オリジナル劇や3キロ遠泳に挑戦!大阪教育大学附属平野中学校の行事を通じた成長機会

この記事では、特色ある教育を行う注目の学校として、大阪市にある共学の国立大学法人立中学校「大阪教育大学附属平野中学校」を紹介します。

1947年に開校した同校は、文化祭や臨海学舎などの行事に全力で取り組む学校として知られており、こうした経験を通じて社会での活躍に欠かせない力を身につけています。

また、総合的な学習では、興味のあることをただ調べるのではなく「それをどう社会や人々に役立てるか」を意識しながらテーマ設定や研究、分析、発表を行っており、生徒の多様な進路や職業選択のきっかけとなっています。

今回は、同校の学校行事や探究学習の特色について、副校長の小村典央先生と主幹教諭の堀口健太郎先生に詳しくお話を伺いました。

「つむぎ、おりなす力」を大切にする大阪教育大学附属平野中学校

大阪教育大学附属平野中学校の体育祭の風景

編集部

まず、大阪教育大学附属平野中学校の教育目標からお話しいただけますでしょうか。

小村先生

本校は2024年度に、新たな教育目標を「かかわり、つむぎ、おりなし、つくる力を育む」といたしました。

本校がある大阪市平野区の旧平野郷地域は、江戸時代に河内木綿の集散地として発展し、そのため「わたの花」が平野区の花に選定されています。情報があふれる社会で生きるこれからの子どもたちには、綿から糸をつむぐように、あふれる情報を集約し、整理し、活用するといった「つむぐ」力が欠かせません。

また、「おりなし」という言葉には、自分や他者に対して真摯に向き合い、お互いを尊重することによって知識を「おりなし」て、拡大・深化させていってほしいという思いが込められています。

大阪教育大学附属平野中学校の「自省五問」

▲理念として、5つの「自省五問」を掲げる

平野中学校の行事に前向きに取り組み、自己実現のために努力する校風

「HIRANO」という文字がデザインされた大阪教育大学附属平野中学校の校内展示

▲校舎の改修を記念して、生徒がつくった作品が展示されている

編集部

小村先生は20年以上、大阪教育大学附属平野中学校で教育に携わっているそうですね。生徒さんの特徴や雰囲気について、どのようにお感じですか?

小村先生

本校は昔から個性のある子が多く、社会に出てからもさまざまな分野で活躍しています。

卒業生には医師や教員が多く、研究者や、アナウンサーもいます。また、eスポーツのビジネスを始めた人やベンチャー企業を立ち上げた人、モダン・タンゴのグループを結成して演奏活動をしている人もいます。

編集部

多彩な人材を輩出できる理由は何だとお考えですか?

堀口先生

物事に前向きに取り組み、自己実現のために努力する人が多い校風が影響しているのではないかと思います。

特に、学校行事への取り組み方を見ていると、そんな校風が醸成されていると感じます。例えば文化祭では、生徒も教員も本気になって最高のものを作り上げようと取り組んでいます。

大阪教育大学附属平野中学校の校舎内の階段

▲階段に描かれたメッセージ付きイラストは、保健委員会の生徒の手によるもの

文化祭で得意な役割を見つけるなど、行事を通してチーム力をつける

大阪教育大学附属平野中学校の文化祭で活躍する生徒たち

▲文化祭での舞台発表を通じて多くのことを学ぶ生徒たち

編集部

みなさんが本気で取り組むという文化祭について、詳しくご紹介いただけますか?

