この記事では、特色ある教育で注目される学校として、東京都練馬区にある中高一貫校の私立男子校「早稲田大学高等学院中学部」を紹介します。
早稲田大学初の附属中学として2010年に開校した同校は、自主性を重視した教育を行っており、宿泊研修では生徒が自ら行き先やルートを考えるなど、1年生の時から「自分で自分の行動を決める」場面がたくさんあります。
また、興味・関心のあることにとことん打ち込める環境があり、理科部やコンピュータ研究部、鉄道研究部といったユニークなクラブ活動もあります。
今回は、そんな早稲田大学高等学院中学部の自主性を養う教育プログラムやクラブ活動について、生徒担当教務主任の美谷島先生と、教務担当教務副主任の登口先生に詳しくお話を伺いました。
この記事の目次
「3つのC」を備えた人材を育成する早稲田大学高等学院中学部
▲早稲田大学高等学院・高等学院中学部は、大隈重信によって創設された早稲田大学の教旨を基本とする。
まず、早稲田大学高等学院中学部の教育理念について教えてください。
早稲田大学高等学院・高等学院中学部は早稲田大学の附属の学校ですので、「学問の独立」「学問の活用」「模範国民の造就」という早稲田大学の教旨に基づく教育を行っています。
教旨を中学生や高校生にわかりやすく伝えるために、本学院ではそれぞれを「3つのC」から読み解き、「知的好奇心を旺盛にして自ら学ぶ(CURIOSITY)」、「学びを活かし失敗を恐れず勇気を持って挑戦する(COURAGE)」、「自己犠牲をいとわず世界に貢献する(CONTRIBUTION)」としています。
▲校舎内には、早稲田大学の研究室や研究内容を紹介する掲示物が。
学習指導においては、どのようなことを意識していますか?
中高6年間を通して言えることですが、特定の教科だけに力を入れるのではなく、全般的にバランスよく学ぶことを大切にしています。
高校でも文系と理系でクラスを分けず、選択授業だけ文理で分ける「緩やかな文理コース制」を採用しているので、例えば文系の生徒であっても数学を高校3年までしっかりと学びます。
このようなバランスの良い学びは、幅広い教養に支えられた豊かな人間性の育成においても大切だと考えています。
自主性を重視する早稲田大学高等学院中学部の「宿泊研修」とは
▲1年生は奈良県、2年生は長野県、3年生は長崎県と佐賀県で宿泊研修を行う。写真は2年生の稲刈り体験の様子。
自主性を重んじる早稲田大学高等学院中学部では、生徒が主体的に行動内容を決める作業があらゆる学校行事に盛り込まれています。
ここからは、自主性を養う特色あるプログラムの一例として、3年間毎年行われる宿泊研修をご紹介します。
訪問先もルートも移動手段も、生徒が自ら考え決める
▲中学1年生の研修では奈良の寺社などをまわり、古都の文化を探究する。写真は東大寺大仏殿の前で八角燈籠を見学する様子。
各学年で宿泊研修を行っているということですが、活動の内容を教えていただけますか?
例えば、中学1年生は2泊3日で奈良県へ研修に行きます。現地では、全員で法隆寺や東大寺といった寺院を見学するだけでなく、4人程度の班に分かれて丸一日かけて奈良盆地とその周辺をまわる「班別自主研修」があります。
班別自主研修の内容は生徒自身で決めており、秋の研修に向けて1学期のうちからテーマや訪問先、ルートや移動手段、必要な予算などを考え始めます。
班別自主研修ではどのような場所を訪れるのでしょうか?
奈良研修が行われるのは、歴史の授業で奈良時代を学習した後の時期です。そのため、奈良の古墳や寺社など授業に出てきた人物や出来事に関係する場所を実際に見に行く生徒が多いですね。あとは、飛鳥地域を訪れレンタサイクルで町を巡ったグループもありました。
どのグループも、パソコンで検索したり図書室で資料を探したりして情報をしっかりと仕入れたうえでテーマや行き先を決めているなと感じます。
▲図書室には、研修で訪れる場所に関する図書を集めたコーナーも。
準備で生徒さんが最も苦労するのはどのような点ですか?
