新しい教育を実践する「お茶の水女子大学附属中学校」が設ける多文化を理解する機会とは

ぽてん読者の皆さまに、特色ある教育プログラムで注目を集める学校を紹介するこの企画。今回紹介するのは、東京都文京区にある「お茶の水女子大学附属中学校」です。

お茶の水女子大学附属中学校は、「お茶中」の愛称で知られる男女共学の国立校です。これまで複数回にわたり文部科学省の研究開発校としての指定を受け、未来の教育づくりを担ってきた学校でもあります。

同校では歴史的に帰国生の受け入れを行っているほか、生徒たちのグローバルな視座を高める取り組みにも注力しています。

今回は、お茶の水女子大学附属中学校の教育理念や、多様なグローバル教育の取り組み、大学附属校としての特性を生かした自主研究などについて、副校長の宗我部先生にお話を伺いました。

お茶の水女子大学附属中学校の理念を表す3つのキーワード

お茶の水女子大学附属中学校の学校生活の様子

▲海外からの生徒と交流を楽しむ生徒たち。(日本語交流プログラム2024年5月より)

編集部

はじめに、お茶の水女子大学附属中学校の教育理念について教えてください。

宗我部副校長

お茶の水女子大学附属中学校では、創立以来「自主自律の精神を持ち、広い視野に立って行動する生徒を育成する」という教育目標を掲げています。生徒たちの間では、「自主」「自律」「広い視野」の3つのキーワードで浸透しています。

編集部

生徒たちに教育目標を浸透させるために、意識されていることはありますか。

宗我部副校長

教育目標をベースに学年ごとの目標を作り、生徒たちに「君たちの目標は何だろう?」と問うようにしています。あらゆる学校行事も「自主」「自律」「広い視野」の3つのキーワードをベースに作り上げているため、生徒たちにとって合言葉のように使われていますね。

お茶の水女子大学附属中学校の教育目標を刻んだ石碑

▲「自主」「自律」「広い視野」のキーワードが学校生活のあらゆるシーンで生徒たちに意識づけられる

編集部

生徒たちが日常的に教育目標に触れる機会があるのですね。実際に先生方が授業をされる際、どのようなことを意識されていますか。

宗我部副校長

私たち教員は、学校教育の主体は生徒であるという考えを大切にしています。教師側の視点で一方的に指導するのではなく、生徒の反応に合わせて授業の進め方を工夫するよう意識していますね。生徒中心の授業を行うことで、生徒たちの自主性や自律心、広い視野で考える力が身についていると感じます。

また、お茶の水女子大学附属中学校はこれまで複数回にわたって文部科学省の研究開発指定校(※)として指定を受け、未来の授業作りを担ってきました。教育研究においても生徒を中心に据え、教師が生徒から学ぶ姿勢を持つことが大切だと思っています。
(※)研究開発指定校:教育課程の改善に向け、新しい教育課程・指導方法等についての研究開発を行う学校として、文部科学省で指定された学校

編集部

生徒を中心とした教育が、生徒の「自主」「自律」「広い視野」を育むポイントになっているのですね。

宗我部副校長

はい。同時に本校では、教育目標を支える3つの柱として「あたたかく深い人間力の育成」「グローバルな視座の育成」「科学的・論理的思考力の育成」を掲げています。

自ら考え、多様な人たちと問題解決に向けた行動ができる人に育ってほしいという願いから、3つの柱を実現するグローバル教育や探究学習、学校行事などを行っています。

編集部

お茶の水女子大学附属中学校の教育目標の実現に向けて、具体的な教育の柱を設け、日々の学校活動に反映されていることがわかりました。

多文化と共生するマインドを身につける「お茶中」のグローバル教育

お茶の水女子大学附属中学校のグローバルキャンプの講師の先生方

▲グローバルキャンプの講師の皆さん。さまざまな出身国の先生が集まっている

編集部

お茶の水女子大学附属中学校では、教育の柱の1つとして「グローバルな視座の育成」を掲げていらっしゃいます。まずは御校のグローバル教育の特徴について、教えてください。

