特徴的な教育を実施する注目の学校を紹介するこの企画。今回は東京都世田谷区にある私立中高一貫女子高の「田園調布学園中等部高等部」にインタビューを行いました。
田園調布学園中等部高等部は1926年に創立された100年近い歴史を持つ伝統校です。田園調布という落ち着いた環境に校舎を構え、「土曜プログラム」や「探究」など、体験重視の教育を提供しています。近年では半数弱が理系大学に進学しているなど、多様な進路が実現している点も特徴です。
今回は入試広報部部長、数学教科担当の細野先生に、同校の教育方針や教育プログラムの特徴について伺いました。
この記事の目次
創立以来受け継がれる建学の精神「捨我精進」
▲インタビューにご対応いただいた細野先生
まず田園調布学園中等部高等部がどのような学校なのか、概略を教えていただけますか?
本校は1926年に西村庄平氏によって創立された「調布女学校」を前身とする学校です。外国航路の船長であった西村氏がヨーロッパなど諸外国を巡る中で、日本の女子教育の遅れに危機感を持ったことが創立の背景です。
その後、学制改革により1947年に調布中学校が、1948年に調布高等学校が設立認可され、2004年に田園調布学園中等部・高等部に校名変更、2014年に併設型中高一貫校(※)に移行して現在に至ります。
※併設型中高一貫校…高等学校入学者選抜を行わずに、同一の設置者による中学校と高等学校を接続する学校のこと。
田園調布学園中等部高等部ではどのような教育理念を掲げていらっしゃるのでしょうか。
本校では創立当初から初代校長の川村理助氏が唱えた建学の精神「捨我精進」のもと、生徒たちが自分の人生を切り拓く人格の根っこをつくっていく教育を行っています。
「捨我精進」の「我」はわがままな気持ち、甘えた気持ちを指し、「捨我精進」にはそういう気持ちを捨てて目標に向かって精進し、今の自分を一歩超えて前に進んでいこう、という意味が込められています。「捨我精進」の実践を通して「強い心・思いやりの心・素直な心」を育み、社会に貢献できる女性の土台づくりを行っていく、というのが本校の教育理念です。
学校ルーブリックで、教育理念を具体化
▲各教室に掲げられる「捨我精進」の書
御校の教育理念を実践していく上で取り組んでいることを教えてください。
捨我精進は抽象的な言葉のため、「必要な力」と、その「土台となる姿勢」を学校ルーブリックに示し、生徒に提示しています。
※引用:田園調布学園中等部・高等部公式サイト/教育理念・学校ルーブリック
中高の6年間で、この学校ルーブリックに示した力や姿勢を身に付けることが「捨我精進」の具現化にあたります。我々教員は、授業はもちろん、行事やクラブ活動、委員会活動など、あらゆる教育活動で学校ルーブリックを意識して行い、生徒が自身の成長を実感できるようにしています。
その中で中等部生は「精進日誌」という取り組みを行っています。これは生徒が1日の生活を振り返って感じたこと、考えたことを書き、担任に提出するものです。書くことは考えることであり、自分と向き合う時間にもなるため、「なりたい自分」の指針にもなっていきます。
実践と体験を重視する、田園調布学園中等部高等部の教育プログラム
田園調布学園中等部高等部では社会で力を発揮できる女性の育成に向け、“実体験”に重点を置いた学びを提供しています。ここからは同校の特色ある教育プログラムを、「土曜プログラム」「探究」「教科横断型授業」の3つを軸にして紹介していきます。
約170講座から自分の興味・関心に合わせて選べる「土曜プログラム」
田園調布学園中等部高等部の教育プログラムの大きな特徴でもある「土曜プログラム」について詳しく教えてください。
土曜プログラムは2002年、私たちの教育の根幹にある「実体験」を重視した学びを提供する機会として始まりました。年間で8回・1日2時間の中で生徒が自分で時間割をつくっていく、必修選択のカリキュラムです。大学教授や卒業生など外部講師を中心に全5分野・約170講座を展開しており、生徒は自分の興味・関心に合わせて自由に選択ができます。
土曜プログラムではどのような講座を体験できるのか、具体例を教えてください。
