愛知教育大学附属名古屋中学校の校舎

「愛知教育大学附属名古屋中学校」の生徒の主体性が大いに発揮される探究学習の魅力

独自の教育プログラムで注目を集める学校を特集するこの企画。今回ご紹介するのは、愛知県名古屋市の共学の国立中学校「愛知教育大学附属名古屋中学校」です。

愛知教育大学附属名古屋中学校は、目指す生徒像に「自主自立と共生」を掲げ、生徒主体の学校づくりを進めています。実際に授業は、生徒の発言で展開され、服装のルールも生徒が発案して私服登校にするなど、授業でも学校生活でも生徒の主体性を尊重される環境があるのが特徴です。また探究学習にも力を入れており、起業体験プログラムや小豆島でのフィールドワークなど、学年ごとに特色あるプログラムを実践しています。

今回は、愛知教育大学附属名古屋中学校・主幹教諭の佐野先生に、同校の教育方針や探究学習の特徴などについて詳しくお話を伺いました。

「自主自立と共生」の精神に基づく、愛知教育大学附属名古屋中学校の生徒主体の学校づくり

愛知教育大学附属名古屋中学校の授業風景

編集部

まずは御校の教育方針を教えてください。

佐野先生

愛知教育大学附属名古屋中学校では目指す生徒像として「自主自立と共生」を掲げています。これは本校の最上位目標であり、本校のあらゆる教育活動はこの生徒像実現のために行われています。

教員は常に「自主自立と共生」を意識して生徒の指導にあたっており、生徒も折に触れてこのキーワードを口にするなど、学校全体に浸透する教育方針です。

編集部

御校の学校生活の中で、この「自主自立と共生」が体現されているような場面はありますか?

佐野先生

例えばノーチャイム制を導入しているのも、自主自立と共生を促すためにしている取り組みの1つです。また学校のルールを生徒自身で決めるという「生徒主体の学校づくり」を進めているのも、この目指す生徒像を前提とした取り組みです。生徒主体のアイディアが尊重され実現する空気感の中で、「こういうこともやってみたい」というように、生徒自身の意識も変わってきています。

また「自主自立と共生」の精神は、本校の授業にも表れています。本校は愛知県の研究校としての使命を持っており、現在は「深い学びをデザインする授業づくり」を研究テーマとして、生徒が主体性を発揮できる授業のあり方に関する研究を進めています。実際の授業でも、教員から一方的に教えるのではなく、生徒同士で学び合い、自ら問題を見出して追究していける工夫をしています。

編集部

生徒主体の学校づくりを進められているとのことですが、実際に生徒のアイディアで決まったルールはあるのでしょうか。

佐野先生

本校はもともと制服での登校をルールとしていたのですが、コロナ禍での生徒のアイディアをきっかけに私服登校を許可したという実例があります。コロナ禍の換気のために窓を開け放っていたことから冷房がうまく効かず、体温調整が難しいという生徒側の意見と、自宅での洗濯が大変だという意見が合わさり、そこにジェンダーの観点も加え、私服登校を許可するルールに変更されました。

また現在では、生徒からあがってきた自動販売機の設置のアイディア実現に向けて検討を進めています。元々は校内にはウォータークーラーがあったのですがコロナ禍に使用禁止になり、そのままになってしまっていたんですね。生徒の水分補給という観点と、災害時の避難場所としての機能面の観点から、自動販売機設置のアイディアが出てきたという背景があります。実現にあたって出てくるゴミの管理や売り上げの問題などいくつかのボトルネックを踏まえ、再度検討し直しているところです。

編集部

生徒さんからあがったアイディアは、どういう経緯で実現に至るのですか?

佐野先生

基本的には生徒やクラスから生徒議会に上げ、そこで可決されると職員会で検討を行います。そこで何度かの差し戻しなどを経て、実現可能なものは実現に至る、という流れです。

私服登校も自動販売機の設置もそうですが、多角的に見てメリットや合理性があるかどうか、実現において課題となる部分をどうクリアするかを職員会でも叩いた上で実現していくことになります。私服登校へのルール改正の際は、教員と生徒で「制服検討委員会」を組織して議論していきました。

編集部

なるほど。ただアイディアを出すだけでなく、実現に向けての過程にも生徒たちが関わっていくことで、より実のある「生徒主体の学校づくり」となっているのですね。

1年生から起業プランを立案。3年間を見据えた独自の探究プログラム

愛知教育大学附属名古屋中学校の授業風景

▲MIRAI MAPの授業

編集部

続いて、愛知教育大学附属名古屋中学校の探究学習について伺います。各学年で特徴的なプログラムを実施されているとのことなので、まずは1年生の取り組みから教えていただけますか?

