豊かな自然に囲まれた「七沢希望の丘初等学校」の“生きる喜び”を育む教育とは|私立小学校

ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は神奈川県厚木市にある共学の私立小学校「七沢(ななさわ)希望の丘初等学校」を紹介します。

七沢希望の丘初等学校では、自然豊かな環境の中でおよそ30名の児童たちが兄弟姉妹のように学校生活を送っています。

そこには田植えや野菜栽培など大自然の中だからこそできる体験や、学年を超えて児童たちが意見を交わしあう機会など、授業だけでは得られない学びの機会が溢れており、6年間を通して児童たちは”生きる喜び”を育みます。

今回は、そんな七沢希望の丘初等学校の教育理念や自然豊かな環境の魅力、特徴的な教育活動について、校長の大谷先生に詳しく話を聞かせていただきました。

「生きる喜び」を育む。七沢希望の丘初等学校の教育理念

七沢希望の丘初等学校の児童が田んぼの中で並んでいる様子

▲米作り、野菜栽培、タケノコ堀りなど、大自然の中だからこそできる体験が溢れている。

編集部

まず、七沢希望の丘初等学校の教育理念について教えていただけますか?

大谷先生

「生きる喜びを抱き、自ら学びを拓く」というのが、2009年に開校した当初から貫いている本校の理念です。

”生きる喜び”は、人が成長するための原動力になるものです。生きていることが嬉しいと感じられれば、目の前に困難が立ちはだかっても自分の力で考えて、道を切り開いていくことができます。

私たちは、教育活動を通してこの”生きる喜び”を育むことを目指しています。

編集部

”生きる喜び”を育むために、どのようなことを意識して教育活動を行っているのでしょうか。

大谷先生

まず学びの面では”自律的な学習”というものを重視しています。学びを子ども達に与えるのではなく、子ども達自身が学びに向かうことが生きる喜びにつながると考えて、日々の教育活動を行っています。

また、本校がある厚木の七沢はとても自然豊かな場所であり、小高い丘の上に立っている校舎は木造です。こうした自然豊かな環境も、”生きる喜び”につながっているのではないかと考えています。

学校の前の畑ではよくキジがケンケン鳴いていますし、鹿が横切ることもあります。春になると校地の中にタケノコが生えてくるので、それを一緒に採取して給食に出すこともあります。畑や田んぼを借りて野菜や米を作ったり、そこで取れた大豆で豆腐や味噌を作ったりといった体験もできます。

自然の中で感じ、考え、新たなものを作り出すという営みが、子どもたちの心の中にもともとあるエネルギーに火を灯し、生きる力をつくり出していくのだと思います。

「自己決定権」を大事に!運動会や修学旅行も児童が企画

編集部

”生きる喜び”を育むような、七沢希望の丘初等学校ならではの取り組みがあれば教えてください。

大谷先生

本校では、子ども達の”自己決定権”をとても大切にしています。

例えば本校の運動会は、実施する種目や具体的なルール、必要な準備などを子ども達が話し合うところから始めます。アイデアを出し合って、工夫を凝らしながらオリジナルの競技を生み出していきます

小さい校庭では普通のリレーのコース取りが難しいので、竹馬を導入してみたり、借り人競争をやってみたりするなどして工夫しています。ゴールに得点が書かれた段ボールを積んでおいて、ハンドボールのようにボールを投げて地面に落ちた得点が加算されるというアイデアも生まれていましたね。

七沢希望の丘初等学校の運動会

▲児童たちが生み出したオリジナルの運動会の競技。自分たちで考え、作り、実行する。

大谷先生

また、修学旅行の行先も、その目的に応じて子ども達と担任が話し合って決定していきます。何を学びに行きたいかを5年生の時から話し合いを重ね、具体的にめぐる施設やルートや宿泊地など、かなり具体的なところまで自分たちで考えていきます。

ちなみに、2023年度の行先は北海道でした。児童がアイヌ文化や北海道の自然に興味を抱いたことから、白老にある「ウポポイ(民族共生象徴空間)」という施設を訪れ、アイヌの歴史や文化に関して深く学びました。

2022年度は、岩手・宮城を訪れました。ちょうど、その学年の子ども達が生まれた年に東日本大震災が起きたということもあって、実際に現地の人の話を聞いてみたいという声が出てきて実行に移しました。

