ぽてんをご覧の皆様に、今注目の学校を紹介するこの企画。今回取材したのは島根県松江市にある共学の私立中高一貫校「松徳学院中学校高等学校」です。
キリスト教精神に基づいた教育を行う同校は、ユネスコスクール(※1)公式加盟校としてESD教育(※2)のに力を入れています。「愛と福祉」を軸とした人間教育に重きをおき、分野にとらわれない横断型の探究学習により、生徒たちの人間力を高め、地域、社会、世界へ視野を広げます。
(※1)戦争を繰り返さないために、教育・文化・科学の発展を推進するユネスコの理念を実現するため、平和や国際的な連携を実践する学校
(※2)持続可能な社会の実現を目指して行う学習や教育活動
そんな同校の学びについて、理事長・校長の梶田先生、教頭の門脇先生に伺いました。
この記事の目次
世界平和の心を育む、松徳学院中学校高等学校の教育
▲自然豊かな環境の中にある同校。奥に見えるのは宍道湖。この環境を活かした教育にも力を入れている。
松徳学院中学校高等学校の沿革や教育理念をお聞かせください。
本校がキリスト教教育を行うミッションスクールとして「人間教育」で一番大切にしているテーマが「愛と福祉」、そして「平和」です。生徒たちのなかに「世界の平和を求める心」を育てることが「人間教育」の核となる部分です。
松徳学院中学校高等学校独自の「人間教育」実践のために教育理念に則って「松徳スタイル」というものを制定しています。これは、育成したい生徒像を言語化したもので、4つの項目があります。
1つ目が「松徳生としての誇り」です。感謝と思いやりの心を忘れず、他者のために行動できる生徒を指し、2つ目が「自己の能力を生かす力・学びに向かう力」。自分の目標に向かって学び、努力し続けられる生徒を指します。
続いて3つ目が、「正しい判断をする力・論理的に考える力」をもつ生徒、4つ目が、「時代を切り開く力」をもつ生徒です。
▲ミッションスクールならではの、聖堂でのミサなどもある。
ユネスコスクール加盟校「松徳学院中学校高等学校」のESD教育・探究学習
▲中3の海外研修では、フィリピンの姉妹校の生徒たちとの交流のほか「貧困」などの社会問題とも向き合います
ユネスコスクール公式加盟校として、ESD教育を実践する松徳学院中学校高等学校。国際教育、探究学習といった分野にとらわれない学びを、「国際」「環境」「福祉」をテーマに実践しています。
ミッションスクールならではの視点を織り交ぜた地域交流や、奉仕活動の意味を強くもつ海外研修など、多彩な取り組みを通して、生徒一人ひとりの能力を伸ばし、視野を広げます。そんな同校のESD教育への取り組みについて伺いました。
国際教育:「平和をもたらす使節団」の意識で参加する海外研修
松徳学院中学校高等学校のESD教育についてお聞かせください。
本校はユネスコスクール公式加盟校としての理念を取り入れたESD教育を実践しています。その活動指針として「国際」「環境」「福祉」という3つの大きな教育の柱を定めました。
国際教育では、さまざまな価値観に触れ、視野を広げることにつながる探究活動なども含めた取り組み全般を指すと考えています。コミュニケーションツールとしての英語の習得を第一に、まず地域に住む外国人との交流を経て、視野を世界に広げていけるような教育を実践しています。
あわせて、自国にも目を向け、故郷の大切さを実感できるような取り組みを行うことで、自分が社会、ひいては大きな世界の一員であるということを自覚してほしいと考えています。
具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょうか。
松徳学院中学校高等学校には世界各地に100カ所ほどの姉妹校があります。その環境を生かし、中3の12月には姉妹校のひとつへ出向いて海外研修を実施し、見聞を広げます。2023年度はフィリピンのマニラで研修を行いました。
いわゆる修学旅行という捉え方ではなく、自分たちが「平和をもたらす使節団である」という認識で研修に臨みます。現地では、姉妹校の生徒との文化交流会を行い、互いの国のダンスや歌などを披露し合います。一緒に授業を受けて意見交換をしたり、現地の家庭でホームステイをしたり、さまざまな体験をします。
なかには、海外への渡航がはじめてという生徒もいます。熱烈に歓待してくださるフィリピンの国民性に感激する生徒も多いですね。ホームステイ先で我が子のように可愛がってもらい、お土産をたくさん持たせてくれたホストファミリーに、感激して泣いてしまう生徒も大勢います。
フィリピンではどのような研修プログラムに取り組まれるのでしょうか?
