芸術と自然の恩恵に支えられる「北海道シュタイナー学園いずみの学校」の「つながる学び」

ぽてん読者の皆様に、今注目の学校を紹介するこの企画。今回取材したのは、北海道豊浦町にある幼小中高一貫のシュタイナー教育(※1)校「北海道シュタイナー学園いずみの学校」です。今回は、初等部~高等専修学校での取り組みにスポットを当ててお話を伺いました。
(※1)オーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーによって考案され、子どもの成長に応じて「意志・感情・思考」をバランスよく育てることで「自由に生きることができる人間」を育成する教育法

定期的な試験がないことや点数による成績表がないことでも知られる「シュタイナー教育」を実践する同校。子どもの心身の成長を7年ごとに分けて捉え、そのときどきの発達にふさわしい関わりを行います。

子どもたち一人ひとりが本来もっている可能性を生かし、どのような状況においても愛情をもって人や社会、世界とつながり、その役割を果たすことができる大人へと成長できるよう、助け、導いていくことを目標としています。

北海道シュタイナー学園いずみの学校での取り組みについて、高等専修学校校長・中等部講師の市川先生、初等部6年生担任の佐藤先生に伺いました。

北海道シュタイナー学園いずみの学校が目指す「つながりの総合力」の習得

北海道シュタイナー学園いずみの学校初等部の3年生の遠足でのひつじの毛刈り

▲3年生の遠足では、衣食住について学ぶシュタイナー教育独自の「生活科」の取り組みの一環として「羊の毛刈り」を体験

編集部

御校では幼児部、初等部、中等部、高等部の15年一貫教育を行っているそうですね。

市川先生

はい。教育内容という点では一貫しています。「学校法人北海道シュタイナー学園」が運営する幼児部・初等部・中等部・高等専修学校があり「いずみの学校」というのは幼~高4校の総称です。

ただし、幼児部は学校法人付属の認可外保育所、初等部と中等部はいわゆる一条校としての私立学校、高等専修学校は一条校ではありませんから高等学校ではなく、それぞれ異なりがあります。ここでは、すべてをまとめる言い方として、便宜的に「いずみの学校」または「北海道シュタイナー学園いずみの学校」と呼ぶことに致します。

2024年度から、これまで無認可だった高等部が高等専修学校となり、大学進学資格付与校になる申請をしています。

編集部

それらの学校で一貫して実践されているシュタイナー教育は、国内の学校では珍しい教育方針だと感じました。

佐藤先生

そうですね。シュタイナー教育校は日本国内でも7校、そのなかで学校法人として認可されているのは本校を含めて2校のみです。しかし、世界に目を向けるとシュタイナー教育校の数は1,100校に上り、たくさんの子どもが同じ教育を受けていることになります。

卒業時に、子どもたちに身につけていてほしいのは「つながりの総合力」です。考える力、感情の力、意志の力、本校では「知・情・意」と呼んでいる力をバランス良く育み習得し、自分が考えたことが本当に実践すべきことなのかを判断し、行動につなげます。

行動につなげることで、外界や関わりのある人々とも「つながる」ことができます。さまざまな現象同士をつなげ、人と人とをつなげ、ときには自分と相手の違いを認めたうえでつながることができるようになります。

このように「つなげる」ことで、どんどん自分の世界や可能性を広げていくことができる、この一連のつながりを可能にするのが「つながりの総合力」です。

人や社会と積極的につながることができるということは、大きな意味で「共感」や「愛情」をもって物事に接することができる、生きていくことができるということです。これがシュタイナー教育校として目指す大きな目標といえます。

教科間につながりを持たせた独自の授業と8年担任制で「愛ある学び」を実践

北海道シュタイナー学園いずみの学校初等部の教室

▲初等部の教室では朝は円形にイスが並べられ、一日の始まりを静かで落ち着いた雰囲気に整えます。

子どもの成長を7年間で分けて捉え、発達に応じた取り組みや環境のもと実践されるシュタイナー教育。子どもたちの世界を広げ、学びへの意欲を自然と引き出しながら、さまざまなプログラムに取り組みます。

初等部・中等部では、学習指導要領に沿ったうえで、一般的な公教育とはことなる独自のカリキュラムを実践する北海道シュタイナー学園いずみの学校。その取り組みについて伺いました。

