独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、群馬県前橋市にある学校「群馬大学共同教育学部附属中学校」を紹介します。
前橋市の中心部より少し外れた場所に位置し、田園の広がる豊かな自然に囲まれている同校は、1949年の群馬大学創立時に発足した歴史ある伝統校です。さまざまな先進的な教育活動を行う中でも、学習の基盤となる言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力などの資質・能力を高めるための探究学習に注力しています。
今回は、そんな群馬大学共同教育学部附属中学校の教育目標や特徴的な取り組みについて、校長を務める上原先生と校内教頭の関根先生、研究主任の星野先生にお話を伺いました。
この記事の目次
質の高い教育活動を進める、群馬大学共同教育学部附属中学校の教育目標
最初に、群馬大学共同教育学部附属中学校の建学の精神や教育理念等についてお聞かせください。
本校では「共生・創造・健康」の3つを教育目標に掲げています。「共生」とは、心豊かに互いを活かすことで、道徳教育に関わる部分が大きく、心の成長を目指しています。
2つ目の「創造」は、知性を高め未来を創ることで、学習面の向上を目指しています。総合的な学習の時間を改編し、生徒たちは今、未来創造科という探究の学びに一生懸命に取り組んでいます。
3つ目の「健康」は、たくましい心と体を育てる、自分だけでなくお互いに成長しようということを目標にしています。
また、本校は国立大学の附属校であり、教育研究に力を入れています。地域の先進的な教育への取り組みに、モデル校として力を発揮できるように、毎年の研究発表を通じて質の高い教育を提供できるように進めているところであります。
▲群馬大学共同教育学部附属中学校の教育目標
外部とのつながりを通して発展。群馬大学共同教育学部附属中学校の探究的な学び
ここからは、群馬大学共同教育学部附属中学校の探究学習、中でも総合的な学習の時間「未来創造科」について詳しく伺いました。
2022年スタートの「未来創造科」。外部の協力のもとで横断的に研究する
御校の探究学習について詳細をお聞かせください。
教育課程の中にある総合的な学習の時間について、2021年に新しい学習指導要領に変わったことを機会に、本校では見直しを図りました。
以前は、総合的な学習の時間を「生き方総合」と呼称し、「生き方を見つけよう」「何か新たな生き方について考えていこう」といった取り組みを行っていましたが、学習指導要領の趣旨に則り、探究的な学びを柱にしていこうということで、新しく「未来創造科」に切り替えて2024年で3年目になります。
1年目には「未来創造科ガイドブック」を作ってテスト的に実施をして、2年目にはそのガイドブックをもとに実践し、3年目はガイドブックをリニューアルしたうえで本格的に取り組む仕上げの年といったところです。
内容としては、1年生は「群馬を知る」、2年生は「日本を探る」、3年生は「未来を創る」というテーマのもと進めています。1年生は3人程度のグループで探究活動を行います。2年生は1名から3名ぐらいのグループまたは個人で探究しています。3年生になると個人で探究を進めます。
未来創造科は、1年生は年に50時間、2年生・3年生は年に70時間のカリキュラムとなっており、課題の設定、情報収集など短期のサイクルを年間に3回ぐらい行います。
その間に、縦割り活動で2年生・3年生が各10人ぐらいのグループになって中間検討会を実施します。PTAや学校評議員、大学の関係者など外部の方々にも入ってもらい、アドバイスを得ながら、探究活動が順調に進んでいるかどうかを確認します。
そして、その中間検討会をもとに、夏休みに調査体験活動を実施します。2学期にはデータ集計や分析、まとめを行い、12月下旬から学年ごとにシンポジウムを開きます。そこで自分の探究の成果を発表するのが一連の流れとなっております。
本校の探究学習「未来創造科」の特徴としては、教科等横断的な学習を重視していることです。
例えば、理科で学習した予想を確かめるための観察や実験を、未来創造科で情報を収集する際に、その方法でよいのか考えてみる、数学で学習したデータの活用方法を、未来創造科でも整理・分析の場面で生かすといった機会があります。
各教科での学習や視点を蓄えておいて未来創造科の時間に使うというように、教科を横断しながら学習を進めていますね。
全校的に開催する中間検討会。学年を越えた協働も生まれる
未来創造科の中間検討会はどういった感じで行われるのでしょうか?