佐野先生

1年生では、入学してすぐに「MIRAI MAP(未来マップ)」を作成します。これは2030年のSDGsが達成された世界を仮定し、地球・自分・他人・社会の4つの視点から理想の未来を描くというもの。「沖縄で生活している」「お父さん、お母さんといろいろな国へ旅行に行っている」など、生徒によって内容は本当に多彩です。「社会」の視点では、昨今の社会情勢を受けて戦争のない平和な社会を描いている生徒が多いですね。

そしてMIRAI MAPでSDGsを学んだ上で、校外学習ではSDGsに関する学びを深めるための企業訪問を行います。SDGsの17ゴールを網羅できるような企業を用意しているため、生徒たちは自分の興味のあるSDGsに関する取り組みを行う企業を選んで訪問することになります。

例えば訪問先の1つであるJICA中部の「なごや地球ひろば」では、発展途上国で仕事をした方から実体験に基づく話をお聞きしました。他にもメディアに興味がある生徒はテレビ局に行ったり、電気やエネルギーに興味がある生徒は電気の科学館に行ったりと、それぞれの興味に合わせて学びを深められるようになっています。

そしてMIRAI MAPで自分が描いた内容、校外学習で企業から学んだ内容を踏まえて、成果発表会を行います。そこでは「2030年から2020年にタイムスリップしてきた」という設定で、「校外学習での学びが、自分の理想の未来にこうつながった」という形の発表を行っているのが特徴です。

愛知教育大学附属名古屋中学校の授業風景

▲MIRAI MAPと校外学習の成果発表会

佐野先生

それとはまた別に、1年生で実施しているのが「起業体験プログラム」です。生徒によっては「起業=お金儲け」というイメージを持つ子もいるため、まずは「起業というのは社会にある課題、困り事を解決していく手段の1つなのだ」ということを学びます。

そしてその後、実際に自分の身の回りにある困り事を解決するための起業プランを生徒自身でつくります。そのプランを、名古屋市にある国内最大級のスタートアップ育成拠点「STATION Ai」に入っているスタートアップ企業等に対して生徒がピッチ(短時間で行うプレゼンテーションのこと)し、審査・フィードバックいただく、というのが流れです。

愛知教育大学附属名古屋中学校の授業風景

▲起業体験プログラムでの発表の様子

編集部

これまでに印象に残っている生徒さんの発表はありますか?

佐野先生

校外学習の方では、東海テレビに訪問した生徒たちの発表が印象に残っています。東海テレビの「スイッチ」という番組のディレクターさんから、使っていない土地を活用して農園をつくった「スイッチファーム」という取り組みを聞いた生徒が、学校でも農園をつくってみてはどうか、と提案したんです。実現の可否は別として、企業で聞いた取り組みを自分たちで実現できるアイディアに落とし込む発想が面白いなと思いました。

起業体験プログラムでも多種多様なアイディアが生まれています。中でもアプリを使うアイディアが多く、勉強が苦手な子どもがいつでも質問できるアプリや、迷子になって飼い主が見つからず保護された犬や猫と、ペットを飼いたい人をマッチングするアプリなどの独創的なアイディアが印象に残っています。

編集部

起業体験プログラムの方はスタートアップ企業に審査してもらうとのことですが、企業の方からはどのようなフィードバックがあるのでしょうか。

佐野先生

ビジネスの視点から見て厳しいフィードバックをいただくこともありますが、基本的には中学生ならではのアイディアを面白がってくださることが多いですね。ポジティブで現実的なフィードバックをいただけるため、生徒にとっても刺激やモチベーションになっているようです。