現地で社会問題にもなっている貧富の差を知るプログラムを設け、スラム街での視察も行います。地域の子どもたちと一緒にゲームをしたり、プレゼントを贈ったり、催し物を行うなど交流の場を設け、一緒に過ごします。
このプログラムでは、スラム街で暮らすご家庭にも訪問させていただき、直接お話をうかがいます。そこでは、一間半の広さで家族全員が暮らす過酷な環境にもかかわらず、自尊心をもって生活する人々の姿に触れることができます。このような人たちと接することで、生徒たちには大きな気づきがあるようです。
そのような経験をした生徒たちにはどのような変化が見られますか。
文化の違いを強烈に感じたという感想を多く聞きますね。自分がどれだけ恵まれているのかを実感し、人々が平等に暮らすために何が必要か、自分には何ができるのかを考えるきっかけになったようです。事後学習として取り組む感想文などを見ても、文章の奥に隠れたさまざまな思いや複雑な感情があるのだと察せられるものばかりです。
また、海外でさまざまな人たちと触れ合ったことで、学校での様子が変わった生徒も多くいます。例えば、少しヤンチャな生徒も、逆になかなかクラスに馴染めなかった控えめな生徒も、舞台にあがって発表するようになるなど積極的になったと感じることが多くなりました。
▲フィリピンでの海外研修の成果を、松江市長にプレゼンテーションする機会も
環境学習:宍道湖の水質改善など、学年や教科を横断して全校で行う地域貢献
環境学習ではどのような取り組みをされていますか?
島根県松江市には海と湖があり、漁業を生業とされている方も多く、周辺住民の方々にとっては生活の一部といってもいいほど重要な役割を果たしています。そんな街を守るために、水をテーマに、「自分たちができることは何か」を考えさまざまな取り組みをしています。
例えば、繁殖しすぎると水質汚染にもつながる藻を再利用する方法を考案したり、宍道湖の中海流入河川である川を地域の方々と一緒に清掃したりします。また別の流入河川では、繁殖しすぎた水草が河川の環境に悪影響を与えることがあるため、中学1年生が取り除く作業に参加します。
そしてその刈り取った水草を、高校1年生が認定NPO法人自然再生センターが運営する畑に持っていき、地中に植えることで地質改善に役立てます。
その畑で育ったサツマイモの一部は芋焼酎を作る企業とコラボレーションする計画があるのですが、出来上がった芋焼酎の販売にも関わっていく予定です。このように、大きな経済活動のサイクルを間近で体感する経験していきます。
これらの取り組みは、学年や教科を縦断・横断して行われ、そこに地域の方々との関わりも加わって、生徒たちにとってはさまざまな気づきや学びを得る貴重な機会になっています。こういった経験はユネスコスクール公式加盟校としての軸となる取り組みだといえます。
▲水草を肥料にした畑では、大豆やサツマイモの苗を植えたり収穫も体験する。
他にも環境学習で取り組まれていることはありますか?
地域のご高齢の方々が管理している「里山自然学習の森」と呼ばれる里山での活動もあります。
「里山自然学習の森」は、地域の方が手をかけていただいているおかげで、街のなかのオアシスのような場所です。この森を守るため、ご高齢の方々が山に光を入れるために定期的に木の伐採を行い、新しい苗木を植樹したりしいたけ栽培や花を育てたりと活動してくださっています。
その里山の伐採作業に中学3年生が参加し、90歳近い年齢の方々がチェーンソーを使って伐り倒した木材の運搬作業などを手伝っています。
その中で、生徒たちが廃材活用して、木のベンチを制作するプロジェクトを立ち上げました。
このプロジェクトの発端は、「川沿いを散歩する高齢者の方が休憩できるよう、川沿いにベンチを設置しよう」という生徒たちのアイデアです。川の清掃活動の時に、その川沿いを散歩する高齢者を多く見かけていたことで閃いたようです。
こういった思いやりの発想が生徒たちから自主的に出たことで、本校での学びが浸透していることを実感することができました。どなたかが座っている姿を見かけると生徒が嬉しそうに教員に報告してくれるのですが、私たち教員一同、そんな生徒を見るのがとても楽しみなのです。
▲廃材を利用したベンチを制作する中3の生徒の皆さん。地域の方々に協力を仰ぎながら4脚のベンチを作った。
地域の方との関わりが多いですが、地域の方から松徳学院中学校高等学校の生徒についてお声をいただくことはありますか?