「つながり」で学ぶ教科学習で得られる深い理解

編集部

いずみの学校では、どのような学びを実践しているのでしょうか。

市川先生

本校は、国から「『自然と芸術』教育特区」の指定を受け、その後教育課程特例校になりました。文部科学省が定めた学習指導要領の内容は踏襲しつつも、新設教科を加えたり、学習する順番を変えたりといった変則的な取り組みを行っています。

佐藤先生

例えば「地理」の授業であれば、地理分野の内容のみを教えているのが既存の教育です。しかし、私たちが生きている現実の世界では、すべての分野はつながって存在しています。本校では、現実の世界そのままに物事を教えるというスタンスを取っています。

つまり、「地理」の授業のなかで、天文学も歴史も、あるいは地学的な内容にも触れ、さらにそれらがどのようなつながりをもつのかを教えていきます。

このように学びと向き合うことで、「すべての事象はつながっている」ということを、子どもたちは自然と理解していきます。また、そのつながりのなかで「人」がどのように関わっているのかという視点を必ず取り入れていきます。

さらに、例えば雷が落ちる現象、ものが燃える燃焼実験、あるいは歴史上の人物など、すべての事象を、まずは教師が愛情をもって学び、感動することで、子どもたちにも「愛情をもって学びに向き合う姿勢」を感じ取ってもらうことを大切にしています。

編集部

授業はどのように行われるのでしょうか。

佐藤先生

いわゆるアクティブラーニング型の授業を行います。子どもたちは、単なる知識の習得にとどまらず、「どう心が動いたか」「自分自身で何を学ぶことができたか」を軸に授業に向き合います。

また他のシュタイナー学校と同様に、本校では、1日のうち毎朝2時間ほどかけて行う「メインレッスン」があります。メインレッスンは更に3〜4週間かけて同じ科目のひとつのテーマを集中して学ぶ「エポック授業」の方法を取ることで、その教科内容に子ども達がじっくりと浸れるようにしています。

北海道シュタイナー学園いずみの学校の生徒のノート

▲授業での学びは「メインレッスンノート」にまとめます。子どもたちが芸術的に仕上げながら、学びを深めていきます

佐藤先生

例えば、世界史ではマハトマ・ガンディーをテーマに行う授業があります。その際は、「メインレッスン」を5回ほど行い、彼の人生をていねいに追っていきます。

その「メインレッスン」では、ガンディーの人生を軸に、1800年代後半からの近代化、現代にいたる途中までの時代をなぞることになります。そのなかで帝国主義やその広がり、当時の世界情勢、人々の生き方や文化などにも触れます。

ガンディーを中心にして、時代や社会の大きな流れやそこに関わる人々など、すべてをつながりのなかで学ぶので、子どもたちにとっても理解しやすい取り組みだと思います。

加えて、事象一つひとつに問いを与えます。ガンディーが直面した状況に、「もし自分が置かれたらどうするだろう?」といった問いです。学びに感動があるので、自然とその事象について考えるようになりますから、子どもたちはその状況を想像し、自分なりの答えを導き出します。

それらの問いは、「答えのない問い」ですから、子どもたち全員が正しいのです。そこに、実際にガンディーが取った行動を史実として伝え共有することで、より深い学びにつなげていきます。

8年間の担任制で子どもたちの成長をつぶさに見守る環境

編集部

御校は初等部入学から8年間の担任制を実践されているそうですね。

佐藤先生

はい。基本的に8年間同じ教師が担任を務めます。もちろんさまざまな事情で替わることもありますが、できるだけ長く受け持つのが基本です。

担任が度々替わってしまうと子どもたちの性質などを引き継ぐことが難しいのが大きな理由です。7、8年生で取り組む本格的な「演劇」など、先の取り組みを見通し、このクラスにはどのような芸術活動が必要なのかといった指導を行ううえでも、8年担任制は必要不可欠だと感じています。

また、例えば世界との分離を自覚し不安定になるとされる9歳を迎える3年生では、「家づくり」に取り組みます。家は堅固なものです。自分がこの世界のなかで生きていく、また生きていけるということを「家づくり」を通して実感するための取り組みです。

北海道シュタイナー学園いずみの学校の3年生の家づくりの様子

▲3年生の「家づくり」に取り組む子どもたち。事前学習として模型作りも体験します

佐藤先生

こういった成長段階に合わせた取り組みは、教師が子どもたちをより深く理解する絶好の機会です。これらの取り組みに立ち会った教師が担任を継続することは、理にかなったことだと思います。

シュタイナー教育は、子どもの内面の成長を重視したカリキュラムが軸となっていますから、教師の側にも、子どもたちの本質や成長を読み取る力や対話力など、さまざまな能力が必要なのです。

