先進的な教育で注目を集める学校を特集するこの企画。今回は奈良県奈良市の中高一貫国立校「奈良女子大学附属中等教育学校」を紹介します。
奈良女子大学附属中等教育学校は「自由・自主・自立」の精神のもと、生徒主体の学校行事を行うなど自由な校風が根付く学校です。国の先進的な教育を実践するモデル校としても位置付けられており、特に2005年にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)(※)への指定を受けて以来、約20年理数教育に特化した探究学習プログラムを実践しています。
(※)スーパーサイエンスハイスクール(SSH)…将来の国際的な科学技術人材育成のために先進的な理数系教育を実施する学校を文部科学省が指定する制度。
今回は副校長の北尾先生に、同校の校風やSSHの取り組みの特徴、魅力などについて詳しくお話を伺いました。
(※)同校では中学1年生から高校3年生までを1年生~6年生と呼称しているため、記事内でもそれに準じて学年を表記しています。
この記事の目次
国立校として先進的な教育を牽引する奈良女子大学附属中等教育学校
まずは御校がどのような学校なのか、簡単な沿革を教えてください。
本校は1908年に奈良女子高等師範学校として創設された110年超の歴史を持つ伝統校です。もともと自由な校風のもとで県下一の進学校としてエリート教育を展開していましたが、1970年代から6年一貫教育の導入をはじめとした学校体制の見直しを行いました。
1990年代には研究開発学校として国の先進的な教育を牽引する役割を担う立ち位置に変化してきました。
全国に先駆けて「総合学習」を導入し、また2005年にはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けるなど、独自のカリキュラムを実践しています。
特にSSHの取り組みは約20年続いており、理数教育に重点を置いた探究学習を推進する中で、数々の先駆的な取り組みが生まれているのが特徴です。
▲中庭の花壇は、校章の形がモチーフとなっている
学園祭の大ステージも自分たちで作成!教育の根底にある「自由・自主・自立」
▲学園祭の名物であるアーチは生徒たちが手掛けたもの
奈良女子大学附属中等教育学校では、どのような教育方針のもとで教育活動を行っているのでしょうか。
本校では「自由・自主・自立」を教育の根底に置き、生徒の個性を尊重しながら自己探究能力に優れた生徒の育成に努めています。
これまでの長い学校の歴史においても、生徒自らの運動によって制服の撤廃や頭髪の自由など、学校のルールや制度改革がなされてきました。その自由な校風は現在まで受け継がれています。
「自由・自主・自立」の精神は、御校の教育活動にどのように落とし込まれていますか?
本校では学園祭や宿泊行事など、あらゆる学校行事を生徒主体で実施しています。中でも、毎年9月に実施している学園祭は、卒業後も記憶に残っているという生徒も多い本校の一大イベントです。
奈良女子大学附属中等教育学校の学園祭は、正門を飾るアーチや野外ステージなどを、数か月かけて生徒自身でつくり上げていくのが特徴です。私自身初めてこの学校に来たときは、通常は業者の方に頼んで組むような大きなステージを、生徒自身でつくっている姿にとても驚きました。
もちろん大きなステージやアーチは倒壊の危険性がないよう教員が構造などのチェックを行いますが、生徒自身でも構造計算を行うなど安全性まで考慮して設計しています。
▲学園祭の準備や当日の様子、後夜祭の風景。大きなパネルやステージも手作り
この生徒主体の学園祭を主導するのが「学園祭運営委員会」です。そしてその運営委員会のもとで「実行部」と呼ばれる学年を超えた有志の組織が学園祭の各企画をつくっています。
学園祭運営委員会は誰でもなれるものではなく、立候補した生徒の中から生徒による投票で決まります。生徒会よりもむしろ学園祭運営委員会になりたいと憧れる生徒も少なくありません。選挙を行うのが2月で、そこから9月に向けて約半年間準備していくことになります。まさに「自由・自主・自立」の集大成となる行事といえるでしょう。
▲歴代の学園祭運営委員や製作物の写真も飾られている
宿泊行事も生徒主体とのことですが、具体的にどのように実施されているのでしょうか。
中学1年生の宿泊行事は教員が行き先や内容を決めますが、3年生で行くスキー合宿では、スキーの合間に行うスケジュールをすべて生徒で考えます。そして5年生の修学旅行では、行き先からそこで行う内容まで、すべて生徒主体でプランニングします。
具体的には、生徒はまず旅行会社の方と折衝しながら複数の旅行プランを考え、その内容のプレゼンテーションを実施します。それに対して生徒が投票を行い、票数が少ないプランを省きながら最終的に1つに絞るという流れです。そのため行き先も内容も毎年異なるという、本校ならではのとてもユニークな修学旅行が実現しています。
▲修学旅行で無人島に宿泊したときの様子。自分たちで考えたプランでオリジナルの体験ができる
学校の外ともつながり知識の“飛躍”を生むSSHのプログラム
奈良女子大学附属中等教育学校のSSHの取り組みについて伺います。まずはSSHに指定された当初から実施されている「サイエンス研究会」について教えていただけますか?
