独自の教育を実践する注目の学校を紹介する本企画。今回は、東京都調布市にある共学校「晃華学園小学校」を紹介します。
同校は、200年以上の歴史を持つカトリック教育修道会を母体としたミッションスクールです。カトリック精神に基づく全人教育を実践しており、「人とともに人のために生きる子ども」を育てています。
今回は、そんな晃華学園小学校の教育理念や特徴的な取り組みについて、同校の校長を務める片桐先生と英語科の佐橋先生にお話を伺いました。
この記事の目次
自己肯定感を高める、キリスト教精神に基づく晃華学園小学校の教育理念
まずは、晃華学園小学校の建学の精神についてお聞かせください。
本校の設立母体は1816年にフランスで設立された「汚れなきマリア修道会」という修道会で、この修道会はほどなく教育修道会として発展してまいりました。今では世界約30国に存在し、本校はこのマリアニストスクールと呼ばれる大きな組織の中の1つの学校です。マリアニストスクールには共通の5つの教育方針があります。
1.カトリック精神に基づく教育
2.質の高い全人教育
3.家庭の精神を基盤とする教育
4.奉仕・正義・平和をめざす教育
5.変化に適応できる教育
この中でも大切にしているのは「カトリック精神信仰に基づく教育」と「質の高い全人教育」です。全人教育とは、知・情・意・体のバランスを取りながら子どもたちに必要となる本当の力を総合的に育んでいくことですが、小学校6年間だけではなく、生涯教育に繋がる人間の土台をつくる教育でもあり、大切な人格の柱をつくる教育です。
そして、キリスト教の価値観に基づいた6年間の心の教育の中で大切となるところは、子どもたちがこれからの歩みに向けて正しい価値基準、心の物差しを持てるようになるということです。
キリスト教の精神とは、なかなか理解しづらいところですが、本校では子どもたちにも分かりやすく伝えるために、その精神を新約聖書の『ヨハネによる福音書』に書いてある「私があなた方を愛したように、互いに愛し合いなさい」という言葉で示しています。本校ではこのみ言葉を教育の土台に据えています。
キリスト教の福音の中心は、神が一人ひとりをこよなく愛しているというメッセージです。何かをしたとか何かができたとかではなく、神の眼差しの中では無条件に一人ひとりが愛されている。それはつまり、子どもたち一人ひとりの内に大きな尊厳があることを知らせる福音なのです。キリスト教教育には、一人ひとりに向けた絶対的な命への肯定感が根底にあります。
そして、「人とともに人のために生きる子ども」という目標があります。これは後ほどグローバル教育のところでもお話させていただきますが、キリスト教教育の人間観の中に、人は他者と切り離せない関係にあるという概念があります。本校では他者と共生することの大切さと喜びをしっかりと学びます。
また、21世紀教育の中では、主体性を持って自分を高めることは重要な課題です。本校では人との比較ではなく、それぞれが自分自身を高めていくための主体的な学習姿勢や生きる力を大切にしています。
マリアニストスクールが大切にしてきた本校の教育理念や教育目標は、現行の学習指導要領で掲げている学力の3要素「基礎的な知識および技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」というバランスのとれた学力観と益々重なってきているという感があります。
▲祈りの部屋
人と繫がる体験を通して心を磨く、晃華学園小学校の宗教教育
御校の教育理念や教育目標は感性・心を磨く教育にも繋がってくるかと思いますが、感性・心を磨く教育についてお聞かせください。
本校では人間力の育成に重きを置いています。人間力を下支えする資質能力にはさまざまなものがありますが、世界観や人間観、命の捉え方等をどのように待つかということは子どもたちの歩みに大きな影響を与えてくると思います。それを支えるのが宗教教育なのだと思います。宗教の授業のほか、イースターのミサや亡くなった方々を追悼する慰霊祭などの学校行事があり、神父様や先生たちの話を通して、6年間で徐々に宗教教育が浸透していきます。
また、学級や行動活動の中で、本校の教育目標を土台とした子どもたち同士の関わりも、大事な宗教教育です。本校の教育活動、学校行事では「人とともに人のために生きる子ども」という目標をベースにしてカリキュラム編成をしています。特徴的なもので言えば、6年生に感謝を伝えるための6年生を送る会という行事があります。
これはお世話になった6年生のために全校挙げて行う行事ですが、5年生が主となって行うもので、会を企画運営し全校を動かしていきます。目標やテーマはグループで話し合ってプレゼンテーションをして決めます。そこでやりがいを持って、主体性を持って他者と関わる力、伝える力、人のために尽くす喜びを習得していきます。
また、現行の学習指導要領の中に、横断的学習というものがあります。これは、1つのテーマを1つの教科だけではなくて、複数の教科で跨って学ぶことによって、多様な思考や立体的な考え方を育てるもので、本校ではカトリック総合プログラムを設けております。
カトリック総合プログラムでは、本校の教育方針の1つ「奉仕・正義・平和をめざす教育」をテーマとしており、例えばユニセフで働く方、原爆を追体験する語り部の方、海外でアーティストをされている方などいろいろな方に来ていただいて講演していただきます。
子どもたち同士が喜びを持って協働する体験を積み重ねながら、少しずつ自分と世界との関わりを感じながら、夢をもったり、国内外の人々と繋がる体験の中で自分自身を位置づけていくことを大切にしております。
▲イースターとクリスマスの飾り
そうした宗教を中心にした教育の中で、児童のみなさんはどのように成長されるのでしょうか?