芸術活動や自然体験を通して身につける社会性や適応力

北海道シュタイナー学園いずみの学校のオイリュトミーの様子

▲ギリシャ語で「調和のとれた美しいリズム」という意味を持つ運動芸術「オイリュトミー」

演劇や手芸、演奏や歌などの音楽に関わる取り組みなど、芸術活動にも重きをおくいずみの学校。これらは「専科」と呼ばれる授業のなかで取り組みます。

なかには、音楽や言葉の響きがもつ力を動きで表現する「オイリュトミー」と呼ばれるシュタイナー教育独自のカリキュラムや雄大な自然環境を活かしたアウトドア体験も実施しているんです。

成長に応じてより専門的な内容に挑戦することで感性を磨く、同校の「専科」での取り組みについてお話を伺いました。

できることが格段に増える!年間で取り組む演劇や探究への挑戦

編集部

いずみの学校では、芸術活動を大切にされていますね。

佐藤先生

そうですね。芸術に触れる体験は幼児部から、特に力を入れて取り組んでいます。その目的は、ただ単に表現力をつけるだけでなく、「聞き取る」力を育てるためです。

「歌うこと」ひとつとっても、「息を合わせる」「音に耳を澄ます」「自分の音をキープする」とざっくり挙げただけでも3つのことを意識しなくてはいけません。まさに「歌うこと」は、「社会芸術(※2)」につながるのではないでしょうか。
(※2)社会と芸術は互いに影響し合い、芸術は社会のさまざまな事象に影響を受け、社会もまた、芸術にさまざまな影響を受けているということ、またはその議論を指す

共に生きていくということは、社会のなかで一緒にハーモニーを奏でていくことと同義です。そのためには、まず自分たちがさまざまな芸術を通して、何かを感じ取ることが大切です。

そのために、「メインレッスン」の最初には、笛を吹いたり、歌を歌ったり、お手玉やジャグリングなどのサークル活動やリズム活動を行います。息を合わせるといったことのほかに、芸術的な感性も同時に育てていきます。

また、絵を描くことにも多く取り組みます。水彩をはじめ、6年生では墨を使った絵を描いたり、粘土工作に取り組むこともあります。

「専科」のなかでも大きな取り組みのひとつである演劇には、8年生までは1年生から毎年取り組みます。最初はクラスのなかでの発表ですが、少しずつ規模を広げ、7、8年生になると広く外部に向けて発表します。

発表内容も、学年を追うごとにハイレベルになります。1年生ではグリム童話の白雪姫など、身近な童話が題材ですが、7年生ではシェイクスピアの「ベニスの商人」を題材にした1時間半程度の舞台など、8年生では同じ担任期間のまとめとして、広く国内外の作品など2時間近い上演時間のものに取り組みます。

8年担任制が終了しても、高等専修学校の12年生では卒業演劇に取り組みます。こちらも2時間ほどの上演時間で、より人生を考えさせるような内容を持った作品に取り組みます。

編集部

演劇に力をいれる目的はどこにあるのでしょうか。

佐藤先生

ともに生きていく姿勢を培うことです。12年生ではそれまでの演劇体験をもとに、自分たちで題材を選び、台本起こしをし、大まかな配役を決め、大道具や小道具を作り上げます。

東京から演劇の講師の方をお招きし、3週間ほどかけて舞台全体を作り上げていくのですが、準備期間などを含めると半年から1年ほどをかけての大掛かりな取り組みといえます。

演劇の取り組みを終えたあとは、それまでできなかったことができるようになる子どもが多く、さまざまな能力を得る機会となっています。

1年、または2年間かけて、生徒一人ひとりがテーマを決めて取り組む「プロジェクト」でも同じことがいえます。8年生と12年生で取り組む「プロジェクト」は、近年聞かれるようになった探究活動などのプロジェクトベースドラーニングですが、本校ではずっと以前からこうした取り組みを行っています。

成果を発表する場を設け、たくさんの人に向けて自分のテーマについてプレゼンテーションを行うことも重視しています。

本校の「プロジェクト」の取り組みは多彩ですよ。12年生の発表を例に挙げると、マイクロプラスチックなどの環境問題、インスタントラーメンの開発、バイクの修理、タヌキ・キツネ・ネコの各国の説話を収集・比較・分類することで自分のアイデンティティについて深く掘り下げた探究など、テーマは多岐にわたります。