ルートを決めるのが最も大変だと思います。複数の見学先をどういう順番でどの交通機関を使って回れば効率的なルートになるかを考えなくてはりません。
何時何分のバスに乗って、何時何分に到着して、何十分間見学して、という分刻みのスケジュールを生徒自身で決めています。
生徒が立てた計画を旅行会社さんが確認し、何度も「これではだめだ」と言われながら改善を繰り返し、ようやくルートが決まります。
2年生は長野での農業体験、3年生は長崎・佐賀での研修を実施
2年生と3年生の宿泊研修についてもご紹介いただけますか?
2年生は長野県へ行き、農家さんのお宅にホームステイしながら自然と触れ合い、稲刈りなどの農業体験を行います。
3年生は長崎・佐賀を訪れます。長崎市内の班別自主研修を行うほか、佐賀では生徒から出されたテーマの中から4つを採用し、グループに分かれてテーマ別の研修を行います。
テーマには「有明海」や「伝統工芸」などがあり、1年生の奈良研修に比べると総合学習の要素が強まります。また、訪問先をインターネットや資料で調べるだけでなく、佐賀県庁の方にご協力いただき、生徒へのアドバイスをしていただいています。
例えば有田焼に興味がある生徒は佐賀県庁の方に有田焼関連の面白い訪問先を教えてもらうなどし、少しずつコースを具体化していきます。
2年生の農業体験は、1年生や3年生の研修とはまた違った学びがありそうですね。
農業体験は活動を通して学びや気づきを得る大きな機会になっています。農業の大変さや担い手不足、温暖化による収穫量の減少といった社会課題は、自分の目で見ることによって初めて「自分ごと」として考えられるようになります。
また、宿泊先の方々は温かく迎えてくれ、いろいろなことを教えてくれます。研修をきっかけに農業や自然の魅力に気づき、「将来は地方に住む」と宣言する子もいるほどです。
「学習発表会」のプレゼンテーションで、研修の成果を発表
▲学習発表会では、生徒独自の視点から宿泊研修で学んだことをまとめて発表する。
研修で得た知識や気づきを発表する場はありますか?
生徒や保護者の前で学習成果やクラブ活動の成果を発表する「学習発表会」が11月にあり、その際に宿泊研修のプレゼンテーションも行っています。
研修に関するプレゼンテーションで印象的だった内容があればご紹介いただけますか?
長野の研修については、地域に伝わる行事や民話を地元の人に聞いて、それをまとめて発表したグループがありました。教員が知らないような内容ばかりで、聞いている方も楽しい発表でしたね。
本校には鉄道が好きな生徒が多いのですが、長崎・佐賀研修の発表では長崎の鉄道事情について紹介したグループがありました。
江戸時代末期、グラバー邸で知られるトーマス・グラバーがイギリスから長崎に蒸気機関車を持ち込み、商談のために走らせ、そこから長崎が「鉄道発祥の地」と言われるようになったそうなんです。発表では、そんな長崎の鉄道の歴史に加え、長崎を走る西九州新幹線が紆余曲折を経て2022年に開業した経緯などを紹介してくれました。
それから、どのグループもスライド作りが上手なことに驚かされます。デジタルネイティブ世代なのでプレゼンツールを使いこなし、アニメーション機能を活用したり、動画を入れ込んだりして効果的な見せ方をしています。
経験や失敗を通じて気づきを積み上げ、主体的な人間に成長する
ここまでお話を伺い、宿泊研修はまさに生徒が主体的に行動を決めるプログラムだと感じました。1年生の段階からこのような難しい取り組みに挑戦する狙いやメリットをどのようにお考えですか?
