一燈園中学校・高等学校の小中高合同運動会

1学年10人の少人数制。「一燈園中学校・高等学校」の行き届いた心を育む教育|中高一貫校

独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、京都府京都市にある共学の中高一貫校「一燈園中学校・高等学校」を紹介します。

緑豊かな山麓に佇む同校は、1学年10人前後の少人数制で、生徒一人ひとりの人間性を磨くことに重きを置いている学校です。自分を見つめるための「祈り」の時間や社会奉仕活動、同じ敷地内にある小学校と合同の運動会などに取り組むことで、豊かな心を育んでいます。

今回は、そんな一燈園中学校・高等学校の教育理念や特徴的な取り組みについて、増田教頭先生、濵田先生、河本先生にお話を伺いました。

「祈り」「汗」「学習」を教育の柱とする一燈園中学校・高等学校

一燈園中学校・高等学校の作務の時間の梅ちぎり

▲作務の時間の梅ちぎり

編集部

まず、御校の建学の精神や教育目標についてお聞かせください。

増田先生

本校の建学の精神は「行餘學文(ぎょうよ がくぶん)」です。行じて余りあれば文を学ぶ。これは論語「学而篇」の一節からとったものです。「まずは行いなさい、そして余力があれば学問を学びなさい」という意味で、日常の行い、日々の務めをまず大事にするということです。本校は、この建学の精神に基づいて教育活動を行っています。

そして、本校の教育活動の柱となっているのが「祈り・汗・学習」の3つです。

「祈り」とは、自己を見つめ、精神性を高めることです。本校は、特定の宗教と関連づけられた学校ではありませんが、豊かな心を育てることを大事にしております。

例えば、毎朝に各10分ほど「朝課」と呼ばれるお祈りの時間があり、本校創始者である西田天香の文章を誦和したり、お経を読んだりします。授業の始めと終わりには合掌して挨拶をします。

また、食事は命をいただくという考え方のもと、食事の時間は始めにお経を唱えて、黙食でいただきます。黙って命と向き合う、食べ物と向き合う時間と位置づけており、これも祈りの時間に含まれるものです。本校には、祈りが学校生活に浸透しているんです。

編集部

「汗」はどんなことを表しているのでしょうか?

増田先生

本校で言う「汗」は、単にスポーツや労働によるものではなく、自ら進んで汗を流し社会に貢献する奉仕の精神を表しています。

作務の時間には、学校の内外の清掃や整備、周辺山林の伐採や間伐など様々な活動を行っております。例えば、今日は高校生が作務の時間に、みんなで集めた鉄くずを回収業者のところに持っていきました。

本校の豊かな自然環境の中で、4月には筍掘り、6月には梅の収穫、12月にはしめ縄作りなど季節ごとの自然を味わいながら行う作業もあります。そうした汗を流すことを通して、人のお役に立つこと、働く喜びを感じてもらいたいと思っています。

「学習」については、本校は1学年10名前後の少人数制ですので、一人ひとりに目を行き届かせながら、基礎・基本に重点を置いた学習を進めています。

一燈園中学校・高等学校の作務の時間のしめ縄づくり

▲作務の時間のしめ縄づくり

一燈園中学校・高等学校の感性・心を磨く教育

一燈園中学校の街頭清掃

▲中学生による街頭清掃

ここからは、一燈園中学校・高等学校の感性・心を磨く教育について伺いました。

小中高合同の運動会、「作務の時間」がキャリア選択にもつながる

編集部

「作務の時間」の頻度や活動内容について詳しく教えてください。

河本先生

作務の時間は、高校では毎週必ず4時間あります。幼稚園や保育所、もしくは山林などで行い、それが職業選択につながっている場合が多々あります。

本校には、子どもの面倒を見る保育士や幼稚園教諭になりたいという生徒が比較的多くいますし、介護の道に進みたいと考える生徒もいます。また、山林の作業を行う中で、林業や農業に興味を持ち、職業として選択した生徒もいます。