サイエンス研究会は理数系のトップ人材の育成を目的に実施する、本校のSSHを象徴する取り組みです。授業としてではなく課外活動として行っており、生徒が任意で所属する部活動のような位置づけとなっています。
サイエンス研究会に所属する生徒は数学・物理・化学・生物・地学の5つの班に分かれ、自身の興味・関心に合わせた探究活動を行います。サイエンス研究会には全校生徒700人超のうち1年生から6年生の約100人が所属しており、サイエンス研究会があるから本校に入学したという生徒も多くなっています。
▲さまざまな実験器具が揃っている「サイエンス研究会」の活動場所
御校では第4期SSHのテーマとして「科学技術イノベーションにより未来社会を創出する『飛躍知』を育むカリキュラム開発」を掲げられていますが、こちらの意図を教えていただけますか?
今お話したサイエンス研究会は、理数系トップ人材を育成するための取り組みとしてこれまでさまざまな成果を生み出してきました。しかしSSH指定校として期を重ねる中で、トップ人材の育成だけではなく、そのナレッジを全校生徒に幅広く展開することが求められるようになってきました。
ではサイエンス研究会で多くの生徒が成果をあげる理由とは何なのかを改めて考えたとき、そこにはある種の“飛躍”があるのではないかと思い当たったのです。つまりなだらかな成長曲線を描いているのではなく、それまでをポンと飛び越えるような成長を遂げる瞬間があるのではないか、ということですね。
そしてこの“飛躍”こそが、科学技術の変革が進んでいく現代社会でイノベーションを起こすために必要な要素だと考えました。全校生徒が“飛躍”を体験できるようなSSHのカリキュラムが必要だと考え、「科学技術イノベーションにより未来社会を創出する『飛躍知』を育むカリキュラム開発」というテーマを設定しました。
イノベーションに必要な“飛躍”はどのようなきっかけで起こるものだと考えられますか?