宗我部副校長

お茶の水女子大学附属中学校のグローバルな視座を持つ教育は、決して英語教育だけを意味しません。世界にはいろいろな価値観・立場の人たちがいることを知り、多様な他者と協働して生きていくための教育を目指しています。

編集部

単に英語力を身につけるだけでなく、世界の人々と共生するマインドも育成されているのですね。

宗我部副校長

はい、やはり海外の人と直接交流する時代を考えれば、グローバルな視点が必要です。そこでお茶の水女子大学附属中学校では、1年生の6月に全員が参加する「グローバルキャンプ」という多文化交流合宿を行っています。

1泊2日の合宿の中でグループを作り、外国人の先生たちと共に活動する中で、英語でコミュニケーションを図りながらさまざまな外国の文化に触れる経験を積むことができています。

編集部

中学校に入学してすぐの時期に、異文化を体験し多様性を実感する宿泊行事を実施されているのですね。

宗我部副校長

はい。以前は1年生の11月に実施していましたが、現在では2年生の林間学校、3年生の修学旅行など、大きな学校行事をすべて6月に集中させて、全体の教育プログラムを構成しています。

お茶の水女子大学附属中学校の林間学校の様子

▲林間学校(志賀高原方面)では、ガイドさんたちと環境学習や自然との共存を学ぶ

英語学習が本格的にスタートしたばかりの6月にグローバルキャンプを行うことで、「拙い英語でも伝える姿勢があれば伝わる」「コミュニケーションできている」という小さな成功体験を積むことができます。早い段階で英語に対するポジティブな体験をすることで、その後の英語学習に良い影響を与えてくれています。

編集部

楽しく活動する中で、英語に対する苦手意識が薄れそうですね。グローバルキャンプは、英語力だけでなくグローバルな視座の育成にもつながっているのでしょうか。

宗我部副校長

そうですね。グローバルキャンプには、多様な国を出身地とする先生方が約10名参加しています。生徒たちが外国人の先生と直接触れ合う中で、考え方や習慣の違いなどを知り、視野を広げる機会になっています。

編集部

1年生のグローバルキャンプ以外にも、海外の方と直接交流する機会はありますか。

宗我部副校長

全学年の希望者を対象に、「サマープログラム」という取り組みを行っています。「サマープログラム」は、お茶の水女子大学や周辺大学の留学生たちと交流するプログラムです。元々は大学のプログラムでしたが、附属中学校としての特色を生かし、大学の先生方と一緒に留学生と交流する機会を持つようになりました。

留学生の出身国の食文化について話したり、逆に日本食について紹介したりと、交流しながら視野を広げる機会になっています。留学生は片言の日本語で、本校の生徒は片言の英語で、お互いを知るために楽しみながらも一所懸命取り組んでいます。

編集部

年齢の近い海外の学生との交流は、生徒たちにとって刺激の多い機会となりそうですね。

宗我部副校長

その他にも、今年(2024年度)は公益財団法人博報堂教育財団の日本語交流プログラムの一環として、海外校の生徒や先生方と交流するプログラムにも参加しています。

日本の学校を体験するために世界6カ国の生徒と先生が本校を訪問してくださり、みんなで合宿をしたり、授業に参加したりしていただきました。留学生は生徒の家にホームステイするため、保護者の方にもご協力いただきながら実施しています。「ぜひうちに来てほしい」と希望される生徒や保護者が多く、あっという間にホームステイ先の候補が決まるくらい人気でした。

博報堂さんの日本語交流プログラムは本年度限りのプログラムですが、事前のオンライン交流から始まり、実際に学校を訪問していただいて、授業やホームステイが始まります。長い期間をかけて交流していますから、留学生・本校の生徒ともに学びの多い機会になっています。