「作務の時間」で製作したウッドデッキに立つ一燈園高等学校の生徒

▲作務の授業で製作したウッドデッキにて

河本先生

元からその分野に興味を持っていた生徒もいると思われますが、触れ合っていく中で、より気持ちが強くなっているように見受けられます。

また、保育士になりたいと思った生徒には、本校に小学校が併設されていることも良い影響を与えていると思います。本校の運動会は小中高合同で開催していて、高校生が小学生を指導する機会があります。その過程で、子どもと触れ合う仕事に就きたいという気持ちが自然と芽生えていくのだと感じます。

一燈園中学校・高等学校の小中高合同運動会

▲小中高合同運動会にて、小学生と高校生

編集部

1学年10名ほどの少人数制とのことで、運動会などの学校行事はどのような雰囲気なのでしょうか?

増田先生

少ない人数の中で行事を作り上げていくので、一人ひとりのやるべきことが多くあります。大変ではありますが、そのなかからモチベーションや当事者意識が高くなっていく、自信をつけていく生徒も多いと思います。

一燈園中学校・高等学校の中高合同の遠足

▲中高合同の遠足

重視する掃除・清掃活動を通して環境問題を学べる大学に進んだ生徒も

編集部

そのほかの心を磨く取り組みについてはどんなことをされているのでしょうか?

濵田先生

本校では、「朝課」や「黙食」の時間だけでなく、掃除も重視していて、生徒たちは熱心に取り組んでいます。

掃除は校内だけにとどまらず、ご縁のある大阪の四天王寺さんに、1年に1回は出向いて境内のお掃除をしています。

高校2年生は、「一燈園年頭行願」という活動の一環で、西田天香の生まれ故郷である滋賀県長浜を訪れ、掃除を行います。

昨年(2023年)は琵琶湖の湖岸沿いを掃除し、流れ着いた大量のゴミを見た生徒たちは、環境問題に強い関心を持ち始めました。その経験をきっかけに、環境問題を学べる大学に進学を目指す生徒も出てきています。

増田先生

本校では、多様な文化を知るために、伝統芸能や武道の授業も実施しています。

能や日本舞踊、武道では少林寺拳法や剣道、そしてモダンバレエなど、その道で活躍している特別講師の先生方に指導していただきます。そうした機会も、感性を磨くことにつながっていると思います。

一燈園中学校・高等学校の能の授業

▲能の授業

お互いを認め、尊重し合う空気感がある学校

一燈園中学校・高等学校の瞑想

編集部

生徒の心を育むために、先生方が大切にしていることはどんなことでしょうか?

増田先生

「伝える教育」だけではなく、「伝わる教育」を大事にしたいと考えています。知識や技術は教師から生徒に教え伝えることができますが、それ以外の習慣や価値観、感性は、日々の積み重ねによって自然と伝わっていくものと考えているんです。

本校の学校紹介のイベントで、ある生徒が、「一燈園には個々の考えを尊重する空気がある。だから自分をそのまま出せる」と話してくれたことがありました。人にどう思われるかを気にすることなく、自分を知り、相手を知り、認め合うことが大切という空気感があるのではないかと思います。

編集部

生徒さんの成長や変化はどのような時に感じますか?

河本先生

入学当初は乱暴な言葉遣いをすることがあっても、周りのクラスメートや先輩たちの素直さ、本校の環境に触れて、自身も素直さを取り戻していく生徒もいます。

これは、生徒たちがお互いを尊重し、敬意を持って接することを学んだ結果だと考えられます。また、生徒は教師とも距離感を縮め、自然体でいられるようになっていきます。

また、中学を卒業して他の高校に進学した生徒も、高校を卒業して大学に進学した生徒も、よく行事に遊びに来てくれる事があります。本校が安心できる場所として、彼らの心の中に残っているのだと思います。

