独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、宮崎県宮崎市にある県立の共学校「宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校」を紹介します。
同校は、高い進学実績を誇る宮崎県立宮崎西高等学校の理数科に進学することを前提に、中高一貫教育を通して、知性と感性を磨きながら、国際社会で活躍する人材の育成に力を入れています。
今回は、そんな宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校の建学の精神や特徴的な取り組みについて、SSH推進リーダーを務める関谷先生にお話を伺いました。
この記事の目次
3つの「エリート」を目指す、宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校の教育目標
▲図書館にある「フーコーの振り子」の周囲で勉強をする生徒たち
最初に、宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校の建学の精神や教育理念についてお聞かせください。
本校には創設の言葉というものがあるのですが、その最後は「未知の我を求めて全力をつくそう」という一節で締めくくられています。知らない自分を発見するために、いろいろな分野で努力していこうという意味合いで、中高とも同じ想いで取り組んでいます。
教育理念は「学ぶ・鍛える・創る」です。「学ぶ」の語源は「真似る」であり、まず先人の知恵を真似て習うことから学びが始まります。「鍛える」は、実践を徹底し、向上心を持って自らの資質を徹底して鍛えることです。「創る」とは、学び鍛えた成果を外に向けることであり、真の個性の発現は創造の中にあると考えています。
また、本校では、自分の能力を活かし、社会で貢献する「しん」のエリート教育を目指しています。
「しん」には3つの意味があり、1つは「真のエリート」で、社会に必要とされる真の資質や能力を身につけることです。もう一つが「新のエリート」で、新しい知恵やアイディアを活かし創意工夫に挑むことです。そして3つ目が「心のエリート」で、常に前向きな心と他への思いやりの心を忘れないことです。
本校は、これらの理念や教育目標を掲げ、日々生徒たちに向き合いながら教育活動に取り組んでいます。
宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校の特色ある探究学習
特色ある授業を取り入れている宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校。ここからは、「探究」「感性」「プレゼンテーション」「サイエンス」の4つの領域で学びを進める探究学習について伺いました。
宮崎の自然に触れる体験活動が組み込まれた探究プログラム
▲3年生の屋久島縄文杉トレッキング
御校の探究学習への取り組みについて教えてください。
本校の探究学習は「総合的な学習の時間」の中で、「探究」「感性」の2つの授業と学校独自設定科目である「プレゼンテーション」「サイエンス」の全部で4つの領域を定めて授業を行っています。
探究の授業は、主に理科的な活動になります。1年生から3年生まで体験的な活動が組み込まれています。また、探究の授業の目玉となっているのが、自然体験学習です。宮崎から世界に羽ばたいていくときに、地元の自然を愛し、大切にできるような人間を育てたい。そのためには、まず第一歩として、宮崎の自然を知ろうというプログラムになっています。
具体的には、地元の照葉樹林を見に行ったり、青島にある亜熱帯の植生部分を観察に行ったり、3年時には種子島や屋久島への研修プログラムを組んでいます。
1・2年生で学んだことを礎に、3年生では1人が1つのテーマで研究に取り組みます。それを「STEAMジュニア」と呼んでおり、1年間かけて1人で研究した内容をSTEAMジュニア発表会で発表します。これが探究学習の総まとめとなっております。
実際の体験をもとに段階的な成長を促し、個人の研究に取り組んでいくんですね。理系がメインということですが、その他の分野も学んでいくのでしょうか?
もちろんです。特に「感性」の授業については、社会や国語の先生方がメインとなり、例えばパブリック・ディベートだったり、SDGsに関連した地域の問題解決学習だったり、職場の課題解決について考えたり、落語や小説、劇を創作したりと、幅広いプログラムがあります。
そういった文系的なものもあれば、英語の技能向上や数学のデータサイエンスの分野など、教科の枠にとらわれず、総合的な学習を行っていますね。
無駄のない自然界のサイクルを知り、奥深さに気づく生徒たち
▲2年生の綾照葉樹林植生調査
自然に触れ合う学習が特徴的だと感じたのですが、生徒の皆さんはどのようなことを学ばれますか?