本校としては、こうした生徒のグローバルな視座の育成につながる機会には積極的に参加して取り組んでいくように努めています。

編集部

お茶の水女子大学附属中学校では、教育の柱の1つである「グローバルな視座の育成」のため、実際に海外の方と交流する機会を数多く設けていらっしゃることがわかりました。

異文化交流だけじゃない。身近なSDGs課題からグローバルの視座を身につける

お茶の水女子大学附属中学校の図書館のSDGsコーナー

▲図書館のSDGsコーナー。世界的な課題に取り組む中で、グローバルな視座を高める

編集部

海外の方との交流プログラム以外に、お茶の水女子大学附属中学校ではどのようグローバル教育を実践されていますか。

宗我部副校長

お茶の水女子大学附属中学校では、SDGsに関連したグローバルの視座を身につける取り組みを行っています。例えば2年生の林間学校では、単に山の自然に触れ合うだけではなく、志賀高原のユネスコエコパーク(※)でガイドの方からユネスコの考え方や理念なども学ぶようにしています。
(※)ユネスコエコパーク:ユネスコ(UNESCO:国連教育科学文化機関)の「人間と生物圏計画」に基づいて成立した国際的な指定保護区。自然と触れ合いながら、環境保全や資源循環などについて学ぶことができる

ガイドの方から志賀高原の雄大な自然環境について教わりつつ、自然と人間の共生、人間と野生の生き物たちとの触れ合いなど、さまざまな学びを得ています。

編集部

グローバル教育というと英語学習や海外への留学体験などが連想されますが、お茶の水女子大学附属中学校では日本国内での学校行事も国際的な取り組みと関連付けていらっしゃるのですね。

宗我部副校長

はい。林間学校に参加する際には、事前学習として自然環境との共生に関する書籍を読んだり、身近な話題について調べたりしています。林間学校で実際にガイドの方からお話を伺う際には、事前学習で見つけた探究課題について質問します。その後、得た学びを整理して発表資料にまとめ、保護者の方や低学年の生徒たちに向けて発表しています。

編集部

目的意識をもってプログラムに参加し、学びを深めていらっしゃることがわかります。その他にも、SDGsと関連してグローバルな視座を養う活動はありますか。

宗我部副校長

家庭科や保健の先生方と実施する「フードドライブ」も、SDGsに関連したグローバルな視座を得る取り組みです。

フードドライブとは、1960年代にアメリカで発祥した生活困窮者などに食料品を寄付する活動です。生徒たちは各家庭で余っている食品類を集め、福祉団体などに寄贈しています。単に食料品を集めるだけではなく、生徒たちが中心になって活動の意味を考えることを大切にしており、グループに分かれてフードドライブの理念を校内に掲示するなど、主体的に活動と向き合っています。

編集部

フードドライブの活動は、生徒全員が参加されているのですか。

宗我部副校長

フードドライブは校内の保健委員会が中心となって運営し、家庭科などの先生が参加して、有志の生徒たちを募って取り組んでいます。食材の提供などは全校生徒が参加する形です。先にご紹介した林間学校も、プログラムの基本は教員が作っていますが、総務係という旅行企画を担当する生徒を各クラスから集め、先生たちと一緒に交渉しながらプログラムを作っています。

生徒たちが主体的に取り組むことでリーダーシップが育まれ、各活動の根本的な意義などを意識することができていると感じますね。

編集部

まさにお茶の水女子大学附属中学校が大切にされている「自主」「自律」の精神が育まれているのですね。SDGsに関連するプロジェクトを通じて、生徒たちにはどのような成長が見られていますか。

