ぽてん読者の皆さんに、いま注目の学校を紹介するこの企画。この記事では、東京・世田谷区の中高一貫の私立女子校「恵泉女学園中学・高等学校」を紹介します。
女性キリスト者の河井道氏によって1929年に創立された同校は、主体性と多様性、そして協働性を育むため「聖書・国際・園芸」を軸とした教育を行っています。
自ら考え発信する力を重視する「考える恵泉」を掲げ、生徒が感じていることや考えていることを礼拝時に発表する「感話」という特色ある教育のほか、情報を批評的に読み解く「メディアリテラシー」や、答えのない研究に取り組むことで思考力を磨く「サイエンスアドベンチャー」といったプログラムにも取り組んでいます。
今回は、そんな恵泉女学園中学・高等学校の理念や教育内容、校内の雰囲気について、校長の本山早苗先生と副校長の江田雅幸先生にインタビューさせていただきました!
この記事の目次
「恵泉女学園中学・高等学校」の命と平和を重んじる教育方針
はじめに、恵泉女学園中学・高等学校の教育方針について教えてください。
本校は「神を畏れ 人を愛し いのちを育む」という建学の精神のもと、創立以来「聖書・国際・園芸」の3つの特設科目を柱とした教育を行っています。
「いのちを育む」とは、「私たちも含め、自然の中にある生命はすべて神様から与えられた命であり、命あるものをすべて慈しんで育てていく」という考えで、主に園芸の授業を通して自然や命への感謝の心を育てています。
また、これからのグローバル社会においては、多様な文化や価値観を尊重しながら他者と意見を交わせるような“平和的なしなやかさ”が必要です。そのような受容力のある人に育てていくため、本校では、一人ひとりの個性・「らしさ」を大事にする人格教育を大切にしています。
こうした教育を通じて、本校を卒業するころには、自分の考えや意見を持ち、それをしっかりと周りに発信できる力を身につけてほしいです。そのため、私たちが教育の柱のひとつに掲げる「国際」では、グローバルリーダーよりピースメーカーを育てることを意識しています。
「考える恵泉」に基づいて導入された多彩な教育プログラム
自ら考え発信する力や受容力を大切に考える恵泉女学園中学・高等学校では、キリスト教の礼拝の時間も単なる知識の学びで終わらせることなく、自分の生き方を考える時間と位置付けています。
ここからは、礼拝の際に生徒が考えを発表する「感話」や、発信する力を重視した英語教育など、同校の特色あるカリキュラムや課外活動について詳しく紹介します。
礼拝で語られる「感話」では、生徒の思考力と発信力が養われる
▲校長を務める本山先生は、自身も同校の卒業生だという。
まず、恵泉女学園中学・高等学校の特色とも言える「感話」についてお話しいただけますでしょうか。
本校は、生徒が自分の人生について考え、理想に向かって歩み続けることができるよう、思考力と発信力の育成を重視する「考える恵泉」を掲げています。毎朝に行われる25分間の礼拝の際に自分の考えや思いを発表する「感話」も、この方針に基づいて取り入れているプログラムです。
感話の発表は、同級生の前で発表する「クラス礼拝」と、全校生徒の前で発表する「生徒礼拝」があります。生徒礼拝では、中学生全員の前で中学3年生の生徒が発表を、高校生全員の前では高校3年生が発表します。
中学生は原稿用紙2〜3枚半、高校生は7〜8枚の文量を書き上げて発表するのですが、相手に伝わるかどうか考えながら文章をまとめるため、論理的思考力や豊かな表現力の育成につながります。また、自分が大事だと考えていることや社会で起きていることなどに関する気づきを言葉にすることで、自分と向き合う力も養われます。
生徒さんが感話で発表する内容にはどのようなものがあるのでしょうか。
クラブ活動と勉強の両立で悩んでいることについて話す人もいれば、友人関係や家庭で起きたことを話す人もいます。社会の出来事ではロシアとウクライナの戦争に触れて「なぜキリスト教の国同士が戦争をするのか」をテーマに話した人や、ジェンダーをテーマに「女性にとって理想的な社会」について考え、発表した人もいます。
はじめは型にはまった無難なことを話そうとする生徒が多いのですが、次第に悩みや自分の誇れない部分をさらけ出せるようになってきます。それは、自分の中にある弱い部分や至らなかった部分を直視し、受け入れることができるように成長したことを意味します。
発表を聞く生徒さんたちにとっても、新たな学びや視野の広がりに繋がりそうですね。
その通りです。同級生や上級生の発表を聞くことは「様々な考え方の人がいるんだ」という気づきを生み、個性を認め合いながら共に生きる力へとつながります。また、発表者の話に心を動かされ、家に帰って家族とそれについて話す生徒もいます。
感話は発表するための事前準備がとても大変で苦労の多い作業ですが、本校では生徒全員が感話に取り組むため、みんながその苦労を知っています。そのため、他の生徒の感話に真剣に耳を傾けます。
また感話は、話し手と聞き手の間に信頼関係があるからこそ成り立つものです。「本音を相手に受け止めてもらえる」という安心感があるから、ここまで率直に気持ちや考えを伝えることができるのだと考えています。
感話の書き方は教員が指導するのでしょうか?