芸術の美しさを通して体得する「真・善・美」の感性

編集部

その他には、オペラやオーケストラにも取り組まれるそうですね。

佐藤先生

はい。初等部、中等部、高等部を通して音楽的な活動があります。2024年度は高等部のオペラでモーツアルトの「魔笛」を発表します。オペラのプロ講師による指導のもと、毎週2時間練習に励んでいます。オーケストラによる演奏も子どもたちが行います。

初等部では全員が4年生からヴァイオリン、またはチェロに取り組みます。高等部では、オペラの歌い手になるのか、チェロかヴァイオリン、あるいはドラムなどのほかの楽器の演奏者になるのかを子どもたちが選びます。

12月の発表に向けて、各々プロ講師による指導を受けながら質の高いものを作り上げていく取り組みは、子どもたちにとって大きなチャレンジの機会となっています。なお、初中等部の生徒にもオーケストラの発表の機会が別にあります。

市川先生

芸術は「美しさ」を重視しますよね。本校では、芸術的な感性をあらゆる授業に取り入れていますが、さらにそこに道徳的な要素も加味し、頭で考えるばかりではなく、その美しさを「感じる」心を育てていきたいと考えています。

例えば、「いい人間とはどのような人間か」という問いが、頭で考えずとも感性で理解できるような、「善を感じることができるなら、それは美しいものだ」と感じる感性、本質的に美しくないものを察知して忌避する感覚、そういった感性を育てる要素がすべてのカリキュラムに取り入れられています。善と美、悪と醜とが感覚的につながるという考え方です。

芸術に触れることで、そういった道徳的な善悪を直感的に感じ取る感性を育むことも、シュタイナー教育の目指すところです。

佐藤先生

例えば、先ほどお話ししたマハトマ・ガンディーの人生を掘り下げる授業は9年生での取り組みです。彼を授業でピックアップするのは、史実を学ぶだけでなく、その生き様が9年生の発達段階に合わせたテーマ「世界は真実である」とリンクし、本校が大切にする「真・善・美」の要素が入っているからです。

6年生ではローマの歴史に触れる際にユリウス・カエサルを取り上げます。なぜ彼かというと、その高貴な生き方や勇気ある行動、自分への刺客をも許容する寛容さなどを持ち合わせた人柄などを子どもたちと共有できるからです。

このように、歴史上のどの人物を主に取り上げるかという点にもしっかりとした根拠があります。その人物を取り巻く人たちのなかには、臆病だったり、裏切ったりといった行動をとる脇役も大勢登場します。そういった人物がその後どのような末路を辿ったかというのは、長い歴史が証明してくれています。

そういった人間の愚かさも含めて子どもたちは学んでいきます。こうした歴史上の人物の生き方や史実を通して、「真・善・美」といった「私たちが伝えたいこと」を子どもたちと共有しているのです。

豊かな自然環境を生かしたアウトドア活動でたくましさや応用力を育む

北海道シュタイナー学園いずみの学校の青空教室のスキー散策

▲「青空教室」では冬季には北海道の大自然を活かしたスキーを実施

編集部

自然のなかでの学びも、御校の大きな特長ですね。

佐藤先生

そうですね。豊かな自然から学ぶことはたくさんあります。本校でもさまざまな自然体験を行っています。1~9年生の「専科」では、毎週の「青空教室」または、1日かけて行う「アウトドア・アクティビティー」という野外活動を実施しています。本校の裏にある山への登山や川・海でのプログラム、沢登りなどさまざまな活動に取り組みます。

授業でも大いに豊かな環境を活用しています。例えば6年生の「鉱物学」の授業では、身近な昭和新山や噴火がもうすぐとされる有珠山などに出かけます。

こういった経験に取り組むことで、豊かな自然体験はもちろん、心身ともにたくましく成長していきます。道外から入学した女の子が、最初は草むらに入るのも躊躇していた状態から、数年経った今では何のためらいもなく虫に囲まれながら活動している姿を見るにつけ、「こんなに変わるものなのか」と、こちらが驚くような変化を見せてくれます。

市川先生

高等部になると、専門的なアウトドア活動にも取り組みます。キャンプ、ときには野宿を伴う登山や10年生が3泊4日で挑む「噴火湾100kmウォーク」、山岳地帯を4泊5日の日程で縦走する11年生の「大雪山縦走」などに取り組みます。

初等部からのアウトドア活動を通して、体力や運動神経といったものを越えたサバイブ力のようなものを身につけているので、そういった活動にも問題無く取り組めるようになるのです。

