実学を通して探究心を育む「東京農業大学第一高等学校中等部」のプログラム|中高一貫校

ぽてんをご覧の皆様に、注目の学校をご紹介する本企画。今回は、東京都世田谷区にある共学の中高一貫校「東京農業大学第一高等学校中等部」をご紹介します。

同校は、系列の東京農業大学と連携した大学教員による授業や、学年縦断で様々なテーマを掘り下げて学ぶ「一中一高ゼミ」など、生徒の知的好奇心に応え、社会での役に立つ多彩な教育プログラムがそろっていることが特徴です。

また、2025年には完全中高一貫教育への移行を予定し、新校舎も整備されるなど、ますます充実した教育体制に向けて新たなステージに入ろうとしています。

今回は、そんな東京農業大学第一高等学校中等部の教育の特色について、入試広報部部長の川崎先生にお話を伺いました。

本物に触れ、学びの楽しさにつなげる東京農業大学第一高等学校中等部の理念

東京農業大学第一高等学校中等部 入試広報部部長の川崎先生

▲インタビューに応じてくださった入試広報部部長の川崎先生

編集部

まず、東京農業大学第一高等学校中等部の教育理念について、お聞かせいただけますでしょうか。

川崎先生

本校は1891年に明治の政治家・榎本武揚が、東京農業大学の原点である、徳川育英会の育英黌農業科を設立し、1950年に東京農業大学附属第一高等学校が開校したことに端を発しています。

教育理念は「知耕実学」です。本物に触れる「実学」を通して「知」を耕し、深めてほしいという意味を込めています。

生徒は、実学体験から仮説を立てて検証し、行動するという繰り返しで思考力が伸びていきます。こうしたプロセスを地道に実践していくことで、本物の学力が身につき、人間性や社会性を育むことにつながると考えています。

教育理念「知耕実学」の下で、人間性や社会性を育む

東京農業大学第一高等学校中等部では稲作の米作りの実習も行う

▲専用農場で行われる米作りの実習。自ら手を動かす体験を通して農業に親しみを持つ機会になっている

編集部

「知耕実学」という教育理念は、具体的にはどのように学びの場に落とし込まれているのでしょうか。

川崎先生

通常の授業や行事、クラブ活動や委員会活動すべての教育活動で「知耕実学」を実践しています。特徴的な取り組みを三点挙げますと、一つ目は総合学習です。

大学が併設しているという利を生かして中1、2ではお米を研究し、中3、高1では大豆を研究します。それぞれ大学の施設や先生に協力していただき実施します。

例えば中1では、大学の専用農場で職員に指導を受けながら米作りを体験したり、中3では発酵について学んだあとに、味噌づくりの実習をする機会などもあります。

これには、生徒が主体的に参加し、専門的な施設でプロに教えを受けるという機会を設けることで、実学の面白さを知ってもらう狙いがあります。

二つ目は、国際教育です。オーストラリアへの短期・長期留学をはじめ、中学1・2年生を対象に、大学施設などで集中的に英会話漬けになるイングリッシュキャンプなど、語学力を磨き、国際感覚を育む取り組みに力を入れています。グローバル社会に対応し、世界に貢献できる人材を育成します。

語学を学ぶことも重要視していますが、それと同等、それ以上に「何を語るのか?」
語ることのできる人間力を身につけることに一番力を入れています。

三つ目は、日々の学びです。フィールドワークや実験を重視した体験プログラムを実施しています。

例えば、国語科では、森鴎外や夏目漱石といった文豪のゆかりの地や、文学作品に登場する場所などを1日かけて歩いてめぐる「文学散歩」を行っています。作品の時代背景やその当時の文化を知り、文学への理解や関心を深めていくことができるよい機会になっています。

毎年11月には高校の希望者向けに、理科の校外学習として、城ヶ島(神奈川県)に行き、堆積構造や断層、海浜植物などを見る自然観察を行っています。

学校行事では浅草で寄席を鑑賞した後、グループに分かれてそれぞれのテーマで地域を探索しました。外国人観光客にインタビューしたグループや、地域のバリアフリーの場所を地図にしたグループなど、多岐に渡る活動を行いました。

