独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、埼玉県東松山市にある共学の中高一貫校「東京農業大学第三高等学校・附属中学校」を紹介します。
同校は、留学生との交流の機会を豊富に設けた国際教育や、大豆の栽培やヒラメの養殖などを体験する実学(※)教育に力を入れています。また、大学受験に必要な学力を校内だけで養うべく、学内塾も設置しています。
(※)東京農業大学第三高等学校・附属中学校では、自ら疑問を持ち調査する等のプロセスを経て「知識」を「知恵」として体得する学びを「実学」と呼ぶ
そんな同校の取り組みの具体的な内容や得られる学び、生徒の様子について、神山達人校長から詳しくお話を伺いました!
この記事の目次
「不屈・探究・信頼」の教育理念を掲げる東京農業大学第三高等学校・附属中学校
▲東京農業大学第三高等学校・附属中学校の神山達人校長
まずは、東京農業大学第三高等学校・附属中学校の教育理念についてお聞かせください。
教育理念である「不屈・探究・信頼」は、本校を運営する学校法人東京農業大学の創設者・榎本武揚の生き様を反映させ、約40年前の高校開設当初に策定されたものです。
江戸幕府の家臣だった榎本は戊辰戦争に敗れましたが、不撓不屈の精神が評価されて新政府では大臣に抜擢されました。また、オランダに渡って国際法を学ぶなど、飽くなき探究心を持ち、周囲の信頼も厚い人物でした。
榎本の在り方は「21世紀を担う国際人」の育成を目指す本校の目標であり、私も入学式や卒業式では必ず触れるようにしています。
大学創設者の生き様を目標にした教育が、現代まで連綿と受け継がれているのですね。
はい。さらに、変化し続ける社会を生き抜くために必要な「次世代型学力」を生徒に身に付けてもらうべく、2020年に教育改革に着手しました。そこで設けたのが『農大三高・三中改革の3本柱』である「大胆なグローバル化」「実学教育の強化」「学内完結型学習体制」です。
本校では、この3本柱を反映した英語教育、実学教育、学内塾の設立を実施し、次世代型学力の定着を目指しています。
変化する時代に対応するための教育改革の3本柱
ここからは、東京農業大学第三高等学校・附属中学校の「改革の3本柱」である「大胆なグローバル化」「実学教育の強化」「学内完結型学習体制」が反映されたカリキュラムや取り組みについて、具体的に伺っていきます。
留学生との盛んな交流で英語学習のモチベーションアップ
▲イングリッシュワークショップの様子
最初に『改革の3本柱』の1つ「大胆なグローバル化」について、具体的にどのような取り組みをされているのか紹介いただけますか?
「大胆なグローバル化」に関する主な取り組みは、学年ごとに行う英語を使った学校行事です。
中学1年生では、本校に招待した留学生と生徒が3日間一緒に過ごす「イングリッシュワークショップ」を実施しています。生徒4〜5人と留学生1人が1グループとなって交流を楽しむ行事です。1年生は文化祭で英語を使って自己紹介を行うので、その紹介文や発表の仕方などについてアドバイスをもらったりもします。
中学2年生の「グローバルイングリッシュキャンプ」では、3日間の宿泊で起床から消灯まで留学生と共に過ごします。また、文化祭で取り組む英語劇の指導もしてもらいます。この1、2年生のイベントでは、留学生との交流を通して、外国人と接することに慣れてもらう狙いがあります。
▲グローバルイングリッシュキャンプで留学生と交流する生徒
留学生との交流について、生徒からはどういった感想が聞かれますか?
「とても楽しかった」という声が多いです。1年生に関しては、高い英語力がなくても簡単な単語の羅列やジェスチャーでもある程度コミュニケーションが取れることに気づくようです。そうやって英語への抵抗感が払拭できればと考えています。
また留学生は、あえて欧米ではなくフィリピンやインドといったアジアの方を中心にお招きしています。留学生が第二言語として英語を使いこなす姿を生徒たちに見せて、刺激を受けてほしいのです。
「母国語ではない言葉をこんなに上手に話せるんだ」と感化され、英語学習のモチベーションも上がるかもしれないですね。
そうですね。また中学3年生では、希望者のみですが、夏休みに約10日間のニュージーランドでの語学研修に行きます。1、2年生での経験を思う存分に発揮するため、海外で英語だけの生活を体験します。
丁寧に段階を踏みながら語学学習を進めていくのですね。いきなり高いハードルを設定されると萎縮してしまう生徒もいるかもしれませんが、このやり方であれば多くの生徒が着実に力をつけていけそうですね。
高校ではどのようなグローバル教育に取り組んでいるのでしょうか?