宗我部副校長

体験を伴う学習を通じて、きれいごとだけでは解決できない現場のリアルな視座を学べていると感じますね。

先述の林間学校では、山の餌が減って人里に出てきてしまう野生動物について、課題意識をもって取り組んだグループがありました。一度畑などで栄養価の高い野菜を食べた動物たちは、なかなか山に戻らないそうです。しかし、野生動物を放置しておけば人間の生活が脅かされます。動物を駆除する必要がありますが、生徒たちは最初は、それはあまりにもかわいそうだと感じたようです。しかし現地の方の話を直接聞く中で身の安全や生活に直結する問題だと実感し、葛藤を覚えたことを話してくれました。

正解のない問題に取り組む中で、あらゆる立場に想いを寄せたり、違う見解に耳を傾けたりと、生徒たちの視座が高まるきっかけになっていると思います。

編集部

SDGsのような世界的な課題、答えのない課題に対して問題意識を持ち、リアルな体験を通じて考え抜くことで、生徒たちがグローバルな課題と向き合う姿勢を身につけていることがわかりました。

帰国生の受け入れが学校全体の教育姿勢に良い影響をもたらす

お茶の水女子大学附属中学校の帰国生クラスの授業風景

▲帰国生専用のクラスの1年竹組(現在8名)。1年生の間は15名定員の家族的な少人数学級で学ぶ

編集部

お茶の水女子大学附属中学校の「帰国生徒教育学級」についても教えてください。

宗我部副校長

毎年15名を定員として、帰国生専用のクラスを設けています。本校での帰国生の受け入れには長い歴史がありますが、日本とは異なる環境で教育を受けてきた子どもたちを受け入れることで、教員自身の視野が広がり、子どもがどのように学ぶのか、何に疑問を持つのかといった見方が増え、普段の授業作りに生かされています。

編集部

帰国生は、3年間ずっと帰国生だけのクラスで過ごすのでしょうか。

宗我部副校長

帰国生の受け入れを始めた当初は1年2年を特設学級で過ごし、3年生から一般学級に混入する計画でしたが、実際の運営が始まってすぐ、2年生からひとつのクラスに一括混入する方式に変更することになりました。現在では段階的に一般のクラスに混ざっていく方式を採用しています。1年生の間は帰国生だけの特設学級で過ごし、2年生では全4クラスあるうちの2クラスに帰国生が分かれます。そして最終的には、3年生で全4クラスに帰国生がいる状態になります。

編集部

帰国生を段階的に一般クラスに分ける方式に変えた背景には、どのような意図があったのでしょうか。

宗我部副校長

学習サポートの観点からいうと、やはり最初は帰国生だけで特別なカリキュラムに取り組む必要があります。しかし、3年間ずっと帰国生だけの同じクラスにすると、人間関係が固定化し、その他のクラスとの交流が限定的になってしまうという課題があったんです。一般の生徒が、帰国生を特別視してしまう傾向もありました。

段階的に帰国生とその他の生徒が交じり合うことで、最初はちょっとした考え方・生活習慣の違いに驚くようなシーンもありますが、お互いが仲間として受け入れられるようになります。多様な国で過ごした生徒たちと交流することで、刺激をもらったり、自分自身の在り方を見つめ直したりする機会にもなっていますね。帰国生への特別視も薄れ、同じ仲間として過ごせるようになるメリットがあると感じています。

お茶の水女子大学附属中学校の教室飾り

▲帰国生徒教育学級の教室を飾る多国籍な飾り物

編集部

帰国生と一般の生徒が同じクラスで学ぶ中で、どのような違いを感じる生徒がいますか。

宗我部副校長

例えば、ヨーロッパ圏の現地校で学んだ生徒は、議論して物事を進めていくことに慣れている傾向があります。帰国生が話し合いの際に積極的に意見を伝えている様子を見て驚く生徒もいるますが、その姿勢から学ぶことは大いにあると感じています。