内容や表現については基本的に指導することはありません。
私たちは神様の前、真理の前では教師も生徒も並列だと考えており、感話についても教員が教えるものではなく、自ら考えてもらうようにしています。恵泉の礼拝は「生き方の探究活動」と呼べるものだと思っています。
伝統行事スピーチコンテストを含め「英語で話す」を重視
▲図書館には、人気コミックの英訳版が。教科書に加えて様々な本を教材に語彙力を高めている。
恵泉女学園中学・高等学校が重視する英語・国際教育についても特色を教えてください。
私たちは、英語を「さまざまな国の人たちとコミュニケーションを取って国際平和に貢献するためのツール」だと考えており、自分の言葉でしっかりと発信できる力をつけてもらいたいと考えています。そのため、読んだ本の感想をネイティブの先生に伝えるブックリポートや、ディベート、スピーチなど、考えを英語で話す機会を多く設けています。
なかでも、中学3年生から高校2年生までが参加する校内英語スピーチコンテストは本校が大切にしてきた伝統行事です。中3では有名なスピーチなどを暗唱し、高2では感話と同じように自分の考えを英語で述べるフリースピーチを行います。
スピーチコンテストには全員が参加するのでしょうか?
対象学年の全員が参加します。生徒はネイティブ教師の指導も受けながら、夏休みの宿題としてスピーチの準備に取り組みます。9月・10月と校内予選があり、それを勝ち抜いた生徒は講堂で発表します。そこで入賞すると、次は「東京都私立中高協会第8支部」が開催する校外のスピーチコンテストにも出場します。
発話力を伸ばすために、どのような授業を行っているのでしょうか?
英語の教科書には中高一貫校向けに作られたものもありますが、本校ではあえて基礎から学べる検定教科書を使用しています。小学校の英語教育には差があり、中学で初めて本格的に英語を学ぶ人が多いことを前提に考えているからです。
高校1年生までは英会話の授業が必修なので、発話力をしっかりと伸ばすことができます。基礎から地道に学ぶことで高校生になる頃には模試でも自信を得ることができ、海外の大学が求めるレベルに到達する生徒もたくさんいます。
恵泉女学園ならではの科目「園芸」では、いのちの重みを知る
恵泉女学園中学・高等学校ならではの特設科目「園芸」についても教えてください。
園芸の授業は中学1年と高校2年を対象に実施しており、中1ではジャガイモや大根、ワタ(綿)、高2ではブロッコリー、カブ、ラッカセイなどを育てます。
土を耕すところから収穫するところまで行うことで、自分たちが食べるものが簡単にできるわけではないことが分かります。実際に作ってみると、形が曲がったり葉っぱに穴が空いたりすることもあり、スーパーに並んでいるような綺麗な野菜はなかなかできません。このように、いのちを育てるためには大変な過程があり、困難もあるのだということを知ってもらうことが目的です。
また、学園内にけやきの木があるのですが、けやきは秋から冬に落葉します。その落ち葉は堆肥になり、畑にまかれ、作物が育つための栄養素になります。このような様子を見ることは、命の循環を肌で感じることにつながるでしょう。
育てた作物はみんなで食べるのでしょうか?