高校でも引き続き留学生との交流会を設けているほか、オーストラリアへの6日間の修学旅行もあります。このうち3日間は、農家にホームステイする「ファームステイ」を行い、生徒たちに動物との触れ合いや畑仕事を体験してもらいます。
英語を使いながら農業や畜産に触れられる、御校ならではの取り組みですね。
国境のボーダレス化に備えた、多様性を学ぶ国際教育「世界5大陸との交流」
国際教育について、今後はどんな展望がありますか?
2023年度からの4年計画で取り組んでいるのが、「5大陸との交流」を目指した教育です。東京農業大学に通うアフリカや南米からの留学生を本校にお招きし、高校生たちと交流してもらいます。計画最後の4年目には、海外とオンラインでつながり、さまざまな国の方々と学校紹介や生徒の自己紹介などを交わす場を設ける予定です。
交流相手がアジアや北米、ヨーロッパだけでないのは、いろいろな価値観を学ぶことに主眼を置いているからでしょうか?
そうですね。英語を使った交流というと、相手は欧米やアジア出身の方に偏ってしまう傾向があるかと思いますが、これからの社会はより国境のボーダーレス化が進んでいきます。それに備えて、多様な国や地域の方々からそれぞれの文化や価値観について学べればと考えています。
大豆栽培等の体験を通して、「知識」を「知恵」として身につける実学教育
▲ヒラメを養殖に取り組む生徒
次に「実学教育の強化」について教えていただけますか?
本校の「実学教育」では、自分で疑問を持って調べ、体験を通して「知識」を「知恵」としていくサイクルを回していくような授業を行っています。例えば中学校1年生では大豆の栽培を、屋上菜園での栽培と実験用具を使っての栽培と2通りに分けて行います。
屋上で育てた大豆は、最終的に味噌にして食べます。味噌づくりは東京農業大学の研究室で行い、麹の種類や醸造の仕組みを大学教授から教えてもらいます。
一方、用具を使って育てる大豆は、肥料の量を変えたり、日照時間を変えたりして、それぞれの生育状況を比較分析します。生育を促進させるために観察と仮説検証を繰り返し、その大切さを身を持って学びます。そして、分析や生育の結果を各クラスで班ごとにまとめ発表します。優秀な発表をした班には、文化祭でも保護者たちの前で発表してもらいます。
発表ではパワーポイントなどでプレゼン資料をデザインし、聞き手に分かりやすく伝える工夫も求められます。この過程で知識が深められるのはもちろん、友人と意見を交換しながら発表の準備を進めるので協調性が培えますし、プレゼン能力も度胸も身に付きます。
1つのテーマの学習で、さまざまな知識や経験が得られるのですね。
中学2年生になると、学内に水槽を作ってヒラメの養殖をします。外部のNPO法人のスタッフに指導をしてもらい、専門的な知識を学びながら養殖を進めていきます。
ヒラメの養殖も大豆の栽培と同様、生育の観察記録をとり、プレゼンをする機会を設けます。最後には育てたヒラメを食べるのですが、ヒラメを締めるときにはみんなで合掌し、命をいただくことに思いを馳せます。
こうした経験から、生徒は普段口にしている食べ物が食卓に届くまでの経緯を知り、自分たちの生活がさまざまな命によって支えられていることも実感できます。また、科学的な分析や農業・養殖業について学ぶことで、将来について考えるきっかけにもなっています。
高校の体験型学習の経験を、総合型選抜の大学入試で活用する生徒も
▲「吉見百穴」でフィールドラーニングをする生徒
高校では、どんな実学教育があるのですか?