編集部

帰国生は、一般の生徒と同じクラスで過ごすことをどのように捉えているのでしょうか。

宗我部副校長

帰国生の生徒たちには学校説明会で保護者への説明をさせてもらっているのですが、帰国生以外の生徒たちと過ごせてよかったと話してくれますね。

例えばある生徒は、入学当初は自分の意見や考え方を主張してぶつかることが多かったものの、だんだんとお互いのスタンスに慣れてきて、あっという間に仲間として過ごせるようになったと話していました。先生が仲介するというよりも、仲間同士で解決できている、だから安心してほしいと話していましたね。

編集部

帰国生と一般の生徒が同じクラスで学び合う中で、文化や考え方の違いなどを受容しながら、互いに刺激し合う仲間として成長されていることがわかりました。

グリム童話からテレビ番組まで。生徒の関心を突き詰める自主研究

お茶の水女子大学講堂(徽音堂)で開催された自主研究講堂発表の様子

▲自主研究講堂発表は、お茶の水女子大学講堂(徽音堂)で開催される

編集部

お茶の水女子大学附属中学校は、探究学習の一環として自主研究に注力されています。御校の自主研究の特徴について、教えてください。

宗我部副校長

我々は、生徒一人ひとりが自分の探究テーマを掲げ、追究していく自主研究を大切にしています。

まず、1年生の夏休み前後から探究テーマ探しがスタートします。例えば卒業生をお招きする「課題発掘ゼミ」では、現在取り組んでいる仕事の内容や、なぜその仕事に興味を持ったのかといった話を聞き、関心の幅を広げます。2年生の前期ではテーマ設定とテーマ探究の練習をし、自分で掲げたテーマに向かって探究を進めるために、調査したり、創作したりする活動を始めます。そして2年生の後期から3年生にかけて、最終的に選んだテーマを深く掘り下げて研究する展開にしています。

お茶の水女子大学附属中学校の自主研究日誌

▲「自習研究」を通じ、生徒たちは3年間かけて自分の興味・関心と向き合う

編集部

自分が取り組む探究テーマを見つけるのに苦労する生徒もいると思うのですが、学校側で工夫されていることはありますか。

宗我部副校長

探究テーマを探す際には、「文学研究・創作」「映画・演劇」「工作・栽培」など、生徒が関心を持つ大きなジャンルを提示してグループに分け、一人ひとりが具体的なテーマを見つけていくようにしています。

お茶の水女子大学附属中学校の自主研究のテーマ

▲教科別ではなく、生徒の興味・関心に合わせたジャンルでグループ分けを実施

宗我部副校長

いったんグループに分かれて活動を始めると、「映画研究に興味があると思っていたけど、自分が本当に興味があるのはストーリー分析だな。文学研究のグループの方が合っているかもしれない」と気づく生徒もいます。その場合は、文学研究のグループのガイダンスをし、最終的にグループ分けをします。

2年生の9月くらいまでに1回目、2年生の後期から3年生前期までに2回目の本研究期間を設けているのですが、2回とも同じテーマに取り組む生徒もいれば、違うテーマにチャレンジする生徒もいますね。

編集部

本当に自分が関心を持っているジャンルを見つけるために、試行錯誤できる環境があるのですね。自主研究のテーマとして、これまでにどのようなテーマがありましたか。

宗我部副校長

「文学研究・創作」のグループで、「グリム童話を違う角度から取り組む」というテーマで発表してくれた生徒がいました。グリム童話はドイツの昔話ですが、話の中で描かれている社会にはどのような価値観が反映されているか、貧富の問題が読み取れるなど、多様な観点で分析していました。

その他にも、「アメリカズ・ゴット・タレント」という海外の人気公開オーディション番組を題材に、日本版「ジャパニーズ・ゴット・タレント」をプロデュースするというテーマで探究した生徒もいます。

「アメリカズ・ゴット・タレント」がとても大好きな生徒なのですが、アメリカ以外にも同様の番組がたくさんあるのに、どうして日本にないのだろうと疑問を持ったそうです。現在の日本に同様の番組がない理由から研究をはじめ、最終的には自分がこの番組をプロデュースするなら審査員や進行役としてどのタレントを起用するかといったキャスティングまで、自分で考えてくれました。