水草刈りの作業でお世話になっている公民館の方々にお礼に伺った際、逆に感謝していただいたことがありました。
環境活動の作業について、地域の方にインタビューをする機会があるのですが、生徒たちとの会話がとても楽しいと言ってくださいました。公民館の館長さんのお話では、本校の生徒との交流を通して、地域の高齢者の方々の表情が明るくなったとのことでした。
こちらとしては地域の方々から多くのことを学ばせていただいているという感覚なのですが、こういった感想をいただけるというのは、本校としても思わぬ喜びでした。
課題解決のための方法を発見し、それを実践するというのは探究活動の要ですが、生徒たちにとってはそれ以上に大切なことを学んぶ人間教育にもつながったと感じています。
ユネスコスクール公式加盟校となったもともとの目的は、国際教育や探究活動をより発展させたいとの考えからでしたが、実際に取り組んでみると、意外な形で生徒の心の成長を促すことにつながり、大きな成果を感じています。
▲環境学習の取り組みは、保護者、島根県環境政策課の担当者などたくさんの聴衆を前に報告会が行われる
放課後の時間を使って興味・関心ごとを探究する講座「松徳メソッド」
▲「松徳メソッド」の取り組みのひとつ「ジャガイモ研究会」ではさまざまな野菜を育て、収穫物の販売も行います
松徳学院中学校高等学校の「松徳メソッド」とはどのような取り組みなのでしょうか。
週に1回、放課後1時間ほど生徒が自由に選べる講座を開講しています。生徒が通常の授業以外の場面でも、さまざまな発想を生かして探究活動に取り組んでいける場を設けようという目的で、8~9ほどの講座を用意して、中高が一緒になって活動しています。
講座の内容はさまざまで、「記述力をつける」「プレゼン講座」などの学習関連のもの、社会福祉やソーシャルスキルをつけるもの、ビブリオバトル、プログラミングなどの教養をつけるものなど多岐に渡ります。土曜日には英語検定や数学検定、スピーチコンテストなど外部の取り組みへの対策講座やさまざまなテーマで地域を巡見する探究講座も実施しています。
講座では、具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか?
例えば、SDGsがテーマの講座では、廃棄される花の再利用という課題を立て、フラワーショップを訪ねるなどの取り組みを行った生徒がいました。結果的に、フラワーショップには廃棄される花はなく、花を育てている生産者まで遡る必要があるということが分かりました。
時間的な制約もあり、最後まで課題に取り組むことはかないませんでしたが、ここまでの過程でも社会と関わりながら多くの学びを得ることができました。また、こういった経験を別の取り組みでも応用したり、生かしたりといった姿も見られ、大きな成長につながったと感じます。
そのほかにも、松徳学院中学校高等学校の魅力をSNSで発信する取り組みを生徒主導で行っているところです。
松徳学院中学校・高等学校の英語教育
松徳学院中学校高等学校の英語教育について教えてください。
生徒たちのスピーキング力を伸ばすため、常駐しているフィリピン人のネイティブ教員には、生徒とはオールイングリッシュで接することを徹底してもらっています。そのため、生徒たちも英語で話すことへの抵抗はほぼなく、恥ずかしがったりすることなく、当たり前のように英語を使っています。交際交流の場でも、積極的にコミュニケーションをとる生徒の姿がよく見られます。
このように英語に関してバリアをもたない教育をしているため、卒業生からはとても嬉しいお話を聞きました。
飛込競技でパリオリンピック出場を目指して努力を重ねてきた卒業生がいます。卒業後も選手として海外遠征に参加する機会が多い彼は、海外の選手とわたり合う場面や遠征先での生活で、本校でのキリスト教教育や英語学習のおかげで壁を感じることがなかったようです。また、そのことが大きな自信につながったと話していました。
日本にいても同じように感じる瞬間はあると思いますが、本校の生徒たちには、海外を含めどのような場所に行っても、この卒業生のようなボーダーレスな感覚をもって社会で活躍してほしいと考えています。