実際に現地に行くことは貴重な体験になっていると思いますし、生徒の世界観が広がっていくという印象を持っていますね。
事例をお話しすると、1年生は身近な自然探究から始まり、2年ではユネスコエコパークに登録されている綾町綾南川の照葉樹林に行って現地の方から植生調査について指導していただきます。
本校の生徒に限らず、現代の中学生は自然の中での体験が不足している傾向があると思いますので、植物や動物の多様性に触れると、すごく感動していますね。また、宮崎は植生がかなり多様であり、その貴重さにも気づくようです。
▲1年生の青島研修
例えば1年生が研修を行う青島は、亜熱帯の植物の群落があります。そこでは優先種が偏っているというか、いろいろな木やそれを分解する菌類までいて、独自の生態系が成り立っています。そんな話を博物館の方に聞いて、無駄のない自然界のサイクル、奥深さに気づくのです。
生徒さんが、地域の独特の生態系について理解していくわけですね。
はい。やはり博物館の先生方のご指導が大きくて、事前に「植生とは一体何か」というところから、日本の植生分布や基礎的なことなどをまず指導していただきます。その上で現地に見に行くわけですが、実際に行ってみると、教科書とは違うことがあるんですね。
海辺だと塩に強い植物が生えていたり、太陽を求めて木の形状が変わっていたり、木の皮の表面に菌がついていたりと、宮崎に住んでいても全然知らないことを目の当たりにします。私たち教員も勉強になっていますね。
各分野の専門家や卒業生など外との連携で学びが広がる
▲3年生の種子島・屋久島研修で種子島宇宙センターに行ったときの集合写真
博物館の先生に教えていただくこともそうだと思いますが、宮崎西高等学校附属中学校では外部との連携も多いのでしょうか?
はい。博物館のほか、役場の自然を守っている部署の専門主幹など、学校以外の方とできるだけ連携するようにしています。
例えば2024年には3年生を連れて干潟の調査に行ったのですが、ボランティア活動を行っている方々に講師をお願いしたんです。やはり実際にいろんな活動をしている方々は、教員にはできないことを指導してくださるので、ありがたく思っています。
そんな専門家の方々に、興味を持って積極的に質問をしながら学んでいるうちに、その道に進みたいと思う生徒たちも出てくるんです。
卒業生の方との関わりもあるのでしょうか。
ありますね。本校を卒業して宮崎西高校理数科に進んだ生徒の中には、その後東京大学や京都大学に進み研究を続けているケースがあり、高校生にはそういった卒業生たちの話を聞く機会も設けています。
中学生については今まであまり行ってこなかったので、2024年からはさまざまな分野で活躍している方を招いて、職業に関するお話をしていただく教育プログラム「YUME講座ジュニア」をスタートさせたところです。
そうした講座の中で、進路に対する意識が芽生えてくるのでしょうか?
はい。医師や検察官などのリアルなお話を聞くことができ、職業選択の一助になると感じています。実際に、医師になりたいという生徒が増えていますね。
実験や研究を重ねて迎える「STEAMジュニア発表会」
探究学習でいろいろな体験を通して成長し、3年生になるとその成果を発揮する「STEAMジュニア発表会」があるとお話しいただきましたが、具体的に教えていただけますか?