これまでの卒業生の優れた研究を分析したところ、教員からのアドバイスや、企業や大学、先端の科学技術を扱う機関など外部とのつながり、あるいは友達同士のディスカッションなど、さまざまな人との関わりをきっかけに飛躍が起こるということが分かりました。
そのため本校のSSHでは、多くの人と関わり合いながら「視点の飛躍」「手法の飛躍」「発想の飛躍」の3つの飛躍を6年間で段階的に学ぶカリキュラムを設計しています。
“飛躍”を生むためには、理系だけに特化するのではなく文系も含めた分野横断的な関わりが重要です。そのため、カリキュラムの中では理系だけに特化するのではなく、文系と理系との融合も意識しています。
例えば3年生で行う「探究基礎」のプログラムでは1年間の探究活動を前半・後半に分け、前半にフィールドワークやアンケートといった文系の研究方法を経験し、後半に実験や観察など理系の研究方法を体験します。また生徒同士の探究学習でも、理系と文系の生徒が一緒に取り組めるよう工夫しています。
▲「探究基礎」の実験の様子
6年間のカリキュラムの中では、学校の外の人とのつながりをもって学ぶ機会もあるのでしょうか。
もちろんです。例えば「PICASO(文理統合型高大接続探究)」というプログラムでは、奈良女子大学を中心とした大学の専門家による講義を受け、そこから自身の興味・関心のあるテーマを見つけて探究活動をしていくことができます。
また企業と協働して行う取り組みとして、DMG森精機、大和ハウス工業という地元の先端企業、そして奈良教育大学のSDGsセンターという3者と連携した1年間の探究プログラムを実施しているのも特徴です。
▲産学連携も盛んなのが同校の特徴。地域の企業・大学・団体などと協力することで学びを深めていく
もともとは大和ハウスさんのみとの連携事業だったのが、回を重ねるごとに多くの方を巻き込んだプログラムに進化していきました。まちづくりやものづくりとSDGsを絡め、企業や大学の知見を学びながら生徒主体でアイディアを考えていくプログラムとなっています。
さらにこのプログラムは、市立一条高等学校、私立奈良女子高等学校の生徒と協働で実施しているのも大きな特徴です。先ほども言った通り、“飛躍”というのは自分のフィールドから離れた人たちとの関わりの中で生まれるものです。その点、企業や大学だけでなく他の学校の生徒と関わりながら学べることは、本校の目指す“飛躍”につながっていく大切なポイントといえるでしょう。
学校外からも注目を集める、奈良女子大学附属中等教育学校のSSHで生まれた研究成果
奈良女子大学附属中等教育学校のSSHのプログラムを通じて、実際にどのような研究が生まれているのでしょうか。
例えば第1期のSSHのメンバーである西田惇さんは、高校生のときに筋肉を動かす時に起きる電気信号を測り、手や腕の動きを判別する研究を行いました。その後研究を発展させ、現在はアメリカのメリーランド大学のアシスタント・プロフェッサーとして活躍しています。
最近ではサイエンス研究会に所属する女子生徒も増えてきて、化学や生物の分野での受賞実績をあげています。男子生徒ですが、小学校のときから高校までずっとツバメの定点観測をしている生徒の研究も注目を集めていますよ。
また、奈良県という地域の特徴を活かした研究も数多く生まれています。例えば近隣にあるお地蔵さんを調べ、時代別にタイプを分類して世の中の動きとの関わりを調べている研究もあります。他にも古墳の縦横比を数式で算出し、円形部分と方形部分の比率に一定のルールがあることを見つけた生徒がいて、学会での発表も行っていました。
理科分野と数学をつなげる「サイエンス・イシューズ」
その他に理数教育や探究学習など、SSHで特徴的なプログラムはありますか?
本校では4、5年生を対象に、「サイエンス・イシューズ」という理科・数学科融合授業カリキュラムを実施しています。例えば生物の細胞分裂を数式化するなど、理科と数学とのむすびつきを発見することで双方を学ぶ面白さを見出していくという本校独自のプログラムになっています。
サイエンス・イシューズに対する生徒さんの反応はいかがですか?