小豆島を舞台にした探究プログラムでは「地域課題」「観光プラン」の2つでアウトプット

愛知教育大学附属名古屋中学校の小豆島での探究学習の様子

▲小豆島での探究学習は同校の伝統。名物であるそうめんを作る体験も

編集部

続いて2年生で行う探究学習のプログラムをご紹介ください。

佐野先生

2年生の探究学習は、香川県の小豆島を舞台に行っています。これは55年以上続く、愛知教育大学附属名古屋中学校の伝統的な取り組みです。

小豆島に関する探究学習のアウトプットは大きく2つに分かれます。1つは小豆島の抱える地域課題の解決のための施策立案です。今の小豆島が抱える地域課題を観光協会の方からお話ししていただいた上で、1年生での探究学習の経験と成果を踏まえて中学生の視点でそれに対する解決策を考えていくという内容です。

施策の検討は、中学1年生の1月から始まります。調べ学習や現地の人へのZoomでのインタビューを通じて情報収集し、2年生の5月に実際に小豆島を訪れて島の人たちにインタビューをしていきます。そして帰ってきてアイディアをまとめ、小豆島町役場の職員さんや観光協会の職員さんなどに対して成果発表を行うという流れになっています。

愛知教育大学附属名古屋中学校の小豆島での探究学習の様子

▲小豆島の多くの方にお話を伺い、地域の課題を明確にしていく

小豆島での探究学習のもう1つのアウトプットが、生徒による小豆島の観光プランづくりです。旅行会社さんにご協力いただき、生徒が考えた小豆島観光プランで面白いものがあれば実際に商品化してweb販売できるよう進めています。

編集部

地域課題解決の施策と観光プラン、それぞれ生徒さんからはどのようなアイディアが出されていますか?

佐野先生

まず地域課題の方では、外国人観光客向けのパンフレットが制作されていないという現状を受けて、インバウンド施策としてパンフレットの多言語化のアイディアが出されました。本校には帰国生のクラスがあるため、本校の帰国生が英語、中国語に翻訳し、さらにQRで読み込むと音声でも聞けるようなパンフレットを制作して役場に置いてはどうか、というアイディアです。

観光プランの方では、SNSでの発信を軸にしたアイディアが印象的でしたね。小豆島は自然がきれいで、写真や動画映えするスポットも多いため、「ここに訪れるとこういう動画を撮れる」というのを旅行プランとしてみる、というアイディアです。

愛知教育大学附属名古屋中学校の小豆島での探究学習の様子

▲成果発表会

編集部

どちらも、中学生ならではの視点を活かし、なおかつ小豆島に実際に訪れて深く検討したからこそ出るアイディアですね。こういった探究の成果は、小豆島ではどのように活かされているのでしょうか。

佐野先生

愛知教育大学附属名古屋中学校では小豆島での探究成果をまとめた冊子を毎年作っており、それを小豆島でお世話になった企業や観光協会、役場に送付しています。

これまでの54年間のまとめ冊子はすべて役場と図書館に保管されており、それを小豆島の小・中学生の調べ学習に使っていただいているそうです。島の外からの視点も含めた島の課題やそれに対するアイディアがまとまっている、島の子どもたちにとっても発見のあるものだからこそ、学習資料として役立てていただけているのではないでしょうか。

3年生では1・2年生の学びを踏まえ、自身の強みを活かしたアイディアを企業に提案

編集部

3年生の探究学習では、どのようなプログラムを実施されるのでしょうか。

佐野先生

これまでにご説明した1・2年生の探究プログラムを初めて導入した生徒が今2年生なので、その生徒が3年生になる来年度に向けて新たなプログラムを検討中です。これまでは修学旅行先の東京で企業インタビューを行っていたのですが、質問をして終わりではなく、企業に対する生徒のアイディアのピッチを行うような内容を考えています。

具体的には、1年生のときに描いたMIRAI MAPやこれまでの探究学習の内容から、改めて自分自身の好きなこと、強みを認識し、それを活かしたアイディアを考えてもらうことを想定しています。1年生や2年生で積み上げてきた探究の学びがつながり、発展していくようなプログラムにできたらと考えています。

探究を通じて生徒が主体性をどんどん発揮。学校全体での新たな学びにつながった好事例も

愛知教育大学附属名古屋中学校の体育館に集まる生徒たち

編集部

愛知教育大学附属名古屋中学校の探究学習を踏まえて、生徒の皆さんに感じる変化はありますか?