宮城県にある施設では、当時、行政で防災の責任者を務めていた方がお話を聞かせてくれました。東日本大震災では、その方が作った緊急避難マップを見て避難された方々が、想定よりも大きい津波で命を失ってしまったのだそうです。十字架を背負って伝えてくださった話は子ども達にとても刺さったようで、とても真剣に耳を傾けていましたね。

宿泊した宿のおかみさんも、当時のことを話してくれました。波に飲まれて溺れそうになったときに旅館のバスが流れてきて、タイヤにしがみついて生き残ることができたとおっしゃっていて、「生きることを諦めない」ということの大切さを教えてくれました。

このような生の声を聞くことは、知識としてインプットするだけでは得られない学びを子ども達に与えてくれたのではないかと思っています。

七沢希望の丘初等学校の修学旅行の様子

▲修学旅行では、地元の人たちの声を直接聞く機会も

編集部

自分たちで興味や問題意識を抱いて訪れるからこそ、より深い学びが得られそうですよね。とても素晴らしいと感じました。

児童全員が参加するミーティングで学校生活のルールを考える

七沢希望の丘初等学校で行われている全体ミーティングの様子

▲定例の全体ミーティングでは、学年関係なく意見を出し合い、学校生活をより良くする方法を考える

編集部

運動会や修学旅行などの行事に限らず、日々の学校生活の中でも、児童たちが自己決定権を持って何かを決める機会は多いのでしょうか?

大谷先生

そうですね。例えば、学校の中で何か課題が生まれたら、皆で話し合って対応やルールを決めることにしています。子ども達の発案のもと、定期的に全体ミーティングも開催しています。

最近の事例では、校庭のプラムの木に関するルール作りを全体ミーティングで行いました。6月になるとプラムの木が赤い実をつけるのですが、「一人の子がたくさん取ってしまったら、他の子の分がなくなってしまうのではないか」「上の方の細い枝のところまで登ったら危ないんじゃないか」という問題があったんです。

全員で話し合いをした結果、「1日に取るのは5個までにしよう」「木に登るのは3人までにしよう」「取って食べた後の種は持ち帰って家で捨てよう」などがルールとして決まりました。

本当にちょっとしたことですが、このように小さなことでも自分たちで解決していくということを大切にしているんです。

編集部

素晴らしいですね。話し合うテーマはどのようにして生まれるのでしょうか?

大谷先生

プラムの木の問題については先生が子ども達に投げかけるところから始まったのですが、子ども達が自由に意見を投函できるような目安箱も用意しています。

最近目安箱に入っていた意見の例としては、「学校で裸足で生活するのを復活させてほしい」というものがありましたね。これに関しても「裸足生活となるとトイレはどうする?」など、いろいろな意見を出しながらルール決めを行っていました。

編集部

全体ミーティングの場では、低学年のお子さんが発言するような機会もあるのでしょうか?

大谷先生

はい。1年生でもしっかりと発言しますよ。プラムの木に関しては、2年生の発言がとても多くて、高学年の子は聞き役になったりまとめ役になったりしてくれていた印象があります。

もちろん高学年の子も意見は述べますが、高学年の子の意見ばかりが反映されてしまうということはありませんね。

編集部

まさに、全員参加で学校をより良くするためのルール作りを行っているんですね。

学年を超えた「縦割り」の活動で優しさや自身を育む

編集部

七沢希望の丘初等学校の児童数は、全学年で31名(2024年7月時点)とお聞きしています。基本的には同じメンバーで6年間進級していくことになりますよね?

大谷先生

そうですね。クラスのメンバーは変わりませんが、その分、1年生から6年生までの縦割りのグループを毎学期編成して、子ども達に新鮮味を感じてもらいながら教育活動を行っています。

編集部

なるほど。縦割りでの教育活動ではどのような様子が見られますか?