数学と理科のそれぞれの単元でわかったつもりになっていたことでも、教科を融合させることでさらに未知の世界が広がって発展的な知識につながるのがすごく新鮮なようです。物理などは比較的数学と近いので想像がつくところもあるのですが、生物と数学など意外性の大きいところだと特に興味深いようですね。生物は好きだけれど数学は苦手、という生徒が数学に興味を持つきっかけにもなっています。
国際交流を通じて学びを深める奈良女子大学附属中等教育学校のグローバル教育
▲国際フォーラム(Asian Youth Forum:AYF)での集合写真
ここまでSSHにフォーカスした取り組みについて伺ってきましたが、その他にも御校で特徴的な教育プログラムがあれば教えてください。
奈良女子大学附属中等教育学校では国際交流の機会を通じて学びを深めるグローバル教育も積極的に推進しているのが特徴です。
例えばサイエンス研究会が参加するタイ政府主催の科学フェアもその1つです。科学フェアでは生徒たちは英語でプレゼンテーションを行い、各国の優秀な学生に刺激を受けてさらに研究をブラッシュアップしています。
本校の国際交流は、理数教育の分野には限りません。例えばアジアの国や地域から集まった若者で社会問題などについて議論を行う国際フォーラム(Asian Youth Forum:AYF)にも継続的に参加しています。AYFは日本、韓国、台湾、インドネシア、ベトナムの5か国にある提携校で順番に主催しており、2023年度は本校がホスト校を務めました。約1週間、合宿で生活を共にしながらあるテーマについてワークショップで議論を深めていくプログラムとなっています。
▲外国の生徒から相談を受けている様子
AYFでの交流を通じて、生徒の皆さんはどのような学びを得られるのでしょうか?
AYFでは「貧困」や「海洋汚染」、あるいは「幸せとは何か」というような、各国に共通するテーマを設定し、それに対してまず各国の考えについてのプレゼンテーションを行います。そしてその後に各国を横断したグループをつくり、グループでの議論を深めていきます。その中でさまざまな国の価値観、文化的背景をお互いに学ぶことができるのがこの取り組みの意義だと考えています。
例えば「貧困」をテーマとした際には、日本の考える貧困とアジアの発展途上国の考える貧困とは全く異なるものだったんですね。同じ「貧困」について考えていても、国が違うとこんなに捉え方が違うんだということは、双方の国の生徒にとってとても新鮮だったようです。
その上で、すべての貧困を解決するためにはどうするべきかを検討して、最終的には各グループの提言としてまとめていきました。国ごとの違いを認識するだけでなく、グローバルに共通する大切な価値観や考えを学べる機会になっているのも、このAYFの大切なポイントです。
奈良女子大学附属中等教育学校からのメッセージ
▲インタビューにご対応いただいた副校長の北尾先生
最後に、記事を読んで奈良女子大学附属中等教育学校に興味を持ったお子様、保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校は中高一貫校のため、高校受験のための勉強ではなく幅広い学びを深められる環境があります。
大学への進学がゴールではなくその先の将来、社会を見据えた教育を行っており、実際に本校を卒業して旅立っていった多くの生徒から「この学校で良かった」という声をいただいています。そういう教育に魅力を感じる方は、ぜひ本校にお越しいただけると嬉しいです。
北尾先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
奈良女子大学附属中等教育学校の進学実績
奈良女子大学附属中等教育学校の過去5年の合格実績をみると、京都大学、大阪大学を中心に、関西圏の名門国公立校に多くの合格者を輩出しており、全国的にみても国内最難関校の東京大学をはじめとする難関校への合格実績が多くなっています。
私立大学では、関西の難関校である関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)に毎年100名超の合格者を輩出しています。また海外大学への合格者も定期的に輩出しており、多様な進路が実現していることが伺えます。
■奈良女子大学附属中等教育学校の進学実績(公式サイト)
https://nwuss.nara-wu.ac.jp/about/path/path1/
奈良女子大学附属中等教育学校の卒業生・保護者・在校生の口コミ
▲生徒が芝を植えたという広々としたグラウンド
ここでは、奈良女子大学附属中等教育学校に寄せられた、生徒と保護者からの口コミを一部抜粋して紹介します。
生徒や保護者から異口同音に「自由・自主・自立」の精神に基づく自由な校風の魅力について評価する声が聞かれました。
「自由」といっても放任しているわけではなく、教員からはしっかりとしたサポートを受けられ、生徒も自由に伴う責任を認識した上で節度ある学校生活を送っている様子が口コミからも伝わりました。ただ自由で楽しいだけでなく、しっかりと実の伴った学びを得られる環境があるようです。
▲豊富な蔵書が揃う図書館
▲食堂の様子。バランスの取れた定食が400円という価格で、アイスも充実している
奈良女子大学附属中等教育学校へのお問い合わせ
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