この記事では、特色ある教育に取り組む“注目の学校”として、北海道函館市にある「遺愛女子中学校・高等学校」をご紹介します。
私立の女子校である同校は、中学と高校を“6年”として一貫性をもたせた教育を展開する中高一貫校です。2024年に創基150周年を迎えたキリスト教主義のミッションスクールで、毎朝の礼拝をはじめ、海外から寄港するクルーズ船の外国人客を対象に生徒が観光案内を行う「客船ボランティア」といったボランティア活動を通じて豊かな人間力を育成しています。
また、クラブ活動を楽しく頑張っている生徒が多く、なかには複数の部を掛け持ちしている生徒もいるほど魅力的なクラブがたくさん。中高の生徒が一緒に活動するため、低年次でのスキルアップを目指せます。
今回、ぽてんでは遺愛女子中学校・高等学校の聖書科 宗教主任である百武(ひゃくたけ)先生にインタビュー取材を行い、同校の教育方針や学習カリキュラムの特徴、校風などを詳しく教えていただきました!
この記事の目次
「信仰・犠牲・奉仕」を理念に自立した女性を育てる遺愛女子中学校・高等学校
▲取材にご対応いただいた百武先生
まず、遺愛女子中学校・高等学校の教育理念について教えてください。
本校は、明治7年に函館を訪れたアメリカ人宣教師M・C・ハリス夫妻が女子教育の必要性を説き、小さな私塾をつくったことをきっかけに誕生しました。その時代、一般的に女子は良妻賢母を目指す風潮がありましたが、本校では設立当初から“女子の自立”を目指しており、英語や裁縫など女性が世に立っていけるような実学を身につけさせることを大事にしてきた学校です。
そうした方針に基づき、第4代校長のミス・デカルソンは「信仰・犠牲・奉仕」を教育理念として掲げました。具体的には、まずは自分自身がかけがえのない存在であることを認めたうえで、誰のため・何のために生きるのかといった目的を見失わないようにすること、そして神様や社会に奉仕貢献することが大切である、といった考え方です。これは本校に受け継がれているキリスト教の精神に由来しています。
そういった方針が現代まで受け継がれて、2024年度には創基150周年を迎えられたと伺いました。地域のなかでも歴史ある伝統校ですよね。
そうですね。地元に卒業生がたくさんおり、地域の方から「遺愛さん」と認知していただいていることを嬉しく感じております。
ちなみに本校の校舎本館とホワイトハウス(旧宣教師館)はどちらも国の重要文化財に指定されており、時期を見計らって一般公開することによって文化的価値を共有させていただいているんです。特にホワイトハウスに関しましては毎年夏に一般公開し、生徒たちが市民の方に建物を紹介したり、おもてなしをしたりするイベントを実施しており、大変ご好評いただいております。
遺愛女子中学校・高等学校が力を入れる人間教育とは
遺愛女子中学校・高等学校では、学力向上に向けてきめ細かなカリキュラムによる学習指導を行っていることはもちろん、教育理念である「信仰・犠牲・奉仕」の心を育成するための人間教育にも力を注いでいます。ここでは、同校の人間教育における特徴についてお話を伺いました。
毎朝の礼拝や「客船ボランティア」などで豊かな心を育む
▲クルーズ船で函館に訪れた外国人観光客をサポートする「客船ボランティア」は同校ならではの取り組み
生徒さんの人間性を磨くために、具体的に行っていらっしゃる取り組みについてご紹介いただけますか?
まず、毎朝欠かさず礼拝を行います。中学生・高校生の全校生徒が集まり、一緒に賛美歌を歌ってお祈りをして一日が始まります。
また、生徒たちが自主的に町内会のお手伝いを手掛けるなど、各種の奉仕活動が盛んです。高校の英語科の生徒が中心となって、函館市役所さんとのタイアップで行う「客船ボランティア(通称:「客ボラ」)」もそのひとつで、海外から寄港するクルーズ船の外国人観光客を対象に生徒が通訳を担い、観光案内をする取り組みを実施しております。
クルーズ船はだいたい8:00~9:00ぐらいに寄港して18:00ぐらいに出港するスケジュールとなっているため、その間は函館観光を楽しむ乗客が多いです。そこで、一緒に函館のまちを歩きながら、両替所への行き方やバスの乗り方、お買い物の仕方などを英語でサポートする取り組みとなっています。
外国人観光客から喜んでいただいており、セーラー服姿の女子が行う点でも非常に好評です。函館に寄港する年間50隻ほどの船のうちの10隻程度でお手伝いさせていただいており、この取り組みは過去2回、観光庁長官賞にも選んでいただきました。
▲手を振ってお見送りをする様子
船にはさまざまな国籍の方が乗っていらっしゃり、英語が母国語の方もいれば、それほど英語が得意ではない方もいらっしゃると思います。そういったなかで、生徒さんたちはどのようにコミュニケーションをとっているのでしょうか?
