独自性あるカリキュラムで注目を集める学校を特集するこの企画。今回紹介するのは愛媛県今治市にある県立中等教育学校(中高一貫教育)「愛媛県立今治東中等教育学校」です。
愛媛県立今治東中等教育学校は、愛媛県東部地域唯一の中高一貫校として独自の教育プログラムを展開しています。中でも地域を舞台とした探究活動は特徴的で、地域や民間企業等と連携しながら生徒主体の数々のプロジェクトが実現しています。
また全国で結果を残すサッカー部をはじめ部活動が盛んに行われており、令和8年度にはスポーツコースの新設が予定されているなど、スポーツを主軸とした教育が実践されているのも特徴です。
今回は新たに設置されるスポーツコースの特徴や、探究活動や部活動など愛媛県立今治東中等教育学校独自の教育活動について、教育研究課長の井川六月先生、スポーツコース準備チーフの扇山貴司先生にお話を伺いました。
この記事の目次
東予唯一の中等教育学校として「今治東、新時代」を掲げ進化する
はじめに、御校の教育理念を教えてください。
愛媛県立今治東中等教育学校は、東予(愛媛県を大きく東部・中部・南部に分けた内の東部地域)唯一の中等教育学校です。
東予唯一の中等教育学校として、6年間にわたる体系的で質の高い教育活動を推進します。地域や専門機関との連携や協働を通して、自ら考えて行動できる力を培うとともに、グローバルな視野を持ち、持続可能な社会づくりに貢献できる人材を育成します。
また、本校は令和4年に創立40周年という1つの節目を迎えました。学校スローガンに「今治東、新時代」を掲げ、これまでの教育方針を受け継ぎつつ、新しい時代に向けて学校全体でさらなる進化を遂げていけたらと考えています。
「スポーツコース」により、生徒の進路の可能性を広げる
新しい学校の取組として、令和8年度からスポーツコースが新設されるとのことですが、こちらはどのようなコースなのでしょうか?
スポーツコースは従来からある文理コースに加えて令和8年度の後期課程から新設されるコースです。実際にスタートするのは令和9年度の5年次(高校2年生)からで、スポーツコースには「アスリート類型」と「スポーツマネジメント類型」の2つの類型が設置されます。
「アスリート類型」ではアスリートを目指す生徒及び地域スポーツの指導者の育成を中心とした教育、「スポーツマネジメント類型」ではスポーツビジネスや生涯スポーツの普及に携わる人材育成を中心とした教育の実践を予定しています。
公立校でスポーツコースがあるというのはとても珍しいと思いますが、スポーツコースを新設される理由は何なのでしょうか。
部活動が非常に盛んであるという本校の特徴を踏まえ、生徒のより多彩な進路選択をかなえることを目的にこのスポーツコースが新設されます。
サッカー部やなぎなた部、ハンドボール部、アーチェリー部等といった部活動に魅力を感じて本校を選んでくれた生徒が、部活動の時間だけでなく学校生活全体の中でその技術や知識をより深め、将来様々な形でスポーツに関わる上で活用できる力を培ってもらえたらと思っています。
地域資源を事業化する、愛媛県立今治東中等教育学校の探究活動
続いて、探究活動について伺います。御校では地域を舞台にした探究活動を実施されているとのことですが、こちらの内容を詳しく教えていただけますか?
