画期的なカリキュラムで、次世代を担う子どもたちを育てる学校を取り上げる本企画。今回は、東京都文京区にある私立男子校「獨協(どっきょう)中学・高等学校」を紹介します。
1883年(明治16年)に開校した獨協中学校・高等学校は、6年間でカリキュラムが組まれた完全中高一貫校です。体験型の環境教育・グローバル教育を通し、社会で活躍するスキルを伸ばします。中学3年生からは選択講座・科目でドイツ語を学ぶことができ、医学部・歯学部・薬学部にも多くの合格者を輩出しています。
これまで多くの生徒たちの成長を見守り、2024年度から副校長に就任された坂東先生にインタビューし、獨協中学校・高等学校の教育理念や特に力を入れているカリキュラムなどを詳しく伺いました。
この記事の目次
人間教育を土台に、社会で活躍する人材を育む「獨協中学校・高等学校」
▲インタビューに対応してくださった坂東広明先生
まずは、御校がどのような学校なのかを簡単にご紹介ください。
本校は約140年前の明治時代に、ドイツの文化や学問を学ぶ目的で創立された学校です。現在の名称になったのは戦後で、もともとは「獨逸学協会学校(どいつがくきょうかいがっこう)」と呼ばれていました。元内閣総理大臣の桂太郎(かつらたろう)先生が2代校長を務めていることからも分かるように、政府とも関係の深い学校でした。
▲学園の歴史をまとめた年表が掲示されている「正面エントランス」
御校の教育理念を教えていただけますか?
本校の教育理念は、初代校長の西周(にしあまね)先生と、13代校長の天野貞祐(あまのていゆう)先生が提唱した「人間教育」に基づいています。「近代日本哲学の父」とも呼ばれた西先生は「知育・徳育・体育」の重要性に注目し、頭・心・体のバランスがとれた人間の育成を目指しました。「学をなす道はまず志を立つるにあり(志を立ててから、勉強する)」「百学連環(ひゃくがくれんかん・学びの連なりの中で、知性・教養などが磨かれる)」といった彼の思想は、本校のカリキュラムの土台になっています。
13代校長の天野先生は、本校の卒業生で戦後の立て直しに貢献した人物です。彼は戦後を生きる生徒たちに、「社会の優等生になりなさい」という指針を示しました。
▲13代校長の天野貞祐先生の机
現在の獨協中学校・高等学校には、「教養と理性を重視し、上品な人格を形成する」という天野先生の人間教育が受け継がれています。「上品な人格」の言葉どおり、穏やかな性格で人に親切にできる生徒が多いです。
獨協中学校・高等学校の「体験」を重視したカリキュラム
獨協中学校・高等学校では「環境教育」「グローバル教育」を柱に、生徒たちの体験を重視したカリキュラムを実践しています。どのような取り組みをしているのか、詳しく伺ってみましょう。
目で見て・手で触れ・肌で感じる「体験」を重視した環境教育
環境教育を実践する上で、大切にしていることをお聞かせいただけますか?
本校の環境教育では、生徒たちが実際に目で見て・手で触れ・肌で感じる「体験」を大切にしています。
例えば、中学3年生~高校2年生の希望者が対象の「サイエンスツアー」は、世界自然遺産に登録されたアメリカの「イエローストーン」が舞台です。毎年、25人ほどの参加者が、現地に特有の動植物や間欠泉(かんけつせん※)に生息するバクテリアを観察したり、化石の発掘体験などができるサイエンスキャンプを体験します。
※一定の間隔で、熱水・水蒸気を噴き上げる温泉
キャンプの内容は、モンタナ州立大学で教えていたスティーブ・ブラウンさんにコーディネートしてもらっています。モンタナ州立大学は恐竜の化石を展示する「ロッキー博物館」を運営しているため、通常は立入禁止のバッグヤードにも入らせてもらえます。バッグヤードでは発掘した化石の復元作業を間近で見学でき、恐竜や化石が好きな生徒たちからも好評です。スティーブさんは日本語も堪能なので、英語が苦手でも参加しやすいと思いますよ。
高校生の年代に世界の壮大な自然に触れると、人生観が変わりそうですね。校内では、どのような取り組みをしているのでしょうか?