しかも、その卒業生たちは、行事が終わって片付けまで手伝ってくれます。それは、本校で学んだ片付けや掃除を大事にする精神が身についているからだと思うので、嬉しい限りです。

増田先生

今年度に、中高の縦割り委員会活動で、学校内の備品を直したり購入したりする「備品修繕委員会」が
生徒達のアイディアで発足しました。希望者も多く、活発に活動してくれています。自分たちの学校を自分たちでより良くしていきたいという気持ちの表れではないかとうれしく感じましたね。

全国優勝3回!一燈園中学校・高等学校の少林寺拳法部

一燈園中学校・高等学校の少林寺拳法部

▲少林寺拳法部の部員

編集部

御校の自慢のクラブ活動についてご紹介ください。

濵田先生

2012年に創部した少林寺拳法部は、全国大会で3度優勝しています。部員は現在(2024年8月時点)、中高合わせて17名おり、毎日2時間から2時間半ぐらいの練習をしています。

特別なことをしているわけではありませんが、本校ならではだと思うことは、部員が全員、毎日日誌を書いている、という事です。翌日の予定を立て、その予定通り動けたかどうかを振り返るようにしているのです。

そうすることで自分の1日の空いた時間や無駄な時間を認識することができ、その時間を少林寺拳法に使えないかを考えられます。

編集部

クラブ活動以外のことも振り返るということでしょうか?

濵田先生

はい。漫然と過ごすのではなく、どんなことでも、「これは何のためにやっているのか」と意識しながら生活するよう呼びかけています。

一燈園の教育も少林寺拳法の教えも、根本は一緒であり、目指すところは似ているということも常に話しているので、生徒たちも、学校生活をクラブ活動に活かし、クラブ活動で学んだことを学校生活に活かすよう努めていると思っています。

インターハイ予選で敗れた高校生が中学生の応援に。全中優勝を後押し

編集部

クラブ活動を通して生徒さんの変化や成長を感じることはありますか?

濵田先生

日々感じています。その中で一つ取り上げるとすれば、2016年に中学生が初めて全国優勝した年のことです。その年、高校3年生は最後の大会であるインターハイに出場することができませんでした。

高校3年生の部員にとっては、自分たちが負けた後に全国中学生大会があったのですが、高校生も全員応援に行って、そこで中学生が日本一を取りました。そのときに中学生よりも、むしろ高校生の方が喜んでいたのです。それを見て本校で少林寺拳法部を作って良かったと思いましたし、子供たちの成長を感じました。

そのような精神は今の部員にも受け継がれていると感じます。勝っても負けても部員同士で気遣いを忘れず、高校生が「中学生が勝てなかったのは僕たちのせいだ」と言うこともあります。自分のことばかりではなく、他者にも気を配れる人間性が育っていると思っています。

少林寺拳法で「半ばは自己の幸せを 半ばは他人の幸せを」という教えがあるのですが、そこが育っていると思い、嬉しく感じました。

編集部

先輩と後輩、部員の関係性はどのような感じでしょうか?

濵田先生

高校生の行いを見て中学生たちは育ちますし、逆に中学生を指導する中で自分の学びに繋げている高校生たちもたくさんいます。切磋琢磨する良い関係だと思います。いわゆる体育会系の厳しい上下関係のようなものは全然なく、普段はみんなとても仲良くしていますので、理想的な人間関係だと思います。

一燈園中学校・高等学校からのメッセージ

一燈園中学校・高等学校の河本先生、増田教頭先生、濵田先生

▲取材に対応いただいた(左から)河本先生、増田教頭先生、濵田先生

編集部

最後に、御校に興味を持たれたお子さんや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。

増田先生

本校は、生徒一人ひとりとしっかりと向き合うことを目指している学校です。だからこそ、生徒全員が主役になれる、誰もが輝きを放つことができます。

周りに流されるのではなく、自分自身についてしっかりと考えることができる生徒が育つ学校でありたいと思っています。

河本先生

本校パンフレットのキャッチコピーは「まっすぐ」です。それは、卒業生の保護者の方が「うちの子をまっすぐに育てていただきありがとうございました」というお礼の言葉から生まれました。