愛媛県立今治東中等教育学校では3・4年生(中学3年生・高校1年生)合同で、地域を舞台にした探究活動を実施しています。地域資源を自然・歴史・伝統文化の3つに分け、三菱みらい育成財団の助成を受けながら、企業やNPO、自治体や大学との連携・協働のもとで事業化を進めているのが特徴です。
事業化というと、実際に地域資源を商品・サービスの形にした事例もあるのでしょうか。
「地域を舞台とする旅行商品開発プロジェクト」では、JR四国(株)との連携のもと、実際に生徒たちが考えたツアーが商品となりました。もともと探究活動の一環で生徒たちが桜井エリア周辺の自然や歴史等を調べており、それを何らかの形でアウトプットできないかと思っていたところにJR四国(株)の予讃線開通100周年というタイミングが重なり、学校側から提案して実現したものです。
生徒たちは「文化班」「歴史班」「自然班」に分かれ、それぞれのツアー商品を考案しました。文化班は「桜井漆器ができた理由」、歴史班は「今治に国府が置かれた理由」、自然班は「歴史的景観『白砂青松』の桜井海岸ができた理由」についてをテーマに、実際に取材を重ねながら、現地で体験するからこそ楽しめるような内容を生徒たち自身で考えていきました。
またリハーサルを何度も行いお客様に説明するシミュレーションをすることで、生徒たちはどんどん自信を持って話せるようになっていきました。もちろん本番は緊張したものの、御参加いただいた方にも温かく見守っていただき無事成功したので良かったなと思っています。
▲JR四国(株)とのプロジェクトでは、観光客に地元の歴史を伝えるなどの活動を実施した
JR四国(株)との取組以外にも、御校の探究活動で特徴的なプロジェクトがあれば教えてください。
自然分野での取組として、この地域の歴史的景観である「白砂青松」の風景を保存活用するプロジェクトを実施しています。桜井海岸でのアマモの藻場作成を目指す研究、廃棄松葉の活用研究を行うこちらの取組は、「Green Blue Education Forumコンクール」で全国2位となる特別賞を受賞しました。
この取組に関連して、生徒の理解を深めるために企業に依頼して講座や講演会を行っていただいているのも特徴です。これまで水産業のICT化に取り組んでいらっしゃる徳島県の海洋系ベンチャー企業や、地元のスタートアップ企業など、様々な企業からそれぞれの観点でお話をいただきました。
講師の方は「次までにこれを考えてきてほしい」というように宿題も出してくださったので、生徒たちにとって知識を得るだけでなく、興味・関心を持ち、次のステップにつなげていけるような機会となりました。
応援する人の思いが責任感と自信につながり、新たな探究活動につながる
生徒さんたちが考えたことが実際に商品になったり賞を取ったりと成果を出しているのはすごいことですよね。御校の探究活動が実績につながっている背景には何があると思われますか?
もちろん活動のきっかけの部分は学校側が用意することが多いのですが、活動を深めていく内に生徒にどんどん責任感や自覚が芽生えているのが大きいと思います。いろいろな人と関わり合う探究活動が多いからこそ、自分だけでなく関わってくれる人、応援してくれる人の思いも乗せて活動しているんだという自覚が、頑張る原動力になっているのではないでしょうか。
先ほどお話した「白砂青松」のプロジェクトは、クラウドファンディングで地域の方々から約50万円の御支援をいただくことで実践することができました。何の実績もないところに支援してくださった地域の方々の思いを汲んで「この御支援を返せるよう、もっと頑張ってやっていかなければ」と話してくれた生徒がいたんです。人々の思いが生徒の自覚や責任感となって、本校の探究活動プロジェクトを前に進めてくれているんだと思っています。
そしてそれは、勉強だけでは得られない生徒たちの自信にもつながっています。活動を行う中で応援されたり感謝されたりという経験が、生徒の自己評価を高めてくれているんです。自覚や責任感を持って行った活動が評価され、それが自信となって生徒主体の新たな取組につながる、本校の探究活動を通じてそんな好循環が生まれていることを実感しています。
サッカー部全国大会出場!「東校応援」も含めた部活動の魅力
ここからは、スポーツコースのところでも少しお話にあがっていた、愛媛県立今治東中等教育学校の部活動について伺います。御校では様々な部が活躍されていますが、その中でも特にサッカー部の成績は目立っていますよね。
そうですね。本校のサッカー部は令和5年度に第102回全国高等学校選手権大会に出場するなど全国での結果を残す強豪です。部員数も校内で最も多く、男子生徒の3分の1以上がサッカー部員という状況になっています。顧問の谷先生の指導のもと、毎年部員たちが積み上げてきた頑張り、勝利への強い意思があるからこそ今の結果につながっているのだと思っています。
今治に日本代表の元監督である岡田武史さんが代表を務めるFC今治があることも、この地域全体のサッカーの機運を高めています。令和5年には新たなサッカー専用スタジアムである『今治里山スタジアム(※正式名称は『アシックス里山スタジアム』)』のオープンを記念し、スタジアムで本校のサッカー部とFC今治が試合を行いました。プロとスタジアムで試合するというありがたい経験ができたことも、好成績の1つの要因となっているのではないでしょうか。