家に持ち帰って家族で食べることもありますし、学校で加工や調理をしてみんなで食べることもあります。また、花も育てているので、押し花を作ったりクリスマス用のリースを作ったりすることもあります。
▲キャンパスには、畑のほかに農業用ハウスもあり、本格的な園芸を学べる。
園芸の授業は、校外で行うこともあるのでしょうか?
中学2年生は、夏に山梨県・清里高原の牧場に2泊3日する「ファームワーク」に参加します。そこで、放牧や牛舎清掃、乳搾りなどを通じて、働く喜びや命と食の関係など多くのことを学んでいます。
▲廊下に展示されている唐箕。校内で収穫した稲や麦の加工に、実際に使用している。
メディアリテラシー教育で情報を適切に判断し活用する力をつける
恵泉女学園中学・高等学校はメディアリテラシー教育にも力を入れていると伺いました。その背景や教育内容についてもご紹介いただけますか?
情報を鵜呑みにせず自分の責任で読み解き、上手に活用できるようになるため、情報科と国語科でメディアリテラシー教育を行っています。
2022年度から高校で「情報I」が必修科目になりましたが、本校では情報の授業を中学3年生からスタートします。授業ではコンピュータの操作だけでなく、目的に合わせた情報収集の仕方や、各メディアの特性を踏まえた効果的な情報発信方法などを学びます。
国語の授業では新聞5紙ほどを比較・分析し、同じ題材でも伝え方や切り口が異なることを知り、発信者の意図を読み解く力を身につけます。また、新聞作りにも挑戦しており、企画会議で題材を決めて取材し、記事の執筆や紙面づくりを行っています。
新聞作りではどのようなテーマを取り上げるのでしょうか?
学内に存在するさまざまな問題をテーマにしています。学費の値上げや学食の人気メニューを紹介するグループもあれば、「学園祭はなぜ1日しか開催しないのか」というテーマを取り上げたグループもありました。新聞づくりに際してインタビューする相手も、先生や先輩などさまざまですね。
メディアリテラシーの授業では、情報を主体的、批評的に読み解く力という、これからの時代に欠かせない力をしっかりと養うことができるのですね。
課外活動「サイエンスアドベンチャー」で答えのない研究に自主的に取り組む
理科系の教育でも特色ある取り組みがあればご紹介いただけますか?
科学の楽しさを知るとともに主体的に人生を切り拓く人になってほしいという思いから、希望者が参加する課外活動「サイエンスアドベンチャー」を実施しています。生物、化学、物理、コンピュータ・サイエンスの4つの班に分かれ、課外活動専門の教員と一緒に興味のあるテーマを継続的に研究し、学外の発表会などに参加します。
研究テーマはさまざまで、例えば生物班はホトケドジョウやワカケホンセイインコなどの生態を研究しました。物理班はモデルロケットを作ってJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開催する「モデルロケット全国大会」に出場しており、コンピュータ・サイエンス班は自分たちでプログラミングしてロボットカーなどを作っています。
サイエンスアドベンチャーは有志の活動なので、基本的には生徒たちの自主活動という位置付けです。専門の教員が指導はしますが、生徒の意見を取り入れながら研究することをメインとして進めています。
課外活動の他に、力を入れている理系授業はありますか?
授業では、中学3年生の1〜3月に中学理科の集大成として「探究実験」を行います。グループごとにテーマ決めから、実験計画を立てること、実験、分析まですべて自分たちで行います。また実験結果から導き出した結論は、スライドにまとめて発表します。
理系の学びにも興味を示す生徒が多く、例えば癒やされる香りのホカロンを作ろうなど、楽しんで取り組んでいるようです。
ここまでお話を伺い、「考える恵泉」を掲げる恵泉女学園中学・高等学校には、自ら考え発信する力を伸ばす機会がたくさんあることがよく分かりました。
恵泉女学園中学・高等学校のスクールライフを紹介!
ここからは、副校長の江田先生と一緒に校内のスポットを巡りながら、恵泉女学園中学・高等学校の生徒がどんな学校生活を送っているのかを探っていきます!