本校の生徒はホスピタリティが高く、たとえば折り紙の鶴を持っていってそれをプレゼントしたり、日本のお菓子を配ったりと工夫しながらコミュニケーションをとっています。そういったおもてなしを行うだけでも観光客の方々は大変感激され、「函館に来て良かった」と感じてくださっているようです。
ときには英語が思うように伝わらずに戸惑うこともあると思いますが、この経験を通じて生きた英語の習得が大切であることや、通じる・使える英語を身につけるためには日々の英語の授業が重要であることを身をもって実感できます。そういった勉強のモチベーションアップの面でも、ボランティア活動はすばらしい働きをしてくれていると感じますね。
ちなみに、この客船ボランティアに魅力を感じて入学を志望される受験生の方も多くいらっしゃいますよ。
「全校修養会」では力強く活動する講師の方から“生きるヒント”を得られる
▲クリスマスイベントなど、多くの行事を通して成長していく
ボランティア活動のほかに、遺愛女子中学校・高等学校が実施している心の教育につながる行事等があれば教えてください。
生徒たちにはいわゆる机上の授業だけでは取り扱えない人の心の内側や、社会の課題にも目を向けてもらいたいため、毎年秋に1日半かけて「全校修養会」を実施しています。具体的には社会の課題に最前線で関わっていらっしゃる講師の先生にお越しいただき、講演を聞いたりワークショップを行ったりする行事です。
たとえば2023年度には、札幌にて発達障害の子どもたちのための福祉施設を運営している女性の方に来ていただきました。発達障害の子とそうでない子が一緒に生きていける環境づくりに力を入れていらっしゃる一方で、発達障害の保護者の方が孤立しやすい問題点にも注目し、お母さんたち同士のコミュニティをつくる活動にも尽力されている方です。
その方のご講演を聞きながら、生徒たちは障害と呼ばれるものを持っている人たちと自分の違いや共通点について深く考えました。また、障害と呼ばれるものは視点を変えると「特徴」や「特性」であり、決して自分たちが優れていて障害のある方が劣っているわけではないことを学びました。
講演会を通じて、生徒さんはどのような感想をもたれたのでしょうか?
講演会の最後に講師の先生と生徒が直接膝を突き合わせて話せるような場を用意したところ、100名ほど生徒が集まったのですが、そのなかで自分のきょうだいが発達障害だと打ち明けてくれた生徒が何人もいたんです。そして、「そのことが恥ずかしいことではないと初めて思えた」というような話をしてくれた生徒もおり、その子とは学年もクラスも接点がなかった生徒たちが「よかった」と言って自分事のように涙を流していました。
このように多様な社会のなかで生きていくためのヒントを得られる貴重な行事として、「全校修養会」を毎年実施しています。社会課題に直面する現場にいらっしゃる方、実際に活動している方から直接お話を伺える貴重な機会であることはもちろん、そういった活動を女性が行っていることが生徒たちへのエンパワーメントにつながっていると感じております。
遺愛女子中学校・高等学校の魅力あふれるクラブ活動
遺愛女子中学校・高等学校には文化系のクラブが18種類、運動系のクラブが13種類あり、どのクラブも活発に活動しています。ここでは、同校が誇るクラブ活動の魅力について詳しく教えていただきました。
2~3つのクラブに参加する生徒もいるなど、クラブ活動が盛ん
御校ではクラブ活動が盛んだと伺いました。どのような特徴があるのか具体的にご紹介ください。
本校のクラブには「○○局」といった名前のクラブと「○○部」といった名前のクラブがあり、特に学校の活動に貢献しているクラブに関しては「○○局」と呼んでいます。
具体的には「吹奏楽局」「放送局」「新聞局」「図書局」の4つが「局」のクラブです。放送や新聞、図書などはほかの学校ですと委員会として活動していることが多いと思いますが、本校では「奉仕の心を持ち、人のために喜んでできる活動としてぜひ自分から参加しましょう」といった思いでクラブの形をとっています。
私は本校が3校目なのですが、クラブ活動への取り組みは群を抜いていると思います。なかには掛け持ちで2~3つのクラブに参加している生徒もいますよ。
吹奏楽局:全員が主役!大規模なコンクールや地域のイベント等で活躍
たくさんの種類のクラブがありますが、百武先生が特に魅力を感じていらっしゃるクラブについて教えていただけますか?