編集部

まさに番組プロデューサーの仕事内容ですね。

宗我部副校長

はい。この生徒が関心を持った探究テーマは、中学校の1つの教科内で扱いきれる内容ではありません。教科の枠に縛られず、本当に自分が関心を持っているテーマを突き詰められるのが、本校の自主研究の良さだと感じますね。

その他にも、「10年後に流行る曲を作ろう」というテーマで取り組んだ生徒は、今流行している曲に共通する要素を分析したり、10年単位でヒット曲を集めて傾向を観察したりと、おもしろい取り組みをしていました。

ヒットソングは恋愛をテーマにした歌詞が多いと分析したうえで、今後の社会を考えたときに加わるだろう要素を特定し、きっと10年後はこういうタイプの音楽が流行るに違いない、という発表をしてくれました。

編集部

生徒が思い思いのテーマを深掘りし、独創的な探究を行っている様子が伝わります。探究を深めるサポートとして、特に意識されていることはありますか。

宗我部副校長

自主研究のテーマは一人ひとり異なりますが、どんなテーマだったとしても、研究に対する考え方や方法などの研究過程が身に着けば対応できます。ですから、「学び方」の育成に力を入れていますね

日本で「ゆとりの時間(※)」が始まった際、本校では1人1テーマの学習に取り組み始めました。現在では、1人1テーマ学習が総合学習という形となり、全国に定着しています。そういった意味では、本校での取り組みは時代の先駆けになったものと感じています。
(※)ゆとりの時間:ゆとり教育の一環として設けられた、学校の創意を生かした教育活動を行う時間

編集部

お茶の水女子大学附属中学校では、生徒一人ひとりが本当に興味のあること探究するために教科の枠にとらわれない自主研究を行い、主体的に探究を進める基礎力を身につけていることがわかりました。

お茶の水女子大学との連携が、探究手法を学んだり関心を深めたりするきっかけに

お茶の水女子大学附属中学校の生徒がお茶の水女子大学の研究室に訪問する様子

▲研究室訪問の様子。大学の先生に専門領域の説明や関心をもった理由などを聞く

編集部

お茶の水女子大学附属中学校では、自主研究の過程で大学の先生に相談できる機会があると伺いました。探究学習における大学との連携について、教えてください。

宗我部副校長

本校では、お茶の水女子大学の先生方に専門的な相談ができる体制を築いています。例えば、コウモリの生態に興味を持った生徒が、自身の研究手法や進め方が適切かを生物学科の先生に相談したことがありました。

編集部

大学の附属校であるメリットを生かした学習スタイルですね。

宗我部副校長

はい。自主研究の際以外にも、2年生全員が大学の研究室を訪問する機会もあります。大学の専門的な研究に直接触れることが、生徒の探究テーマ探しにも良い影響を与えていると感じますね。探究学習の基盤を作る重要な取り組みです。

編集部

実際に大学を訪問した生徒からは、どのような感想が聞かれていますか。

宗我部副校長

特に印象的だったのが、訪問後にとても笑顔で「おもしろかった、感動した」と話してくれた生徒です。何がそんなにおもしろかったのか尋ねると、「あんなに一つのことだけを考えて活躍している人がいることに感動した」と言うんです。

世間では、いろんな力を身につけるべきだ、勉強すべきだと言われます。でも、例えば「ウミホタル」という海の生物のことだけを毎日考えて、研究して生活している人が実際に存在するんだと知ったことが、その生徒にとっては研究内容そのものよりも大きな学びだったそうです。

編集部

専門分野に特化して研究する大学教授という仕事、生き方に触れること自体が、生徒にとって刺激になったのですね。附属大学と連携した活動が、生徒が新しい世界に触れ、探究心をくすぐられる体験になっていることがわかりました。