大谷先生

上級生が下級生の面倒を非常によく見てくれています。下級生は、上級生に優しくされたという経験を経て上級生になりますので、上級生になったときに今度は自分が下級生に優しくできるんです。とてもよい循環が生まれていると感じますよ。

例えば調理をするようなシーンでは1年生でも包丁を持つのですが、上級生が後ろからしっかりと手を支えてくれているような場面が見られます。

包丁を持つ下級生をサポートする七沢希望の丘初等学校の上級生

▲包丁の使い方に慣れていない下級生を上級生がしっかりとサポート

農業活動でも、くわを初めて握る子のサポートをしてくれているような姿もあって、本当に微笑ましいですよ。

七沢希望の丘初等学校の児童が協力しながら畑作業を行っている様子

▲畑仕事でも上級生が下級生をサポート。日々の学校生活の中で優しさが自然と身についていく

大谷先生

また、年間を通して、連携している七沢幼稚園の園児たちと一緒に活動する機会も設けています。1年生は小学校ではどうしても面倒を見られる側になりがちですが、ここでは「1年生も上級生」というキャッチフレーズで、リーダー性を発揮してもらうんです。

先日は、幼稚園の砂場に新しい砂を入れるというイベントに、小学校1、2年生が参加してきました。ダンプカーから降ろされた砂をみんなで運ぶのですが、園児のバケツに砂を入れてあげたり、運ぶときに手を貸してあげたりなど、しっかりと面倒を見てくれていました。

七沢希望の丘初等学校の児童が七沢幼稚園の園児たちと交流している様子

▲竹の棒にバケツをかけて一緒に砂を運ぶ姿も。園児との活動を通して、1年生にもお兄さん・お姉さんの自覚が芽生えている

大谷先生

こうした活動を通して、低学年のうちからお兄さん・お姉さんとしての自覚が芽生えますし、園児にとっても憧れのお兄さんお姉さんというモデルができますので、双方にとってメリットがある取り組みだと思っています。

「十八番朝会」で特技を披露!興味を伸ばし自己肯定感を高める

編集部

ほかにも、七沢希望の丘初等学校ならではの取り組みがあれば教えてください。

大谷先生

本校では、得意や興味を伸ばすということに力を入れています。特徴的な取り組みとして、月に1回、皆の前で自分の特技を披露する「十八番(おはこ)朝会」という活動をやっています。

やりたい子が事前に職員室前のホワイトボードに名前を書いて、エントリーした子が朝会で披露するのですが、けん玉をする子、フラフープをする子、でんぐり返しをする子など、内容はさまざまです。すごい技ばかりではなく夢中になっていることを発表してもらうイメージでやっていて、中には「指がここまで曲がります」なんていうのもありますよ(笑)。

最初は1人でやることが多かったのですが、先生と一緒にバイオリンを演奏したり、子ども達複数人で合気道の型をやったり、違う学年の児童と組んでバレーボールのパスのラリーをしたりするようなケースも出てきました。

歌を歌う子、歌詞を手話で伝える子、バイオリンを弾く子、トランペットを吹く子、ピアノを弾く子、指揮をする子が集まってコラボするような発表もありましたね。

編集部

子ども達からはどんな声が聞こえてきますか?

大谷先生

発表が終わった後、発表者は壇上に立ってインタビューを受けるのですが、「緊張で膝がガクガクしたけども、やれてよかった」といった感想を聞かせてくれます。簡単なインタビューのあと改めて拍手をもらうと、嬉しそうな表情も見せてくれてくれますよ。

編集部

そういった積み重ねが、自己肯定感を高めてくれそうですよね。御校の理念である”生きる喜び”にもつながりそうです。

大谷先生

そうですね。好きなこと、夢中になれること、興味があることは子ども達を前に押し進めてくれるものです。それを認めてもらえたという経験が、まさに生きる原動力になるのではないかと考えています

マインドマップを使いテーマ設定。七沢希望の丘初等学校のハイレベルな探求学習

七沢希望の丘初等学校の児童が探究学習の成果を発表している様子

編集部

七沢希望の丘初等学校では、探究学習の授業にも力を入れていると伺っていますが、具体的にどのようなことを行っているのでしょうか?

大谷先生

本校では、2時間の1セットの探究学習の時間を年間で20時間設けています。自分の興味や疑問をもとに探究テーマを設定して学習計画を作り、最終的には探究の成果を見開きのパネルにまとめます。

探究学習の授業の様子を見ると、顕微鏡をのぞいている子、コンロで何か調理をしている子、コンピューターを見ている子、外でボールを蹴っている子など、さまざまな姿が見られますよ。

コンピューターを1人1台持てるような時代においては、検索すれば答えが出てくるような問題ばかりに取り組むのではなく、このような自分の中で生まれた問いかけに対して、自ら答えを見つけにいくことがとても大事だと考えています。