主体的な行動というのは、言われて急にできるものではありません。だからこそ、1年生の時から自分で考えて動くことに挑戦し、たくさんの経験や失敗を通じて「気づき」を積み上げてほしいと考えています。
1年生は好奇心の塊なので、教員のサポートを受けながら興味あることを追求し、主体性の土台を築いてもらいたいですね。
3年間を通じて、宿泊研修は生徒さんのどのような成長につながっているとお感じですか?
主体性や協調性が身に付くのはもちろんですが、興味や学びを見つけ出す力にもつながっていると思います。
ある程度敷かれたレールの上で学ぶ通常の授業とは異なり、宿泊研修は自由な学びを通じて自分の興味がどこにあるのかを探り、「この経験の学びはどこにあるのか?」を考える貴重な時間になっています。
そのような力は、高校、大学、社会人となってからもさまざまな場面で役立ちそうです。
そうですね。高校でより一層成長するためにも、中学のうちに自主的に学ぶ力をつけておくことは大切だと思います。
理科部から鉄研まで!「好き」に没頭できる早稲田大学高等学院中学部のクラブ活動
早稲田大学高等学院中学部には6つの体育系クラブと5つの文化系クラブがあります。
理科部や鉄道研究部、コンピュータ研究部などユニークなものが多い文化部では、中高の生徒が一緒に活動することがあるほか、早稲田大学に進学した部活OBからアドバイスをもらう機会もあります。
ここからは、同校のクラブ活動の魅力について詳しく伺っていきます。
理科部は部員数70名の人気クラブ!伊豆への夏合宿も
▲式根島で理科部が合宿を行ったときの様子。ライフジャケットを着用して、海に釣りにいく準備をしている。
早稲田大学高等学院中学部では理科部の人気が高いと伺いました。理科部ではどのような活動を行っているのでしょうか?
理科部は70名ほどの生徒が所属する大きなクラブです。人数が多いので普段は複数の班に分かれて活動しており、はんだごてを使った電子工作や畑での作物栽培、生き物の飼育など、それぞれの興味を追求しています。
夏には合宿もあります。2024年は2泊3日で伊豆へ行き、釣りや磯採集、ジオパークの見学など横断的に理科の知識を深める予定です。
理科部の人気の理由は何だとお考えですか?
活動の幅が広いのが大きな理由だと思います。生き物を飼う子や、ペットボトルロケットを作る子、レゴでロボット作りに挑戦する子など、好きなことに没頭できる環境が整っています。
理科部での経験が、その後の進路や職業選択に影響を与えることもあるのでしょうか?
理科部は高校に行っても活動を続ける生徒が多く、大学で生物系の学部を選んだ生徒、日本医科大学に進んだ生徒もいました。中学での経験がその後の進路の土台になっていると言えるのではないでしょうか。
大学生になっても中学部の理科部に愛着を持ち続け、自主的に教えに来てくれる卒業生もいますよ。知識が豊富な先輩から生き物の飼い方などをアドバイスしてもらえるので、生徒も嬉しそうにしています。
コンピュータ研究部や鉄道研究部でも生徒が「好き」に没頭
理科部のほかにも特色あるクラブがあればご紹介ください。
コンピュータ研究部は、ゲームや音楽などの創作をする生徒と研究をメインに活動する生徒が一緒に活動しています。大学院生レベルのプログラミング能力を持った生徒もおり、非常に高いレベルで活動しています。
11月の学習発表会では、自分たちでプログラミングしたシューティングゲームを発表し、会場を訪れた小学生に遊んでもらいました。
研究をメインにする生徒には障害物を避けて飛ぶようにドローンの自動制御を研究している生徒がいます。これまでには、WBGTの予測モデルやAIの言語モデルについて研究して学会発表まで行った生徒もいました。
アプリケーションコンテストや大学のビジネスコンテストなどにも積極的に応募していて、中学から高校まで研究を継続していく雰囲気があるのが特長かと思います。
生徒さんが熱中して取り組んでいる様子が目に浮かびます。
本校は男子校なので、女子の目を気にすることなくマニアックな興味を思い切り追求できるという事情もあるのかもしれません。
中高合同の鉄道研究部も精力的に活動していますよ。先日、新入部員の歓迎遠足があり、銚子まで行って銚子電鉄の車両を貸し切り、その後、車両撮影会を開催しました。
この遠足は高校生が企画を立てて実現したものでしたが、「地方鉄道の未来を考える」というテーマもあり、銚子電鉄の社員の方に地方鉄道が抱える悩みについてお話ししていただきました。
好きなことをただ楽しむだけでなく、社会課題について考えるきっかけにもなっているのですね。
個性を尊重する雰囲気や充実した学校設備が魅力
▲1,500席を備える講堂は早稲田大学で最大規模。始業式や終業式、学習発表会、スピーチコンテスト、音楽祭などさまざまな行事がここで行われる。
早稲田大学高等学院ならではの魅力や雰囲気についてどのようにお感じですか?