希望制で「フィールドラーニング」という体験型学習があります。特に人気なのは、化学で取り組む東京農大でのジャム作り体験です。イチゴやブルーベリーをジャムにしていく過程で、化学反応について学びます。
他にも、生物では静岡の沼津港深海水族館へ行って海の知識をより深めたり、世界史ではキリスト教の教会とイスラム教の礼拝堂を訪ねて宗教的な違いを体感したり、といったフィールドラーニングを行っています。
この学習での経験を、総合型選抜の大学入試で自己推薦書や業績書に記入したり、面接でエピソードとして語ったりする生徒も多いようですよ。
受験に必要な学力を校内で培える「学内塾」を設置
▲学内塾「EdOM(エドム)」の講義の様子
改革3本柱の3本目である「学内完結型学習体制」についてお聞かせください。
「学内完結型学習体制」とは、大学受験のために学習塾などに通わなくて済むように、学内で講じている学力定着や入試対策への取り組みを指します。
その一つが学内塾「EdOM(エドム)」の導入です。これは私立校などの学習を支援する「株式会社学びの森」が展開する事業で、放課後に学校に常駐する塾講師が講義したり生徒の質問に答えたりしています。
また、「EdOM」は生徒の習熟度に合わせた指導ができる利点もあります。さらに、週に1回は講師と教員で必ずミーティングをし、生徒の学習状況を把握するようにしています。
生徒はみんな受講しているのでしょうか?
中学生には、必ず英語・数学の講習と自習教室に週3回出席してもらいます。習い事や部活動などで出席できなかった生徒には、夜8時から10時頃までの時間で、自宅からビデオ通話をつなぎ学校の授業や宿題について講師に質問ができるようにしています。
放課後学習のバックアップとしてはかなり手厚いと思いますし、外部の学習塾に通う手間が省けるため、本校のように都心から離れた学校にとってメリットは大きいと考えています。
進路指導に関する取り組みについても教えてください。
本校では年に3回、生徒と教員との二者面談を実施しています。そこでは成績についてだけでなく、生徒の将来を見据えて長期的な視野で話をします。このような機会を設けることで、生徒に能動的に勉強をしてもらうよう促しています。
東京農業大学第三高等学校・附属中学校からのメッセージ
最後に、東京農業大学第三高等学校・附属中学校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校は、人よりも昆虫や動物の数が多いような自然にあふれたエリアにあり、マイペースで伸び伸びと過ごしている生徒が多くいます。学校も大学受験のバックアップはしますが、点数至上主義で偏差値の高い大学への進学を勧めるのではなく、生徒それぞれが満足できる適切な進路に導きたいと考えています。
そういった校風に魅力を感じてもらえているからか、埼玉だけでなく東京や千葉から通っている生徒もいます。もし本校に興味を持っていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。
御校には生徒がさまざまな学びを得られる機会が用意されていて、かつ勉強の支援体制も充実していると感じました。本日はありがとうございました!
東京農業大学第三高等学校・附属中学校の進学実績
東京農業大学第三高等学校・附属中学校では、2024年度に9割の生徒が4年生大学に進学しました。東京外国語大学やお茶の水女子大学のほか、東京医科歯科大学などの国公立大学へ入学した生徒もいます。また、早稲田大学、上智大学、東京理科大学をはじめ、さまざまな私立大学の合格者も輩出しており、東京農業大学には2024年度までの3年間で261人が合格しています。
■進路実績(東京農業大学第三高等学校附属中学校公式サイト)
https://www.nodai-3-h.ed.jp/hs/career
東京農業大学第三高等学校・附属中学校の卒業生の声
東京農業大学第三高等学校・附属中学校の卒業生の声を紹介します。
他にも「実験の授業が楽しい」という声が目立ちました。また、学内塾や教員による学校生活のサポートについてのポジティブな評価も見られました。
問い合わせ
問い合わせ先 | 東京農業大学第三高等学校・附属中学校 |
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住所 | 埼玉県東松山市大字松山1400-1 |
電話番号 | 0493-24-4611 |
公式サイト | https://www.nodai-3-h.ed.jp/ |