注目の学校を紹介する本企画。今回は、和歌山県和歌山市にある中高一貫の私立女子校「和歌山信愛中学高等学校」を紹介します。
理数系教育に力を入れる同校では、国公立大学合格者の5割以上の生徒が理系大学へ進学するなど、多くの理系女子を輩出しています。大学と連携したプロジェクトも多く持ち、その取り組みは文科省からも視察団が訪れるほどです。
今回は、そんな同校の教育方針や理数教育への取り組みについて、紙岡副校長と、科学部顧問であり理科担当の佐藤先生にお話を伺いました。
この記事の目次
面倒見の良さが自慢「和歌山信愛中学高等学校」の教育方針
まずは和歌山信愛中学高等学校の教育理念についてお聞かせください。
本校は、カトリックのミッションスクールです。「一つの心、一つの魂」をモットーに、みんなで心を合わせる社会性と、一人ひとりを大切にする唯一性を大事にしています。自分のことだけを考えるのではなく、人に尽くし、お互いに協力し合いましょう、一人ひとり異なりますが、その存在は大事にしましょうということを伝えており、生徒にとっては安心感を感じてもらえる学校です。
本校の経営母体はフランスのショファイユにある「幼きイエズス修道会」で、今から160年ぐらい前に、孤児や貧しい子どもの世話をする活動から始まりました。その後、修道会として認められ、明治時代の初めにフランスから4人のシスターが来日し、日本で同じような活動を始めました。
彼女たちは、日本という未知の国へ飛び込んで来たわけですから、おそらく大きな不安があったと思うのですが、そうした中でチャレンジ精神を発揮し、苦労がありながらも孤児や貧しい子どもたち一人ひとりに目を行き届かせて成長をサポートしたわけです。
そうした発足時の精神が今も本校に根付いており、チャレンジ精神を持って生徒全員の面倒をしっかりみる、見返りを求めずに尽くすという教育方針につながっていると思います。
そのような教育方針は学校でどのように体現されていますか?
本校は、面倒見の良さが強みだと自負しています。生徒たちへのサポートには一切手を抜きませんが、そのためには教員の数が充実している必要があります。
経営面の都合上、非常勤の教員が多くなりがちなところを、本校ではフルタイムの教員が大変多いです。正直、経営的には良いのかどうか…ですが、本校の目指す教育を実現するためには、これは欠かせません。生徒数あたりのフルタイム教員の数は、近畿エリアでは、かなり上位に入っていると思います。
「女子=理数系が苦手」を覆す、和歌山信愛中学高等学校の理数教育
御校の理数教育について教えてください。
まず、本校の理数教育は女子に適した授業内容にしています。
というのも、世間ではよく「理数系は男子が得意で女子は苦手」と言われることが多いですが、本校では、これを「これまでの理数系教科を取り巻く環境が、男子に適した環境になっていたため」と考え、女子に適した環境にすれば、苦手ではなくなると考えているためです。
まだまだ理数系の分野で活躍している女性が少ないという実情もあり、例えば理数系の教科書をつくるのも、授業をする教員も、ほとんど男性教員です。脳の仕組みの違いがあるのかどうか、男性に理解しやすいものが、必ずしも女性にも理解しやすいとは言えないんですね。
これを前提に置き、本校では女子生徒が理解しやすい授業を行なっています。例えば、抽象的な話をできるだけ具体化して伝えたり、授業の進み方もスモールステップで丁寧に教えたりしています。
その効果もあってか、実際に本校では、国公立大学に合格した生徒のうち、5〜6割が理系です。
理数教育の授業を受けている生徒の様子はいかがですか?
とても積極的に取り組み、楽しんでいるように思います。
例えば共学校だと実験となると男子生徒が張り切り、女子生徒は一歩引いてしまうというシーンは多いと思います。本校では実験の機会が多いのですが、女子校ですから男子生徒の勢いを気にする必要もなく、積極的になりやすいです。
理数系に興味を持っている女性生徒にとっては、理数系の学びを受けやすい、とても良い環境だと思っています。
文科省からも評価!大学と連携した実験型授業で、理解しやすい授業を実施
▲兵庫医大と共同で中学2年生を対象に放射線の実験授業を実施
女子生徒が理解しやすい授業について教えてください。どのような授業を実施されているのでしょうか?