どの教員も、生徒の興味や関心を伸ばしたいという強い思いを持ち、「こんなことを調べたい」と言う生徒がいれば惜しみないサポートを行っています。
生徒の好きなことを否定しない懐の深さや、個性が尊重される雰囲気は本校の大きな魅力だと思います。
恵まれた学校施設も本校の自慢です。校舎は綺麗ですし、2014年に完成した1,500席を完備する大きな講堂もあります。
図書室の蔵書数は約13万冊を誇り、早稲田大学の図書館の本を取り寄せて借りることもできます。
▲13万冊の蔵書を誇る図書室。この日はパリ五輪に合わせてフランスに関する図書の紹介も行われていた。
スポーツ施設も充実しており、2014年に完成した総合体育館にはメインアリーナのほかに武道場やフィットネスルーム、震災に備えた備蓄庫もあります。
また、人工芝のグラウンドはとても広く、本校の見学に来た小学生や保護者の方がグラウンドを気に入って入学を希望してくださることもあります。
▲総合体育館(第2体育館)は2014年に完成した。校内には、他に第1体育館もある。
▲広大な人工芝のグラウンド。体育の授業や部活動に力が入りそう。
早稲田大学高等学院中学部からのメッセージ
▲今回インタビューさせていただいた早稲田大学高等学院中学部の美谷島先生(左)と登口先生(右)。
最後に、記事をご覧の保護者や子どもさんにメッセージをお願いします。
やってみたいことがある好奇心旺盛なお子さんや、好きなことに時間を使いたいと思っているお子さんなら、きっと本校で充実した学校生活を送っていただけると思います。
美谷島先生が言う通り、本校は打ち込む環境が整っている学校です。
また、学校説明会などで「うちの子はこれがやりたい、というものがないのですが大丈夫ですか?」とお尋ねいただくこともあるのですが、そのような子どもさんであっても、周りの友達に触発されて打ち込む何かが見つかるケースはよくあります。
やりたいことが見つかっていなくても、周りの子がやっていることを「楽しそう」と感じ、輪に入っていくことができる子どもさんなら、きっと伸びると思います。
本日は、ありがとうございました!
早稲田大学高等学院中学部の進学実績
早稲田大学高等学院中学部を卒業した生徒は、既定の基準を満たせば全員が高等学院に進学します。
高等学院を卒業後は、全員に早稲田大学への進学の道が開かれており、2024年3月に卒業した生徒のうち大半に当たる454名が同大学に進みました。また、他に、日本医科大学へ2名の生徒が推薦されます。
早稲田大学への進学状況(公式サイト)
https://www.waseda.jp/school/jhs/about/enrollment/
早稲田大学高等学院中学部の在校生や保護者の口コミ
▲季節によってさまざまな表情を見せる欅並木。
最後に、早稲田大学高等学院中学部の在校生や保護者の声を紹介します。
自主性を重んじる早稲田大学高等学院中学部。口コミでも、興味や関心を追求できる環境を高く評価する声が多くあがっていました。
早稲田大学高等学院中学部へのお問い合わせ
運営 | 学校法人早稲田大学 |
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住所 | 東京都練馬区上石神井3-31-1 |
電話番号 | 03-5991-4210 |
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