協働的に問題を解決する力を養う「コミュニケーション・デザイン科」

お茶の水女子大学附属中学校の自主研究日誌

▲コミュニケーション・デザイン科で学んだ資料の作り方、表現方法などが自主研究にも生かされる

編集部

お茶の水女子大学附属中学校では、コミュニケーション・デザイン科という特徴的な学習時間を開発されたと伺いました。どのような学習時間なのですか。

宗我部副校長

研究開発学校として、「コミュニケーション・デザイン科」という教科を開発しました。コミュニケーション・デザイン科は、問題解決の考え方や手法を学び、仲間と協働して社会の様々な問題の解決を考える時間です。

現在は開発指定期間を終えたので、総合カリキュラムの中の通称「お茶の水タイム」の時間内で、その成果を活かしたプログラムの授業や活動を行っています。

例えば論理・発想の力を育てるため、一つまたは複数の視点を設定して比較・分類したり、視点を変えて多面的に物事を考えたりする経験を積む中で、実社会の中の問題と向き合います。その他にも、他者とコミュニケーションを図って協働するうえで必要な資質や能力、伝達や発信の方法など、多様な学習を行っています。

お茶の水女子大学附属中学校の生徒たちが作成したガントチャート

▲生徒が作成したガントチャート(プロジェクト管理表)。コミュニケーション・デザイン科で学んだスキルを実践している

編集部

御校が掲げる「科学的・論理的思考力の育成」を体現する取り組みですね。

宗我部副校長

はい。教員が科目横断的に自分たちの学びを共有し、整理し直すことで、コミュニケーション・デザイン科での学習を学校全体で取り組めるよう工夫しました。

例えば、美術の先生が担任をしているクラスでは、デザインの美しい掲示物が見られる傾向にあります。これは、伝達や発信のスキルです。すべての教員がこれらのスキルを発揮できるよう、美術の先生が教材を用意したり、指導したりする時間を設けたのです。

編集部

生徒を指導する先生方も、お互いの専門性をシェアして学び合っているのですね。

宗我部副校長

はい。生徒たちにとっては、コミュニケーション・デザイン科での学習が問題解決力の底上げにつながっていると感じます。見通しをもって探究したり、意思決定の手段を適切に選べたりする力が身に着くことで、自主研究にも良い影響を与えていますね。

編集部

生徒と成長を感じる具体的なエピソードがあれば教えてください。

宗我部副校長

ある私立高校に進学した生徒が、3年間取り組んできた問題解決力、伝達や発信の力が身についていることを自覚したと話してくれたことがあります。

その高校でも総合学習で自主的な活動が盛んですが、その卒業生は、そういう授業や活動の中で、いつの間にか自然と自分がリーダーとなり、問題解決を進める役割を担うことが多いことに気づいたというのです。自分では意識していなかったけれど、問題解決までのアプローチ方法、先を見通す力、意思決定の方法などが身についていて、他の生徒から頼られることがあるのだと話してくれました。

コミュニケーション・デザイン科で学んだ力が、生徒たちの基礎力としてしっかり身についていることを実感しました。開発期間が終わった今も、そこで開発したプログラムや指導法は、総合カリキュラムのプログラムの中に取り入れられて、お茶中の教育を支えています。

編集部

お茶の水女子大学附属中学校の外に出ることで、生徒たちが学内で身につけた力を自覚できたのですね。コミュニケーション・デザイン科で問題解決力、協業する力など習得したことで、生徒たちが自主的に考え、思考できる基礎が築かれていると感じました。

お茶の水女子大学附属中学校からのメッセージ

お茶の水女子大学附属中学校の宗我部副校長

▲お話を伺ったお茶の水女子大学附属中学校副校長の宗我部先生

編集部

最後に、お茶の水女子大学附属中学校に関心のある子どもたちや保護者に向けて、メッセージをお願いします。

宗我部副校長

お茶の水女子大学附属中学校では、「明日の教育を今体験する」学校でありたいと願い、日々の指導に当たっています。日本の学習指導要領の作成に参画するような先生が多数在籍し、一歩先の教育の在り方を常に考えながら授業に取り組んでいます。