道具がない、泊まるところがないといった「ない」部分には目を向けず、「あるもので何とかしよう」という感覚が身についているのだと思います。

編集部

このような経験を経て、子どもたちはどのような成長を見せるのでしょうか。

市川先生

科目や分野にとらわれた「得意・不得意」という先入観が生まれにくいですね。子どもたちには、何にでも興味をもち、世界のさまざまなことに愛情をもって取り組む姿勢が育まれています。

自分は「これができない」「これしかできない」という感覚ではなく、「自分にはまだ何ができるか分からないから、これもやってみたい、あれにもチャレンジしたい」と考える子どもたちが育っています。

子どもたちが考えるチャレンジの舞台はボーダーレスです。日本に限らず、「これがやりたい」と考えたら国内外問わすトライする気概があります。ですから、本校の進路はユニークですよ。分野も場所も多岐にわたります。自分の可能性を狭めないポテンシャルがあります。

多国籍な環境のなかで自然と身につく多様性や共感力

北海道シュタイナー学園いずみの学校の8年生の修学旅行の様子

▲8年生の修学旅行ではさまざまな体験にチャレンジ。マングローブ林の中でカヌー体験も!

シュタイナー教育を通じて世界とつながるいずみの学校では、実践されているカリキュラムを通じて多様性も学んでいきます。

また、さまざまな国にルーツをもつ生徒たちが集う環境のなかで、子どもたちには自然とグローバルな視点が育まれていくといいます。子どもたちの視野を広げる教育についても伺いました。

世界のシュタイナー教育校との交流がボーダーレスな感覚を育む

編集部

御校では、多様性やグローバル感覚を身につけるために、どのような取り組みを行っているのでしょうか。

市川先生

多様性という概念に対する実践的な学びは高等部からはじまり、短期留学や交換留学なども行います。

それ以前の初等部・中等部では、授業のなかで世界各国への理解を深められるよう、他国の料理を作ってみたり、言語を学んだり。これらの経験を生かして、8年生では他国のシュタイナー校を訪ねる修学旅行に出かけることもあります。

高等部では海外のシュタイナー学校との交換留学もあり、12年生の修学旅行では2週間ほど、同じく海外のシュタイナー実践校へ出向き、交流を深める経験をします。シュタイナー教育を実践している学校は世界中にあり、お互いに積極的に交流しています。修学旅行も、イタリアの3都市(ローマ・フィレンツェ・ヴェネチア)とスウェーデン、オーストリアとスイスなど実に多彩で、世界中のシュタイナー学校の子どもたちと交流することができます。

こういった経験を通して、自国との差異も含めて、「他国とは共感できる存在なのだ」ということを学んでいきます。

佐藤先生

普段の取り組みで、子どもたちのなかに育っている「つながる力」には、内面的なものだけでなく、外界に向かって発揮される力も含まれています。

ゆえに、子どもたちは、外部から入ってくるものに対しても常に開かれた姿勢で接することができるわけです。こういった姿勢が根本に育っているからこそ、グローバル教育を実践する意味があり、他者理解につながります。

もうひとつ大切にしているのが、さまざまな世界や事象に愛情をもって関わる姿勢です。すべての科目で、教師が愛情をもって授業に取り組む姿勢を間近で見て、感じとってきた1~8年の取り組みがあるからこそ、世界に対しても「関わっていこう」という気持ちや意欲が生まれるのです。

さまざまな国の生徒が集う学校生活で世界とつながる経験を

編集部

クラスはどのような雰囲気なのでしょうか。

佐藤先生

初等部・中等部では、最近は台湾から入学してくる子どもたちが多いですね。台湾には全校生徒が1,000人ほどの大きなシュタイナー学校があり、本校との交流も盛んです。

そのほかにも、ドイツやアメリカ、カナダなど、子どもたちのルーツはさまざまです。シュタイナー教育という同じ理念でのつながりは深く、世界中で同様のカリキュラムが実践されているという安心感もあるのでしょう。

市川先生

本校にはさまざまな国の生徒がいます。入学・転入時など、言葉が通じなくてもお互いにすぐに打ち解けて仲良くなっていく様子を見ていると、国が違うからといった差別意識が本校にいる生徒にはもともとないのだと感じます。