「メディアセンター」は9万冊の蔵書や学習室を備えた居心地の良い空間
メディアセンターは教室24個分に相当するということで、とても開放的な空間ですね。
メディアセンターは図書館や学習室、コンピュータ室を備えた施設です。
図書館は静かに過ごす場所というイメージがありますが、オープンスペースでは生徒たちが会話を楽しんでいます。奥のスペースに行くとあまり声が届かず静かに過ごせるので、用途によって使い分けることができ、みんなにとって居心地の良い場所だと言えます。
図書館の蔵書は何冊くらいあるのでしょうか?
蔵書は9万冊を超えています。予算が潤沢に設けられており、新刊から生徒がリクエストした本まで毎週たくさんの本が入荷されます。漫画であっても教育的であると判断したものなら積極的に置いています。
子育て関連の雑誌「プレジデントファミリー」では、優れた学校図書館のひとつとして取り上げていただいたこともあります。また、学校見学にいらした本好きの小学生が、メディアセンターを見て「この学校に決めた!」と言ってくれることもありますよ。
ハンドベルからチアリーディングまで!課外活動や部活も豊富
課外活動や部活動についても、ご紹介いただけますか?
課外活動に関しては、サイエンスアドベンチャーのほかにも、ハンドベル、聖歌隊、オーケストラ、茶道、華道、書道などがあります。ハンドベルの活動には30人以上が参加しており、学校行事だけでなく、教会や福祉施設などで演奏しています。今は定例コンサートに向けて練習しているところですね。
発表会は、いま生徒さんたちが練習しているフェロシップホール(講堂)で行うのでしょうか?
そうです。フェロシップホールにはパイプオルガンもあるので、礼拝では奏楽に合わせて讃美歌を歌うことができます。
礼拝以外にも学園祭の発表や芸術鑑賞など、さまざまな機会にこのホールを利用しています。1,100人ほどを収容できますが、教室と中継でつなぐこともできるので、月曜日に全学年が合同で礼拝を行う際には一部の学年は教室から参加しています。
▲フェロシップホールは、100周年に向けて建て替え予定。
クラブ活動は何種類くらいありますか?
運動系と文化系を合わせて21のクラブがあります。運動系は陸上や球技のほか剣道やチアリーディングなどがあり、文化系では音楽劇を行う「オペレッタ」や、本校らしい園芸クラブなどもあります。
▲約70人が所属するチアリーディングクラブ。この日はトレーニングの一環で校内をジョギングしていた。
恵泉女学園中学・高等学校からご家族・お子様へのメッセージ
最後に、記事をご覧のお子さんや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校は、「汝の光を輝かせ」という聖書の一節を大切にしています。これは、一人ひとりが持つ光を輝かせて、世の中の暗闇を照らすような人になってもらいたいということです。だからこそ、6年間を通して生徒の個性や「らしさ」が輝くような学びをサポートしたいと考えています。
個性を自由に出すことができ、それを周囲が認めてくれる環境がある学校ですので、興味を持たれた方は、ぜひご見学いただければと思います。
恵泉女学園中学・高等学校には、これからの時代に求められる「自ら考え発信する力」を養い、自分らしく輝く女性へと成長できる環境が整っていると感じました。
本日は、ありがとうございました!
恵泉女学園中学・高等学校の進学実績
恵泉女学園中学・高等学校の大学進学率はほぼ100%です。生徒は一人ひとりの個性に応じた多様な進路を実現しており、2022年度は理系進学者が4割近くとなり、医学部合格者も7名輩出しました。
進路指導では、中学1年生の時から将来の目標を設定し、教員は日々の学校生活の中で目標実現に向けたアドバイスを行っています。また、平日の午後7時まで使える自習室を設置するなど、自主的に勉学に取り組む生徒をサポートする環境も整っています。
近年の進学実績(恵泉女学園中学・高等学校の公式サイトより)
https://www.keisen.jp/course/course.php
恵泉女学園中学・高等学校で学んだ卒業生の声
ここでは、恵泉女学園中学・高等学校で学んだ卒業生の声をご紹介します。
卒業生からは、感話をはじめとする「考える力」を伸ばす教育が、その後の活躍につながっているという声が多くあがっていました。
お問い合わせ
問い合わせ先 | 学校法人 恵泉女学園 恵泉女学園中学・高等学校 |
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電話番号 | 03-3303-2115 |
公式サイト | https://www.keisen.jp/ |