本校の教育では、教室での「座学」と、体験をベースにした「実学」との相乗効果で、自ら考える力を養うことを非常に重視しています。

2025年完全中高一貫体制に。実学を実践する実験室が充実した新校舎の整備も進む

東京農業大学第一高等学校中等部の新校舎

▲新校舎(芸術棟)の外観

編集部

お話しいただいたような「知耕実学」の取り組みを6年かけてしっかりと実践していくために、2025年から東京農業大学第一高等学校中等部は完全中高一貫化に踏み切られるそうですね。

川崎先生

そうなんです。中等部が開校したのは2005年ですが、当初から、完全中高一貫化はゆくゆくの形としてイメージしていました。中高6年間の余裕ある教育体制によって生徒は、学習はもとより、学内の生徒会や委員会活動、学外のコンテストなどでさらに活躍してほしいと思っています。

ちょうど2025年は創立20周年の節目でもあり、また同年度には、系列校の東京農業大学稲花小学校の第1期生が中学に内部進学するというタイミングが重なったことも背景にあります。

編集部

完全中高一貫化が実現する2025年に向けて、ほかに学校内での動きはありますか。

川崎先生

2026年には、新校舎の整備が完了する予定です。工事は2期に分けて進めており、2023年に第1期の「芸術棟」が完成し、第2期の「理科棟」は2026年冬に完成する見通しです。

第1期で完成した芸術棟には、可動式の椅子や机が置かれ、生徒同士の自由な議論や学び合いができる広いスペースの「ラーニングコモンズ」があります。また、陶芸ができるよう焼き窯を設置した美術室など、芸術系と技術系の各教科の教室も設けました。

第2期の理科棟は2026年冬に完了する予定で、ホールや図書館のほか、大学の研究室のように教員と制度が相談し合えるような各教科の研究室が入ります。理科の実験室のフロアでは、標本や実験器具などを展示するスペースも設けます。生徒がふと立ち止まって、理科への関心を高めてくれればと考えています。

地下から1階につながる大階段は、生徒たちが交流したり、発表などで使ったりするようなコミュニケーションの場として活用する予定です。

今回の新校舎では、実験や実習ができる環境を充実させています。これは、手を動かしたり、実際に本物に触れたりすることを大事にする「知耕実学」をまさしく体現化するための施設といえます。

編集部

第1期工事で完成した校舎は使い始めておられると思いますが、生徒の皆さんの様子はいかがですか。

川崎先生

開放感があるラーニングコモンズで1人で集中して自習したり、グループで教え合いながら勉強したりする生徒が目立ちます。当初はラウンジのように皆がおしゃべりするような場所になるのかと想像していたのですが、きちんと学習で活用してくれています。

教職員の予想以上の展開で、「みんなこういう施設を求めていたんだな」と改めて思いました。とても感慨深いですね。

授業を超えたテーマに取り組む、東京農業大学第一高等学校中等部の探究学習

東京農業大学第一高等学校中等部では、社会で役立つ実学の面白さを体感できる探究学習プログラムが充実しています。

ここでは、主な取り組みとして、自ら好きなことを研究し発表する「課題研究発表」と、通常の授業の枠や中高の学年の枠を越えて多様なテーマに挑む「一中一高ゼミ」について伺いました。

電気自動車の普及と地球温暖化の関係を検証。生徒の知的好奇心を満たす「課題研究発表」

東京農業大学第一高等学校中等部の中学1~3年生が取り組む課題研究発表の様子

▲中学3年間は、生徒自身の関心があるテーマに沿って調査し研究する「課題研究発表」に取り組む

編集部

東京農業大学第一高等学校中等部の探究心を育む取り組みについて教えていただけますか。

川崎先生

中学の3年間をかけて行う「課題研究発表」は、関心のあるテーマについて各自が研究、考察し、発表する代表的な取り組みなので、ここからご紹介します。このプログラムは、生徒の調べる力、検証する力を養い、知的好奇心を満たすとともに、プレゼンテーションの能力も育てます。

まず、中1ではテーマを探します。興味、関心があることを50個探し、3つに絞ります。中2ではテーマを絞ったうえで参考文献を探したり、実際に調査したりします。そして中3では、ポスターやスライド、動画など発表用資料を制作し、後輩や保護者や先生の前で発表します。