中間検討会は伝統・文化・福祉・経済など領域があり、各教室で分かれて発表していきます。本校は生徒が約400名いるのですが、それぞれ10名ぐらいのグループに分かれます。そして、PTAや学校評議員の方々、大学関係者が40名ぐらい来て、約40のグループに分かれて中間検討会を実施します。
PTAの方の感想はいかがでしょうか?
家庭では見ることができない生徒たちの考えを知ることができるため、感動している様子が見受けられます。このような活動に保護者の方が参加することで、学校の教育活動にもより積極的に協力してくださるようになっていると感じています。
難しいテーマを調査し、まとめて発表する生徒もいます。その内容だけでなく、発表の方法やまとめ方も評価され「ここをこうするともっとよくなるよ」と励ましや称賛を受けています。ガイドブックの中でも、励まし合い、士気を高めるよう指導しています。
この中間検討会は縦割りでされているとのことですが、縦割りのよさについて教えてください。
1年生はまだ中学生になって3ヶ月しか経っていませんから、2年生からのアドバイスがとても勉強になっています。先輩のやり方を参考にし、協働的な学びが生まれています。
生徒の想いをもとに財団法人と連携し、イベントの企画・提案も実施
▲未来創造科で文建協にインタビュー
生徒さんの具体的なテーマやエピソードがあればお聞かせください。
2023年12月のことですが、私が担当していた2年生の伝統文化の講座で、歴史的建造物に関心を持つ生徒がいました。彼らは、宮大工が減少していることに問題を感じ、日本の文化を守りたいという意欲を持っていました。
そこで、生徒が公益財団法人文化財建造物保存技術協会(文建協)に連絡を取ったところ、協会の方が本校に来てお話をしてくださることになりました。生徒3名と文建協の方が集まり、歴史的建造物の現状や課題についてお話を伺いました。
当初は30分から1時間の予定でしたが、実際には2時間近く話し合いが続きました。文建協の方は、日本の歴史的建造物に関する課題を多くの人に知ってもらうことが解決にも繫がると考えており、これからも一緒に勉強していただきたいとの意向を示してくれました。
その生徒たちは冬休み中にもかかわらず、意欲的に活動を続けました。その後、「前橋市民臨江閣」という歴史的建造物でのイベントを企画し、前橋市に提案しました。イベントの実現には至りませんでしたが、この経験を通じて外部とのつながりが深まり、探究学習が一層発展したと思っています。
先生方はどのようにサポートされるのでしょうか?何か工夫をされていますか?
前橋市に提案したイベントの件の場合、事前に企画書を見せてもらいましたが、やはり想定の足りていない視点が多々ありました。例えば費用のことです。
他グループの探究のよい視点を共有することや、「イベントを開催するためにどうやって資金を調達するのかを調べてみることからまず始めよう」とアドバイスするなど、全部を言ってしまうのではなく、視点を与えて情報収集のきっかけをつくるように仕向けています。
私は、生徒の探究意欲を高めるため、また興味関心を引き出すために、各授業で先生方が驚きを与える資料を提示したり、校長講話で未来創造科に関することをいろいろと話したりしています。
先週の金曜日には、10年後の未来を予測する話をしました。例えば、空飛ぶ車や遠隔医療について話し、生徒たちの関心を喚起するような工夫をしていますね。
未来創造科での学びが導く生徒たちの成長とは?
実際にこの活動を経て、生徒さんの成長はどういったところに感じますか?
先ほど校長からも話がありましたが、各教科の学びをつなげている様子が感じられます。未来創造科で学習したことが各教科でも生き、各教科で学んだことが未来創造科でも生きるという、互いに補完し合っているという印象です。
また、未来創造科で自分たちの興味・関心を探究する過程で、各教科を学ぶ意義への理解が深まったと思います。その結果、他の教科の学びも重要であることに気づき、各教科の学習により一層主体的に取り組むようになりました。
今、次年度の研究に向けて、今年度の成果と課題を見取るための、アンケートを取っているところです。この半年間ぐらいの結果としては、自分で社会を変えられると思う生徒の数が増加しています。
自分の学びが自分の将来に向かうことを自覚しながら勉強している生徒は多くいますが、自分の学びが社会につながると思っている生徒はそう多くはありませんでした。
しかし、この半年間で、自分の学びが日本の社会や世界の未来につながると思える生徒が増えている、これは大きな成長かと思います。
生徒さんは、どういった活動をされて社会につながると思われたのでしょうか?