自分は愛されているというみ言葉の中で育つことで、子どもはとても素直で優しい人に成長していると思います。素直さは物事を学ぶ際の大切な要素ですので、そのため学びの吸収力が高く、本当にすくすくと成長していると感じています。また、本校の児童はさまざまなことに対する興味・関心も非常に高いと思います。
縦割り学習で学年関係なく交流し、成長していく
御校では縦割りの教育を実践しているとお聞きしたのですが、それについて教えていただけますか?
本校では創立当初から異年齢の交流を大切にしており、授業や宿泊学習で縦割りを取り入れ、他者理解を進めています。宿泊学習は2学年の縦割りで8名から10名程度のグループを作り、それぞれのグループで主体的に活動します。
異年齢の子どもたちと関わることで、自然な形で子どもたちの中に良い繋がりが生まれます。上級生の子どもたちは下級生たちが困っていると手を差し伸べ、リーダーシップが生まれ、試行錯誤しながらなんとかみんなを引っ張っていこうと努力します。また、下級生たちも良いお手本を目の当たりにして、その姿に憧れを持つようになり、学校の中に良い循環が生まれています。もちろん、グループでトラブルを起こすこともたまにはありますが、それを乗り越えていくところまでが宗教教育です。
そうした取り組みもあって、本校の児童は自然と学年関係なく混ざり合って遊んでいます。
異文化を理解し、世界の平和を願う優しさに満ちたグローバル教育
▲英語の授業風景
晃華学園小学校のグローバル教育についてお聞かせください。
本校はフランスの修道会が来日して作ったカトリック学校ということもあり、創立当初から語学教育や国際理解を大切にしてきました。以前から、全学年とも英語の授業を週に3時間設けています。
この中で、語学教育のみならず、自分たちとは異なる価値観を持つ人々の生活や文化を知ることを通じて、国際理解と広い視野で物事を考え、他者と関わることができるような力の育成を大切にしてきました。
グローバル教育の第一歩は、自分自身のアイデンティティをしっかり持つことに始まりますが、他者の尊厳を理解する心も非常に重要です。それは先ほど述べた宗教教育の中で育まれます。ある意味、グローバル教育は究極の他者理解とも言えます。
価値観の相違は常に存在し、それを受け入れる寛容さや多様性の中で調整する力は、グローバル教育の中で必要とされるスキルです。これらは大学や社会人になってから研修することが多いですが、小学校からその観点を持って取り組むことが非常に重要です。
宗教教育とリンクした英語教育で世界に向き合う心を育てる
▲幼稚園児と英語の交流会イベントも
グローバル教育に関わる具体的な取り組みについてお聞かせください。
本校では、英語科に限らず、すべての学習において宗教に根付いた教育を意識しています。
本校には、キリスト教の精神「私(神様)があなた方を愛したように、互いに愛し合いなさい」を土台にした児童像があり、『自分を高める子ども、神様に心を開いて祈る子ども、人とともに人のために生きる子ども』の3つを大事にしています。
英語の授業の中でも児童像のメッセージ・理念が、子どもたちに届くようにと願いながら授業作りをしています。児童像の3つの柱を意識しながら、子どもたちが英語を通して仲間を思い、仲間と共に世界に一歩踏み出し、世界に向き合う心を育てるような学びを作っていきたいと思っています。
授業はカトリック校向けに作られたテキストを軸に進めております。そのテキストを足場にして、現実の社会や世界に繋がるような機会を設けるように心がけています。先述の児童像を意識して、英語に向き合いながら、教室を飛び越えた外の世界への興味、繋がり、発見ができるようにして、英語を通して外の世界に繋がる感覚を持てる体験を作りたいと思っています。
それらを実現するために何をしているのかということですが、自立した学びのためにはシステムが必要なので、子どもたちが自分で学習できるように、決まったルーティンを整えています。
そして、自己肯定感を高めるために、発表活動やスピーチ、グループ発表の機会を多く設けています。その中で「できる子はすごいね」で終わるのではなく、苦手なお友だちに声かけもしながら、そのお友だちができるようになったときには全員で喜ぶような教育を日々心がけています。
社会に関わる心を育成するためには、英語を使って外と繋がったり、宗教で学んだものに繋がったりしながら、なるべく外の世界に子どもたちを連れていくようにしています。しかし、いきなり国際化や世界と言われてもピンとこないときもあるので、グローバルではなく、ローカルな場合もあります。
他教科の学びとコラボした英語のプログラム
▲取材に対応いただいた英語科の佐橋先生
具体的にはどういった取り組みをされているのでしょうか?