どのクラブも精力的に活動していますが、特に「吹奏楽局」の活躍にぜひご注目いただけたら嬉しいです。吹奏楽は一般的に40~50人ほどの編成で行われることが多く、表に出られる人もいれば出られない人も出てくる傾向がありますが、本校の吹奏楽局では部員全員が表に出ることがモットーとなっています。2024年度は105人の大所帯で活動しており、105人で大編成のバンドを組んで活動している形です。
北海道内のコンクールや全日本の吹奏楽の大会などへ頻繁に出場させていただいていることもあり、吹奏楽局に入ることを目的として本校への入学を志望される方もたくさんおります。
ちなみに、吹奏楽局は地域のイベントで演奏する機会をたくさんいただいていますよ。たとえばクルーズ船のイベント時に演奏したり、クリスマスシーズンにはデパートの催事場でコンサートを行ったり。記憶に新しいところでは、市制100周年の大規模なイベントでオープニング演奏を行いました。そういったイベントは土日に行われることが多く、休日返上で参加することになるのですが、生徒たちはとても喜んで参加していていつも感心しています。
「信仰・犠牲・奉仕」といった教育理念が、吹奏楽局の活動にもしっかりと行き渡っているのですね。
そうですね。クラブ活動も勉強もそうですが、本校での活動を通じて「できることを一生懸命やろう」といった姿勢が生徒一人ひとりのなかで育まれていると感じます。また、クラブ活動を目的に入学したとしても、「クラブが忙しいからほかは…」などとほかのことを軽視する生徒は非常に少なく、その点も本校のいいところですね。学校自体を愛し、学校生活全体を大切に考えて行動しているからこそだと思います。
YWCA:町内会の草むしりのお手伝いといったボランティア活動に従事
ほかに特色のあるクラブがありましたら教えてください。
本校にはボランティア活動を行う「YWCA」というクラブがあるのですが、私が赴任してきたときは40人ほどのメンバーだったのが、2024年度は95人在籍しています。外部からのご相談にお応えする形で活動することも多く、たとえば町内会の草むしりのお手伝いとして30人募集するとワッと手が挙がるんです。
そういった形で喜んで奉仕するためのクラブが存在していることも、本校ならではの特色だと思います。
遺愛女子中学校・高等学校におけるスクールライフ
▲文化祭である「遺愛祭」でポーズを取ってパチリ。絆の深さがうかがえる
続いて、遺愛女子中学校・高等学校における先生と生徒の関係性や、放課後のサポート体制についてお話を伺いました。
先生と生徒の間に強い信頼関係あり。先輩の姿からも刺激を受ける生徒が多い
御校では、先生方と生徒さんはどのような距離感で接していらっしゃいますか?
家族に次ぐくらいの非常に近い距離感ですね。できる限り生徒のそばに寄り添い、生徒と一緒に歩んでいくことを心がけている教員が多い学校だと思います。卒業証書授与式では、多くの教員がポロポロと涙するほど親しい間柄です。
そういった教員と生徒の密な関わりによって自然と信頼関係が生まれると同時に、生徒たちの間で「信仰・犠牲・奉仕」の心が育まれているように感じます。自分の利害につながらないことでも一生懸命行う、そういった風土がしっかりと根付いていますね。
また、中高6年間の一貫教育によって先輩たちの姿から刺激を受ける生徒も多く、良い循環の渦の中で大きく成長していける学校だと思います。
放課後は自習室を活用する生徒が多数
御校では、放課後に自習室を利用する生徒さんが多いそうですね。
函館にはいわゆる大手の予備校がなく、さらに学校を生活の場として捉えている生徒が多いこともあり、学校で自主的に勉強する生徒が大変多いです。19:00までは学校に残れるため、クラブが終わったあとに自習室で1~2時間ほど友達と一緒に勉強してから帰宅する生徒もたくさんみられますよ。
遺愛女子中学校・高等学校からのメッセージ
最後に、遺愛女子中学校・高等学校に興味をお持ちの方へメッセージをお願いします。
思春期を生きていらっしゃる10代のお子様とその親御様が、ご自分の今に自信を持ってその日一日を過ごしていただくことが私たち教職員の願いです。
やはり子育てされるうえで「より良く育ってほしい」「成績が上がってほしい」「良い学校に入ってほしい」といった「未来・将来に対するご希望」があると思いますが、まずはその日のご自分を肯定することこそが真の幸福感に繋がると思うんです。
そういった充実した一日を過ごせたら本当に素敵だなと思いますし、生徒たちがそういうふうに一日を終えられるようにサポートすることが私たちの役割だと考えております。まずはぜひ足を運んでいただき、本校らしい温かな校風を肌で感じていただけたら嬉しいです。
御校で、自分を大事にして他者にも親切に対応する習慣を身につけたり、ボランティア活動を積極的に行ったりするなかで、人として一回りも二回りも大きく成長できそうだと感じました。
百武先生、たくさんのお話をありがとうございました!
遺愛女子中学校・高等学校の進学実績
遺愛女子中学校・高等学校では、東京大学などの難関国公立大学をはじめ、早稲田大学や慶応大学、上智大学といった名門私立大学にも例年多くの合格者を輩出しています。2020年から2024年までの5年間においては、国公立大学へ145名、私立大学へ832名が進学を果たしました。
具体的な進路状況については以下をご確認ください。
遺愛女子中学校・高等学校の卒業生・在校生による口コミ
遺愛女子中学校・高等学校の卒業生・在校生からは、校風や制服、学習環境、クラブ活動に関して満足している口コミが多くみられました。また、保護者からは「先生が親身に寄り添ってくれて安心」「ボランティア活動など社会勉強もできるところが気に入っている」といった声が多数挙がっており、生徒からも保護者からも信頼の厚い学校だと感じました。
遺愛女子中学校・高等学校へのお問い合わせ
運営 | 遺愛女子中学校・高等学校 |
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住所 | 北海道函館市杉並町23-11 |
電話番号 | 0138-51-0418(代表) |
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