以前は、論文を作成し、スライドを使って発表するという形式でしたが、コロナ禍で一時中断後、論文ではなくスライドを制作して発表する形式に変わりました。

編集部

今まで、先生が印象に残っているテーマがあれば教えてください。

川崎先生

たくさんあるのですが、2024年の発表では「電気自動車がどんどん生産され、乗る人が増えているのに、地球温暖化が一向に収まらないのはなぜか」というテーマを掲げた生徒がいました。

その生徒は地球温暖化および電気自動車についてリサーチし、車検の回数や買い替えの頻度も含め、「電気自動車に何年間乗れば、ガソリン車に比べて地球温暖化防止に貢献できるか」ということを調べ上げていました。

他には、コーラを飲むと歯が溶けるという説について確かめた生徒もいましたね。歯の代わりに鳥の骨を使って、骨をずっとコーラに漬け続けたり、コーラをよく飲む人を想定して一定時間漬けては出したりと、数パターンの実験を考案・実施しました。結果、「コーラに漬ける時間が長ければ長いほど溶けやすい」ことを導き出していました。

編集部

様々な仮定のもとでデータを調べたり、実験もいろんな角度から行ったりと、本格的な研究、考察に取り組めているのが素晴らしいと思いました。先生方はどのように生徒をフォローされているのでしょうか。

川崎先生

研究の進み具合については、中間発表で確認したり、折に触れて担任と話し合う機会を設けたりしていますが、生徒に自主的に考えさせることを大事にしています。

担任は生徒に「このままだと単なる調べもので終わってしまうから、もう少しこの部分を掘り下げてみたら」とか「このテーマに関係する人の声を実際に聞いてみよう」などと提案することはありますが、あくまでもサポートの役割です。

編集部

先輩である中学3年生の発表を聞いて、1年生や2年生はどんな様子でいるのでしょうか。

川崎先生

先輩の頑張りを見て「自分たちもやりたい」と奮起する生徒が目立ちます。課題研究発表の場では、中1、中2から質問することもできるのですが、それに対して中3が即答するなどすると、とても格好よく見えるようです。

発表を聞いて「先輩みたいになりたい」と思い、自分の課題研究もいろいろと工夫してみようとする生徒が現れるのも、教員としてはうれしいですね。

ウクライナ侵攻、ロックンロール、陶芸。多様なテーマに中高生が挑む「一中一高ゼミ」

編集部

その他、探究学習について、特徴的な取り組みはありますでしょうか。

川崎先生

「一中一高ゼミ」は、生徒の知的好奇心を刺激するプログラムの一つです。これは放課後に開く自由参加型の講座で、通常の授業の枠を超えたテーマについて、考えたりディスカッションしたりするものです。年間80~100講座を開講しています。

編集部

一中一高ゼミでは、例えばどんなテーマの講座があるのでしょうか。

川崎先生

陶芸をしたり、ロックンロールについて学んだりと、まさに多種多様です。建築学科に進んだ卒業生が建築について講義してくれたこともあります。

印象的なのは、本校にウクライナ出身の生徒がいたのですが、戦争がはじまり、SNSで自国のことが取り上げられているのを見た同級生が、ゼミにしてみんなで語り合おうと声をかけたことが発端で開講しました。

中1から高3まで約40人が集まり、「どんな国でどんな文化や歴史があるのか」という基礎を学んだり、ウクライナ出身の生徒の知り合いの方に国の現状や避難中の生活といったニュースでは報じられない現実を話していただいたりしました。

編集部

ウクライナの現状を知るという貴重な機会に触れ、生徒たちはどんな反応でしたか。

川崎先生

とてもよかったと思うのは、「ウクライナはかわいそうだね」で終わるのではなく、「日本がウクライナの立場になったときにどう対応したらいいか」というディスカッションに発展したことです。「文化や民族についてお互い理解を深めれば、紛争を回避できる」と考える生徒、「紛争を起こさないように武装するべきだ」と主張する生徒など、様々な意見が披露され、議論は大いに盛り上がりました。