テキストにある不定詞の要素が入った文を学習する際、図工で描いた自画像と英語表現をつなげる授業を行いました。
英語のフォームや文を学ぶときに、ICTを活用してさらに児童自身にすっとその学びが入ってくるような工夫をし、自然にターゲットフォームが使えるような体験的な学びを提供したり、ICTを使うことによって、教室の外の世界に繋げて学びを広げていくことも行っています。
ICTを利用して図工で描いた自画像と英語の授業をつなげた活動では、子どもたちは図工の授業で自画像を描き、それにテキストで学んだ英語の文章を自分なりにアレンジして言葉を添えました。例えば、「私の目は優しさを見るためにある」や「私の耳は優しい言葉を聞くためにある」といった具合です。
AIを使って自分に似た名画を探すアプリがあるので、児童は自画像をiPadで撮影し、アプリに自画像に似た名画を見つけてもらいます。そして、自分の自画像とAIが探してくれた名画、自分が書いた英語を載せたポスターを作成します。
この活動を通じて、自分が描いた絵に英語で再度向き合い、見つめる時間を持ちます。そして、将来その名画に会いに行く夢を持ち、その国の平和を願うメッセージを添えます。このようにして“英語の学びを世界に繋げる学びにする”という体験を授業の中で組み込むようにしています。
また、テキスト学習の一環として、アンネ・フランクの日記に関連する活動も行いました。ICを使って、アンネ・フランクが身を潜めて暮らしていた場所をオンラインのバーチャルツアーで訪問し、身を潜めて暮らす前と後を比較しながら学びます。これにより、英語の文章を単なる文章としてではなく、そこに気持ちを添えて読めるようになります。このようにICTは子どもたちを世界に繋げてくれるのです。英語授業の中出グローバルな感覚を養うことが同時にできたらなと願っています。
留学生との交流で他国の文化を学び平和を願う
留学生と交流する取り組みも行っているとお聞きしました。
学校の近くにある国際キリスト教大学(ICU)に在学している留学生の方に、年に1~2回、それぞれ約1ヶ月の間来ていただき異文化について学ぶ時間を設けております。これにより、子どもたちはさまざまな国の文化を直接学ぶことができます。
留学生は中国、メキシコなど多様な国から来ており、自分の国の文化や言語を子どもたちにシェアしてもらいます。
例えば、メキシコの留学生からはスペイン語や国の祭りについて教えてもらったり、一緒にダンスをしたりしました。中国の留学生からは、世界で一番画数の多い漢字や中国語の挨拶を教えてもらいました。
こうした交流を通じて、遠い国が身近に感じられるようになり、子どもたちは、将来その国に友だちがいるから平和であってほしいと願うようになります。授業では「世界に100人友だちを作ろう」とよく言っており、こうした体験がその基盤となると信じています。
このように、可能な限りこうした工夫を取り入れ、学習内容を社会や平和、優しさなどに繋げるよう意識しています。
ICUの留学生の交流場面では積極的に話す姿が見られますか?