佐野先生

最初にお話した通り、愛知教育大学附属名古屋中学校では研究校として「深い学びをデザインする授業づくり」の研究テーマに取り組んでおり、探究学習でも教科の授業でも主体的な学びの姿勢を育むことに非常に重点を置いています。特に探究学習では主体的に学び取る姿勢が強く求められる分、本当に生徒の主体性がどんどん発揮されているなと感じていますね。

例えば、起業体験プログラムに取り組んだ生徒で、自分でも起業をしてみたいという思いから「起業部」を立ち上げて部長をしている生徒がいます。その生徒は「STATION Ai」が主催する「STAPS」という学生起業家育成プログラムに参加し、特別賞を受賞しました。つい先日にも「Tongali ビジネスプランコンテスト2024」という起業家たちが競うコンテストに参加し、「右上がり賞」という賞を受賞しています。

さらにその生徒が活動の中でつながりを持った生成AI領域のプロフェッショナルの方がいるのですが、先日その方を学校にお招きして生成AIに関する授業を行っていただきました。生成AIは学校現場では教員が業務改善で使うのにとどまり、なかなか生徒の活用にまでは至っていないのが全国的な現状です。生徒が生成AIを活用する先駆的な取り組みとして、生徒に向けて「ChatGPT」や「にじジャーニー」、「SUNO AI」を紹介してもらいました。10月の学校祭ではこういった技術を用いた成果発表を行えるよう、取り組みを進めています。

このように取り組みが広がっているのも、本校の探究学習をきっかけに生徒が主体的に行動した結果です。今後も探究学習を通じて生徒の主体性を育み、さまざまな生徒主体の活動が広がっていくような良い流れができていけばと思っています。

愛知教育大学附属名古屋中学校からのメッセージ

愛知教育大学附属名古屋中学校の佐野先生

▲取材にご対応いただいた佐野先生

編集部

最後に、記事を読んで愛知教育大学附属名古屋中学校での学校生活に興味を持った読者の皆さまへメッセージをお願いします。

佐野先生

愛知教育大学附属名古屋中学校は授業も学校行事も、すべて生徒が主体となってつくり上げていくことができる学校です。自分の可能性を信じて、いろいろなことに挑戦したいという勇気を持つ生徒を、我々もしっかりとサポートして背中を押していきます。

さまざまなことに興味を持って世界を広げてみたいという方は、ぜひ愛知教育大学附属名古屋中学校に来ていただけると嬉しいです。

編集部

佐野先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!

愛知教育大学附属名古屋中学校の卒業生・保護者・在校生の口コミ

ここでは、愛知教育大学附属名古屋中学校に寄せられた生徒や保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。

(在校生)とにかく自由な校風で、先生もフレンドリーで授業も行事も楽しい。自分たちで行き先を決める修学旅行など貴重な経験ができ、入学して良かったなと思える学校。

(在校生)授業中も生徒同士の話し合いが多く、生徒の意見を大事にしてもらえる。

(在校生)授業方法が独特で、先生から解き方を教えてもらうのではなく、生徒が解き方を発表する機会が多い。予習が必須だが、その分学習習慣が自然と身につく。

(卒業生)先生と生徒でつくり上げる授業が独特で、本当に楽しかった。先生との距離も生徒同士の距離も近く、行事も充実していて素敵な思い出がつくれる!

(保護者)子どもが毎日楽しそうに学校に通っている。与えられるだけでなく、目的をもって学ぶ姿勢が身につくのもポイント。

(保護者)校則も厳しくなく、宿題も少ない。その分、本人次第でかなり成績などが変わってくると思う。

在校生や卒業生、保護者から異口同音に、自由な校風の中で、授業や学校行事など楽しい学校生活を送れるという評価が聞かれました。特にディスカッションの機会が多い独特の授業スタイルは、学習の楽しさや主体的な学びの姿勢を引き出すものとして高評価です。

愛知教育大学附属名古屋中学校へのお問い合わせ

愛知教育大学附属名古屋中学校の校歌が書かれた石碑

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