堀口先生

文化祭ではすべてのクラスが舞台発表を行うのが伝統で、オリジナルの脚本による劇に挑戦します。

脚本を書くのが得意な生徒、配役を考えるのが上手な生徒、みんなをまとめるリーダーなど、さまざまなタイプがいますが、どの生徒も「集団」を意識してクラスの力を高めようと取り組んでいると感じます。

編集部

最高のものを作り上げるためには力を合わせることが大切だということを理解しているのですね。

小村先生

その通りです。「この子にはこのことを任せたら誰にも負けない」といったように、相手の得意なことを見つけて、それをチーム内で活かそうと考える生徒が多いです。「こうでなければ駄目」ではなく「このメンバーの強みを活かしてできることは何だろう?」と柔軟に考える力があると感じます。

脚本を決める際にはさまざまなアイディアが出されるので、もちろん揉めることもあります。しかし、相手の考えに耳を傾けながら、折り合いの付け方を学ぶことも大切なことですので、生徒には良い経験になっていると思います。

編集部

ただ楽しむだけでなく、舞台発表を通じて多くのことを学んでいるのですね。

堀口先生

自分の役割で得られる経験、クラスで力を合わせることの大切さや、上級生の発表を見て「自分たちもああなりたい」と憧れ、新しい目標ができるなど様々に感じ、学ぶことがあると思います。

教員は生徒をフォローする役割に徹し、生徒の可能性を最大限に高めたいと考えています。

大阪教育大学附属平野中学校の行事風景

▲体育祭と修学旅行の風景

臨海学舎での「3km遠泳」チャレンジが達成感と自信を生む

大阪教育大学附属平野中学校の臨海学舎の風景

▲臨海学舎での遠泳は、附属平野中学校の伝統行事

編集部

ほかにも特色ある行事があればご紹介ください。

小村先生

2年生の臨海学舎では、3泊4日で岡山県へ行き、六口島の海で遠泳にチャレンジします。これは本校の開学当初から約70年間続いている伝統行事で、初日の水泳訓練を経て2日目に1km、3日目に3kmの遠泳を実施します。

1kmが完泳できなければ3kmには挑戦できないことになっているのですが、3kmに挑戦できない生徒たちも、仲間の応援や裏方の仕事に全力で取り組みます。

編集部

中学2年生で3kmの遠泳に挑戦する学校はそう多くはないと思いますが、参加した生徒は完泳できるのでしょうか?

堀口先生

多くの生徒が完泳します。2年生になると水泳の授業の大半が遠泳に向けた訓練になり、それ以外に放課後に学年の教員も指導することがあります。

はじめは5mしか泳げない生徒も、サポートを受けることで技術面とメンタル面のどちらも鍛えられ、次第に泳げる距離が伸びていきます。

六口島での訓練や遠泳は、泳力で分けた班ごとに列をつくって泳ぐのですが、しんどくなってもお互いに声を掛け合い、チームの絆、学年の絆で3kmを泳ぎ切ります。

また、臨海学舎には本校の全教員が参加します。さらに卒業生たちも毎年15人程度が駆け付け、安全管理やサポートに徹します。

大阪教育大学附属平野中学校の臨海学舎の風景

編集部

遠泳を終えた生徒さんには、どのような成長を感じますか?

堀口先生

彼らの表情からは達成感と仲間への信頼と自信が感じられます。全力で何かに挑戦することが自分の成長に繋がり、達成感を得ることは素晴らしい経験として自分の未来に繋がります。中学時代にこのようなことを経験しておくことで、高校、大学、社会人になってもいい形で成長することができるのではないでしょうか。

また、遠泳は学校全体の一体感を強める機会にもなっています。全教員の参加によって、それぞれの生徒の頑張りを全ての教員が把握することができますし、応援に来た卒業生と生徒が交流することで縦のつながりも生まれます。

大阪教育大学附属平野中学校の林間学舎の風景

▲行事が豊富なのが同校の特徴。林間学舎では生徒が協力して調理に取り組む

大阪教育大学附属平野中学校が取り組む探究学習とは

研究発表のために作られたポスター

大阪教育大学附属平野中学校では、探究学習に関する取り組みを早期から始めていたことで知られています。総合的な学習の時間の活動を「STEP」「JOIN」と名付け、自由なテーマで研究、分析、発表を行っています。

ここからは、その特徴や狙いについて詳しく伺っていきます。

テーマ設定では「興味」だけでなく「研究価値」も重視

大阪教育大学附属平野中学校の探究活動の成果が掲載された冊子

▲「誰でもバク転ができる方法」など、ユニークな研究も多い

編集部

「STEP」「JOIN」の概要についてご紹介ください。

堀口先生

1年生のうちは「STEP」、いわゆる準備期間の位置づけで、調査・分析・表現方法などについて学び、2年生になると本格的に探究プロジェクト「JOIN」が始まります。授業は週に2時間あり、最大4人のグループで課題に取り組みます。

「JOIN」は研究テーマを自分で設定し、調査・分析を行い、自分が立てた仮説を検証し、考察やポスターを作って発表まで行うのが1年間の流れです。これを2年生、3年生で2巡します。

編集部

どのようなテーマについて研究するのでしょうか?