2023年度から中学理科のカリキュラムに放射線理科が組み込まれましたが、放射線は目に見えないため非常にわかりにくいものです。そこで、放射線をより理解するための実験プログラムを兵庫医大の教授に考えていただき、本校の中学校2年生を対象に授業を実施していただきました。
この授業では、兵庫医大の教授のほか、研究室の大学生にもご協力いただき、講義のほかに放射線計測の実験も行いました。
授業を受けた生徒の皆さんの感想はいかがでしたか?
目に見えないものだからこそ、実験で学べたことで理解が深まったようで、生徒からは「すごくわかりやすかった」「放射線を学ぶ大切さもよく理解できた」と思った以上に大きな反応がありました。
ちなみに、この取り組みを「放射線授業事例コンテスト(※)」で発表したところ、最優秀賞をいただきました。文科省の教科調査官の方が視察いらしたのですが「女子中学生は理科が嫌いという子が多いのに、こんなに理科を楽しんでいる生徒たちを初めて見た」とたいへん驚かれていました。
※公益財団法人日本科学技術振興財団の主催の放射線授業事例コンテスト
▲放射線に関する講義/熱心に聞き入る生徒たち
女子高生がロケットを作る!宇宙開発のプロから学ぶ、ロケット製作プロジェクト
▲試行錯誤しながらロケット製作に励む生徒たち
他にも、御校の理系教育で特徴的な取り組みがあれば教えてください。
本校では大学と連携した取り組みが多く、先ほど紹介した放射線教育の授業以外にも、さまざまな取り組みがあります。中でも特に特徴的なのが、和歌山大学と連携して行なっている「ロケットガール養成講座」です。毎年高校1年生の希望者を対象に開講しており、10年以上続いています。
この講座では、かつてJAXAに在籍していた和歌山大学の秋山教授のご指導のもとロケット製作を学びます。和歌山大学の宇宙開発プロジェクトの学生グループもサポートに入ってくださるので、生徒たちにとってはとても刺激的な講座です。
講座では、全長1m~1m40cmのロケットを製作します。ロケットは上空200mまで上昇する設計になっており、打ち上がると上空でロケット内に格納されているパラシュートが開いて地上に到着する、本格的なロケットです。
ロケットを打ち上げるとは面白いですね。どのように作っていくのでしょうか?
ここがこの講座の面白いところですが、実はロケットの作り方は教えてもらえず、作り方のマニュアルもないんです。教授から最初に「あなたたちはこういうロケットを作ります」という簡単な講義や安全に対する注意はあるのですが「作るにはどうすればいいと思いますか?」と生徒に質問を投げかけて考えさせることから始まります。
生徒たちはどうするかを考えていくわけですが、わからないことや疑問に思うことは秋山教授やサポート役の大学生に聞くことができます。ただし、聞かなければ何も教えてもらえません。「自ら探究して学ぶ」という姿勢を養うプログラムにもなっています。
製作期間は3ヶ月ほどですが、この期間中、参加した生徒たちは毎週のように放課後は和歌山大学に通い、教授や大学生に教えてもらってロケット製作に励みます。
どのくらいの生徒が参加するのでしょうか?