▲令和5年にJリーグクラブのFC今治と記念試合を実施。プロと対戦する貴重な経験となった
また、里山スタジアムでの試合の際は、全校で応援に行って「東校応援」という今治東で代々受け継がれる伝統の応援を披露しました。
「東校応援」というのは、いくつもの曲に合わせて声出しと振り付けを行うもので、もともとは野球の応援からはじまったパフォーマンスです。それをスタジアムで見た岡田さんに非常に気に入っていただき、昨年のFC今治の試合のハーフタイムにも全校生徒で「東校応援」のパフォーマンスをさせていただきました。(取材時は令和6年6月)
▲FC今治との試合で「東校応援」を披露する生徒の様子
部での活動に、「応援」という形で全校が関われるのはすごいことですね!御校では運動部だけでなく文化部も盛んに活動されているのでしょうか。
はい。運動部より数は少なくなりますが、吹奏楽部や伝統文化部、美術部、書道部などそれぞれ独自の活動に熱心に取り組んでいますよ。文化祭では吹奏楽部中庭コンサート、書道パフォーマンスなど、文化部が日頃の練習の成果を披露します。
一部の運動部に比べると人数が少ない分、一人一人の部員が活動を次の世代に引き継ぐために頑張っていて、そういう先輩の姿を見た後輩が活動を受け継いでいく、そんな流れがあるのが魅力的だなと感じます。
先輩と後輩の関係性の中で部が活性化していくというのは、もちろん今言った文化部だけでなく全ての部に当てはまります。部活動によっては中学1年生から高校3年生まで一緒に活動しているものもあるんですね。縦の関係性の中で先輩の姿から様々なことを学べるというのは、6年間の一貫校だからこその特徴だと思います。
部活動で得た自信が勉強にも生かされる、今治東の“文武両道”の秘訣
御校では部活動に打ち込む一方で勉強にも熱心に取り組む生徒さんが多いとのことですが、文武両道の秘訣は何なのでしょうか。
勉強と部活動を切り離して考えるのではなく、部活動に打ち込む中で自分に自信をつけて、それが勉強のモチベーションにもつながっている生徒が多いのだと思います。部活動の力が伸びていくと勉強にも作用し、成績が上がるとまた部活動の力にも還元される、そんな相乗効果が生まれているのではないでしょうか。
先ほどの探究活動と同じく、部活動での自分の頑張りが認められるという体験が生徒の自信になって、勉強など新たな活動にも波及していっています。本校では探究活動や部活動など様々な活動ができるのが魅力ですが、それぞれがバラバラに動いているのではなく有機的に関連しあい、そこで得た自信がまた別の活動に生かされているところに意義があると考えています。
愛媛県立今治東中等教育学校からのメッセージ
最後に、愛媛県立今治東中等教育学校の学校生活に興味を持ったお子様や保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
本校では、地域課題の解決という探究活動を通じて、本当に世の中の役に立つ学びを得ることができます。座学だけでは身に付かない、目の前にある問題を見つけて解決する「実践力」が得られるのが本校での学びの魅力です。そんな学びに魅力を感じる方は、全国どこからでも本校に集まってもらえるとうれしいです。
部活動や探究活動など、いろいろな活動ができるのが本校の強みです。生徒たちの挑戦を、教員皆が全力で支える環境があります。今はまだやりたいことが見つかっていないお子様も、きっと何か目指すべきところを見つけられる学校です。そういうお子様に、ぜひ本校に来ていただければと思います。私はハンドボール部の顧問をしているため、ハンドボールに打ち込みたいお子様ももちろん大歓迎です!
井川先生、扇山先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!
愛媛県立今治東中等教育学校の進学実績
愛媛県立今治東中等教育学校の過去3年間の進学実績をみると、四年制大学のうち2~3割が国公立、7~8割が私立大学に進学しています。国公立では主に愛媛大学への進学者が多くなっています。私立では松山大学を筆頭に、関西学院大学・関西大学といった難関私大への合格者も輩出しています。
■愛媛県立今治東中等教育学校の進路状況(公式サイト)
https://imabarihigashi-s.esnet.ed.jp/others/page_20190426022349
愛媛県立今治東中等教育学校の生徒・保護者の口コミ
ここでは、学校案内パンフレットに掲載されている卒業生・在校生のメッセージを一部抜粋して紹介します。
勉強や部活動、探究活動と様々な活動に打ち込める充実した学校生活を送れることが卒業生、在校生のメッセージから伝わってきました。またこのメッセージだけでなく他の口コミでも、教員や先輩と良い関係を築けるという声が多く聞かれました。
愛媛県立今治東中等教育学校へのお問い合わせ
住所 | 愛媛県今治市桜井2丁目9番1号 |
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電話番号 | 0898-47-3630 |
公式ページ | https://imabarihigashi-s.esnet.ed.jp/ |
※詳しくは公式ページでご確認ください。