本校では、大切なお子さんをまっすぐに育てます。本校が考える「まっすぐ」とは、生徒一人ひとりが持っている資質・個性を、折ったり捻じ曲げたりせずに、生徒が向かいたい方向に向けて、まっすぐに伸ばすことです。

濵田先生

本校は、言葉では伝えられない魅力がたくさんある学校です。実際に、本校に訪れてみて初めて良さを感じていただくことができると思いますので、少しでも興味を持たれた方は、ぜひ一度、足を運んでほしいと思います。

編集部

本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

一燈園中学校・高等学校の進学実績

一燈園中学校・高等学校では、過去5年間に39名が卒業しました。その39名の進学・就職実績としては、6名が国公立大学に進学、21名が私立大学に進学、9名が専門学校等へ進学、2名が就職しています。

その中には、京都大学や大阪芸術大学、立命館大学など有名大学に進んだ生徒もいます。

■進学実績(一燈園中学校・高等学校公式サイト)
http://www.ittoen.ed.jp/senior_curri.htm

一燈園中学校の授業の様子

一燈園中学校・高等学校の卒業生・保護者の声

一燈園中学校・高等学校の校舎外観

ここからは、一燈園中学校・高等学校の卒業生と保護者の声を紹介します。

(卒業生)少人数だから一人ひとりの個性が現れ、又高校生活を生徒たち自ら彩ることが出来る。一燈園では、様々なものを求められる。勉学も人間形成にも励まなければならない。英検や漢検にも励む。一方で、それ以上に大切なことを、一燈園の空気から教わるだろう。私はこの学校に来れて良かったと思っている。
引用元:一燈園中学校・高等学校の公式サイト

(卒業生)私はこの学校に入れて良かったと思います。毎朝の瞑想では雑念を取り除き静かな一時を送ることが出来ます。授業も特色があり、春は梅ちぎり、冬にしめ縄など季節を感じさせてくれる作務(勤労実務体験)は、私にとても多くのことを感じさせてくれます。毎日同じことを繰り返す、そのことによって、精神的、忍耐的にも成長することが出来ました。
引用元:一燈園中学校・高等学校の公式サイト

(保護者)私たち保護者はこの難しい時代にあって、子供を大切にしてくれる学校を求めてこの学校に辿り着きました。緑に包まれた環境で、いじめもなく、子供が毎日学校へ行けるようになりました。子供はこちらに来てからたくさんの弟、妹、お兄さんやお姉さんができました。小学校、中学校、高等学校の生徒が互いに兄弟のように付き合える…こんな環境はめったにあるものではありません。
引用元:一燈園中学校・高等学校の公式サイト

(保護者)長男の中学進学を目前に、地元の公立中学校へ行かせることに漠然とした不安を感じていた頃、一燈園のことを知りました。見学に伺った折、清々しい“気”のようなものを感じ、校長先生とお話しをさせていただいて、ここだ、と直感したのです。遠方で通学は困難、祖父母宅から2時間かけて通う事になることを承知で決意しました。入学後は、マイペースの息子の個性を尊重し、暖かい心配りと行き届いた目配りをしてくださる先生方に恵まれ、無遅刻、無欠席で張り切って通っております。
引用元:一燈園中学校・高等学校の公式サイト

一燈園中学校・高等学校へのお問い合わせ

運営 学校法人燈影学園 一燈園中学校・高等学校
住所 京都府京都市山科区四ノ宮柳山町29
電話番号 075-595-3711
問い合わせ先 http://www.ittoen.ed.jp/inquiry/
公式ページ http://www.ittoen.ed.jp/index.html

※詳しくは公式ページでご確認ください