編集部

中高の生徒がまじって議論する場は、生徒にとっていい経験となっているのではないでしょうか。

川崎先生

そうですね。中1から高3まで様々な意見が出てそれぞれが刺激を受けているようです。学年を越えて縦横の強いつながりが生まれることも、一中一高ゼミの大きな特長と言えます。

ゼミ終了後に感想を聞くと、中1の生徒は「先輩たちは知識が豊富な上に多角的に考えていて、自分の意見の内容の薄さを痛感しました」と言ったり、高3に聞くと「自分が中1の時はあんなに話せなかった。後輩は末恐ろしいですね」と驚いた表情を見せたり、お互いに良い刺激になっていると感じました。

東京農業大学第一高等学校中等部からのメッセージ

編集部

最後に、ぽてんをご覧の方にメッセージをお願いします。

川崎先生

本校は、理科に強みがあるという特色はありますが、理科にとどまらず生徒の興味のあることに関しては、何でも後押ししてあげられる学校だと自負しています。「勉強だけ」「部活動だけ」という狭い場面にとどまらず、何でもいろいろチャレンジしようというムードが醸成されていると思います。

中学、高校の時期は可能性が大変広がる時期です。自分で限界があると決めてしまわずに、いろんなことにチャレンジして、いろんな分野に関心を広げていってほしいと思います。

本校はそんなチャレンジ精神旺盛な方に、ぜひとも受験いただきたいと思っていますので、ご関心があれば、一度校舎に遊びに来てください。

編集部

東京農業大学第一高等学校中等部の、大学系列のメリットを活かしたカリキュラム、生徒の関心をさらに高める探究学習など、数々の魅力がよくわかりました。本日はインタビューに応じてくださり、ありがとうございました!

東京農業大学第一高等学校中等部の進学実績

東京農業大学第一高等学校中等部の2024年度の状況を見ると、東京大学に1人、京都大学に2人合格するなど、全国の国公立大学に81人が合格しています。また、私立大学では早稲田大学に56人、慶應義塾大学に50人、上智大学44人といった難関私立大に数多くの合格者を輩出しています。

国公立と早慶上理(早稲田、慶應、上智、東京理科)、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の合格者合計は過去最高ののべ672人となりました。

このような実績につながったのは、生徒一人ひとりが高い進路目標を持ち、日々挑戦していることに加え、難関大学への合格を目標とした学習プログラムが充実していることも大きいようです。

■東京農業大学第一高等学校中等部の進学実績(公式サイト)
https://www.nodai-1-h.ed.jp/?page_id=45

東京農業大学第一高等学校中等部の卒業生・保護者・在校生の口コミ

ここでは、東京農業大学第一高等学校中等部の在校生、保護者から寄せられた口コミを一部抜粋して紹介します。

(卒業生)
理科の実験は普通の中学生が触ることのできないようなレベルの器具も普通に扱うため、とても楽しいものが多い。

(保護者)実験や観察が多く、特に理科の授業が大変素晴らしい。人体の仕組みを学ぶ授業では、豚の眼球や肺、心臓など本物を観察、解剖させてくれたり、肺の仕組みを再現したモデルを一人ずつペットボトルで作ったり、工夫された「体験重視」の授業が展開されている。こういう、理科教育をしてくれるとおもしろい、すごいという興味が湧いて楽しくなるんだなと思う。学校の掲げる実学主義がよく実践されていると思う。

(保護者)
面倒見がよく、保護者への対応も丁寧で誠実。校長先生はじめ諸先生方が「健やかで思いやりがあり、自分の頭と心で考えられる人に育てよう」という思いがとても感じられる。

(在校生)
先生も生徒のことをよく見ていていい学校だと思う。補習や小テストが多く、学習面でもかなり役に立っている。

口コミでは、生徒の自主・自律を重んじる校風であること、理科の実験など、実学に接する機会の多さを評価する声がとても目立ちました。また、大学の施設を使える点など、充実した学習環境に対する評価も多くみられました。

東京農業大学第一高等学校中等部へのお問い合わせ

運営 学校法人東京農業大学
住所 東京都世田谷区桜3-33-1
電話番号 03-3425-4481
問い合わせ先 https://www.nodai-1-h.ed.jp/?page_id=526
公式ページ https://www.nodai-1-h.ed.jp/

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