未来の教育の在り方を探る取り組みは、決して実験的に、無責任に行うものではありません。将来を見据えて生徒たちに必要な学習内容と、現在一般の学校で実施している教育とをつなぎながら、生徒にとってベストだと思う教育を各先生が授業の中で実践しています。

考え方の基礎から学べる学校ですから、高校進学後やその後の将来においても、役に立つ力を身につけられる学校だと自信を持ってお伝えできます。

進路実績を見ていただくとお分かりになる通り、大変優秀な成績を収めています。入学してから伸びる学校だと思いますので、自分自身の可能性をもっともっと広げてみたいお子さん、いろんな考え方に触れてみたいという興味・関心の強いお子さんにはぴったりだと思いますね。

あともう1点だけお伝えするなら、当校は女子大学附属校という特徴から男子生徒の割合が少ないのですが、男子生徒のみなさんもぜひ心配せずにご入学いただきたいですね。

編集部

お茶の水女子大学附属中学校では、これまでの教育の枠にとらわれない多様なグローバル教育や探究学習、大学と連携した専門的な学びの機会などを通じて、生徒たちの「自主」「自律」「広い視野」を育んでいることがわかりました。ありがとうございました!

お茶の水女子大学附属中学校の進学状況

お茶の水女子大学附属中学校の学校名看板

お茶の水女子大学附属中学校では、令和6年度にお茶の水女子大学附属高等学校へ58名の生徒が合格しています。その他、筑波大学附属高等学校、東京工業大学附属科学技術高等学校などの国立高校へも、複数名が合格しました。

青山学院高等部、慶應義塾高等学校、国学院高等学校などの名門私立高校にも、多数の合格者を輩出しています。

公式:令和6年度高校入試合格一覧(令和5年度卒業生)

お茶の水女子大学附属中学校の卒業生・保護者・在校生の口コミ

お茶の水女子大学附属中学校の校内風景

▲東京23区内にありながら大学構内で豊かな自然を満喫できる

最後に、お茶の水女子大学附属中学校の卒業生、保護者、在校生の口コミをご紹介します。

(卒業生)とにかく楽しめる中学です。卒業した後でも、よくみんなで集まるほど仲良しです。とにかくのびのびとしていてやる時はやる子が多く、お茶中の掲げている自主自律の力がつき、高校でとても役立っています。

(保護者)敷地内も自然が豊かで生徒たちもしっかりした子が多く、大変安心して通わせています。勉強も私学に比べたら個人に任せるところがある様に思います。頑張りはその子次第、といったところも自立を促してくれている気がします。

(在校生)本当に入ってよかったと思える学校です。教科書以外の勉強がたくさんあって、先生方はいつもニコニコ見守ってくれてて、縛られていない雰囲気が私には合っていました。

お茶の水女子大学附属中学校の自主・自律の精神を表す校風や教育姿勢に対する高い評価、人間関係の良さ、進学実績の高さなどに対する好意的な口コミが複数見つかりました。

お茶の水女子大学附属中学校の図書室

▲図書室も充実。社会問題や最新のテクノロジーなど、生徒の自主研究の材料となる多様なジャンルの書籍が所蔵されている

お茶の水女子大学附属中学校へのお問い合わせ

お茶の水女子大学附属中学校の校舎

▲お茶の水女子大学と隣接する附属中学校の校舎

運営 お茶の水女子大学附属中学校
住所 東京都文京区大塚2-1-1
電話番号 03-5978-5862(事務室)
問い合わせ先 https://www.fz.ocha.ac.jp/ft/menu/access/d001963.html
公式ページ https://www.fz.ocha.ac.jp/ft/

※詳しくは公式ページでご確認ください