思うのですが、少人数制だからこそできる取り組みはありますか?
一人ひとりをしっかり見ていけるからこそ、教員が夜間に補習をしたり、自習時間にマンツーマン指導をしたりして、学習をサポートしています。全寮制で塾・予備校などに通いづらい分をフォローしているような形ですね。
さらに、進路指導においてもきめ細やかに対応しています。高校3年生になると生徒1人につき、月に3回〜4回は面談の時間を設けます。一般受験はもちろん、総合型選抜入試・推薦入試など、生徒に合った受験方法を提案できるため、2023年度の事例だと約9割が志望校に合格しました。
結果として出ているのですね。他に、人数が少ないからこそのメリットはありますか?
生徒数が少ない分、1人ひとりが活躍できる機会が多いというのは、本校ならではだと思いますね。大規模な学校は活躍する人数が限られますが、本校はやる気さえあれば誰でも何かしらの役割を担うことになりますし、非常に充実した学校生活を送ることができます。
そのため、総合型選抜入試の面接などで、「寮の整備のためにこんな役割を果たしました!」「校内の農業体験では、収穫のためこんなことをしました!」など、体験しないと語れないようなエピソードを話す生徒が多いのです。
習熟度別授業で効果的な学習:高校の英語・理系科目
授業面において、特徴的な取り組みはあるでしょうか?
本校の高等学校では、英語・数学と理系科目が全て習熟度別になっています。習熟度別の授業は理解度が同じ生徒たちが集まるため、無理なく効果的に学習を進められるのが特徴です。
また希望制で、中学校・高等学校ともに外国人の先生によるオールイングリッシュの授業を受けられます。通訳も使わずに英語で1コマの授業をするため、生きた英語力が鍛えられます。さらに本校は留学経験のある先生が非常に多く、半数以上は英語を話せます。ネイティブに近い英語に触れられる分、本校の生徒たちはリスニング力が高いのです。
このような取り組みは、進学面にも反映されているのでしょうか。
そうですね。英語教育に力を入れている分、卒業後に海外留学をする生徒は少なくありません。
また本校は本人の希望に沿ってきめ細やかに進路指導を行っている分、国内の大学に進学したり、企業で働き始めたりと活躍の場が広いのも特徴です。1学年90人に満たない中、毎年のように医師や先生として活躍する卒業生が出ています。看護師を目指し、系列の三育学院大学に進学する生徒も多いです。
音楽を通じた情操教育:ブラスバンド・聖歌隊活動の充実
▲新潟県妙高市の「休暇村」を舞台にした、4泊5日の「修養会(しゅうようかい)」
行事やイベントなどにおける特徴的な取り組みはあるでしょうか?
夏の「サマーコンサート」と冬の「クリスマスコンサート」は、本校ならではの行事です。本校は、ブラスバンドや聖歌隊といった音楽活動にも力を入れています。サマーコンサートは文化祭のように、練習の成果を校内で発表するイメージです。
一方、クリスマスコンサートはチャリティーとして、広島県内の商業施設やコンサートホールなどに出向いて演奏を披露します。広島県外にも範囲を広げており、2023年は関西地区や沖縄県などでクリスマスコンサートツアーを実施しました。
ブラスバンドや聖歌隊の活動には、7割〜8割の生徒さんが参加されているそうですね。
はい。本校の生徒たちは、基本的に複数の活動を両立しています。例えば、野球部に所属しながらブラスバンドや聖歌隊の活動をする男子生徒もいます。さらに寮の役員を担うなど、複数の活動を通して学校生活を充実させていく生徒がたくさんいますよ。
全寮制で常に集団生活をしている御校ですが、修学旅行のような宿泊旅行もあるのでしょうか?
本校では「修養会(しゅうようかい)」と呼ばれる宿泊行事があります。
これは、中学3年生(4月)と高校2年生(2月)を対象にした行事です。いわゆる楽しい修学旅行というよりも、「最高学年として、何をすればいいか」を深めていくプログラムで、集団としての成長を促していくことが目的です。いずれも4泊5日で、中学生は長崎県、高校生は新潟県妙高市(みょうこうし)の休暇村を訪れます。
また、中学1年生・2年生の春には、1泊2日の合同旅行を実施します。中学2年生の生徒たちが、入学したばかりの1年生を案内しながら、仲を深めていくんです。入学してすぐに合同旅行があるので、新生活の緊張感を和らげるのに一役買っているのではないかと思います。
受験生へのメッセージ
御校に興味を持っているお子さま・親御さまへ向けて、メッセージをお願いします。
本校は「人のために動くこと」が当たり前な校風なので、人当たりがよく、コミュニケーション力が高い生徒が多いです。オンラインが普及した現代だからこそ、対面のコミュニケーションを大切にしています。本校の寮生活・学校生活で培うコミュニケーション力や、課題と向き合って解決策を見出す力は、社会人になってからも活かしていけるはずです。
また、親御さまからよく話していただくのですが、帰省の際に「身の回りのことができるようになった」「自分から進んであいさつをするようになった」という変化に驚かれることも多いです。これは、全寮制で集団生活を送るという環境や、キャンパスでお互いに挨拶をすることが当たり前になっているからなんですね。
そんな子どもの成長に近隣の方々が驚き、「自分の子もあんなふうに成長してほしい!」ということで本校への入学を希望されるケースもあるほどです。
親元から離れて生活をするのは不安かもしれませんが、一歩踏み出した先にはお子さまの大きな成長がありますよ。教職員一同、お子さまのご入学を心よりお待ちしています。
御校が重視する多様性や、共生の心は、国が重視する「生きる力」にもつながりますね。中学生・高校生時代に人のために尽くす喜びを経験すると、人生観も変わると思います。
本日は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
広島三育学院の在校生・保護者の声
最後に、広島三育学院中学校・高等学校の感想・口コミを紹介します。
感想からも、1人ひとりの個性を尊重しながら、手厚く指導する先生たちの姿がうかがえます。そのほか、「自立心が養われる」「スムーズに人間関係を築けるようになった」など、寮生活を評価する声もたくさん見られました。
広島三育学院中学校・高等学校の問い合わせ先
問い合わせ先 | 広島三育学院中学校・高等学校 |
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住所 | 広島県三原市大和町下徳良296-2 |
電話番号 | 0847-33-0311 |
公式サイト | https://www.saniku.ac.jp/hiroshima/ |