他にも、松徳学院中学校高等学校の英語教育のなかで特徴的なものを教えてください。
受験のための英語力を身につける学習、特に英語検定へも積極的に取り組んでいます。
本校は伝統的に英語検定の取得を推進しており、受験対策などにも長年培ったノウハウを生かした指導を行っています。近年の教育改革で大学進学にも有利な資格となり、より積極的に英語検定を取得したり入試で利用したりする生徒が増えています。
▲英語をはじめとする各教科で1人1台のタブレット端末を活用した授業を行っている。
松徳学院中学校高等学校からのメッセージ
最後に、この記事をご覧の受験生やその保護者の方々にメッセージをお願いします。
松徳学院中学校高等学校が一番大切にしているのは「人を育てる」ということです。人間教育に関しては、ここまでお話したように揺るぎない信念をもって取り組み、長い目でみたときの「人間の成長」を考えた教育を実践しています。
生徒の主体性が自然と伸びていくような、そんな教育を行っている学校です。
教員が生徒を従え、決められたゴールまで一律に誘導するような構図が一般的かと思いますが、本校では生徒に伴走するサポーターのような存在です。生徒たちの様子をよく観察して、必要があれば少し前に出て目標をみやすくしたり、頑張っても失敗してしまったときは後ろに下がって支えたり、そのような関わり方をしています。
このような関係は一夕一朝で成り立っているのではなく、松徳学院中学校高等学校の伝統として受け継がれてきた関係性で、本校の「生徒の主体性が自然と育つ環境」を実現する要因のひとつだと感じています。
本校で培われた主体的に取り組む姿勢は大学に進学してからも発揮されているようで、大学生活を途中で投げ出すことなく、進学後も自分の目標に向かって真摯に取り組む生徒が多いです。そういった点からもさまざまな大学から多くの指定校推薦枠をいただけていると感じています。
ぜひ一度、本校に足を運んでいただければと思います。
ありがとうございました。
▲高校での研修旅行。日々のESD活動や大学・企業への研修などを通して、社会について学んでいく。
松徳学院中学校高等学校の進学実績
2023年度の合格実績は、筑波大学、島根大学などの国公立大学へ4名、私立大学は、明治大学、中央大学、関西学院大学、近畿大学など多数の合格者を輩出しました。
過去には名古屋大学、広島大学、山口大学、島根大学などの国公立大学や、上智大学、明治大学、中央大学、立教大学、関西学院大学、関西大学、立命館大学、近畿大学、龍谷大学などの私立大学への合格実績が多数あります。
また、上智大学、中央大学、津田塾大学、東京女子大学、武蔵大学、東洋大学、南山大学、愛知学院大学、龍谷大学、京都外国語大学、関西外国語大学、神戸女学院大学、広島修道大学、安田女子大学、松山大学、福岡大学など、数多くの4年制大学・短期大学の指定校推薦枠があります。
■松徳学院中学校・高等学校の合格実績(公式サイト)https://shotoku-h.ed.jp/success/
▲図書館には生徒の興味を惹くようなさまざまな本が並ぶ
松徳学院中学校高等学校の卒業生・在校生の声
ここでは松徳学院中学校高等学校の保護者・在校生・卒業生の声をお届けします。
部活動強豪校でもある同校への憧れを入学動機に挙げる意見が多く見られました。また、充実した英語教育や部活動との両立を支えてくれえる学習サポートをはじめ、他者への思いやりなど「精神面での成長」を魅力して挙げる卒業生の意見など、キリスト教校だからこその評価も聞かれました。
在校生の声(中学校):https://shotoku-h.ed.jp/students_voice/#01
在校生の声(高校):https://shotoku-h.ed.jp/students_voice/#02
卒業生の声:https://shotoku-h.ed.jp/graduate_voice/
▲学園祭や体育祭などの学校行事も全力で楽しむ同校の生徒。
松徳学院中学校高等学校へのお問い合わせ
運営 | 学校法人松徳学院中学校・高等学校 |
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