わかりました。この発表会に向けては生徒個人が自分でテーマを決めて研究に取り組みます。テーマ決めについては、最初は小さな疑問をたくさん出すことから始め、そこから「研究とは一体何か」という話をしながら、テーマを絞っていく活動を2ヶ月ぐらいかけて行います。
その間には、必ず生徒と面談をしています。生徒がテーマを挙げてきた中で、自分がやりたいことというよりも、社会の課題に目を向けるなど、社会や人のために役立つテーマや視点を持ってもらうための問答を繰り返し、よりテーマを絞り込みます。
テーマの決定後、先行研究を調べたり、仮説を立てたりしながら1ヶ月近くかけて検証や実験を行い、8月前半には中間発表があります。そして、8月の後半にもう1回、実験結果やデータをまとめた上での進捗状況発表会があります。
その後は研究を進め論文を作成し、12月にはその論文を使って、簡単に概要を説明してもらいます。生徒や先生の指摘や疑問を受けて修正を重ね、最終的に1年生から3年生まで全校生徒が参加する3月のSTEAMジュニア発表会を迎えます。
本番での生徒さんの様子はいかがでしょうか?
本校はプレゼンテーションの授業もあり鍛えられていますので、みんな堂々としてとても上手ですね。過去には英語で発表した生徒もいたんですよ。
発表されたテーマでいうと、2023年には「土砂崩れがどう起きるか」のモデルを作り、斜面の杭の打ち方で崩れやすさが変わることを検証していた生徒がいました。ストローを杭に見立て、水を流して何度もシミュレーションを繰り返していたので、とても印象に残っています。
かなり専門的な内容ですが、メンターの先生がいるので指導を仰ぎながら進められますし、中高一貫校なので、高校の先生にも来てもらえます。文献の探し方や実験の手法など、高いレベルで教わることができるので、生徒たちの高度な探究学習に繋がっていると思います。
理数系に強い学校として、科学の全国大会で結果を残す
▲2023年の「科学の甲子園ジュニア」で全国2位に輝いたメンバー
探究学習の取り組みもあって、宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校は理数系に興味・関心を持つ生徒が多いと伺っているのですがいかがでしょうか。
そうですね。高校の理数科は県内から優秀な生徒が集まる環境でレベルが高いですし、中学からそういった傾向はあると思います。
特徴的なのは、自分の興味を深堀りしていくことに対してみんな主体性を持って取り組んでおり、自走できている点ですね。その証拠というわけではありませんが、科学の甲子園ジュニア(※)の応募希望者が多く、校内で予選を行っているほどです。
(※)国立研究開発法人科学技術振興機構が開催する大会で、各都道府県を代表する中学生が科学的な思考力や技能を競うもの
この大会には1つの学校から12名しか応募できないのですが、1年生・2年生だけで校内予選に50人ぐらい参加します。本校は県下では大体1位か2位を取っていて、2023年は全国で総合および実技教科で第2位でした。探究心とチームワークゆえの快挙だと思います。
科学の甲子園ジュニアへの応募は、先輩から受け継がれてきた本校の伝統であり、チャレンジするのは当然だといった雰囲気があります。先生たちが何も言わなくても自主的に取り組んでおり、高校入試がないからこそ、そういったレベルの高い競技にも挑戦できるのだと思います。
宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校からのメッセージ
▲取材に対応いただいた関谷先生
最後に、宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校に興味を持たれた受験生や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校は縦の繋がりが強く、進路実現に熱心な学校です。夢を叶えたい方、体験学習にたくさん取り組みたい方、教室での勉強だけではない学びをしたい方は、ぜひ本校をご検討いただきたいですね。
また、本校は多様性を認める学校ですので、いわゆる「尖っている」というか、特技や才能がある生徒も安心して通えます。一人ひとり違っていて当たり前と考えていますし、さまざまな個性を持った仲間たちがたくさんいるので、人目を気にしないで自分の長所を伸ばすことができます。
我が校ながら素晴らしい学校だと思っていますので、お子さんには自分の才能を本校で伸ばしていただきたいです。もし興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校の在校生の口コミ
▲1年生の農業体験
ここからは、宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校の口コミを紹介します。実際に通学している在校生の声をまとめました。
学習面だけでなく、クラスメートとの絆や部活動の思い出、楽しい学校行事に関する口コミが多くあり、充実した学校生活を垣間見ることができました。
宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校へのお問い合わせ
運営 | 宮崎県立宮崎西高等学校附属中学校 |
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電話番号 | 0985-48-1021 |
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