講座の内容としては企業経営者が講師を担当する仕事最前線など、キャリアデザインに結び付くものもあれば、語学や心理学、フィールドワーク、声楽・ヴォイストレーニング、保育園での保育体験など多岐にわたります。
「やってみよう天気予報」という講座では、気象予報士の方に講師を担当していただいています。実際にニュースの天気予報のように読み上げたり、天気図を教えてもらったり、充実した内容です。また中等部対象の「理科ふしぎ不思議」という講座は、東京工業大学の元教授の方などが組織する蔵前理科教室をお招きして、理科の実験を行っています。ポンポン蒸気船を作ったりスライムを作ったりと、教科書には載っていないような理科の不思議に触れられる内容です。
中には教科の学習を深めていきたい生徒もいるため、教員による講座も実施しています。例えば高校2年生を対象に行っているのが、本校の数学科教員がリレー形式で授業を行う数学『講究』です。土曜プログラムは生徒が好きな講座を選択するのと同様に「先生も好きな内容をやろう」というスタンスなので、中にはかなり専門的で難しい内容を行っている先生もいますよ(笑)。でも生徒自身も興味を持って受講しているため、難しくても満足度が高いのが特徴です。
細野先生ご自身も数学『講究』を担当されていますか?
はい。私は「パスタを3つに割って三角形が作れる確率を求めよう」という内容の数学講座を実施しました。中等部3年生で学ぶ内容と高等部1年生で学ぶ内容が複合されており、普段の授業とは別のアプローチから解法を考えさせていくことができる内容となっています。
教科に関する講座であっても、普段の授業とはまた違う刺激を受けることができるんですね。土曜プログラムは生徒の皆さんの成長にどう影響していると思われますか?
自分の好きな講座を受講したことで、自分の目標を見つけている例が多いと感じます。例えばK-POPが好きだからという理由で韓国語の講座を取った生徒が、語学の面白さに気づき上智大学の外国語学科に進学した例があります。他にも、何気なく取ったプログラミング講座で自分のやりたいことに気が付き、東京理科大学の工学部に進学した生徒もいます。いろいろな体験ができることで、自分の本当の「好き」や目標を見つけるきっかけになっているのではないでしょうか。
探究学習では、企業などの外部とつながり実践的な学びを得る
▲高等部の探究発表は講堂やプラザ、体育館などで実施される
御校のカリキュラムの大きな特徴に「探究」と「教科横断型授業」が挙げられるかと思います。まずは「探究」について、どのような内容を実施されているかを教えていただけますか?
中等部1年生から高等部2年生の5年間、週1コマ探究の授業を行っています。探究の授業で大切にしているのは、答えのない問いに対して多角的に物事を見て、さまざまなアイディアを生み出していくという点です。
デザイン思考という思考法を用いて課題解決学習を行っています。中等部1年生では身の回りの課題からスタートしますが、2・3年生では学校の外の企業などとつながりながら実践的な探究活動を行っています。例えば2年生では、学校の近くにある「みぞえ画廊」という画廊さんにご協力いただき、「アートギャラリーを身近なものにする」というテーマのもと生徒がアイディアを考えて画廊さんにプレゼンテーションを行う、という一連のプロジェクトを行いました。普段画廊に馴染みのない生徒ならではの視点で、さまざまなアイディアが生まれていましたよ。例えば「画廊に絵の模写をできるスペースがあると楽しめるのではないか」というアイディアは、普段絵画に触れていないからこそ出る発想でとても面白いなと思いました。
中等部3年生では、カルビー株式会社さんの協力のもと「じゃがりこを用いた新しいコミュニケーションアイデア探究プロジェクト」に取り組みました。「じゃがりこを使ってSNS映えする写真を撮る」「じゃがりこをくじに見立てて“くじりこ”にする」といったアイディアが生まれ、カルビーさんからのフィードバックもいただきました。企業視点での本気のフィードバックのため鋭い指摘もありましたが、その分生徒にとっても刺激ある機会になったのではないかと思います。
高等部の探究ではどのような内容を行っていますか?