編集部

これまでの探究の事例で印象的なものがあれば教えてください。

大谷先生

昨年度の事例では、「学校を山城に見立てて敵から攻められない方法を考える」という探究が印象的でしたね。戦国時代に興味がある男の子なのですが、学校の設計図を分析しながら、敵から攻められない方法や攻められた場合の対処法などをまとめていました。

一昨年の事例では、「くっつきプロジェクト」というテーマで洋服にくっつく植物の研究をしている女の子がいました。

くっつき虫とその子は呼んでいましたが、衣服にくっつく植物を校地内で何種類か探した上で、その構造を顕微鏡で見て、絵を描いてわかったことをまとめるんです。さらには、マジックテープの構造と何が違うのかを比較して考察を書いたり、針金でくっつき虫の構造を再現したりもしていました。最終的にはフエルトで的を作り、それを的に投げてくっつけるようなゲームまで作って楽しんでいました。

編集部

素晴らしいですね。慣れていないとテーマを設定することも難しいのではないかと思いますが、先生がサポートしながら取り組んでいるのでしょうか?

大谷先生

そうですね。マインドマップを使ってテーマ設定を行っています。興味があることを紙に書いて、そこに関連するワードや疑問を書き足していくんです。さらには、それを全学年で共有して、他の子も自分以外の子のマインドマップに追記していきます。そういうふうにして発想を広げていって、最終的には自分でテーマを決定するんです。

編集部

なるほど。こうしたプロセスを経験することがとても大きな学びになりそうですね。最終的には、探究の成果をまとめたパネルを使って発表するような機会もあるのでしょうか?

大谷先生

保護者が集う学校行事のときに発表を行います。パネルの横に児童が立って、参観者が何人か集まったらその人たちに向けて説明をするんです。そして質問を受けたらそれに回答します。

課題を設定して発表するまでの一連の活動は小学生にとっては難易度が高い部分もあるかとは思いますが、与えれれた課題をこなすという受け身的な姿勢から、自ら課題を見つけてその答えを探し求める能動的な姿勢にチャレンジしていくということが子ども達の成長につながっていると思います。

七沢希望の丘初等学校からのメッセージ

七沢希望の丘初等学校の児童がキャンプファイヤーをしているところ

編集部

最後に、七沢希望の丘初等学校に興味をもたれた方に向けてメッセージをいただけますか?

大谷先生

本校は、豊かな自然が残る厚木市七沢の、小高い丘の上に建つ木造校舎が学び舎です。

現在(2024年7月)、31名の児童が兄弟姉妹のようにここで生活しています。

これから夏にかけては、子ども達が大好きなプラムの木に登って赤く実ったプラムを取って味わうような様子が見られますし、夏野菜を収穫してみんなで調理するような授業も予定しています。

これからの教育というのは、現状の中から自らの問いや課題を見つけ、それに対して自ら答えを探しにいく、そういう営みが必要だと思っています。学年の枠を超えたさまざまな体験活動を通して、本当の意味で生きる力を養っていきたいと考えておりますので、興味をもたれた方はぜひ足を運んでみていただければと思います。

編集部

ありがとうございます。インタビューを通じて、七沢希望の丘初等学校では自然の中で子ども達が生き生きとした学校生活を送っている様子が伝わってきました。まさに、”生きる喜び”を感じながら毎日を過ごされているのではないかと感じました。

本日は、たくさんの貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

七沢希望の丘初等学校の保護者の口コミ

七沢希望の丘初等学校の卒業式の様子

▲卒業生が1人ずつ自分の希望についてプレゼンテーションしている様子

ここでは、七沢希望の丘初等学校に通う児童の保護者の口コミを紹介します。

勉強だけでなくたけのこ掘り、田植え、稲刈り、野菜栽培、味噌作りなど、さまざまな体験ができる。

少人数制のため児童一人ひとりに目が行き届いていて、保護者と先生の距離も近いので安心できる。

自分の意見を伝えたり、みんなの意見をまとめたりする機会がたくさんある。

とても自然豊か。校舎もとても気持ちの良い空間で、景色も素晴らしい。

自然豊かでアットホームな環境の中で、子ども達が生き生きと学校生活を送っている様子が伝わってきました!

七沢希望の丘初等学校へのお問い合わせ

七沢希望の丘初等学校の表札

運営 学校法人 内田学園 七沢希望の丘初等学校
住所 神奈川県厚木市七沢433-1
電話番号 046-270-6123
公式ページ https://nanasawa-kibou.jp/

※詳しくは公式ページでご確認ください