校内では「緑のネットワーク委員会」の生徒たちが、卒業生が作ったビオトープの管理や、屋上菜園での作物栽培などを行っています。ビオトープとは、動物・植物が安定して生息できる空間を意味します。都市化で失われた自然を「ビオトープ」として復元し、生物が本来の場所で生きられるようにする取り組みです。
緑のネットワーク委員会は、中学校1年生から高校生2年生までの50人ほどで構成され、部活動の合間などの時間を使って活動しています。
▲武蔵野の里をイメージした「ビオトープ」
獨協のビオトープには蛍なども生息し、春ごろにはヒキガエルが卵を産みます。その卵を狙って、アオダイショウがやってくるんです。公園などではなかなか見られなくなった生態系を、校内でじっくりと観察できます。
ビオトープは草が生い茂っているように見えると思いますが、あえてあまり手入れをしていません。たとえば、枯草を全て抜くと、虫が卵を産んだり、敵から隠れたりする場所がなくなってしまいます。できる限り自然に近い環境にし、生き物がありのままの姿で生息できるようにしているんです。
本校では委員会の活動で得た学びを校内で終わらせるのではなく、地域へ向けて発信もしています。具体的には文京区内の小学校や重度障がい者施設へ生徒たちが出向く「出前授業」を通して、地域の子どもたちに生態系の構造や仕組みを伝えているところです。
生態系の構造や仕組みをスムーズに理解してもらうために、「箱ビオトープ」と呼ばれるオリジナル教材を作成しました。
▲「箱ビオトープ」にはクロメダカやヤゴなどが生息する。幅70センチメートルほどで持ち運びが可能
「箱ビオトープ」は、仕切られたスペースに土や水を入れ、そこに植物を植えたりメダカを放すなどして陸地や湿地の環境を再現したものです。箱ビオトープの準備から施設への設置、世話の仕方の説明までを緑のネットワーク委員会の生徒が担います。
生徒さんの地道な取り組みが評価され、2019年7月には「高校生ボランティア・アワード2019年」にも選出されたそうですね。屋上菜園では、どのような作物を育てているのでしょうか?
大根やピーマンなど、さまざまな作物を栽培しています。毎年5月の連休ごろになると委員会のメンバーに加え、ボランティアの生徒たちも参加して植え付けをします。
▲手間をかけた分、実も大きく育つ
▲育てる作物の種類は、年ごとに異なる
今年は特に、「内藤かぼちゃ」をはじめとする「江戸東京野菜」の栽培に力を入れているところです。江戸時代から昭和40年代ごろまでの栽培方法を用いた江戸東京野菜は、通常よりも収穫量が少なく栽培にも手間がかかります。2年前に苗から育てて収穫に成功したので、昨年は前年収穫した種からの栽培に挑戦しました。栽培する過程で得られたデータを使い、学会で発表させてもらうケースもありますよ。
収穫の時期になると、地域の小学生たちを招いて収穫体験をしてもらったり、収穫した作物を「ご自由にお取りください」と貼り紙をして近隣におすそ分けをしたりします。
生徒たち自身が試行錯誤しながら自然にかかわり、学んだ知見を世の中に発信できるのが本校の環境教育の楽しさです。環境教育の活動を通して「もっと自然について知りたい」という自分の思いに気付き、研究の道に進む生徒もいますよ。
出前授業や学会での発表などはお世辞抜きのリアルな反応が見られる分、プレゼンのスキルも鍛えられそうですね。
現地のリアルに触れ、視野を広げる「グローバル教育」
御校が実践する「グローバル教育」の中で、独自性の高い取り組みを教えていただけますか?