高等部では、中等部での課題解決方法の学びを踏まえた上で自分の好きなもの・得意なものから没頭できるものを見出す「BOTTO」プロジェクトを実施しています。1年生はまず自分の好き・得意を把握してそれを掘り下げ、2年生ではそれを活かして人にどう貢献できるのかを考えるというプログラムになっています。一人ひとり自分でテーマを設定し、年に1回探究発表会で成果発表をしています。
探究の授業によって生まれた生徒さんの変化などはありますか?
土曜プログラムとも重なりますが、自分の興味・関心を突き詰めることで進むべき道を見出す生徒は多いと感じます。
特徴的なのが、探究の授業がきっかけとなってアフリカのルワンダに留学に行った生徒です。その生徒は探究の授業で好き・得意を突き詰めていったことで「子どもが好き」「アフリカに行ってみたい」「物語を書くのが好き」という自分の興味・関心が明確になりました。そこで文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN」の制度を活用してルワンダに留学したんです。
絵や物語という自分の“得意・好き”を活かしてルワンダの子どもたちと交流を行う中で、現地の貧困問題などにも直面し、自身の世界観が変わるような経験をしたそうです。そこで得た経験をもとに、現地で出会った人たちの現状を物語として伝えていきたいという将来の夢を得たと話してくれました。
知的好奇心を呼び起こす「教科横断型授業」
教科横断型授業についても伺います。2つの教科をかけ合わせて授業を行うこのカリキュラムは、どのような意図で実施されているのでしょうか。
1つの物事にさまざまな側面があるように、勉強も複数の教科の知識が関わっています。しかし生徒は教科ごとに知識を区切ってしまいがちで、なかなか関連させて考えることができません。教科横断型授業でそこをつなげることで、生徒の思考の幅を広げるとともに、物事を多角的な視点から見る姿勢を身につけることを目的としています。
2017年度にスタートした当初は、試験的な意味合いで「数学と物理」という比較的近い科目の横断授業を行っていました。しかし近年では教員も「捨我精進」の精神で、毎年新しい科目同士の横断授業にチャレンジしています。今では延べ40種類くらいの横断授業がストックされており、各学年年間4、5回の頻度で実施しています。
細野先生はどのような教科横断型授業を実施されましたか?
私は数学×物理、数学×音楽、数学×美術の3種類です。
数学と音楽はかなりかけ離れた分野のように思ってしまいますが、どのような内容なのでしょうか。
「サイコロを振って出た目で譜面を決めて作曲していく」という、モーツァルトが遊びで行っていた作曲活動をもとにした授業です。2020年度のコロナ禍に音楽の授業で歌えないという状況が生まれ、「作曲」という内容がちょうど良いのではないかということで実現しました。
複数パターンの旋律を用意し、2つのサイコロを振って出た目の和にしたがって選び作曲していくという、音楽的観点では作曲、数学的観点では確率や統計を学べる内容となっています。その中で「12」は出る確率が低く、6・7・8の確率が上がるということが自然と分かってくるんですね。「当時のモーツァルトも確率の低い12には少し変わった旋律を充てて遊んでいたのかな」といったように、当時の状況を数学的視点から考察することにもつながりました。
非常に面白い授業ですね。生徒さんたちからは教科横断型授業に対してどのような反応がありますか?