堀口先生

高校の探究学習の場合、例えばSDGsなど、大きなテーマが決められていることが多いですが、本校ではテーマは完全に自由で、興味のあることなら何でも良いことにしています。

「興味があること」というと何でもテーマにできると考えがちですが、仮説を立てて検証し、考察・発表までつなげることができるテーマでなければ「研究」と言えません。そのため、テーマ設定を行うために、教員とのカウンセリングを実施します。生徒が出してきたテーマが十分でないと感じれば、教員は5回でも6回でも「研究にならない」と言って考えなおすよう促しますし、週2時間では足りずに休み時間や放課後を使ってカウンセリングに来る生徒もいます。

教員が生徒へのカウンセリングを徹底的に行うため、テーマ設定だけで2ヶ月から3ヶ月の時間がかかります。テーマが決まった後も、研究のために行くべき取材先や、検証方法が正しいかどうかなど、教員と生徒がしっかり話しながら進めます。

専門家に取材するなど積極的に調べ、社会貢献に繋がる研究が生まれる

大阪教育大学附属平野中学校の生徒が、「水筒にみられるカビ」についての研究成果をまとめたポスター

編集部

先生の印象に残っているテーマにはどのようなものがありますか?

堀口先生

例えば昨年度では、スポーツドリンクの味の濃さを均一にする方法を調べた生徒がいました。

凍らせたスポーツドリンクを溶かすと、はじめは味が濃く、だんだん味が薄まっていきますよね。それを均一の濃さにするためにはどうすればいいかを探るために、毎日スポーツドリンクの配合を変えたり、水道水やミネラルウォーターなど異なる種類の水で試したりしていました。

自分が興味のあることを、しっかりと研究という形に持っていくことができたケースだと思います。

小村先生

数年前には水筒にみられるカビの研究をした生徒たちもいました。カビの研究者と連絡を取って研究方法などをうかがい、カビが生えにくい飲み物や、水筒の種類などについて調査・実験を重ねていました。

また過去には裁判員制度について研究をしたり、10年以上前にLGBTに着目して調査・研究をした生徒たちもいました。

編集部

専門家への取材依頼も生徒さんが自ら行うのですか?

堀口先生

はい。企業や大学の先生などに自ら連絡して取材を依頼します。1日かけて課題探究することができる日
(JOIN DAY)があり、専門家に話を聞きに行ったり街頭インタビューや調査、実験を行ったりします。

最近はオンラインでの取材もしやすくなったので、全国の専門家から話を聞くことができるようになり、これまで以上に充実した研究ができています。

取材先の一例として、速記技術の研究で日本速記協会に取材を申し込んだ生徒がいました。普段の活動時に生徒自身が速記技術を独学で身に着け、取材時には生徒が口頭で読み上げた文章を協会の方に速記してもらって、そのスキルを体感したり、自分たちの速記に対するアドバイスをいただいたりしていました。また速記の有用性についてお話を聞いていました。これらの内容を考察して、発表では「テクノロジーが進化した時代でも速記の技術は残していくべき」と提案していました。

中学生が速記に興味を持つのは珍しいということで、逆取材を受けて協会の会報にも掲載されたんですよ。

編集部

発表はどのような形で行われるのでしょうか?

堀口先生

ポスターセッションの方式を使って発表するのですが、相互コミュニケーションを大事にしており、発表を聞く生徒も、ただ聞いているだけでなく気になったことを積極的に質問します。

2・3年生の発表には1年生や保護者も参加するので、双方向の学びの機会にもなっています。

興味を追求することが将来の職業選択につながることも

編集部

JOINを通じて、生徒さんはどのように成長していますか?