未来創造科では現代的な諸課題の解決が一番の大きなテーマになっています。群馬から日本、そして未来へと課題を広げながら、学習を進めていることが要因の一つだと思います。
また、教科等横断的な学びということで、それぞれの教科が未来創造科にどう活きるかを意識するための「未来創造科クロスMAP」を作っています。そうしたことから、各教科等の学びが未来創造科に、未来創造科の学びが自分の将来につながっていくと感じられるようになってきているのではないかと思っています。
集大成とも言えるシンポジウムでは、「投票制」で成果を見える化
▲未来創造科シンポジウムの様子
12月から各学年でシンポジウムを行うとのことですが、それについてお聞かせください。
大学の学長や教育学部の学部長、教育委員会の教育次長も参加し、12月にシンポジウムを開催しています。そこでの生徒たちのプレゼン能力はとても高く評価されています。シンポジウムは12分程度のプレゼンですが、1年生から3年生までの継続した努力の成果が現れています。
3年生は体育館で直接発表を聞き、その内容に対して質問をする姿も見られ、未来創造科の集大成としての探究成果を発表しています。その後、生徒たちはその成果を卒業論文としてまとめ、全員が論文を仕上げて卒業します。
発表に対しては、全員が投票を行います。3年生と附属中サポートスタッフは1ポイント、PTA本部役員や学校評議員の方々、大学の学長や学部長、学校の管理職教員は10ポイントで投票を行い、最優秀賞が決まります。
2023年度の最優秀賞は、日本に訪れる外国人が快適に滞在できるように、観光地にデジタルサイネージを設置し情報を発信するという提案を英語でプレゼンするというものでした。
発表するだけでなく評価もされるのですね。
プレゼンの評価基準はガイドブックに記載されており、生徒たちはガイドブックを参考にしながら1年間取り組んでいます。
評価結果も生徒たちと大人たちの評価はよく似ており、大人の審査員の評価で逆転することはほぼありません。それは、生徒たちが探究内容やプレゼンの良し悪しを理解しているからだと思っています。
最優秀賞の理由は何だったのでしょうか?
英語でのプレゼンも評価されましたが、内容の充実が一番の理由です。生徒たちは現地調査や企業とのやり取りを自分たちで行い、必要な情報をまとめてプレゼンしました。その過程が高く評価されました。
群馬大学共同教育学部附属中学校からのメッセージ
▲取材に対応いただいた校長の上原先生(中)、校内教頭の関根先生(左)、研究主任の星野先生(右)
最後に御校に興味を持った読者の方々にメッセージをお願いします。
本校は、2024年10月9日・10日の2日間にわたり、未来創造科を中心とした公開研究会を実施する予定です。2023年は県内外から550名のみなさんにご参加いただきました。今年は文部科学省の教科調査官にも来てもらい、未来創造科に関するアドバイスや講演をしてもらいます。機会があればぜひご参加ください。
本校公式サイトに、未来創造科ガイドブック2024と2023年も掲載していますので、ぜひホームページを見ていただいて、参考にしていただければと思います。また、何かご指摘があれば、ご教授いただければと思います。
校長先生より公開研究会のお話がありましたが、今回、本校ではかなり新しい研究を行っていると手応えを感じております。
よく「学校の勉強は何のためにするのか、それに対してどう答えるかが教師の力だ」と言われてきましたが、まさに何のために学習をするのかが見えてくるような公開研究会になっていると思っています。
■2024年10月9日・10日開催の公開研究会のご案内
https://jhs.edu.gunma-u.ac.jp/cms/wp-content/uploads/2024/07/97b7566f320f2971bd1341a81c01d5fd-1.pdf
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
群馬大学共同教育学部附属中学校の卒業生・保護者の口コミ
▲部活動の壮行会(決意表明の様子)
ここからは、群馬大学共同教育学部附属中学校の口コミを紹介します。実際に通学していた卒業生や保護者の声をまとめました。
▲体育大会(3年生集合)
▲文化祭(3年生合唱)
群馬大学共同教育学部附属中学校へのお問い合わせ
運営 | 群馬大学共同教育学部附属中学校 |
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住所 | 群馬県前橋市上沖町612番地 |
電話番号 | 027-231-4651 |
問い合わせ先 | https://jhs.edu.gunma-u.ac.jp/cms/?page_id=20 |
公式ページ | https://jhs.edu.gunma-u.ac.jp/ |
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