もう質問が止まりません。どの学年でも何とかコミュニケーションを取りたいという雰囲気が教室中に溢れています。低学年でも知っている単語を使って積極的に質問しています。
晃華学園小学校の英語力とそのほかの多彩なアプローチ
いろいろな取り組みをされている中で、お子さんの英語力についてはいかがでしょうか?
本校では、子どもたちに英語を好きになってもらいたいと強く願っています。そのために、先ほどお話しした、実際に英語で関わり合う体験の学習の場を大切にしていますし、同時にその体験からの学びを支えるための基礎学習も重視しています。
例えば、すべての学年で英語の音と流れをしっかり身につけられるように音読の課題があったり、3年生からは毎日書く日記の宿題があります。子どもたちが理解力や表現力を高めることを目指しています。
6年生になると、英語だけで自然に話を聞き続けることができるようになり、教科書の長い文章も無理なく理解できるようになります。すべてを完全に理解しているわけではないにせよ、大量の情報を把握し、意味を掴む力が養われています。
その他にグローバル教育の補足がありましたらお願いします。
年に1回は、ヨーロッパの劇団の方に来ていただいて、学園のホールで英語劇を鑑賞します。また、姉妹校の児童の皆さんと一緒にオンラインで授業をします。コロナ中はオーストラリアのご家庭とZoomで繋がり、オーストラリアのクリスマスの様子を紹介していただきました。
実際に人々と関わったり、ICTを活用して世界と繋がったりする中で、子どもたちの「英語をしゃべりたい!」のモチベーションアップを図っています。
▲アメリカのアスリートを招いて行う英語サマーキャンプ
今年(2024年)7月、アメリカのアスリートを20人弱呼んで、一緒に体を動かしながら、英語やアメリカの文化を楽しむサマーキャンプを実施しました。去年は希望者だけだったのですが、好評だったので、今年は1年生から6年生まで全員にその体験をしてもらおうということになりました。
全学年の児童が心から活動の時間を楽しみ、英語への興味が一層高まっただけではなく、積極的に関わる事ができた自分を確認するきっかけになったり、通じる事、わかりあう事の楽しさや学習意欲の向上にも繋がった様子が見受けられました。
来てくださった20人弱の方々は、各家庭にホームステイしてもらいましたが、児童だけなく家族全員で共に感じ、学び、楽しむ貴重な機会になったようでした。受け入れは十数家庭でしたが、保護者の方にも国際交流にご協力いただきました。これからも学校全体で楽しみながら国際的なイベントを作り上げていくことができればと考えています。
晃華学園小学校からのメッセージ
▲取材に対応いただいた片桐校長
最後に御校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校は、子どもたちの生涯に関わっていく力の育成を目指して、神様の愛の中で一人ひとりを大切に思い、一人ひとりの心を見つめながら、成長を見守っていく人づくりの教育を行っています。
感性や心の教育を大切に、お子さんの成長を見守っていきたいとお考えのご家庭がありましたら、ぜひ一緒になってお子さんを育てていきたいと思っております。
学校説明会・オープンスクールも開催しております。もし本校に興味をもっていただけたのであれば、ぜひ一度足を運び、学校の雰囲気を感じてみてください。
本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
晃華学園小学校の進学実績
晃華学園小学校では、中学年から高学年にかけて、担任教師と進路部が一体となり、進路を見据えた学習について説明しています。
進路実績としては、ほとんどの女子児童が、内部推薦制度により併設の晃華学園中学校へ進学しますが、他校を受験する女子児童もおり、桜蔭中学、白百合学園中学、立教女学院中学などに合格・進学しています。
男子児童のほとんどは、私立中学校へ進学します。過去5年間の主な進学先中学校としては、多い実績順に暁星中学校、慶應義塾普通部、桐朋中学校、駒場東邦中学校、東京電機大学中学校、聖学院中学校、國學院久我山中学校、中央大学付属中学校、静岡聖光学院中学校ほかです。
姉妹校である暁星中学校をはじめ、カトリック学校を中心としたいくつかの私立中学校と連携し、男子児童にも男子特別入試制度(男子推薦制度)があります。
■進学実績(晃華学園小学校公式ページ)
https://es.kokagakuen.ac.jp/course
晃華学園小学校の保護者の口コミ
ここからは、晃華学園小学校の口コミを紹介します。卒業生の保護者の声をまとめました。
晃華学園小学校へのお問い合わせ
運営 | 学校法人 晃華学園 晃華学園小学校 |
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