堀口先生

生徒に渡すJOINのガイダンスブックには、JOINを通じて生徒につけてほしい資質・能力が明記されています。課題を設定する力や探究する力など、求めることを明確にすることで、生徒はしっかりとその能力を伸ばすことができていると感じます。

また、興味のあることを人々の役に立つための研究へと進化させる力は、将来自分の職業を選ぶ際にも役立つものだと思います。

小村先生

卒業生からは、総合型選抜や大学・社会で必要となるプレゼンテーション能力が、JOINの活動や発表によって身につき、鍛えられたと言ってもらうことがあります。

また、JOINに限らず普段の授業でも子どもたちの興味関心を伸ばすことを意識しています。このような環境も卒業生のユニークな進路へとつながっていると思います。

先ほど紹介した、カビの研究をした生徒は高校でも研究を続け、その成果が学術雑誌やマスコミなどに取り上げられました。

編集部

興味のあることを追求できる環境は、将来の進路選択においてもプラスになっているのですね。

大阪教育大学附属平野中学校からのメッセージ

大阪教育大学附属平野中学校の小村副校長がインタビューに応えるようす

▲インタビューをお受けいただいた副校長の小村先生

編集部

最後に、記事をご覧の保護者やお子さんにメッセージをお願いします。

小村先生

本校の強みは、子どもたちが持つ力をできる限り尊重し、伸ばしていくことだと考えています。

そのためには、子どもたちが安心できる環境の中でそれぞれの能力を伸ばすことができる「やさしい学校」でありたいです。このような環境で育った子どもたちは、きっと自分たちが身につけたさまざまなことを社会に還元できる大人へと成長してくれると思っています。

9月の文化祭は一般の方への公開を予定しています。ぜひお越しになって、本校の雰囲気を感じていただければと思います。

大阪教育大学附属平野中学校の堀口先生がインタビューに応えるようす

▲社会科を担当する堀口先生は、自身も附属平野中学校の卒業生

堀口先生

私たちは「行事で育つ附中生」とよく言っているのですが、行事に対して誰もが前向きに取り組み、充実した学校生活を送ることができる環境があります。ご興味をお持ちいただけましたらお気軽にお問い合わせください。

編集部

小村先生、堀口先生、本日はありがとうございました!

大阪教育大学附属平野中学校の中庭

▲海紅豆(デイゴ)の木が植えられた緑豊かな中庭は、生徒たちの憩いの場になっている

大阪教育大学附属平野中学校の卒業生・保護者の口コミ

大阪教育大学附属平野中学校のグラウンド

最後に、大阪教育大学附属平野中学校の卒業生や保護者の声をご紹介します。

卒業生)行事も楽しく、自分のやりたいことができる学校です。「自分がどうしたいか」が問われる学校でもあります。

卒業生)この学校でしかできない経験がたくさんあり、個性豊かな生徒が多いです。

卒業生)校舎がリニューアルして間もないので、快適な環境で過ごせます。

保護者)自主的に勉強できる子や、はっきりと意見を言える子が多い学校です。

保護者)文化祭の舞台発表やJOINはやりがいがあり、とても楽しいと言っています。

JOINの取り組みや文化祭をはじめとする学校行事が特別な経験となり、大きな成長につながっているという声が多く寄せられていました。

大阪教育大学附属平野中学校の図書室
▲中高共用の図書室には漫画から哲学に関するものまで幅広いジャンルの本が揃っている。保護者からも購入希望図書を募り、貸し出しも行っている

大阪教育大学附属平野中学校へのお問い合わせ

運営 国立大学法人大阪教育大学
住所 大阪府大阪市平野区流町2-1-24
電話番号 06-6709-9600
問い合わせ先 大阪教育大学 附属学校課
072-978-4031
公式ページ http://www.hirano-j.oku.ed.jp
※詳しくは公式ページでご確認ください