佐藤先生

こういった多国籍なクラスでは、「クラスメイトの出身国」というつながりも、他国の地理や、音楽などの文化、環境、暮らし方、生き方を愛すように促すきっかけになります。生徒たちも興味関心をもって互いにコミュニケーションをとりながら学校生活を送っているという雰囲気があります。

本校の生徒は北海道出身者の方が少数で、さまざまな地域から子どもたちが入学してきますから、海外・国内の差なく、興味関心をもって接する姿勢がありますね。

北海道シュタイナー学園いずみの学校からのメッセージ

北海道シュタイナー学園いずみの学校の市川先生と佐藤先生

▲インタビューにお答えいただいた市川先生(左)と佐藤先生(右)

編集部

最後に、この記事を読んでいる受験生やその保護者の方々にメッセージをお願いします。

市川先生

生きることと世界に希望をもち、大人が未来を託せるような人間の育成、知識の習得にとどまらない心身のバランスがとれた大人に育てる、それがシュタイナー学校の目標です。

佐藤先生

シュタイナー学校は、ここに通う子どもたちの「魂のホーム」です。ここでいうホームとは、守ってもらえる場所、心の拠り所となる場所という意味です。子どもたち一人ひとりが、どうなろうとしているのか、どのような願いをもっているのかを教師が感じとって、寄り添い、ともに歩んでいくための場所です。

さまざまなことに愛情をもって関わることができるよう導き、知識だけでなくさまざまな事象をひとつにつなげて深く学んでいきます。そして、さらにそれらをすべてつなげることができる力を育みます。

これからの不確かな時代において、つなげる力をもつ人間が増えていくことで「平和」を作り出していくことができるのではないかと思います。

さまざまなワークショップや地域の農産品、手作り品販売なども行う、大人の方が本校を体験できる「オープンデー」や学校見学日なども設けていますので、ぜひ足を運んでください。

編集部

ありがとうとうございました。

シュタイナー教育のカリキュラムを実践し、愛を持ってすべてとつながることができる人を育てる北海道シュタイナー学園いずみの学校。さまざまな芸術活動や自然体験、じっくりと取り組む演劇やオペラ、プロジェクトなど、子どもたちからたくさんの可能性を引き出す取り組みが豊富です。

心の底から安心できるホームのような環境と「苦手意識」や「卑下する心」が入る隙のない教育で、子どもたちは、自分で自分の可能性を信じることができる大人へと成長していくのだろうと感じました。

北海道シュタイナー学園いずみの学校の進学実績

北海道シュタイナー学園いずみの学校の校名が書かれた表札(2023年度のもの)

自分がやりたいことを主体的に選択することを促す同校では、大学、専門学校、海外の大学などその進路もさまざまです。

2009~2021年の進路実績(NPO法人時代のもの)は、東京大学、京都大学、国際基督教大学などの難関大学をはじめとする4年制大学、武蔵野美術大学、国立音楽大学などの美術・芸術系の大学などさまざまです。

専門学校への進学者も多く、デザイン系、ゲーム・クリエイター系、和装の専門学校やサッカーに関わる職業を目指す学校など、自らの進路が明確な生徒が多いからこそのユニークな選択が目立ちます。

■北海道シュタイナー学園いずみの学校の卒業生の進路(公式HPより)
https://hokkaido-steiner.org/shinro/

北海道シュタイナー学園いずみの学校の保護者の声

北海道シュタイナー学園いずみの学校の校庭(行事前)

ここでは、北海道シュタイナー学園いずみの学校の保護者の声をお届けします。

<保護者>アウトドア活動や芸術活動などに特化しており、ほかにはない経験がたくさんできます。校舎から見える景色は、海あり山あり自然豊かで最高です。また、国際色豊かなクラスの雰囲気も魅力です。

<保護者>小規模校ということで部活動自体はないですが、子どもたちの興味ややってみたいという気持ちを大切にし、バスケットボールや和太鼓などの同好会の活動はとても活発です。地域の祭りなどのイベントにも積極的に参加しています。

芸術活動や自然体験を重視した取り組みを魅力だと感じている声が多く聞かれました。また、国際色豊かな学校生活を通してさまざまな価値観を知り、自然と多様性が育まれる環境にも評価が集まりました。

北海道シュタイナー学園いずみの学校へのお問い合わせ

運営 学校法人北海道シュタイナー学園
住所 北海道虻田郡豊浦町字東雲町83-2
電話番号 0142-83-2630
問い合わせ先 https://hokkaido-steiner.org/contact/
公式ページ https://hokkaido-steiner.org/
※詳しくは公式ページでご確認ください