生徒からは「教科書に書かれていることを超えて、いろいろな場面で知識を活用できる新しい発見があった」という反応をもらうことが多いですね。数学×音楽の横断型授業で印象的だったのが、「音楽が好きなのに、その時間を数学に取られると思って最悪な気分だった。でもこうやって数学を使うのであれば数学も面白いなと思った」という感想です。苦手だと思っていた教科も、好きな教科と組み合わせることで相乗効果が働き、好きになっていくのはこの教科横断型授業の大きな魅力だと思います。
教科横断型授業は内容を構築していくために教員の創意工夫もかなり求められるのですが、こういった生徒の感想を見ていると、うまく知的好奇心を刺激できているなと実感します。教員にとってもやりがいを感じられる授業内容ですね。
好きなことを突き詰めたり新たな視点を得たりと、田園調布学園中等部高等部には「実体験」を通じて学びを広げていける環境があることが良く分かりました。
細野先生、本日は貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました!
田園調布学園中等部高等部の校舎・制服を紹介
▲校舎内に設置された、田園調布学園中等部高等部を象徴する「精進の鐘」。1日の始まりは毎朝3回鳴る「精進の鐘」から
続いて田園調布学園中等部高等部でどのようなスクールライフを送るのかをイメージしていただけるよう、校舎や制服などを紹介していきます。
※スクロールで写真が見られます→
東京都世田谷区、田園調布駅から徒歩約10分という恵まれた立地に位置する田園調布学園中等部高等部。2005年に竣工した新校舎は重厚感のある煉瓦造りの外観を備え、校舎内では木の温もりを感じることができます。校舎の真ん中は吹き抜けになっており、明るく開放感のある空間が広がっています。見晴らしの良い屋上庭園からは、スカイツリーも眺望できます。
▲ 図書館は日当たりが良く、集中できる空間
本校舎2階にある吹き抜けの開放的な空間と広いガラス窓が特徴的な図書館は、36,000冊の蔵書を備える田園調布学園中等部高等部の学びの中心です。24時間開放されているため生徒は学校が開く朝7時から使用可能で、休み時間も放課後も思い思いの過ごし方ができる人気の場所となっています。
▲ 司書の方による展示物も図書館の魅力
▲ 伝統を受け継ぐ冬服と、生徒デザインを取り入れた夏服
学校生活を送る上で大切な制服は、創立以来変わらない冬服のセーラー服と、2018年度にモデルチェンジした夏服があります。スラックスも選択できるなど、多様な組み合わせが可能です。
▲放課後に講堂で練習する演劇部
▲廊下のスペースで活動するバトン部
部活動も盛んな田園調布学園中等部高等部。休み時間や放課後には、部活ごとにそれぞれの場所で練習をする活気ある光景が広がっています。
田園調布学園中等部高等部の進学実績
田園調布学園中等部高等部の進学実績の特徴として、毎年半数弱の生徒が理系大学に進学していることがあります。2024年春の卒業生のうち、理・工系に29%、医・薬・農系に20%進学しました。学校側が理系進学を推奨しているわけではなく、「実体験」を重視する多様なプログラムを推進する中で生徒自身が自分の希望を追求した結果として、進学の選択肢も多様化していると言えるでしょう。
過去3年間の中で国内最難関校の東京大学を始め、多くの名門校への合格者を輩出しています。また近年では海外大学への進学・合格実績も目立っています。
■進学実績(田園調布学園中等部高等部公式サイト)
https://www.chofu.ed.jp/career/situation/
田園調布学園中等部高等部の保護者・生徒の口コミ
最後に、田園調布学園中等部高等部の在校生・保護者の声をご紹介します。
田園調布という立地や施設面の魅力をはじめ、学習面での手厚いサポートがある点が好評を得ています。特に理系を始め、多様な進路が実現している点を評価する声が多く聞かれました。
田園調布学園中等部高等部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人調布学園 |
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住所 | 東京都世田谷区東玉川2-21-8 |
電話番号 | 03-3727-6121 |
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