毎年十数名の参加者が集まります。5〜6人ずつでグループに分かれ、各グループで1台のロケットを作りますが、作業分担や工程管理も重要なので、グループで相談してプロジェクトをマネジメントするリーダー「PM(プロジェクトマネージャー)」を決め、PMの指示・プランニングのもとで作業を進めます。
この講座に参加する生徒は、ロケットを作りたくて参加するものがほとんどですが、中にはプロジェクトのマネジメントを経験したくて参加する生徒もいます。
参加した生徒に感想を聞いてみると、そうそう体験できないような貴重な経験ができたことや、ロケット製作の技術を学べたことへの喜びの声以外に、「チームワークの大切さや、進行の難しさがよくわかった」という声も多く聞きます。
▲和歌山大学の大学生に教わりながらロケット製作に励む生徒たち
運動部も文化部も大活躍。和歌山信愛中学高等学校のクラブ活動
▲ソフトテニス部、全国優勝の瞬間
和歌山信愛中学高等学校のクラブ活動について教えてください。
運動部も文化部も、とても活発に活動しているほか、生徒の希望で発足した同好会の活動も活発です。
運動部は、ソフトテニス・バレーボール・バスケットボールの3つが強化クラブとして活動しています。ソフトテニスは度々全国優勝しており、大抵ベスト4には入りますし、バスケット、バレーボールも全国大会の常連です。
文化部では、写真部や科学部、放送部が、高校生の芸術文化の祭典「和歌山県高等学校総合文化祭」に出品するなどしています。ユニークなものだと、「合気道同好会」があります。合気道は和歌山発祥の武術ということもあり、指導には合気道の創始者の弟子の方にご指導いただいています。
どのクラブ活動も同好会もそうですが、授業や勉強とは違う世界に自分の居場所、活躍の場があることで、自分の新しい才能や力を見つけて自信を持てるようになった生徒を多く見ています。
和歌山信愛中学高等学校からのメッセージ
▲取材に対応いただいた紙岡副校長(左)と佐藤先生(右)
最後に、和歌山信愛中学高等学校に興味を持ったお子さまや保護者の方に向けてメッセージをお願いします。
世の中では偏差値や能力を基準に評価されがちですが、カトリックミッションスクールの本校は、偏差値や能力もさることながら「一人ひとりの存在そのものが大事」「あなたがあなたであることが素晴らしい」という考えの学校です。この考えはすべての教員が共有しており、生徒の成績の良し悪しに関係なく、しっかりと見守り、面倒を見る教員ばかりです。
本校では担任が1クラスに2人や2クラスで3人ついて生徒を見守る体制が徹底されています。生徒にとっては「自分が認められている」「見守ってもらえている」と感じる環境だと思いますし、また、自分が大人になった時に、人を認め見守れる人間になると思います。
本校ではオープンスクールのほか、平日の夕方や土曜日に個別で学校を見学いただくことも可能です(※個別見学は事前予約が必要)。興味をお持ちいただけた方は、ぜひお問い合わせください。
生徒一人ひとりを気にかけながら、生徒のチャレンジ精神を喚起するさまざまな取り組みをされていることがわかりました。本日は貴重なお話を聞かせていただきどうもありがとうございました。
▲先生と生徒が一緒に行事を楽しむことも多い同校。体育祭も地元の祭りも、一緒に参加します。
和歌山信愛中学高等学校の進学実績
和歌山信愛中学高等学校では、ほとんどすべての生徒が大学・短大・専門学校に進学しており、国公立大学や難関私立大学の合格者も多数輩出しています。また、同校は理系への進学者が多いことで知られる通り、5〜6割の生徒が理系学部・学科に進学します。
2024年の大学合格実績としては、卒業生216名に対して、名古屋大学、大阪大学、神戸大学、和歌山県立医科大学、鹿児島大学、山口東京医科大学ほか67名が国公立大学・大学校に合格しています。現役率はなんと100%!67名全員が現役での合格となっており、実に16年連続で卒業生の3人に1人が国公立大学に合格しています。
難関私立大はじめ有名私立大学にも多数合格しており、関東では早稲田大学1名、上智大学2名が合格、関西では関関同立(関西大学・関西学院大学・同志社大学・立命館大学)に30名、産近甲龍(京都産業大学・近畿大学・甲南大学・龍谷大学)に81名が合格しています。
■進路実績(和歌山信愛中学高等学校の公式サイト)
https://www.shin-ai.ac.jp/education/04/index.html
和歌山信愛中学高等学校の卒業生・保護者の口コミ
和歌山信愛中学高等学校の卒業生や保護者の声を紹介します。
サポート体制の充実さに満足する声が多く見られました。校則についてしっかり指導される点や礼儀作法を重視する学校のため、勉強以外の立ち振る舞いも身につけられそうです。
和歌山信愛中学高等学校へのお問い合わせ
運営 | 和歌山信愛中学高等学校 |
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住所 | 和歌山市屋形町2丁目23番地 |
電話番号 | 073-424-1141 |
問い合わせ先 | https://www.shin-ai.ac.jp/form/contact.html |
公式ページ | https://www.shin-ai.ac.jp/ |
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