夏休み中の約10日間で実施する「ドイツ研修旅行」は、ドイツに縁のある本校ならではの取り組みです。ドイツといってもほとんどの方が英語を話すので、ドイツ語の履修は必須ではありません。多くの生徒たちは、英語で現地の方々とコミュニケーションをとっています。
本校の研修旅行はパッケージツアーではなく、その年によって内容が異なるのが特徴です。その年の参加者たちの目標を考慮し、研修旅行の内容を決定します。ある年はドイツの現代史を学びたいという生徒の希望から、ダッハウ収容所の見学を行いました。
そのほかには、「動物愛護について学びたい」という生徒たちの希望に沿い、「ティアハイム」を訪れ、その思想や仕組みを学んだこともあります。ティアハイムは飼い主がいない犬や猫たちを集め、新しい飼い主とマッチングさせる施設です。扱いが難しい犬や猫でも殺処分せず、訓練をして新しい飼い主との出会いを目指します。日本にはない先進的な取り組みに触れられるのは、ドイツ研修旅行の醍醐味です。
自分たちの希望をもとに行き先を決めてもらえると、生徒たちの意欲につながりそうですね。反対に、毎年必ず立ち寄る場所はありますか?
北西部に位置するハノーファーにある「環境教育園」には、毎年必ず立ち寄ります。世界的に「環境先進国」といわれるドイツは、環境教育に適した国といえます。実はビオトープ自体が「自分たちは、自然が残された生活環境で暮らす権利がある」というドイツの市民運動がきっかけで生まれたんです。
さらにドイツはヨーロッパでも積極的に移民・難民を受け入れている国で、環境教育園でも移民・難民の方々が職員として働いていらっしゃいます。移民・難民の受け入れに関する問題は、日本にとっても他人事ではないでしょう。研修旅行の際には、生徒たちが直接、移民・難民の方々から話を伺う機会を設けています。
現地の生徒たちと触れ合うような機会はありますか?
環境教育園には、小学生から高校生までの子どもたちがたくさん集まってきます。私も数年前に同行したのですが、たまたま居合わせた小学4年生ぐらいの子どもたちが、環境教育園のハーブを採り、それぞれの家庭料理を振る舞う授業を行っていました。その小学生のうち、両親ともにドイツ出身なのは全体の3割ほどで、残りの7割ほどの子どもたちには違った文化を持つ地域の血が入っていると聞きました。それぞれの家庭の料理を通じて「多様性」を知り、異文化理解につなげようというのです。
また、ドイツ研修旅行中は、ハノーファーの「ケーテ・コルヴィッツ」というギムナジウム(大学進学を前提にした生徒が通うドイツの中等教育機関)に通う学生さんのお宅にホームステイさせてもらいます。現地の方々と数日間を共有する中で、教科書では分からないリアルな生活を感じられますよ。
研修旅行で現地の建築や社会制度を知り、「将来はドイツで働きたい」と話す生徒さんもいらっしゃるそうですね。ちなみに、毎年20人だと希望しても研修に参加できない生徒もいるのでしょうか?
中学3年生から高校2年生まで3回のチャンスがあります。メンバーを選ぶ際には、できるだけ1回は参加できるように配慮しています。
ドイツ研修旅行以外のプログラムについてもお聞かせいただけますか?
4泊6日の「ハワイ修学旅行(高校2年生)」や、イギリスのコッツウォルズでのホームステイ(2週間)があります。イギリスのホームステイは語学研修をメインにした内容で、中学3年生と高校1年生の希望者から40人ほどが参加できます。
2024年度からは高校1年生・2年生から希望者を募り、ニュージーランドでの短期留学もスタートする予定です。ニュージーランドの短期留学は引率がないので、より主体性を鍛えられると思いますよ。グローバル教育といっても、「この国を学びなさい」というような押し付けはしません。生徒たちの関心に沿ったプログラムを選び、異文化理解につなげていってもらいたいです。
獨協中学校・高等学校の校舎・スクールライフを紹介
ここからは、校舎内を歩きながら獨協中学校・高等学校のスクールライフについて迫っていきます。関連する学習活動もお聞きしたので、参考にしてみてください。
デジタルを活用した発表力を養う「TECLab(テクラボ)」
▲中学3年生の「表現」の授業。生徒たちがノートパソコンを使って発表に向けた準備をしている
大型のホワイトボードやモニターなどがありますが、こちらは何をする教室ですか?
「TECLab(テクラボ)」と呼ばれる部屋で、主にディスカッションのような自分の考えを伝える授業で使います。こちらは通常の教室とは異なり、壁一面がホワイトボードになっています。生徒たちが話し合った内容を自由に書き出し、意見を整理できるのが特徴です。
さらに、ホワイトボードの上部にはプロジェクターが設置されています。生徒のノートパソコンには発表用のアプリが入っており、これらのモニターを使って生徒たちが作った発表ツールを画面に投影できるようになっています。
合計8万冊ほどの本が並ぶ「図書館」
TECLabの隣には、図書館があるんですね。
本校の図書館は合計で8万冊ほどの書籍があり、玄関からアクセスしやすい場所に配置されています。
▲毎月、新作が続々と追加されるそう
ホームルーム教室5つ〜6つ分に相当する広さで、生徒たちが自由に勉強できるスペースも設けられていますよ。
▲テーブルのほかに、1人用の机もある
中学1年生の3学期ごろになると、「帯コンクール」として全員が翌年の新入生におすすめの本を、本の帯を作って1冊ずつ紹介するんです。後輩に向けたメッセージでもあるので、デザインや文章にも工夫が見られます。今はちょうど審査中ですが、4月になると今年の1年生が書いたおすすめ本が棚の上に並びます。
▲先輩のおすすめ本を並べ、興味のある本を読んでもらう
▲図書館前には、昨年の帯コンクールの入賞作品がズラリ
図書館には、生徒が書いた研究論文も1年間保管されています。本校では中学校3年生の生徒全員が、1年間かけて原稿用紙30枚ほどの「研究論文」を書きます。
▲完成した研究論文は、1冊の冊子になる。「最強のポケモン」「自分の考えるサブスク」など、テーマにも生徒の個性が光る
自分で好きなテーマを決め、毎月1回ほどのペースで担当の先生と面談をしながら完成させていきます。30枚を書くのは大変ですが、研究論文を通して文章力が鍛えられるようです。本校の生徒たちは、大学入試の志望動機や小論文などにもあまり苦労していません。
約140年の歴史に触れられる「学園史資料室」
たくさんの資料が並んでいますが、こちらはどのような部屋ですか?
昔の古い資料を保管した「学園史資料室」です。中学校1年生で本校の歴史を学ぶ際には、生徒たちも学園史資料室に出入りします。歴代校長の写真はもちろん、13代校長・天野先生の学籍簿なども残っているので、本校の約140年の歴史を実感できると思いますよ。
▲歴代校長の写真
中学受験を検討しているご家庭へのメッセージ
中学受験を検討しているお子さまや、ご家庭へ向けたメッセージをお願いします。
本校には、地域交流や海外研修・留学など、お子さまの経験値を高める独自のプログラムがそろっています。今はやりたいことや将来の夢が決まっていなくても、学校生活を通して、自分の進路を見出せる環境です。
部活動の種類も多いので、お子さまの活躍できる場がきっとあると思います。社会で活躍する人材に育てたい親御さまや、自分の目標を見つけたいお子さまは、ぜひ本校にお越しください。
ドイツやイギリス、ニュージーランド、アメリカなど、研修・留学場所の選択肢が多いことからも、「自分に合った方法で、世界に触れてほしい」という御校の思いが伝わってきます。本日は学校選びに役立つお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
獨協中学校・高等学校の進学実績
環境教育やグローバル教育に力を入れている獨協中学校・高等学校は、卒業後に医学系の道に進む生徒が多いのが特徴です。2023年度は、難関といわれる医学部・歯学部・薬学部に合計で50人以上が合格しています。そのほか、系列校の獨協大学や獨協医科大学、早稲田大学や慶應義塾大学をはじめとする外部の大学を選ぶ生徒も少なくありません。
生徒の保護者からの声
最後に、獨協中学校・高等学校の生徒の保護者から寄せられた感想をまとめて紹介します。
穏やかな先生や友達に恵まれ、毎日楽しそうに登校しています。全体的に育ちがよく、落ち着いた生徒が多いです。
規律はあるけれど、ピリピリとした雰囲気はありません。愛校心のある学校で、伝統を大切にしています。
高校にはドイツ語の授業があり、医学部・薬学部に進学する生徒さんも多いです。勉強を強制するわけではないけれど、適度に補習をしてもらえて助かっています。
獨協中学校・高等学校の基本情報
住所 | 〒112-0014 東京都文京区関口3-8-1 |
---|---|
電話番号 | 03-3943-3651 |
公式サイト | https://www.dokkyo.ed.jp/ |